日本消化器内視鏡学会雑誌
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手技の解説
表在性非乳頭部十二指腸腫瘍に対する腹腔鏡内視鏡合同手術
森田 圭紀 鷹尾 俊達金治 新悟
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2022 年 64 巻 12 号 p. 2524-2532

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要旨

近年,表在性非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍(superficial non-ampullary duodenal epithelial tumors;SNADET)に遭遇する機会が増えているが,十二指腸におけるESDは他の臓器に比べて技術的難易度が高く,高い合併症率が課題である.腹腔鏡内視鏡合同手術(laparoscopy and endoscopy cooperative surgery;LECS)はESDにおける課題を克服する治療法である.今回,SNADETに対するLECSの実際について解説する.

Abstract

The incidence of superficial non-ampullary duodenal epithelial tumors (SNADETs) has increased in recent years. However, duodenal ESD is technically more difficult than ESD in other organs and is associated with high complication rates. Laparoscopy and endoscopy cooperative surgery (LECS) is a useful alternative that overcomes the challenges associated with ESD. In this article, we describe the clinical practice of LECS for SNADETs.

Ⅰ はじめに

近年,消化器内視鏡機器の進歩や検査の普及とともに,表在性非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍(superficial non-ampullary duodenal epithelial tumors;SNADET)に遭遇する機会が増えてきている.2021年8月には十二指腸癌診療ガイドラインが発刊され,その治療アルゴリズムが示された 1.その中で腺腫あるいは粘膜内癌と診断されたものが内視鏡治療の対象となるが,解剖学的走行に伴う内視鏡操作の困難性,壁の薄さやブルンネル腺の存在,胆汁や膵液の影響など十二指腸特有の治療困難性が問題となる.一般的に,2cm以下の病変には内視鏡的粘膜切除術(EMR)もしくは浸水下内視鏡的粘膜切除術(under water endoscopic mucosal resection;UEMR)が選択されており,2cmを超える病変には内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)あるいは腹腔鏡内視鏡合同手術(laparoscopy and endoscopy cooperative surgery;LECS)が行われているが,各施設毎の基準により選択されている.ESDは大きな病変でも一括切除できる画期的な治療法であるが,十二指腸においては上述の問題点により,高い穿孔率(15.5~28%)や術後出血率(5.2~14.8%) 2)~8をいかに克服するかが課題として残されている.LECSは2006年にHikiらによって胃粘膜下腫瘍に対する必要最小限の局所切除術として開発され 9,2014年に保険収載された.SNADETに対してもESDにおける高い合併症率を抑える治療法として応用され,2020年4月に保険収載されるに至った.今回,われわれは2015年より先駆けて取り組んできた経験をもとに十二指腸LECSにおける手技の実際について解説する.

Ⅱ 適応について

当院では,原則的に,リンパ節転移リスクがないと考えられる腫瘍径が5cm未満かつEMRでは一括切除困難なSNADET(腺腫または粘膜内癌)を対象としている.尚,神経内分泌腫瘍では1cm未満が対象となる 10

Ⅲ 手術時のセッティングについて

手術体位は,全身麻酔下で左下半側臥位を選択し,内視鏡操作(ESD)時には左側臥位,腹腔鏡操作時には仰臥位がとれるようにベッドローテーションを行い,5ポートで行っている(Figure 1 11.内視鏡医および腹腔鏡外科医の正面にそれぞれのモニターが位置するようにセッティングしている(Figure 2).

Figure 1 

手術体位とポート位置(文献11の図を引用,一部改変).

ベッドローテーションにより内視鏡医,腹腔鏡外科医にとって最適なポジションをとる.

Figure 2 

十二指腸LECSの実際の様子.

複数のモニターを配置し,すべての術者が内視鏡,腹腔鏡両方のモニターを確認できるようにしている.

Ⅳ 手技の実際

1.十二指腸の授動について

内視鏡操作は炭酸ガス送気下に行うが,十二指腸壁は非常に薄いためESDによる粘膜下層剝離中には明らかな術中穿孔がなくとも周囲組織に炭酸ガスがリークし,腹腔鏡操作を行う上で視野確保に支障をきたすことがあるため,当院では内視鏡操作に先行して腹腔鏡下Kocher授動術を行うようにしている.ただし,十二指腸を完全に授動してしまうと,その後の内視鏡操作が不安定になる可能性もあり,通常は横行結腸間膜を下方に授動させて下行部前面までの露出にとどめている(Figure 3).病変が上あるいは下十二指腸角に位置し,内視鏡の操作性を改善するために十二指腸の授動をさらに進めた方がよい場合はそのようにすることもある 12.いずれにせよ,まずは下行部前面までの授動を行い,内視鏡の操作性を確認した上で後面までの授動を行うか判断している.また,ESDが長時間に及ぶ際には空腸起始部付近を着脱型腸鉗子でクランプする場合もある.

Figure 3 

腹腔鏡によるKocher授動術.

十二指腸前面までの露出を行っている.

2.ESDについて

使用機材

・内視鏡:GIF-H290TまたはPCF-H290ZI(ともにオリンパスメディカルシステムズ)ダウンアングルが十分に効くものが望ましい.また,下十二指腸角~水平部付近の病変では上部用では届きにくいため,下部用が必要となる.

・フード:STフードまたはSTフードショートタイプ(ともに富士フイルムメディカル)十二指腸は絨毛構造やブルンネル腺の存在によって,他の臓器に比べて粘膜下層への潜り込みは困難である.そのため,内視鏡に装着するフードも先端のテーパリングが効いたものが必要である.

・デバイス:DualKnifeJ(1.5mm)(オリンパスメディカルシステムズ)またはFlushKnifeBT-S(1.5 mm)(富士フイルムメディカル),コアグラスパー(下部用FD-411QR)(オリンパスメディカルシステムズ),インパクト・フロー(HタイプSG 25G 4mm)(トップ),EZ clip(オリンパスメディカルシステムズ),SureClip(Mini)(エム・シー・メディカル).

十二指腸の治療には前述の通り繊細な操作が要求されるため,送水機能付きの先端系デバイスを用いることが多い.術者の好みによってHookKnifeJ(オリンパスメディカルシステムズ)やクラッチカッター(富士フイルムメディカル)を用いてもよい.また,糸付きクリップなどによるトラクション法も安全な視野確保に有効である.

・局注材:ムコアップ(ボストンサイエンティフィック)+インジゴカルミン少量.

高周波発生装置の設定:VIO3またはVIO300D(エルベ)

(DualKnifeJまたはFlushKnifeBT-S)

・マーキング

Soft凝固(Effect5,100W/VIO300DまたはEffect 2.8~3.0/VIO3).

・粘膜切開

ENDOCUT I(Effect2,Duration3,Interval 3/VIO300DまたはEffect1.0,Duration2,Interval3/VIO3).

・粘膜下層剝離

Forced凝固(血管が豊富な場合)またはSwift凝固(線維化が高度な場合)(いずれもEffect2,50W/ VIO300D)またはForced凝固(Effect4.0/VIO3).

・血管処理(プレ凝固)

Forced凝固(Effect1,10W/VIO300D)またはSoft凝固(Effect2.0/VIO3).

・止血(コアグラスパー)

Soft凝固(Effect5,100W/VIO300D)またはSoft凝固(Effect4.0/VIO3).

ESD手順

病変周囲にマーキングを行った後,ひだが完全に消失するように全体的に十分な量の局注を行う.最初に生理食塩水を用いて粘膜下層に確実に入ったことを確認後,ムコアップ原液へと切り替える.血腫を作らないように粘膜面から透けて見える血管を傷つけないように注意する.

十二指腸ESDを安全に行うためには,内視鏡をいち早く粘膜下層内に潜り込ませ術野を安定させることが特に重要となる.絨毛やブルンネル腺の影響で他の臓器に比べて粘膜切開後に粘膜が内反しやすく粘膜下層の挙上もし難いため,Pocket-creation Method(PCM) 13の要領で,粘膜切開は全周性には行わず,病変口側よりフード先端が粘膜下層に入り込めるくらいの粘膜切開を行い,その後続けて粘膜下層の剝離を進めていくのがよい.そうすることで,局注材による膨隆を維持したまま内視鏡を粘膜下層内に進入させることが可能となる.このとき,Water pressure method 14を用いると水圧によって粘膜層の内反を防ぎ,粘膜下層の展開の補助となる(Figure 4-a~d).次に病変肛門側の粘膜切開を行い,粘膜下層剝離のゴールを設定する.この操作は最初に行っても構わない.その後はデバイスによる局注とWater pressure methodを併用しながら,粘膜下層剝離を継続し病変を切除する.PCMのように粘膜下層トンネルを開通させた後に,残した病変両側部分を切除するか,あるいは,粘膜フラップを作るように適宜横方向に粘膜切開と粘膜下層剝離を繰り返して切除を行うかは内視鏡の操作性や術者自身の好みにもよる.いずれにせよ,粘膜下層に入り込んだ後も左右に剝離を広げていく際に穿孔をきたしやすいので,少しずつ丁寧な操作を心掛ける.

Figure 4 

Water pressure methodによるESD.

a:DualKnifeJによる粘膜切開後.粘膜下層の挙上が不良である.

b:水圧を利用して粘膜下層にスペースを作る.

c:アップアングルをかけながら粘膜下層を剝離する.

d:粘膜下層にポケットが作製されている.

粘膜下層剝離において上述の方法で良好な術野の確保が困難な場合は,積極的に糸付きクリップなどのトラクションデバイスを用いて可及的に術野を展開する(Figure 5-a,b).

Figure 5 

糸付きクリップによる術野の展開.

a:病変辺縁の中央部に糸付きクリップを留置したところ.

b:トラクションにより粘膜下層の視認性が良好となる.

粘膜下層の剝離深度については,他の臓器と比べて筋層が非常に薄いため,意図的に粘膜下層を少し残す程度の深度とする.また,粘膜下層には動脈を含めた血管網が発達していることが多い.不用意な操作で出血させると,止血操作で穿孔をきたすことも多々あるので,注意を要する.そのため,細い静脈は通常のForced凝固による剝離で構わないが,動脈や太めの静脈は低出力の血管処理モードによるプレ凝固を行った後に剝離を行う.やむを得ず出血をきたした際には止血鉗子を用いて注意深く血管のみを把持するように心掛ける.

尚,ESD中は腹腔鏡による気腹は中止してポートの三方活栓を開放し,腹腔内圧の過度な上昇を防止している.

3.腹腔鏡による縫縮術について

ESDにて病変を切除した後に,腹腔鏡による漿膜側からの切除部の縫縮術に移行する.内視鏡の透過光も併用しながら切除部の範囲を正確に同定後,全層縫合を行い,内視鏡にて切除部が確実に縫合されているか確認する.われわれは全層縫合のみを行った症例で術後縫合不全を,また漿膜筋層縫合のみを行った症例で術後出血を経験したため,全層縫合後に漿膜筋層縫合を追加するようにしている(Figure 6-a~d).その後に通過障害をきたしていないか再度内視鏡にて創部の確認を行う.

Figure 6 

腹腔鏡によるESD切除部の縫縮.

a:内視鏡の透過光によるESD切除部の確認.

b:同部の全層縫合を行ったところ.

c:内視鏡による内腔の確認.切除部は完全に縫縮できており,狭窄も認めない.

d:漿膜筋層縫合を追加したところ.

また,術前に腫瘍の周在位置について正確に判断することは困難で,われわれの検討では正診率は50%であった 15.すなわち,術前には切除部は膵臓側には及ばないと判断していても実際には及ぶ場合も度々経験する.このような症例では,漿膜側から完全に切除部を縫縮することは困難である.そのため,われわれは前壁あるいは後壁の一部を腹腔鏡で開放し,腹腔鏡下に十二指腸内腔を確認した上で膵臓側のESDによる切除部をそのまま縫合し,続いて開放部を縫合閉鎖する方法を採っている(Figure 7-a~d 15

Figure 7 

膵臓側に位置する病変の縫縮(文献15の図を引用).

a:病変切除部が膵臓側に及んでいることを確認.

b:腹腔鏡にて前壁部分を開放し,膵臓側に及ぶ病変切除部を確認.

c:腹腔鏡にて膵臓側の粘膜欠損部を縫合.

d:開放した前壁を縫合閉鎖.

本法では十二指腸の一部を開放する操作が必要となるため,膵臓側に及ぶ切除部が広範囲でないならば,可及的に腹腔鏡で漿膜側より縫縮し,十二指腸内腔から内視鏡下にクリップやOver-the-scope clip(OTSC)を追加する 7という選択肢もある.

Ⅴ 十二指腸LECSにおける注意点

ESDによる病変切除中に穿孔をきたした場合は,穿孔部から腹腔内に漏れた胆汁や膵液が周囲組織を損傷し,その後の縫合不全などのトラブルに繋がる可能性がある.したがって可及的速やかに病変を切除するか,腹腔鏡下十二指腸部分切除術への早い段階での移行も検討すべきである 16.また,手術時間が3時間以上かかることは術後合併症に関連する因子として報告されており 17,上・下十二指腸角に局在する病変など内視鏡のアプローチが困難な病変については,途中でESDから腹腔鏡下全層切除術に移行することも念頭におく.

また十二指腸水平部の病変においては,切除後の縫縮に下十二指腸角を含む下行部の授動が必要となるため,固定性を失った十二指腸の屈曲に縫合後の浮腫が加わることによる術後通過障害に注意を要する.多くは一過性に経過するが,内視鏡観察で屈曲に伴う高度な通過障害を認めた場合は,Braun吻合を付加した腹腔鏡下胃空腸バイパス術の検討も必要となる.

Ⅵ 症例提示(Figure 8-a~h)
Figure 8 

Vater乳頭近傍の十二指腸癌に対するLECS.

a:LECS前に膵管ステントを挿入.

b:Vater乳頭と病変の間の粘膜を切開.

c:粘膜下層の剝離.

d:ESD終了時の内視鏡像.

e:縫合終了後の状態.

f:病理はAdenocarcinoma,0-Ⅱa,tub1,24×20mm,pT1a(M),Ly0,V0,pHM0,pVM0.で治癒切除であった.

g:2カ月後の内視鏡像.膵管ステント抜去前.

h:6カ月後の内視鏡像.

下行部後壁から膵臓側のVater乳頭近傍の24 mm大0-Ⅱa病変.

Vater乳頭近傍の病変では,病変切除後の縫縮の際にVater乳頭を変形させてしまうことが危惧される.そのためにLECS前に膵管ステントを留置した上で施行している.本症例ではESDによる病変切除後に,腹腔鏡で十二指腸後壁を一部開放し,膵臓側のESD切除部を腹腔鏡下に縫合後,開放部を全層縫合+漿膜筋層縫合の2層縫合にて閉鎖した.内視鏡で膵管ステントの脱落がないこと,創部が完全に縫縮され通過障害を認めないことを確認した.膵管ステントは2カ月後に抜去した.6カ月後の内視鏡では,Vater乳頭が温存され再発なく治癒している.

Ⅶ おわりに

十二指腸におけるESDは病変の切除と切除部の縫縮の両方において技術的難易度が高く,未だハードルの高い手技であり,標準化された手技とは言い難い.LECSは内視鏡医にとってのストレスを軽減できる画期的な手技であるが,内視鏡医,腹腔鏡外科医ともに高い技術が要求されることには変わりはない.本稿では当院における十二指腸LECSの手技の実際について解説したが,発展途上の手技であり,内視鏡医と腹腔鏡外科医が良好なチームワークのもとお互いの特長を活かしつつ,さらに安全で確実な十二指腸治療に向けて取り組んでいくことが期待される.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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