日本消化器内視鏡学会雑誌
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総説
胆膵疾患における緊急内視鏡の現状と課題
露口 利夫
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2022 年 64 巻 2 号 p. 143-152

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要旨

急性胆管炎,胆石性膵炎,急性胆囊炎など胆膵疾患は緊急内視鏡を必要とすることがある.緊急ERCPの適応には中等症以上の急性胆管炎,胆管炎を伴う胆石性膵炎,手術や経皮経肝胆囊ドレナージ(percutaneous transhepatic gallbladder drainage,PTGBD)の適応のない急性胆囊炎などがある.急性胆管炎に対する内視鏡的ドレナージは中等症では早期,重症では直ちに行うべきである.胆管炎を伴わない胆石性膵炎に対するERCPのタイミングは緊急ではなく早期(待機的)とすべきである.ドレナージ方法の選択と施行するタイミングはガイドラインに従うだけでなく各施設において得意とする方法を選択すべきである.新たな手技としてバルーン内視鏡下ERCP,超音波内視鏡下胆道ドレナージなどがあげられるが,これらの緊急内視鏡は基幹病院において経験豊富な胆膵内視鏡医により施行されるべきである.

Ⅰ はじめに

緊急内視鏡の適応となる胆膵疾患は急性胆管炎,胆石性膵炎,急性胆囊炎など胆道ドレナージを必要とする疾患が主である.胆管炎の多くは総胆管結石によるものであり内視鏡的逆行性膵胆管造影法(ERCP)による経乳頭的内視鏡的治療の適応である.術後再建腸管例においても近年ではバルーン内視鏡,超音波内視鏡下胆道ドレナージ(EUS guided biliary drainage,EUS-BD)などが可能である.しかしながらこうした方法は手技に精通した胆膵内視鏡専門医が対応できるだけではなく内視鏡技師や放射線技師が支援できる体制がなければ安全に施行することはできない.本稿では急性胆管炎・胆囊炎診療ガイドラインの解釈を交えながら胆膵疾患における緊急内視鏡の現状と課題について述べるものとする.

Ⅱ 急性胆管炎に対する緊急内視鏡の適応

急性胆管炎の診断基準・重症度判定基準に則り緊急内視鏡を行うべきか客観的に判断する必要がある.

1.急性胆管炎の診断基準・重症度判定基準

重症胆管炎の代名詞として使われる急性閉塞性化膿性胆管炎(acute obstructive suppurative cholangitis,AOSC)の語源はLongmire 1がReynolds 2の5徴(腹痛,発熱,黄疸,ショック,意識障害)を満たす重症胆管炎をAOSCと呼称したことにはじまる.しかしながらすべての徴候,特に意識障害の発現頻度が低いことから基準として用いるには難がある.また,膿性胆汁の存在と胆管炎の臨床徴候が一致しないことが知られており,化膿性胆管炎という用語も重症胆管炎と同義ではない.2005年に邦文の急性胆管炎・胆囊炎の診療ガイドライン 3が出版され,国際会議を経て2007年に世界基準のガイドラインであるTG07(Tokyo Guidelines 2007)となった 4.その後も継続的に改訂作業が行われ,2013年に「急性胆管炎・胆囊炎の診療ガイドライン2013,第2版」 5,2018年に「急性胆管炎・胆囊炎診療ガイドライン2018,第3版」 6へとup-to-dateされている.欧州消化器内視鏡学会(European Society of Gastrointestinal Endoscopy,ESGE)ガイドラインなど国際的にも急性胆管炎の重症度診断とドレナージタイミングについてTG18が推奨されている 7),8

胆管炎の重症度は臨床的対応に即して軽症,中等症,重症に分類されている 9.臓器不全(心血管系,神経系,呼吸器系,腎臓,肝,血液)を伴う場合は重症である.中等症は5項目【・WBC>12,000,or<4,000/mm3,・発熱(体温≧39℃),・年齢(75歳以上),・黄疸(総ビリルビン≧5mg/dL),・アルブミン(<標準値×0.73g/dL)】のうち2項目を満たすもの,初期治療に反応しないもの,である.これらの5項目のうち高齢(≧75歳)と低アルブミン(<標準値×0.73g/dL)は宿主のリスク因子である.実臨床においては高齢で栄養状態の悪い患者さん(肝硬変や担癌患者など)が該当する.

2.急性胆管炎に対する緊急ドレナージの適応

胆管ドレナージの緊急性は前述の重症度をもとに決定される.臓器不全をきたした重症では判断に迷うことなく適切な臓器サポートや呼吸循環管理とともに緊急ドレナージを行う.中等症では初期治療(保存的治療)を行いながら早期胆管ドレナージを行う.日本と台湾で行われた多施設共同研究の結果,中等症においては24時間以内にドレナージが行われた944例の死亡率は24時間以降のドレナージまたはドレナージが行われなかった1,081例よりも有意に低く(1.7% vs. 3.4%,P=0.0172),早期ドレナージが予後を改善することが示されている 10.軽症例では初期治療に24時間以内に反応しない場合に胆管ドレナージを施行する.また,ドレナージのタイミングの決定は一度判断すればいいのではなく,重症度判定を24時間~48時間で繰り返し判定し重症化を見落とさないように注意する必要がある.入院時に軽症であっても初期治療に反応せず重症化する可能性を念頭において対処する必要がある.胆管ドレナージが不可能な場合は搬送を検討する.

画像診断で総胆管結石がはっきりしている場合は急性胆管炎の確定診断が可能であり治療の必然性をもとにインフォームドコンセントを得ることは可能である.しかし,胆管結石が自然排出したような例では画像では結石なく胆管拡張も認められない.胆道ドレナージの合併症には胆汁漏出や膵炎など致死的になりえるものがあるため,その適応は胆管炎重症度による蓋然性を見極めた上で決定すべきである.十分なインフォームドコンセントが必要であることは論を俟たないがいたずらに決定を延ばすことも許されない.

3.急性胆管炎に対する胆管ドレナージ

胆石性胆管炎を疑った場合には初期治療を直ちに開始する.ラインを確保し,十分な補液・抗菌薬投与を開始する.内視鏡的ドレナージを行う可能性があるため食事止めが原則である.

1)経乳頭的内視鏡的ドレナージ(endoscopic biliary drainage,EBD)

ドレナージ方法は内視鏡的ドレナージが第一選択となる.これは内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)41例と開腹手術41例の無作為比較試験において,死亡率が10%対32%と有意差が示されたことにはじまる 11.この報告ではEST+内視鏡的経鼻胆管ドレナージ(endoscopic naso-biliary drainage,ENBD)が内視鏡的ドレナージ法として用いられている.EBDはENBD以外に胆管ステント留置(endoscopic biliary stenting,EBS),一期的胆管結石除去(ドレナージ留置なし)に大別される.胆管炎が重症であれば理論的には外瘻であるENBDが望ましいものの患者が受ける不快感やチューブの自己抜去の問題がある.また,TG18でENBDとEBSを比較したメタアナリシスを行いドレナージ効果に統計学的差を認めていない 6.ENBDとEBSの選択は胆管炎の重症度や自己抜去する可能性などに配慮し決定すべきである.

ⅰ)経鼻胆道ドレナージ

胆管への選択的カニュレーション後,ガイドワイヤーテクニックを用いて胆管内に6-7Frのチューブを留置し,経鼻的外瘻ドレナージを完成させる方法である.ESTの付加を必要とせず,外瘻であるためチューブの詰まりに対して洗浄が行え,胆汁培養を行えるなどの利点がある.一方,経鼻的に留置するため患者の不快感は強く高齢者ではチューブの自己抜去や逸脱がみられる.また,電解質,水分のロスになることやチューブがねじれることにより閉塞することがある.

ⅱ)内視鏡的プラスチックステント留置

ガイドワイヤーテクニックを用いて7-10Frのプラスチックステントを胆管内に留置する内瘻ドレナージ法である.ステントの形状は逸脱・迷入を防止するために,両サイドにフラップをもうけたストレート型と両側ピッグテイル型になったものがある.ストレート型はピッグテイル型に比べステントが逸脱しやすいがより太い径のステントを選択することが可能である.ただし,急性胆管炎に対する7Frと10Frのステントを比較した研究ではドレナージ効果に差は認められていない 12.経鼻胆道ドレナージに比べ患者の不快感がないことや電解質・水分のロスがないことが利点である.一方,実際のドレナージ状況は体外から窺い知ることはできず,ステントの逸脱や迷入の恐れもある.

ⅲ)一期的胆管結石除去(Figure 1

Figure 1 

総胆管結石性急性胆管炎の診療フローチャート(一期的結石除去の位置付け),TG18 6フローチャートを改変引用.

軽症,中等症では一期的結石除去は患者負担軽減,入院期間短縮,医療コスト軽減に貢献する.

凝固異常を伴う症例ではESTに伴う出血リスクのため胆管炎改善後に結石治療を行う二期的結石除去が望ましい.軽症~中等症例では総胆管結石を一期的に除去すれば胆管炎も軽快する(Figure 2).完全に結石を除去し,かつ,ESTによる乳頭浮腫などがなければ術後胆管炎の恐れもなくドレナージ留置の必要はない.しかしその判断には経験が必要であり,ERCPに習熟した術者が判断すべきである.一期的結石除去は入院期間の短縮と医療費の軽減に貢献する.超高齢化社会に伴い認知症患者が増えており入院中の譫妄,徘徊対策としても短期入院で加療可能な一期的結石除去を考慮すべきである.

Figure 2 

一期的結石除去術を行った中等症急性胆管炎.

60代女性.悪心,嘔吐と39度台の発熱のため救急外来を受診された.39度以上の発熱と白血球数12,000/mm3以上の中等症2項目を満たし同日にERCP(EST,バスケット結石除去術)を施行.一期的結石除去に成功し1週間後に退院となった.

a:単純CT;下部総胆管内に石灰化した結石を認める.合併した急性胆囊炎のため胆囊壁肥厚が認められる.

b:内視鏡像;十二指腸乳頭は腫大していない.

c:内視鏡像;EST施行途中の内視鏡像.

d:内視鏡像;バスケットカテーテルで除去した結石と膿性胆汁が認められる.

e:ERCP像;結石の透亮像が認められる.

f:ERCP像;バスケットカテーテルにより結石を把持.

2)バルーン内視鏡下ERCP

術後再建腸管例(胃全摘後のRoux-en-Y吻合術後例など)では通常の十二指腸内視鏡では乳頭部もしくは吻合部まで到達することはできない.近年ではダブルバルーン,シングルバルーンなどのバルーン内視鏡によりERCPが行えるようになった 13.バルーン内視鏡はERCP専用機ではないため鉗子口が狭く鉗子起上装置もない.かつては有効長が長すぎるため利用可能なERCP用のデバイスが限られていたがショートタイプのバルーン内視鏡の導入により処置具の問題点は改善されつつある.Roux-en-Y再建例での成績は到達率91~97.7%,胆管挿管成功率58~96.4%,偶発症率7.3~13%,など待機的な処置に関する報告では比較的高い成功率が報告されている 14)~17.一般的に手技難易度が高く処置時間も長い上に特殊な処置具を必要とする方法であり,胆膵内視鏡処置とバルーン内視鏡の両者に精通した専門医の手によって行われるものである.術後再建腸管症例に対する緊急ダブルバルーン内視鏡を検討した報告では,到達率96.9~97.2%,挿管成功率86.2~91.7%,偶発症率1.8~3.0%と待機的処置に遜色ない結果 18),19であったが,熟練した内視鏡医のいる専門施設におけるデータであり実臨床では成績が低下するはずである.過去にバルーン内視鏡でアプローチした症例(Figure 3)であればR-Y吻合部の位置などの情報があるので緊急対応は確実性をもつが,初診では再建術式等に関する情報を得ることは難しい.バルーン内視鏡による緊急ドレナージに対応できない場合は代替治療として経皮経肝的ドレナージ(percutaneous transhepatic biliary drainage,PTBD)を考慮する.PTBDには重篤な合併症(出血,瘻孔穿破,胆汁性腹膜炎,門脈塞栓など)がありえることや結石除去までの在院日数が長くなる等の問題点があるものの緊急時の治療として考慮すべきである.EUS-BDに熟達した専門施設ではダブルバルーン内視鏡に先行してEUS-BDを行うこともあるがコンセンサスは得られていない.

Figure 3 

膵頭十二指腸切除後吻合部狭窄に伴う急性胆管炎例.

ダブルバルーン内視鏡検査で輸入脚途中まで挿入した病歴(輸入脚症候群の疑い)があり,緊急内視鏡も容易に行うことができた.

a:内視鏡像;吻合部狭窄像.

b:内視鏡像;狭窄部をバルーンで拡張している.

c:ERCP像;吻合部を拡張し,狭窄部のノッチは消失している.

3)超音波内視鏡下胆道ドレナージ(EUS-BD)

バルーン内視鏡を含めた経乳頭的なERCPが困難な症例に対してEUS-BDが応用されるようになった.EUS-BDのルートは肝内胆管ドレナージと肝外胆管ドレナージに大別される.ドレナージルートの選択は十二指腸閉塞や胆管閉塞部位により決定される.本手技の最大の問題点は解剖学的に消化管と肝臓・肝外胆管とは癒着しておらず穿刺部位からの胆汁漏出が起こりえることである.ドレナージ成功後も留置したステントが逸脱(腹腔内への逸脱もありえる)すると胆管炎だけでなくステントの回収自体にも難渋する.当然ながら胆管炎例に対するドレナージでは胆汁漏出に伴う腹腔内感染のリスクは大きい.手技や使用する器具の標準化もなされていないので専門的施設で行うべきドレナージ方法である.ERCP困難例においてEUSガイド下胆管穿刺ルートからガイドワイヤー(GW)を十二指腸乳頭へ誘導しランデブー方式で経乳頭的ドレナージを置く方法もある.この方法は穿刺部位を拡張せずに施行できるため胆汁漏出は最小限にとどめることが可能である.EUS-BDの成績を急性胆管炎合併例と非合併例と比較した報告では臨床的成功率はともに100%であり差を認めなかったが,ドレナージ後のrecurrent biliary obstruction率が26.7% vs. 3.4%(P<0.001)と有意に高いことが問題であることが示されている 20.なお,EUS-BDと他のドレナージを前向きに比較検討した報告はなく,急性胆管炎に対する有用性を評価できるエビデンスはない.よって現状では経験豊富な専門的施設において行うべき手技であり,安易な施行は慎むべきである.

4)抗血栓薬内服中の胆管炎に対する胆管ドレナージ

本邦および欧米の内視鏡診療における抗血栓薬内服者に対する消化器内視鏡ガイドラインではEST,EPLBDは出血高危険群,EPBDは出血低危険群に,ENBDやEBSは出血低危険群に分類されている 21),22.TG18では経乳頭的ドレナージ(ENBDもしくはEBS)が推奨されており,ESTやEPBDによる結石治療は出血リスクや血栓塞栓リスクを加味して判断する,とされている 6.消化器内視鏡ガイドラインでは,血栓塞栓リスクの高い場合は抗血小板薬であるアスピリン単剤内服であれば休薬せずにESTを施行することが許容されているがチエノピリジン系抗血小板薬では5~7日間の休薬が推奨されている.ガイドラインでは経口抗凝固薬休薬の代替療法としてヘパリン置換が推奨されていた.しかし,その後ヘパリン置換に伴う出血リスクが高いことがあきらかとなり,2017年に追補版が発表されヘパリン置換をせずにワルファリン継続下(PT-INRが治療域であること)もしくは直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant,DOAC)への一時的変更で内視鏡処置を行うことが許容された 23.EPBDはESTよりも術後膵炎リスクは高いが出血リスクは低いことがメタアナリシスで示されている 24.本邦のnational databaseの解析ではESTとEPBDで出血リスクに差を認めなかったが,出血傾向を有する非代償性肝硬変や透析患者などではEPBDが行われており,臨床現場では出血リスクを有する患者にEPBDを選択していることがうかがえる 25.台湾のnation-wide databaseを用いた肝硬変患者に対するESTとEPBDの出血リスクを検討した報告ではEST,腎機能障害,抗血栓薬内服であった 26.肝硬変(非代償性),透析,抗血栓薬内服中等の患者においては出血リスクを考慮して結石治療の方法を選択すべきである.

Ⅲ 胆石性膵炎に対する緊急内視鏡(Figure 4
Figure 4 

胆管炎合併の有無からみた胆石性膵炎の診療フローチャート.

胆管炎を伴わない胆石性膵炎では早期(24-72h)ERCPが奨められる.EUS介入のエビデンスは不足している.

急性胆管炎を合併する胆石性急性膵炎に対する緊急ERCPの有用性は明確にされているが胆管炎を伴わない場合の内視鏡治療介入のタイミングについてはあきらかにされていない 27.非重症胆管炎を有する胆石性膵炎において12時間以内に内視鏡的ドレナージを行った群(n=98)と待機的に行った群(n=201)で比較した検討では在院日数,死亡率,胆管炎再燃率において差を認めなかった 28.米国における疾病分類と医療行為の分類International Classification of Disease 9th Revision Clinical Modification(ICD-9-CM)によるデータベースを用いた解析ではERCPは胆管炎を伴わない胆石性急性膵炎においても死亡率の低下に貢献すると報告されている 29.対象は15万例の胆石性膵炎で治療介入として,ERCP43,810例,Interventional Radiology3,136例,手術241例,残る約10万例には保存的治療が行われていた.EUSは2,506例に行われていた.24時間以内の緊急ERCPは年齢,膵炎重症度,合併疾患で補正すると死亡率低減には寄与していなかった.しかし,ERCPのタイミングを入院日からの日数で解析すると入院3日から9日までは有意に死亡率を低下させることに寄与していた.一方で入院1日から2日および10日以上では有意差を認めなかった.データセットが2004年から2014年のためEUS施行例が少なくEUSの有用性はコメントできていない.公開されている米国診療情報データベースであるNationwide Inpatient Sample(NIS)を利用し,2005年から2014年までの10万人のERCP施行例(胆管炎を伴わない胆石性膵炎)の治療タイミングを解析した報告がある 30.24時間以内を緊急,24から72時間を早期ERCPと定義して比較したところ年次推移で緊急ERCP数が増えているにもかかわらず死亡率は低下していなかった.緊急と早期の2群間比較でも死亡率,合併症率に差を認めなかった.ICD-9-CMを解析した報告よりもERCP症例数は多いが年齢,膵炎重症度,合併症による補正がないため両者を直接比較することは難しい.しかしながらどちらの解析結果も胆管炎を合併していない胆石性膵炎では緊急(<24h)ではなく早期(24-72h)ERCPが望ましいことを示している.

EUSはMRCPよりも小結石の描出能に優れることから胆石性膵炎の診断・治療に寄与することが期待されている.EUSで結石が自然排出していることを確認できればERCPを行う必要がなく検査に伴う合併症も回避できるからである.胆石性膵炎を疑われた症例に対して48時間以内にEUSを行い結石や胆泥を認めた場合にERCPを施行する前向き研究で71例中31例(44%)にEUS陽性所見を認めERCPが行われた 31.31例中3例には結石を認めなかった.残る40例では不要なERCPを行うことなく退院後6カ月もしくは胆囊摘出術まで観察し胆石性膵炎の再燃のないことを確認できている.ただしEUSは胆膵内視鏡専門医がいなければ施行できないことや緊急EUSを行うには医療スタッフの充実が不可欠であるなどの問題点がある.

Ⅳ 急性胆囊炎に対する内視鏡的胆囊ドレナージ

急性胆囊炎のドレナージとしてTG18では安全性,手技の簡便さなどから経皮経肝胆囊ドレナージ(percutaneous transhepatic gallbladder drainage,PTGBD)を標準的治療法として推奨している 6.内視鏡的胆囊ドレナージ(endoscopic transpapillary gallbladder drainage,ETGBD)は経乳頭的に胆囊管をガイドワイヤーで探った後に胆囊内腔にカテーテルを誘導する点が技術的に難しく成功率はPTGBDに劣る(Figure 5 32)~34.胆膵内視鏡専門医がいる施設であれば,凝固異常,肝不全,抗血栓薬内服中の胆囊炎患者に対して出血リスクが高いPTGBDの代替としてETGBDを胆囊ドレナージ法として選択できる.ETGBDには経鼻胆囊ドレナージ(endoscopic nasogallbladder drainage,ENGBD)と経乳頭的胆囊ドレナージ留置術(endoscopic gallbladder stenting,EGBS)の二通りの方法があるが,両者は臨床的奏効率,成功率,偶発症で差を認めずどちらを選んでも良い 35),36.ENGBDは経鼻のため患者の不快感が強く自己抜去のリスクがあるが適宜洗浄できるメリットがある.

Figure 5 

内視鏡的胆囊ドレナージを行った急性胆囊炎.

胆囊管を通過し胆囊内にガイドワイヤーを挿入.経乳頭的胆囊ドレナージチューブを留置し胆囊炎は改善した.

超音波内視鏡下胆囊ドレナージ(EUS guided gallbladder drainage,EUS-GBD)はPTGBDとのRCTにて成功率,安全性,効果において差を認めず胆囊摘出術前ドレナージ法の選択肢となりえることが示された 37.しかしながら胆囊と消化管の距離があるためプラスチックステントや経鼻ドレナージチューブを留置した際に瘻孔から腹腔内へ胆汁が漏れることや腹腔内へのステント逸脱等の問題があった.lumen apposing metal stent(LAMS)を用いたEUS-GBDは胆汁漏出が少なくPTGBDと比較したRCT,メタアナリシスでも早期合併症が有意に少なく再入院の率も低いとされる 38)~40.しかしながらLAMSは手術不能例に対して施行されることがほとんどであり,恒久的な胆囊ドレナージ法としての有効性や安全性は今後の長期成績を待つ必要がある.現状では限られた専門施設でのみ行われているドレナージ方法であり一般的にはPTGBDが推奨される.

Ⅴ おわりに

胆膵疾患における緊急内視鏡の現状と課題について述べた.急性胆管炎ではドレナージのタイミングとドレナージ方法の選択についてガイドラインおよび新たな知見をもとに解説した.ガイドラインはあくまでも一般的な目安として用いるべきであり,個々の患者の背景因子や各施設の緊急内視鏡医療体制を総合的に判断しなければならない.従って緊急時は内視鏡にこだわることなく各施設が安全に施行しうるドレナージ方法を選択するべきである.新たに臨床応用されたバルーン内視鏡下ERCPや超音波内視鏡下ドレナージは医療スタッフの揃った専門施設で行われるべきであり,緊急内視鏡としての有効性,安全性の確立,今後のエビデンスの集積が待たれる.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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