日本消化器内視鏡学会雑誌
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手技の解説
ゲノム医療時代における膵癌に対するEUSを用いた組織採取
肱岡 範 永塩 美邦斎藤 豊
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2022 年 64 巻 11 号 p. 2412-2420

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要旨

近年,がんゲノムプロファイリング(Comprehensive Genome Profile:CGP)検査を中心としたがんゲノム医療が膵癌領域でも広く行われている.膵癌はEUSを用いた組織採取(EUS guided tissue acquisition:EUS-TA)が重要な役割を果たしてきたが,近年では,CGP検査のためのより多くの組織採取がEUS-TAに求められるようになってきた.

本邦で保険承認されているCGP検査であるOncoguideTMNCCオンコパネルシステム(NCCOP)とFoundation One CDxがんゲノムプロファイル(F-One)の違い,必要とされる解析要求基準,この基準をなるべく満たすための針の選択法,穿刺対象を知ることが望ましい.また,CGP検査の成功率を高めるためには,検体採取のみならず,検体処理の理解も重要である.がんゲノム医療は今後ますます激動の時代を迎えると思われるが,内視鏡医もこれらの変化に柔軟に対応する必要がある.

Abstract

In recent years, cancer genomic medicine centered on comprehensive genomic profiling (CGP) has been widely practiced in the field of pancreatic cancer. EUS-guided tissue acquisition (EUS-TA) has played an important role in pancreatic cancer diagnosis, and recently, more tissue samples for CGP testing are required for EUS-TA.

To perform a CGP test, it is desirable to know the following: the differences between the CGP tests approved by insurance in Japan (the OncoguideTMNCC Oncopanel System (NCCOP) and the Foundation One CDx Cancer Genome Profile (F-One); the required analysis criteria; the needle selection method to meet these criteria as much as possible; and the target of puncture. In addition, it is important to understand both specimen collection and processing to increase the success rate of the CGP test. The field of cancer genomic medicine is expected to enter an era of increasing turbulence in the future, and endoscopists must respond flexibly to these changes.

Ⅰ はじめに

がんの主な原因である遺伝子変異は,同じがん種であっても個々の患者間で異なり,抗がん薬に対する反応やその予後に大きく影響を及ぼす.近年の次世代シーケンシング(Next Generation Sequencing:NGS)の普及,改良に伴い,腫瘍から抽出された数十~数百ngのデオキシリボ核酸(DNA)から一度に多くのがん関連遺伝子における遺伝子変化を網羅的に解析が可能となり,がんに蓄積する多数の遺伝子異常を明らかにすることができるようになった.さらにがん遺伝子パネル検査を中心としたがん診療のprecision medicine(精密医療)が2015年頃より米国を中心に動き出し,本邦においても2019年6月にがんゲノムプロファイリング(Comprehensive Genome Profile:CGP)検査が保険収載され,がんゲノム医療の幕開けとなった.保険収載から3年が経過し,がんゲノム医療は臨床においても広く普及している.

膵癌に対する組織採取には,経乳頭的生検の他,超音波内視鏡下組織採取(EUS guided tissue actuation:EUS-TA)が一般的に行われている.近年のEUS-TAの役割として,病理診断のみならず,ゲノム医療においてもその役割が期待されている.

本稿では,膵臓癌におけるがんゲノム医療の現状とEUS-TAを用いたがん遺伝子パネル検査の実状と問題点を挙げ,ゲノム検査を意図したEUS-TAの場合,どのような方法が望ましいかについて述べたい.

Ⅱ がんゲノムプロファイリング検査

パネル検査により検出された遺伝子異常や腫瘍遺伝子変異量(Tumor mutation burden:TMB)の結果をもとに,保険診療での治療の他,治験や臨床試験,患者申出療養制度などを使ったprecision medicineの機会につながる可能性がある.しかし,パネル検査の結果,見いだされた異常に対応した治療を受けられる患者の割合は15%弱 1と決して多くはない.膵癌に関しては,もっと低いのが現状であろう.しかし,胆膵癌は極めて予後の悪い癌であるため,わずかでも新たな治療の可能性を求めて,CGP検査を希望される患者は多い.実際,BRCA病的バリアントを有するプラチナ感受性膵癌に対してPARP阻害剤であるオラパリブによる維持療法の有効性 2,MSI-H固形腫瘍におけるペムブロリズマブの有効性 3が示されるなど,precision medicineの有用性が胆膵癌においても証明されつつある.また,米国のKnow Your Tumor Project研究では,膵癌患者にCGP検査を行い,26%の患者に治療選択に有用なactionable mutationが見つかり,さらにactionable mutation にマッチする治療薬を受けた症例群の全生存期間は31カ月と対照群の18.1カ月と比して有意に優れていた(HR0.42,p<0.01) 4.これらの状況を踏まえ,NCCN clinical guidelineでは2019年版からは膵癌患者に対して,Germline testing,Tumor/somatic gene profiling,およびMSI/MMRを行うことが推奨されている 2),3.すなわち,ゲノム検査がルーチンの時代になりつつある.

現在,腫瘍組織検体からのCGP検査として,本邦ではOncoguideTMNCCオンコパネルシステム(NCCOP)およびFoundation One CDxがんゲノムプロファイル(F-One)の2種類のパネル検査が保険収載されている.

EUS-TA検体を使ったprecision medicineを行うためには,この2つのパネル検査の違いをしっかりと認識しておく必要がある(Table 1).

Table 1 

2つのがん遺伝子パネル検査の違い.

NCCOPとF-Oneの臨床面においての大きな違いは生殖細胞系列変異の解析の有無と,解析対象遺伝子数である.さらに内視鏡医にとって知っておかなければならない最大の違いは,必要とする組織量(組織切片面積と推奨腫瘍細胞含有量)の相違である.Table 1のように,NCCOPよりもF-Oneの方が必要とする腫瘍細胞面積が多い.すなわち,F-Oneは検索遺伝子数が多いが,その分,必要とする組織量(>25mm2)も多く,EUS-TA検体では限界がある.このため,EUS-TAでは組織面積の必要量が>4mm2であるNCCOPの基準を超える組織量を採取することが現実的な目標となる.

一方,近年では,新たな解析手法として,血液などの体液検体を対象としたリキッドバイオプシー検査が開発され,本邦においても2021年8月に血液検体を用いた「FoundationOne Liquid CDx がんゲノムプロファイル」が保険適用となった.遺伝子検査用の検体採取がしばしば困難な胆膵癌において,リキッドバイオプシー検査は非常に有用な検査であるが,腫瘍組織検体を用いた検査と比較してKRAS遺伝子異常検出の感度が低く 5,確実性という点では腫瘍組織検体が勝る.Table 2に,腫瘍とリキッドとの相違点を示す 6.予後が期待できる患者の場合には,腫瘍組織検体を用いたがんゲノム検査がまずは第一選択となる.

Table 2 

EUS-TAとリキッドバイオプシーによるパネル解析の違い.

Ⅲ 膵癌に対するEUS-TAを用いたゲノム医療の成績

パネル検査は,腫瘍のホルマリン固定パラフィン包埋標本(Formalin fixed parffin-embedded tissues:FFPE)よりDNAを抽出し,解析を行う.このFFPE検体は,再発症例であれば,切除検体を用いることが可能(原則,3年以内)であるが,切除不能膵癌であれば,パネル検査はEUS-FNAもしくは肝転移を有する症例では肝生検で採取した組織検体で行われる.肝生検であればパネル検査に提出可能な腫瘍量が問題なく採取されることが多い 7が,肝転移を有さない局所進行膵癌患者や肺転移,腹膜播種のみを有する患者もしくは肝生検が困難な場所にある患者の場合,経皮生検は容易ではなく,初回の膵癌診断目的のためのEUS-TAから採取した組織を用いて,パネル検査に提出するという機会が多い.しかし,膵癌は間質成分の豊富なlow-cellularity tumorの代表で,腫瘍細胞の含有率は5~20%程度と報告されており 8,ゲノム解析が比較的難しい腫瘍とされている.さらには,EUS-TAでの検体には腫瘍組織以外にもさまざまなコンタミネーション(消化管上皮や間質など)が存在する.これらは確実にゲノム解析の検体としての質を落としてしまう.このため,EUS-TA検体によるパネル検査の実現可能性が注目されている.

近年,EUS-TAで採取されたFFPE検体を用いたがんゲノム検査に関する成績の報告が増えてきた 7)~16.その結果の一部を,Table 3に示す.

Table 3 

EUS-FNA検体を用いたがんゲノム検査の成功割合.

そのパネル検査の成功率は,57.4~100%と顕著なばらつきが見られる.これは用いられるパネル検査の種類が異なり,その検査に必要とされる腫瘍含有細胞率,組織面積やDNA量の基準が統一していないことが原因である.

当院のデータは,本邦で保険承認となっているNCCオンコパネルの解析基準を見ているが,全体での解析基準を満たす割合は39%と低かった 17

Ⅳ 膵癌に対するEUS-TAを用いたCGP検査で成功割合を導くコツ

Figure 1に,EUS-TAを用いた遺伝子パネル検査のフローを示す.CGP検査までの流れとして,1)EUS-TA,2)検体処理とホルマリン固定,3)スライドの作成の工程,4)病理医によるプレチェック,5)CGPへ提出

Figure 1 

EUS-TAからCGP検査までの行程と議論点.

EUS-TA→検体処理とホルマリン固定→スライドの作成の工程→病理医によるプレチェック→CGPへ提出の流れとなる.

それぞれの工程が重要であるが,本稿では,特に1)におけるEUS-TAにおける穿刺針,針のサイズについて記載する.

EUS-TAにおける針の種類/サイズ選択

近年,組織検体の採取量向上を目的として,特有の針先形状を有する穿刺針が登場し,FNB(fine needle biopsy)針と呼ばれる.フランシーン形状,フォークチップ形状など,複数の針が本邦で使用可能である.これらの穿刺針は穿刺吸引法を用いる点では従来のFNA針(fine needle aspiration)と同様だが,先端形状の違いにより,組織採取量の増加が期待される(Figure 2 18

Figure 2 

EUS-TAにおける針の種類.

FNB針にはフランシーン針,フォークチップ針が存在する.

それぞれ19G,22G,25Gの種類がある.

FNA針とFNB針の採取量の比較については,これまで複数の論文で検証されているが,CGPを念頭目的とする場合,FNB針が有意に成功割合が高いとの報告がある 10),13),19),20.これらの結果から,近年では,CGPを意識したEUS-TAにおいては,FNB針を用いることが推奨される.

針のサイズに関しては,Park JKらの検討では19G/22G vs. 25Gの2群で検討し,19G/22Gの径針が,よりNGSに適切であると示した(63.2% vs. 38.8%,p=0.003) 14.また,Kandelら 13は25G FNA針と19G/22G FNB針の無作為化比較試験にて,穿刺1回分でF1CDxの解析基準要件を満たす割合を検討した結果,19G/22G FNB針では78%で要件を満たしていたが,25G FNA針では14%と低率であった.

このように,25GではCGP解析の成功率は低いことがわかる.ただし,19Gと22Gのいずれがよいかについては,19Gの使用症例が非常に少なく不明である.

CGP検査を見据えたEUS-TAにおける至適な穿刺回数や吸引法(非吸引,slow-pull法,suction法)については統一された見解はいまのところはない.

当院での手法

Table 3に当院での結果を示す.153例(FNB19G針:75例,FNB22G針:43例,FNA22G針:35例)で,NCCオンコパネル(NOP)解析基準達成割合を後方視的研究に調査した.解析基準は腫瘍細胞含有率≥20%かつ組織切片面積≥4mm2と定義した.NOPの解析規準を満たしたのは,全体では,わずか39.0%(60/153例)であった.針別/種類別での達成割合は,FNB19G針が56.0%(42/75例),FNB22G針が32.6%(14/43例),FNA22G針が11.4%(4/35例)と有意にFNB19G針が高かった(p<0.01)(Figure 3).NOP解析達成に寄与する因子の検討では,FNB針(Odd ratio=3.91(95%CI:1.17-13.0),p=0.0267)と19G針(Odd ratio=2.44(95%CI:1.12-5.30),p=0.0247)が,NOP解析達成に寄与する独立した因子となった 17

Figure 3 

当院における穿刺針の種類/サイズ毎のゲノム解析基準達成割合(文献17).

針別/種類別での達成割合は,FNB19G針が56.0%(42/75例),FNB22G針が32.6%(14/43例),FNA22G針が11.4%(4/35例)と有意にFNB19Gが高かった(p<0.01).

以上の結果を踏まえ,当院では,CGP検査を見据えた切除不能(unresctable:UR)膵癌に対しては19G FNB針を第一選択としている.吸引はslow pull法,穿刺回数はゲノムを目的とする場合は,4~5回としている.Figure 4はslow pullを用いて19G FNB針でEUS-TAを施行した症例であるが多くの白色検体が多くとれていることがわかる.しかし,穿刺針のサイズが大きくなるにつれ穿刺も困難となり合併症のリスクも上昇するためCGP検査を予定しないUR膵癌や切除可能/ボーダーライン切除可能膵癌に対しては,22G FNB(もしくはFNA)針を用いている(Figure 5).

Figure 4 

19G FNB針を使ったEUS-TA.

a:CGP検査を見据えた場合には,19G FNB針で4~5回の穿刺を行っている.

b:良好な白色検体が採取できていることがわかる.

Figure 5 

当院のEUS-TAの方針.

切除可能/ボーダーライン切除可能(Borderline resectable:BR)膵癌の場合は,「良悪性診断」が中心であるため22G FNBが第一選択となり,穿刺困難症例の場合は,22G FNAを選択する.切除不能膵癌の場合で,CGP検査を検討する場合には,19G FNB針を第一選択としている.CGP検査の予定がない場合は,穿刺性能や安全性を考慮し,22G FNBを選択している.

また当院での成績では,膵癌原発からのEUS-TAでのゲノム基準達成割合は37.1%(53/143)であったのに対し,転移先(肝転移もしくはリンパ節)のEUS-TAにおけるゲノム基準達成割合は,70%(7/10)と,有意に(p=0.049)高かった 17.このため,CGP検査を見据えたEUS-TAの場合は,最近では肝転移巣から積極的に採取するようにしている 21

当院では,19G FNB針(TopGain)を使ったEUS-TAで得られた検体のNCCOPの解析基準達成割合を明らかにすることをPrimary endpointとした前向き試験(TG study:UMIN 000043038)を2021年1月より開始し,33例の登録を終了した.達成割合は63.6%(95%信頼区間47.22-80.05)で事前設定した主要評価にmetする結果であった 16

検体処理方法

CGP検査を見据えたEUS-TAにおける至適な検体処理法についても,未だ確立されていないが,検体処理からホルマリン固定,検体保管に至るプロセスは日本病理学会より発刊される「ゲノム診療用病理組織検体取扱い規程」に準拠して行うことが重要である 22

EUS-TAにおいて重要なポイントのみ抽出すると,下記の3点が挙げられる.

1)生検により採取された組織は,速やかに固定液に浸漬し固定を行う

2)ホルマリン固定液の組成は,10%中性緩衝ホルマリン溶液を固定に用いる

3)ホルマリン固定は6~48時間の固定を行う

特に3)については,実際の現場では,金曜日にEUS-TAを行いホルマリンを固定した場合,ホルマリンの過固定の懸念もあるため,CGP検査を考慮したEUS-TAを行う場合は,可能であれば,金曜日を避ける方が望ましい.

病理医によるゲノム解析要求基準判定(プレチェック)

病理医における解析要求基準を満たしているかの判定(通称;プレチェック)は,腫瘍細胞含有率と組織切片面積によって決定される.NCCOPとF-oneではよりF-oneの方が要求基準が高く(組織切片面積>25mm2),現実的には,EUS-TAの場合は,NCCOPの基準を満たすかどうかが目下の課題となる.

このプレチェックは,実際のCGP検査に提出する前の門番的な役割がある.これは,CGP検査の保険点数は56,000点と高額な医療費がかかるため,検体量不足でCGPが実施できないことになれば,患者負担も大きいし医療資源の観点からも,プレチェックは検査条件を厳しくする必要がある.この点においても,プレチェックの成功割合が低い理由と考える.

ただ,前述のように,実臨床においてプレチェックは必須の検査であり,より実臨床に則した研究と考える.今後の課題としては,プレチェックは,各施設の病理医の判断に委ねられるため,施設間格差があることは問題である.この問題については,多施設前向き研究により解明すべきであろう.

Ⅴ おわりに

膵癌に対するEUS-TAを用いたゲノム診断について述べた.これまで診断が主たる目的であったEUS-FNAの時代から組織量がより多く採取できるEUS-FNBが主流となり,さらにゲノム医療時代の潮流のなかで,EUS-TAにはより多くの組織量が求められている.

今後,ゲノム医療の進歩とともにパネル検査に必要なDNA量も減っていくとは思われるが,現時点では,内視鏡医に求められる要求も多い.これらに対応し患者さんのがん治療に少しでも貢献できるよう,日々の研鑽および情報収集を怠らない努力が必要である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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