小腸カプセル内視鏡(small bowel capsule endoscopy:CE)は小腸全域を非侵襲的に一度で観察できるためクローン病(Crohnʼs disease:CD)に良い適応があると考える.一方では小腸狭窄によりCEが滞留するリスクについて患者背景と消化管開通性から事前に評価することが重要である.臨床診療におけるCEの役割として,①CD初回診断,他の炎症性疾患の鑑別,②CD小腸病変の存在診断,範囲診断,③CD治療の効果判定,臨床的寛解患者の内視鏡モニタリングが挙げられる.CDの診断は空腸から回腸にかけてびらんから小潰瘍が目立ち縦列する所見があれば特徴的とされる.CD小腸病変検索モダリティのなかで最も検出感度が高いのがCEである.CD治療の効果判定は治療開始後6カ月でCEを行い,活動性が低いか内視鏡的寛解であれば定期的に採血でモニタリングを継続し,次の2年以内にCEを検討する.CD診療は,CEを含め各患者に適切なモダリティで診断とモニタリングを行うことにより長期の臨床寛解維持と外科手術の回避を導くことができる.
急性胆管炎,胆石性膵炎,急性胆囊炎など胆膵疾患は緊急内視鏡を必要とすることがある.緊急ERCPの適応には中等症以上の急性胆管炎,胆管炎を伴う胆石性膵炎,手術や経皮経肝胆囊ドレナージ(percutaneous transhepatic gallbladder drainage,PTGBD)の適応のない急性胆囊炎などがある.急性胆管炎に対する内視鏡的ドレナージは中等症では早期,重症では直ちに行うべきである.胆管炎を伴わない胆石性膵炎に対するERCPのタイミングは緊急ではなく早期(待機的)とすべきである.ドレナージ方法の選択と施行するタイミングはガイドラインに従うだけでなく各施設において得意とする方法を選択すべきである.新たな手技としてバルーン内視鏡下ERCP,超音波内視鏡下胆道ドレナージなどがあげられるが,これらの緊急内視鏡は基幹病院において経験豊富な胆膵内視鏡医により施行されるべきである.
症例は97歳,女性.食思不振を主訴に当院へ救急搬送された.腹部腫瘤を触知したため腹部造影CTを撮影したところ,穹窿部が胃体部に陥入しており,胃重積と診断した.明らかな先進病変は認めず,内視鏡での整復に成功した.整復に伴い胃裂創を合併したが,保存的に軽快した.後日,再度胃重積をきたし,先進部は翻った穹窿部であることが推測された.先進病変を認めない胃重積の報告は稀であり,本症例はその機序を考える上で貴重な症例であると考えられた.
Introducer法による経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy;PEG)は固定具にて腹壁を固定することで安全に施行されている.今回,胃瘻造設用固定針による横行結腸穿刺した症例を経験した.症例は60代男性,PEG後軽度の出血の持続を認めたためCTを撮像したところ,造設部付近の横行結腸の巻き込みを認めた.CSにて確認したところ固定糸による横行結腸の狭窄を認めた.その場で腹壁固定糸を抜糸したところ,狭窄が解除されるのを確認した.今回の症例では腹壁固定器具を安全のために使用したが,横行結腸への誤穿刺を生じた.
症例は75歳,男性.食思不振ならびに黄疸を主訴に前医を受診.IgG4関連硬化性胆管炎(IgG4-related sclerosing cholangitis:IgG4-SC)が疑われプレドニゾロン治療を行うも奏効せず,精査加療目的に当院転院となった.胆管造影では遠位胆管の壁不整や多数の透亮像が認められ,胆汁細胞診や胆汁培養からCandida albicans(以下C.albicans)が同定されたため,胆道カンジダ症と診断した.プレドニゾロンと抗真菌薬投与により黄疸の改善が得られた.IgG4-SCはプレドニゾロン治療が奏効した経過より準確診と診断した.IgG4-SCに胆道カンジダ症を合併し,ERCPによる胆道造影所見や胆汁細胞診などにより診断し得た貴重な1例を経験したので報告する.
症例は86歳男性,咳嗽発熱を主訴に当院受診.精査目的に施行したCT検査にて肺炎と総胆管内に20mm程度の線状の高吸収の構造物が確認されたため精査を行った.MRI検査にて総胆管に細長い欠損像,超音波内視鏡検査にて総胆管内に高エコーの構造物を認めたため,魚骨を核とした総胆管内結石と考えた.肺炎が改善した後,親子式の経口胆道鏡を用いて詳細に観察した後愛護的に回収した.回収した異物に対する病理検査と結石分析の結果から,植物組織とそれを核にした総胆管結石と診断した.Vater乳頭に対する未処置例において植物による胆管内異物の症例は非常にまれであると考えられるため文献的考察を加えてこれを報告する.
表在型食道癌に対するESDはCO2送気やトラクション法の普及に伴ってより標準的治療となってきている.しかし,頸部食道癌,全周性病変,瘢痕に接する病変,放射線化学療法後,憩室にかかる病変,食道胃接合部癌,食道静脈瘤合併症例などは治療困難とされ,その対策についてそれぞれ解説する.これらの病変ではより偶発症のリスクが高く,基本的な手技の習熟,経験を積んだうえで,偶発症に対しての対応や外科手術対応も想定,準備し行う必要がある.
特発性胃潰瘍(H. pylori陰性NSAID陰性胃潰瘍)は,本邦では稀であり,臨床的特徴も未だ明確には分かっていない.特発性胃潰瘍のうち,8週間のプロトンポンプ阻害剤(PPI:proton pump inhibitor)投与でも治癒しないもしくはPPI中止かH2受容体拮抗薬(H2RA:H2 receptor antagonist)への変更で容易に再発する胃前庭部難治性潰瘍が報告されている.その難治性と高い再発率のため,早期にその存在自体に気づくことが重要である.胃前庭部難治性潰瘍では,大彎側に小円形で深い穴様の潰瘍と周辺の粘膜下腫瘍(SMT:submucosal tumor)様の隆起を伴うことが多い.本稿では特発性胃潰瘍のうち,胃前庭部難治性潰瘍の内視鏡的特徴について解説する.
【目的】逆流防止弁付き金属ステント(anti-reflux metal stent,ARMS)は胆泥や食物残渣による再発性胆道閉塞(recurrent biliary obstruction,RBO)予防に用いられているが,最適なARMSの形状は明らかでない.本研究では,ダックビル型ARMS(duckbill-shaped ARMS,D-ARMS)を用いた胆道ドレナージの可能性,安全性,および有用性について評価した.
【方法】本研究は本邦の三次医療機関3施設で実施された後方視的観察研究であり,胆道ドレナージにD-ARMSを用いた悪性遠位胆管狭窄例を対象とした.手技的成功,機能的奏効,有害事象,およびRBOまでの期間(time to RBO,TRBO)を評価した.
【結果】2018年12月から2019年10月までの期間中D-ARMSを30例に留置した.手技的成功率,機能的奏効率は各々93%,87%であり,留置に難渋した症例では,ステント端を示すマーカーの視認困難や意図しないステント展開を認めた.早期偶発症は10%に認め,胆管炎と膵炎であった.留置後中央値5.1カ月(0.8−22.8)の観察期間中RBOは33%に発生し,TRBO中央値は261日であった.RBO発症例の67%でD-ARMSの抜去が可能であったが,半数に抜去時のステントの断裂を認めた.
【結語】製品改良は依然として必要であるが,D-ARMSを用いた胆道ドレナージは安全に施行可能であり,十分なTRBOが得られた.本結果の検証には,長期経過観察期間を設けた多数例での多施設共同研究が必要である.
【背景】Helicobacter pylori感染診断には内視鏡検査が重要だが,画像による感染診断は確立されておらず,診断には生検が重要である.人工知能(artificial intelligence;AI)は臨床診療における画像の認識・分類にて適用が増加している.
【目的】AIによる内視鏡画像を用いたH. pylori感染の診断能を評価すること.
【方法】評価者二人がデータベースを検索した.採択基準はH. pylori感染者の内視鏡画像およびAI適用によるH. pylori感染診断の研究とし,システマティックレビューとメタ解析を行った.
【結果】161本の論文を検索し8本を抽出した.AIのH. pylori感染予測の統合感度,特異度,診断オッズ比,area under the curve(AUC)は各々0.87(95%CI 0.72-0.94),0.86(95%CI 0.77-0.92),40(95%CI 15-112),0.92(95%CI 0.90-0.94)であった.メタ回帰分析では,AIによる非感染例と除菌後例との鑑別診断能は82%であった.
【結論】AIアルゴリズムはH. pylori感染の内視鏡診断に有用である.本研究の限界には,外部検証の欠如とアジアに限局した研究結果が挙げられる.