日本消化器内視鏡学会雑誌
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表在性十二指腸腫瘍に対する内視鏡的切除の成績:国内18施設10年間における遡及的検討
阿部 展次
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2022 年 64 巻 1 号 p. 105

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【本研究の目的】表在性非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍(superficial non-ampullary duodenal epitherial tumors:SNADETs)に対する内視鏡的切除(endoscopic resection:ER)を積極的に推進してきた施設から多数例を集積し,遡及的検討によってその成績を明らかにする.

【対象と方法】対象は,日本国内18施設で2008年1月から2018年12月までにERが施行されたSNADET患者とした(家族性腺腫性ポリポーシス症候群を除く).ERには,内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection:EMR),内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection:ESD),水浸下EMR(underwater EMR:UEMR),cold polypectomy(CP)が含まれた.対象患者の臨床病理学的特徴を明らかにしたうえで,治療手技別に治療成績を検討した.

【結果】SNADETに対するERが行われた3,107例(EMR;1,324例,ESD;1,017例,UEMR;579例,CP;187例)が本研究に組み入れられた.患者の平均年齢は63歳で,男性が占める割合が高かった(69.7%).病変の平均径は13.9mm(ESDでは20.6mm),病変部位は乳頭の口側,肛門側がそれぞれ約半数であった.最終病理診断では,59%が腺腫,35.2%が癌であり,全体の1.5%(癌の3.9%)に粘膜下層浸潤癌を認めた.EMR/ESD/UEMR/CPの一括切除率はそれぞれ86.8/94.8/78.6/79.1%,R0切除率は61.2/78.7/56/40.5%,術中穿孔率は0.8/9.3/0.5/0%,遅発性出血率は2.6/4.7/2.1/0.5%,遅発性穿孔率は0.2/2.3/0.2/0%であった.遅発性偶発症発生率は,19mm以下の病変ではESDが他の術式よりも有意に高値であったが(7.4% vs 1.9%,p<0.0001),20mm以上の病変では有意差を認めなかった(6.1% vs 7.1%,p=0.6432).EMRで1例(0.07%),ESDで25例(2.5%)に偶発症に対する手術が行われた.治療関連死亡例(遅発性出血,致死性不整脈)をESD群で1例(0.1%)に認めた.

【結論】SNADETに対するERの治療成績はおおむね良好であった.ESDは他のER法に比べて偶発症発生率が高いが,一括・R0切除率は有意に高い.したがって,大型(20mm以上)の腫瘍に対しては,経験豊富な内視鏡医によるESDが治療選択肢の一つとして有力であることが示唆された.

《解説》

SNADETに対する適切な治療法選択を考えるうえで,本研究ではきわめて重要な結果が示された.最も注目すべき結果は,「さもありなん」という結果ではあるが,ESDは他のER法に比べ一括・R0切除率は有意に高いが,遅発性偶発症発生率がoverallで有意に高値であったということであろう.本研究では,あくまでhigh volume施設のエキスパートが行った結果を集積したものである.エキスパートでさえこのような結果であり,今回の結果をただちに一般化することは危険である.十二指腸のER,特にESDは「どこでも誰でも」が行える手技ではなく,腫瘍径が大きいからといって安易にESDに手を出すべきではない.本研究は,SNADETの治療に当たる際には患者背景や腫瘍学的背景,ER各種の安全性や根治性,ERの代替療法(手術),high volume施設への紹介など,すべてのことのバランスを考えながら慎重に検討する重要性を改めて認識させるものと考えられた.

文 献
 
© 2022 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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