2022 年 64 巻 11 号 p. 2441
【背景】シングルバルーン内視鏡検査(SBE)は小腸疾患に対する有効な検査であるが,診療に難渋することがある.大腸内視鏡挿入において,水浸法を使用することでその挿入がスムーズになるが小腸では十分な成果は得られていない.本研究ではSBE関連手技における水浸法の効果を評価する.
【方法】本ランダム化比較試験は中国の高次機能施設で行われた.SBE予定の患者が無作為に水浸群と二酸化炭素送気群(CO2群)に割り当てられた.すべての患者は,経口的,経肛門的アプローチの両方を受ける予定であった.主要評価項目は全小腸観察率であり,副次的評価項目は最大挿入距離,陽性所見,検査時間および偶発症であった.
【結果】合計で110名の患者が登録された(各グループ55).両者の臨床的背景は同等であった.水浸群とCO2群の全小腸観察率は各々58.2%(32/55)と36.4%(20/55)であった(P=0.02).水浸群とCO2群の平均挿入長(標準偏差)は521.2(101.4)cmと481.6(95.2)cmであった(P=0.04).挿入時間は水浸群で有意に長かった(178.9[45.1]分 vs. 154.2[27.6]分;P<0.001).内視鏡所見と偶発症は同等であった.
【結論】水浸法は,偶発症を増やすことなく全小腸観察率を高め,挿入距離を延ばした.
大腸内視鏡挿入において有用性の示されている水浸法が,小腸にも応用できることをRCTで示した.CO2群の全小腸観察率がやや低いのが気になるが,臨床背景や検査医の技量など複数の理由があるのであろう.バルーン内視鏡時に腹腔内癒着による小腸深部挿入困難例を時々経験するが,カプセル内視鏡で見つけた深部のポリープなど内視鏡治療が可能な病変まで到達できずに外科的手術を行うのは惜しいケースである.検査契機にもよるが,クローン病精査などの癒着が推測されるケースでは水浸法が選ばれても良いし,一方小腸出血のように腸管内の環境をそのまま残しながら観察したい場合はCO2が選択され得る.