2021 年 63 巻 7 号 p. 1397-1401
COVID-19感染の流行により,数々の学会が中止や延期,開催方法の変更を余儀なくされている.第104回日本消化器内視鏡学会近畿支部例会は,急遽Web閲覧方式に変更して開催した.発表演題は音声付きのパワーポイントスライドで2020年6月27日から2週間閲覧可能とした.参加は1,000人と過去の通常開催を上回る登録が得られた.アンケートからは自由な時間に閲覧できることや遠方でも参加しやすいなど肯定的な意見が多かった.一方,双方向での質疑応答ができなかったなどの問題も指摘された.今後の日本消化器内視鏡学会支部例会は,Web開催でも参加者が十分に議論に参加できるよう技術的な克服が課題である.
2020年3月以降,COVID-19感染の蔓延により,ほぼすべての学会が中止や延期,開催方法の変更を余儀なくされている.第104回日本消化器内視鏡学会近畿支部例会は2020年6月27日に開催予定され,通常開催へ向けて演題登録を行っていた.しかし,2020年3月の段階で中止や誌上開催への変更を検討せざるを得ない状況であったが,幸いWeb会議などインターネットを用いた手法が急速に普及し始めたため,急遽Web開催を行うことを決定した.ほぼ前例がなく,主催者側,演者や参加者すべてが不慣れな中で開催したWebでの支部例会において,学会開催までの経過と登録演題数や参加人数,及びアンケート結果から通常開催との比較検討を行った.
第104回日本消化器内視鏡学会近畿支部例会は2020年1月22日から2月26日までの演題募集としたが,応募数が不十分であったため,最終3月18日まで期間延長した.また,2020年3月末までにハンズオンセミナー開催や企業展示における参加企業登録は終了していた.2020年4月に入りCOVID-19感染者が日本でも急速に増加し,4月16日には緊急事態宣言が発出された.この時期に近畿支部長や理事の方々とも相談し,4月28日にWeb開催とすることを正式決定した.まず,ハンズオンセミナーと企業展示中止を講師や企業へ連絡し,学会会員へのWeb開催の通知はメールマガジンや近畿支部ホームページを用いた.参加方法は,オンライン決済による登録のみとし,入金確認後に画面閲覧のパスワードを発行する形式とした.2020年5月下旬に発表予定の演者へは改めてWeb発表の可否を確認し,音声付きパワーポイントスライドでの登録を学会1週間前までに行うよう依頼した.主題及び一般演題の座長には,発表者の演題登録後に各演題へのコメント及び総括スライド作成を依頼した.協賛企業へは開催方法変更を周知し,第105回近畿支部例会の開催予告や広告も含めた紙媒体の抄録集も発行した.具体的なWeb配信方法は,シンポジウムなどの主題も含めた演題すべては2週間閲覧可能としたが,ランチョンセミナー(1演題除く)とアフタヌーンセミナーは企業規範などの制約により6月27日のみのライブ配信で行わざるを得なくなり,発表が重ならないよう時間をずらして配信した.また,閲覧画面上でアンケートへの回答を促すバナーを表示した.
Web参加登録時におけるデータより参加人数,所属医療機関を抽出した.また,Web閲覧画面及び本例会ホームページ,参加証郵送時に行ったアンケート(Appendix 1)より分析した.
第104回日本消化器内鏡学会近畿支部例会のWeb開催による最終登録人数はちょうど1,000人となり,過去第99回~第103回(5回分)の近畿支部例会の参加人数(669人~859人)よりも100人以上増加した.所属は大学病院19%,一般市中病院56%,開業医23%,その他企業など2%であった.地域分布においては通常開催ではみられない近畿圏外からの参加も5%みられた.
登録演題数は当初3月中旬の登録締め切り時には151演題の登録があったが,Web開催発表後の取り下げ希望が30演題あり,最終的に69施設から登録された121演題にて開催した.取り下げの主な理由はCOVID-19感染拡大によるものや口頭発表や質疑応答を希望するといった内容であった.
Web開催期間中及び参加証郵送時に行ったアンケート調査では165人(17%)から回答が得られた.アンケート回答率が低いため全体の意見を反映しているか不明であるが,Web開催自体に関しては「良い」「まずまず良い」が95%とWeb開催に肯定的な意見が多くを占めた.2週間という会期については82%が「適当である」との回答であり,「短い」が10%,「長い」が8%であった.Webでの視聴に関しては「視聴しやすかった」「まずまず」が97%を占めており,演題の閲覧に関しても良好な結果であった.今後の支部例会のあり方については「通常開催を希望」19%,「Web開催を希望」55%,「どちらでもよい」26%であった(Figure 1).アンケートの自由記載から抜粋した意見では(Table 1),学会会場へ行く必要がないことが最大のメリットであり,演者と参加者双方向での議論ができない欠点が指摘された.
参加者アンケート結果.
本例会で得られた165人のアンケート結果より作成.
アンケートから得られた代表的意見.
参加人数が通常開催より大幅に増加した理由については,初めてのWeb開催という物珍しさが影響したと思われるが,開業医が参加者の約1/4を占めていたことから土曜日に通常診療されている先生方の参加が可能となったことも反映していると考えられた.遠方のため時間通りに学会場に来ることが困難な先生方にもWeb開催は参加可能となる利点が生かされ,近畿圏外からの参加が50人もみられたことは興味深い結果であった.また,子育て世代の医師からは学会参加のために子供を預けるなどの準備も必要なく,土曜日が診療の先生方と同様に十分閲覧することができたとの意見を頂いた.通常開催では時間的・空間的制限があるが,Web開催ではその制限がないことは大きな利点であり,今後さらに推進される医師の働き方改革にも呼応した方法と思われる.
登録演題の取り下げは30演題と通常開催よりも多い結果となった.COVID-19感染者対応などによる発表予定医師の負担増加も一因ではあったが,その他口頭発表のみを希望することや質疑応答ができないことが理由として寄せられた.アンケートにおいても参加者から同様の意見がみられており,研修医や専攻医の口演発表の経験が得にくい点と,演者からの一方向のみの配信となったことが改善点としてあげられた.本例会は質疑応答の代わりとして座長より各演題に対してコメントスライドを頂く形をとったが,演題に対するdiscussionを深めることは学会発表において最も重要なポイントであり,今後Web開催においてもインターネットミーティング機能を用いてのdiscussionを行うことが一つの解決策となり得ると考えられた.
学会開催期間については2週間が適当との意見が多かったが,日々のアクセス数を解析すると会期初日が最も多く,その後1週間はアクセス数が多かった.2週目に入るとアクセス数は減少したが,引き続き閲覧者数は維持されており,会期として2週間は妥当であったと思われた(Figure 2).今回の検討では実際の視聴時間や時間帯などの情報が得られなかったが,Web閲覧の使用状況を検討する上でも今後の情報の集積が期待される.
会期中アクセス数の日別推移.
会期中の閲覧画面のアクセス数を解析して作成.
アンケートで得られた改善すべき意見では,質疑応答ができないことに加え,発表データの保護についての危惧があげられた.通常開催では撮影・録音などは禁じられているが,Web開催の場合は規制を行うことが難しく,今後の検討すべき課題と考えられる.また,参加登録方法の煩雑さや音声の聴き取りづらさや操作のしにくさなどもあげられており,登録方法の簡素化や視聴環境の整備が必要である.
Web開催には様々な手法があること,また今後支部例会の開催方法についても,通常開催・Web開催・Hybrid開催などCOVID-19感染状況に応じて判断されることが想定される.あくまで会員全員がある程度Web操作に慣れてくることが前提ではあるが,主催者はあくまで視聴者側の視点に立ち,どの学会でもほぼ同じような使い勝手,満足できるレベルの質疑応答が可能となる手法の確立が望まれる.
第104回日本消化器内視鏡学会近畿支部例会をWebにて開催した経過及び結果を報告した.本『経験』が今後開催される支部例会の参考になれば幸いである.
謝 辞
第104回日本消化器内視鏡学会近畿支部例会のWeb開催にあたり,ご尽力頂いた日本消化器内視鏡学会本部及び近畿支部支部長の内藤裕二先生始め幹事会の皆様,短期間でまとめスライドなどをご準備頂いた座長・司会の先生方,不慣れな音声付きスライドにて発表頂いた演者の先生方,Web開催変更による急な社内規約改正など対応に追われながら引き続き協賛頂いた各企業,そして運営事務局の皆様に厚く御礼申し上げます.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし
補足資料
Appendix 1 第104回日本消化器内視鏡学会近畿支部例会アンケート.
本例会で実際に行ったアンケートを提示.