日本消化器内視鏡学会雑誌
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ERCP後膵炎に対する非ステロイド性抗炎症薬と積極的輸液併用と非ステロイド性抗炎症薬単独の比較:多施設共同オープンラベル無作為化比較試験
河上 洋
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2021 年 63 巻 9 号 p. 1673

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抄録

【背景】ERCPのもっとも代表的な有害事象はERCP後膵炎(PEP)である.PEPの4.7%は中等度~高度の膵炎に進展し,その死亡率は0.7%と報告されている.PEPのリスクを低減させる標準的方法は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の予防的直腸投与である.また,NSAIDsの直腸投与を行わない例において,積極的輸液によりPEPリスクが低下することがメタ解析とRCTで示されているが,NSAIDsの直腸投与に積極的輸液を上乗せした際の有用性は明らかにされていない.

【方法】18~85歳の中等度ないし高度のPEPリスク患者に対してNSAIDsの予防的直腸投与単独群(対照群)と積極的輸液を併用した群(併用群)の2群について,ドイツ国内の22施設が参加した多施設共同オープンラベル無作為化比較試験が実施された(FLUYT試験).併用群はNSAIDs(ジクロフェナクあるいはインドメタシン)直腸投与に加えてERCP開始後60分以内に乳酸リンゲル液を20mL/kg点滴静注,引き続いて3mL/kg/時間を8時間かけて点滴静注した.対照群はNSAIDs直腸内投与に加えて,最大1.5mL/kg/時間あるいは24時間当たり3Lの生理的食塩水を点滴静注した.プライマリーエンドポイントはPEPの発症とした.

【結果】2015年6月~2019年6月に登録された826例を1:1で割付した(併用群388例,対照群425例).年齢中央値は併用群57歳(範囲:44~71歳),対照群60歳(範囲:49~71歳),男女比は両群ともに3:2,ASA Class Ⅲは両群ともに16%が含まれており,両群間で患者背景に有意差を認めなかった.ERCPの難易度(Schutz分類 2))は両群共ともにGrade 2(単純な治療目的のERCP)が80%以上を占めていた.また,膵管ステント留置は両群共に16%併用していた.偶発症のうちPEPは併用群の30例(8%),対照群の39例(9%)が併発した(相対リスク0.84,95% CI 0.53-1.33,P=0.53).輸液関連合併症(同0.99,0.59-1.64,P=1.00),ERCP関連合併症(同0.9,0.62-1.31,P=0.62),ICUへの入院(同0.37,0.07-1.80,P=0.22),30日死亡率(同0.95,0.50-1.83,P=1.00)などの重篤な有害事象は2群間に有意差はなかった.また,併用群において積極的輸液に伴う死亡例は認められなかった.

【結語】中等度ないし高度のPEPリスク患者に対するNSAIDsの予防的直腸投与と積極的輸液の併用はNSAIDs直腸投与単独群と比べてPEPの発症を抑制しなかった.

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© 2021 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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