日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
完全内反型重積を呈した虫垂子宮内膜症に対し内視鏡的切除を行った1例
小田 健司 信本 大吾清水 康仁窪澤 仁
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2022 年 64 巻 10 号 p. 2282-2287

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要旨

症例は41歳,女性.胆囊結石症の術前検査の造影CTで盲腸に隆起性病変が疑われ,CSを施行したところ,虫垂開口部に30mm大の有茎性病変を認めた.Inflammatory fibroid polypを疑うも腫瘍性病変を否定できず,診断目的で内視鏡切除の方針となった.茎は太く根部近傍をendoloopで2重に結紮しスネアで切除した.術後37度台の発熱がみられたが改善し,切除後3日で退院となった.切除標本の病理結果で完全内反型重積を呈した虫垂子宮内膜症と診断した.1年後のCSで虫垂開口部に異常は認めなかった.虫垂子宮内膜症に対する内視鏡的切除はきわめて稀であり,貴重な症例と思われた.

Abstract

A 41-year-old woman underwent preoperative contrast-enhanced CT for gallbladder stones. The CT scan suggested the presence of a protruding lesion in the cecum. CS revealed a 30mm pedunculated polyp with a wide stalk at the appendiceal orifice. Although biopsy findings suggested the presence of an inflammatory fibroid polyp, we could not deny that the lesion had neoplastic characteristics. Therefore, we decided to resect the lesion endoscopically for diagnostic purposes. Following two ligations near the base of the wide stalk using endoloops (Olympus, Tokyo, Japan), the polyp was removed using a snare. The patient had a postoperative fever (temperature of approximately 37°C); however, she recovered and was discharged 3 days after treatment. The final pathological diagnosis was a completely inverted appendix due to appendiceal endometriosis. One year later, endoscopic reexamination revealed no abnormality at the appendiceal orifice. We report an extremely rare case of a completely inverted appendix due to appendiceal endometriosis treated by endoscopic resection.

Ⅰ 緒  言

腸管子宮内膜症は子宮内膜組織が腸管壁内に異所性に増殖する疾患であり,通常は粘膜下腫瘍や狭窄様の形態を呈することが多い.今回われわれは虫垂開口部にポリープ状の形態を呈し,内視鏡的切除を施行した完全内反型の虫垂子宮内膜症の1例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

症例:41歳,女性.

主訴:特になし(CTで異常を指摘).

既往歴:アトピー性皮膚炎,気管支喘息,なお,高度の月経痛やチョコレート囊胞など子宮内膜症を疑う既往はなし.

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:胆囊結石症の術前検査として造影CTを施行したところ,盲腸に隆起性病変が疑われた.腹腔鏡下胆囊摘出術を施行後,大腸内視鏡検査目的で外来受診となった.

来院時現症:腹部には腹腔鏡下胆囊摘出後の創部が認められる以外に異常なし.

臨床血液検査所見:特記すべき異常なし.

大腸内視鏡検査所見(Figure 1-a~c):盲腸の虫垂開口部近傍に茎の太い30mm大のⅠp型ポリープが認められた.ポリープ表面にはびらんが認められ,表面構造から非腫瘍性の可能性が高いと判断された.生検の結果は非特異的な炎症所見であり,腫瘍性病変は検出されなかった.

Figure 1 

大腸内視鏡検査所見.

a:虫垂開口部に茎の太いポリープが認められた.

b:ポリープの表面性状は非腫瘍性であった.

c:ポリープ表面にはびらんが認められた.

d:根部近傍をendoloopで2重に結紮した.

e:Endoloopで2重結紮後にスネアを用いて切除した.

f:1年後の大腸内視鏡検査で異常は認められなかった.

臨床経過:大腸内視鏡検査の結果から,盲腸のinflammatory fibroid polypを疑った.しかし,腫瘍性病変が完全には否定できないことと,ポリープが30mmと大きく,今後,出血や腸重積を生じる可能性も考えられることより,切除適応と判断した.最初は外科的切除を考慮したが,虫垂開口部病変の内視鏡的切除の報告もあり,まず診断目的で(total biopsy目的で)内視鏡的切除を選択した.ポリープの茎が太いため,切除後の合併症を回避する目的で根部から3mm,6mm末梢側をendoloop(LoopTM)(MAJ-254,Olympus,Tokyo,Japan)およびEndoscopic Ligator(HX-20Q-1,Olympus,Tokyo,Japan)を用いて2重に結紮し,さらに4mm末梢側をスネアを用いて通電し切除した(Figure 1-d,e).術後経過中37度台の微熱が持続したが,腹痛や白血球数の上昇はなく内視鏡的切除後3日目に退院となった.

病理組織所見:粘膜上皮には異型はみられず,肥厚した固有筋層深部に拡張した子宮内膜腺管と間質組織が島嶼状に認められた.中心部には血管を伴う漿膜下組織が認められた(Figure 23-a,b).

Figure 2 

切除標本のルーペ像(左側が切離面).

肥厚した固有筋層(★)深部に異所性の子宮内膜組織(△)が島嶼状に認められる.中心部には血管を伴う漿膜下組織(✖)が認められる.

Figure 3 

病理組織学的所見.

a:固有筋層内に拡張した子宮内膜腺管と間質組織が認められる.

b:拡大像.

病理結果報告を受けCT画像を見直したところ,腸間膜の血管が盲腸内に入り込んでいる所見が認められた.以上の所見より,完全内反型重積を呈した虫垂子宮内膜症と最終診断した.1年後の大腸内視鏡検査では,虫垂開口部に異常所見は認められなかった(Figure 1-f).

Ⅲ 考  察

腸管子宮内膜症の中で虫垂は発生頻度の少ない部位であり,Masson 1の報告ではその頻度は3.0%とされている.またSonninoら 2の集計によると,虫垂重積の原因として6%が虫垂子宮内膜症であったと報告されている.

虫垂重積を伴う虫垂子宮内膜症は稀な病態であり,術前診断も困難なことが多い.われわれの症例でも術前はinflammatory fibroid polypを疑っていた.文献的にも虫垂重積の原因としては炎症,粘液貯留,カルチノイドやポリープなどの腫瘍性病変,異物,虫垂断端の内翻など多岐に及ぶ 2

医学中央雑誌で「虫垂重積」「虫垂子宮内膜症」をキーワードとして過去10年分を検索すると(会議録は除く),14件が報告されており 3)~16,本邦では重積を呈した虫垂子宮内膜症に対して全症例で外科的切除が行われていた.宮原ら 16による21例の集計でも同様の結果であった.

一方「endoscopic appendectomy」「colonoscopic appendectomy」「endoscopic removal of appendix」「虫垂内反」「虫垂重積」「内視鏡的切除」などのkey wordでPubMed,医学中央雑誌を検索すると,過去50年間で18件19症例の内反型虫垂重積に対する内視鏡的切除例がみられた(会議録は除く)(Table 1 17)~35

Table 1 

虫垂重積に対し内視鏡的切除を行った症例.

年齢,性別,重積の原因などさまざまであるが,2000年以前には腹部手術時の虫垂内反に対して内視鏡的切除を施行した5件の報告が海外からなされている 18),19),22),25.また,内反型重積を呈した虫垂子宮内膜症に対し内視鏡的切除が行われた症例は,検索しえた限り本邦に報告例はなく,海外でもわずかに3例の報告であった 27),31),33

虫垂重積症の形態分類の1つに,Atkinsonらの分類がある 36.その分類では,Type A:虫垂の先端のみの重積(内反),Type B:虫垂の遠位側が近位側に重積(根部の重積),Type C:虫垂の中部のみの重積,Type D:虫垂の近位側が遠位側に逆行性重積,Type E:虫垂が盲腸内に完全内反の5タイプがある.虫垂重積に対し内視鏡的切除が可能であると思われるのは,基本的には完全内反型であるType Eである.不完全内反型(特にType B)に対する内視鏡的切除では切離面が大きく,さらに虫垂が中間で離断されてしまい,きわめて危険な状況となる.Fazioら 21は炎症性変化に起因する虫垂重積に対する内視鏡的切除後に穿孔を生じ,緊急手術となった症例を報告しているが,この症例がAtkinson分類でType Bであった.

一方,完全内反型虫垂重積に対する内視鏡的切除でも全層切除となるため,穿孔,出血,重積の再燃などの重篤な合併症が生じる危険性があり慎重な対応が必要である.実際,本症例を含め4例に腹痛,発熱,白血球増多が認められている 17),18),28.2000年以降は合併症予防の目的でendoloopが用いられるようになり,内視鏡的切除後の合併症の頻度が低下してきているように思われる 27),29),30),32),34),35.また,endoloopを複数個使用したり 27),32),34),35,さらにover-the-scope clip 32やendoclip 35を追加する工夫が報告されている.

切除前の内反型虫垂重積の正確な診断も合併症の予防には重要である.術前診断ができていなかった6例中3例に腹痛,穿孔,腸重積などの重篤な合併症が生じているが 17),21),28,術前診断が正確になされていた場合には13例中1例に軽度の圧痛が認められる程度であった 18

本症例では完全内反型虫垂重積の術前診断ができておらず,病変の根部近傍をendoloopで2重に結紮後にスネアで切除したが,術後37度台の発熱がみられた.しかしながら腹痛はみられず治療後3日での退院が可能であった.1年後の大腸内視鏡検査で虫垂開口部に異常所見は認められず,長期経過は良好であった.

Ⅳ 結  語

完全内反型重積を呈した虫垂子宮内膜症に対し内視鏡的切除を施行した.きわめて稀な症例と思われ,文献的考察を加え報告した.

謝 辞

本論文を投稿するにあたり藤野真史医師の尽力に感謝いたします.また文献収集にあたり千葉大学附属図書館亥鼻分館のスタッフの皆様の御協力に深謝します.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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