過誤腫性ポリポーシスを来す疾患にはPeutz-Jeghers症候群(PJS),若年性ポリポーシス症候群,Cowden症候群,結節性硬化症がある.その中でPJSは口唇,口腔,指趾の色素沈着と小腸ポリープ重積や慢性貧血を特徴とする.従って,早期に診断しバルーン小腸内視鏡により小腸全域のポリープを摘除することで開腹手術を回避することが可能である.他にCowden症候群,結節性硬化症も皮膚所見が特徴的であり,詳細な身体診察が診断に結びつく.過誤腫性ポリポーシスは消化管のみならず消化管外の悪性腫瘍合併リスクが高いため,消化管の検索をするのと同時に,定期的な全身のサーベイランスが必須である.本稿では各疾患の臨床病理学的特徴,診断,治療について概説する.
膵周囲液体貯留(peripancreatic fluid collection:PFC)は,感染例や有症状例ではドレナージ治療やネクロセクトミーなどのインターベンション治療が必要となる.PFCに対するドレナージは,低侵襲な内視鏡的ドレナージが施行されることが多くなっており,病態に応じて経乳頭的ドレナージと超音波内視鏡下経消化管的ドレナージ(endoscopic ultrasound-guided transluminal drainage:EUS-TD)のいずれかが選択される.近年,EUS-TDと内視鏡的ネクロセクトミーが普及し,EUS-TD専用のステントも開発された.治療適応と手技,偶発症を十分に理解したうえで,step-up approachに基づいた治療戦略を立てることが重要である.
【目的】大腸における超拡大内視鏡所見と病理組織所見との対応に関して検討することを目的とした.
【方法】2017年12月から2019年9月までの期間に,超拡大内視鏡を用いて観察後,内視鏡的切除術または外科切除術を施行した188例を対象とした.超拡大内視鏡所見はEC分類を用いて分類し,病理組織所見との対応について検討した.
【結果】EC 1aはすべて非腫瘍に,EC 1bは過形成ポリープおよび鋸歯状病変に対応していた(61.5%)が,腺腫(7.7%),粘膜内癌(7.7%),粘膜下層浸潤癌(23.1%)もみられた.EC 2は腺腫と粘膜内癌に対応していた(87.3%).EC 3aは半数が粘膜内癌と粘膜下層軽度浸潤癌に対応していた(47.6%)が,残りは粘膜下層深部浸潤癌が占めていた(52.4%).EC 3bはすべて粘膜下層深部浸潤癌に対応していた.
【結論】大腸における超拡大内視鏡所見は病理組織所見を反映しており,病理組織所見を予測する上で有用なモダリティと考えられた.
症例は70歳代女性.胃穹隆部,胃体中部に多発する褪色調陥凹型のHelicobacter pylori(以下,H. pylori)陽性t(11;18)(q21;q21)転座(以下,転座)陰性胃MALTリンパ腫を認め,H. pylori除菌療法を行い寛解が得られた.除菌治療から7年後の上部消化管内視鏡検査で,胃体中部前壁に新規の褪色調陥凹病変を認めた.新規病変は病理組織学的および遺伝学的解析によりH. pylori陰性転座陽性のMALTリンパ腫と診断され,放射線治療により寛解を得た.同一患者に形質の異なるMALTリンパ腫が異時性に発生した.そのような症例の報告はなく,本疾患の臨床病理学的および分子生物学的背景を理解する上できわめて重要な症例と考えられた.
症例は43歳女性.リウマトイド血管炎に起因する下腿潰瘍に対し,2018年2月からステロイドを開始,同年3月に黒赤色便を認め当科受診.大腸内視鏡検査で上行結腸からS状結腸に活動性潰瘍及び瘢痕を多数認めた.横行結腸の亜全周性潰瘍のNBI拡大観察では潰瘍辺縁に微小血管を認め,生検によりリウマトイド血管炎に特徴的な病理所見が得られた.3月16日と17日に,黒赤色便を1回ずつ認めていたが,ステロイドを継続したところその後血便は認めず,2カ月後の内視鏡検査では著明に改善し,以後漸減しているが再燃は無い.リウマトイド血管炎に起因する大腸潰瘍は稀であり,病理学的に血管炎を証明することはしばしば困難である.本症例はNBI拡大観察下に微小血管を同定し生検により血管炎を証明し得た貴重な症例と考えられる.
症例は69歳女性.夕食時に鯖を生食,翌日昼より心窩部痛を自覚し,血便も出現したため当科紹介受診.造影CTにて横行結腸を先進部とする腸重積を認めた.腸管血流障害を認めず,透視下に緊急CSを施行した.横行結腸に重積を認め,内視鏡的な整復は不可能であった.内筒は高度に浮腫をきたしており,粘膜に刺入し体動する白色線状の虫体を認めたため,大腸アニサキスによる腸重積と診断し,虫体を生検鉗子で摘除した.保存的に経過観察し,第2病日以降腹痛は軽快,第3病日の腹部CTでは腸重積は改善した.第8病日にCS再検し,肝彎曲部に粘膜腫脹を伴う潰瘍病変を認めたが,重積は解除されていた.
症例は60歳男性.2週間ほど続く粘血下痢便を主訴に来院.大腸内視鏡検査(CS)で,粘液の付着した地図状発赤を直腸に認めた.非特異的な腸炎として経過をみていたが4カ月後に症状が増悪した.CSの再検で,発赤はS状結腸まで広がり,直腸の発赤部は平盤状に隆起していた.隆起の形態から非典型像を呈するcap polyposis(CP)が鑑別にあがり,病理所見にも矛盾はなくCPと診断した.Helicobacter pylori菌陽性のため除菌治療を行ったところ,症状・内視鏡像は改善した.CPは病期により非典型的な内視鏡像を呈し診断に苦慮するが,形態の変化に注目することで診断が可能となることがある.
近年,潰瘍性大腸炎関連腫瘍(ulcerative colitis associated neoplasia;UCAN)に対する内視鏡切除が施行されているが,適応や切除法に関して十分なコンセンサスは得られていない.当科では,UCANに対する内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection;ESD)の適応を,1)術前生検でlow grade dysplasia,2)内視鏡的に境界明瞭,3)周囲生検でdysplasia陰性,4)寛解期UCとしている.UCANに対するESDは,粘膜下層高度線維化のため技術的難易度が高く,周到なストラテジーと効果的なデバイス使用が肝要である.
大腸用ステントは,本邦では2012年に保険収載され,有用な内視鏡治療法として普及している.適応は大腸の悪性狭窄であり,その目的には,緩和治療と術前狭窄解除(bridge to surgery;BTS)とがある.安全な手技のためには適応の見極めが重要であり,著者らは大腸閉塞・狭窄の評価にColoRectal Obstruction Scoring System(CROSS)を使用している.近年のステントデザインの進歩に伴い大腸ステント留置術自体は比較的安全な手技となっているが,BTSの長期予後における影響の評価が重要な研究課題である.穿孔などの留置術に伴う偶発症が長期予後にも悪影響を及ぼすため,常に安全な手技の施行を心がけるべきであり,大腸ステント安全留置のためのミニガイドラインを参考とし,外科医と連携した上で安全な治療体制を構築すべきである.
COVID-19感染の流行により,数々の学会が中止や延期,開催方法の変更を余儀なくされている.第104回日本消化器内視鏡学会近畿支部例会は,急遽Web閲覧方式に変更して開催した.発表演題は音声付きのパワーポイントスライドで2020年6月27日から2週間閲覧可能とした.参加は1,000人と過去の通常開催を上回る登録が得られた.アンケートからは自由な時間に閲覧できることや遠方でも参加しやすいなど肯定的な意見が多かった.一方,双方向での質疑応答ができなかったなどの問題も指摘された.今後の日本消化器内視鏡学会支部例会は,Web開催でも参加者が十分に議論に参加できるよう技術的な克服が課題である.
大腸癌の世界的な罹患率と死亡率は依然として高い状態である.大腸内視鏡検査は,腫瘍性病変の発見と切除のためのゴールドスタンダードと考えられている.しかし,大腸内視鏡検査は,人間のパフォーマンスの限界に関連したいくつかの不確実性を包含する.第一に,1回の大腸内視鏡検査では,大腸腫瘍性病変の約4分の1が見逃される.第二に,optical biosyに関しては,エキスパートでない医師が高い精度で診断することは依然として困難である.第三に,腺腫検出率に関連するいくつかの質の指標(例えば,盲腸到達,腸管前処置,抜去速度など)の記録が不完全な場合がある.近年の機械学習技術の向上とコンピュータ性能の向上に伴い,人工知能を用いたコンピュータ支援診断は,内視鏡医に利用されるようになってきた.特に,深層学習の出現により,従来の機械学習技術よりもコンピュータ支援システムの開発が容易になり,現在では,前者が大腸内視鏡によるコンピュータ支援診断の標準的な人工知能と考えられている.これまでのところ,コンピュータ支援検出システムは,腫瘍性病変の検出率を向上させる可能性が指摘されている.さらに,コンピュータ診断支援システムは,optical biopsyにおいて診断精度を向上させる可能性がある.さらに,大腸内視鏡検査の質の向上を目的とした,いくつかの人工知能支援システムが報告されている.コンピュータ支援システムを臨床現場に導入することで,パフォーマンスの低い内視鏡医の教育やリアルタイムの臨床意思決定の支援など,さらなる利点が得られる可能性がある.
本レビューでは,主に消化器内科医から報告されている大腸内視鏡検査時のコンピュータ支援診断に焦点を当て,その現状と限界,今後の展望について考察した.
【目的】早期胃癌に対するESD後の潰瘍出血は,ESD後の主な有害事象の1つであり,メタアナリシスでは約5%の出現が報告されている.本研究は本邦の33施設で行われた多施設共同研究であり,早期胃癌に対するESD後潰瘍出血を引き起こすリスクの層別化による予測モデル(BEST-Jスコア)を開発することを目的に行われた.
【方法】早期胃癌に対するESD施行例をderivation cohortとして25施設より8,291症例を,validation cohortとして8施設より2,029人を後向きに登録した.Derivation cohortでは多変量ロジスティック回帰分析により潰瘍出血に関連する因子を抽出し,リスクの高低を考慮した点数を設定することで予測モデルを作成した.Validation cohortでその予測モデルの有用性と妥当性について検討した.
【結果】Derivation cohortで抽出された予測モデルは10種類の要因(ワルファリン,DOAC,血液透析,チエノピリジン系抗血小板薬,アスピリン,シロスタゾール,腫瘍径30mm以上,腫瘍が肛門側1/3に局在,複数の腫瘍の存在,抗血栓薬の中止)が候補因子として挙がり,出血リスクに応じて点数を-1より4点まで設定した.それらの候補因子の合計点数により,0-1点の潰瘍出血低リスク,2点の中リスク,3-4点の高リスク,5点以上の超高リスク群に分け,それぞれの群の出血率は,2.8%,6.1%,11.4%,29.7%であった.Validation cohortでのC統計量は0.70(95%CI:0.64-0.76)であり,良好な較正(Calibration-in-the-large:0.05,calibration slope:1.01)を示した.
【結語】今回の全国多施設共同研究では,ESD後の潰瘍出血の予測モデルを導き出し,validation cohortで予測モデルの有用性を証明した.このモデルを使用することで,早期胃癌に対するESD後の潰瘍出血の予測が可能となり,治療法自体選択や治療後の対応法の選択に有用となる優れた決定支援ツールとなる可能性が高い.