2021 年 63 巻 6 号 p. 1269-1270
症例:65歳,男性.
主訴:全身倦怠感.
既往歴:膵癌.
現病歴:23カ月前に膵体部癌と診断され,化学療法のため定期的に通院していた.全身倦怠感が増強したため外来を受診し,精査加療目的に入院となった.
入院時現症:血圧 122/64mmHg,脈拍 78回/分.眼瞼結膜に貧血あり,心窩部に圧痛を認めた.
入院時血液検査:WBC 16,900/μL,Hb 10.5dL,Plt 7.9×104/μL,CRP 12.29mg/dL.
入院後の経過:入院翌日に血圧低下を伴う血便を認めた.入院3カ月前の造影CTで膵癌による肝外門脈閉塞および胃の周囲に著明な側副路形成を認めていたため(Figure 1),胃静脈瘤出血を考え緊急上部消化管内視鏡検査を行った.
造影CT.
胃の周囲に著明な側副路形成を認める.
上部消化管内視鏡:胃内に貯留する多量の血液と凝血塊を水洗にて除去すると,胃体部大彎の複数のひだが紫~赤色に変色し出血していた(Figure 2,3).食道静脈瘤を伴っておらず胃体部孤立性静脈瘤の診断にて内視鏡的静脈瘤結紮術(endoscopic variceal ligation:EVL)を行うも,結紮毎に複数カ所から同時多発性に出血をきたし,最終的に8個のo-ringを用い止血が得られた(Figure 4).再出血はなかったが,膵癌の増悪のため自宅退院はできず,緩和ケア病棟で最期を迎える方針となった.
上部消化管内視鏡.
胃体部大彎の複数のひだが紫~赤色に変色し出血している.
上部消化管内視鏡.
Figure 2と異なる胃体部大彎にも同様にひだが紫~赤色に変色した病変を認めた.
上部消化管内視鏡.
内視鏡的静脈瘤結紮術を行い止血が得られた.
食道静脈瘤を伴わない胃静脈瘤は孤立性胃静脈瘤(isolated gastric varices:IGV)と呼ばれ,胃穹窿部に存在するIGV1と胃穹窿部以外のIGV2に分類される 1).門脈圧亢進症例におけるIGV2の頻度は3.9%と比較的稀で,その出血率は5.7~9.0%と報告されている 1),2).胃体部孤立性静脈瘤の報告は少ないため,その内視鏡所見については明らかではなく,標準治療も定まっていない.過去にわれわれは胃体部孤立性静脈瘤の出血例に対し詳細な観察を行い,EVLにて治療したことを報告している 3).同報告の内視鏡所見も静脈瘤の形態は明らかではなくひだの色調変化のみであったが,このような所見が特徴的であるか否かについては,今後の症例蓄積による検討が必要である.また胃体部静脈瘤は静脈瘤がびまん性に存在することも多く,今回のような出血例ではEVLが行われることが多いと考えるが,その際には結紮後に他部位から同時多発性に比較的多量の出血をきたす可能性に留意しつつ治療を行う必要があろう.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし