日本消化器内視鏡学会雑誌
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資料
遠位悪性胆管閉塞に対するダックビル型逆流防止弁付金属ステントを用いた胆道ドレナージの有用性(動画付き)
金 俊文石井 健太郎岡部 義信糸井 隆夫潟沼 朗生
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電子付録

2022 年 64 巻 2 号 p. 202-210

詳細
要旨

【目的】逆流防止弁付き金属ステント(anti-reflux metal stent,ARMS)は胆泥や食物残渣による再発性胆道閉塞(recurrent biliary obstruction,RBO)予防に用いられているが,最適なARMSの形状は明らかでない.本研究では,ダックビル型ARMS(duckbill-shaped ARMS,D-ARMS)を用いた胆道ドレナージの可能性,安全性,および有用性について評価した.

【方法】本研究は本邦の三次医療機関3施設で実施された後方視的観察研究であり,胆道ドレナージにD-ARMSを用いた悪性遠位胆管狭窄例を対象とした.手技的成功,機能的奏効,有害事象,およびRBOまでの期間(time to RBO,TRBO)を評価した.

【結果】2018年12月から2019年10月までの期間中D-ARMSを30例に留置した.手技的成功率,機能的奏効率は各々93%,87%であり,留置に難渋した症例では,ステント端を示すマーカーの視認困難や意図しないステント展開を認めた.早期偶発症は10%に認め,胆管炎と膵炎であった.留置後中央値5.1カ月(0.8−22.8)の観察期間中RBOは33%に発生し,TRBO中央値は261日であった.RBO発症例の67%でD-ARMSの抜去が可能であったが,半数に抜去時のステントの断裂を認めた.

【結語】製品改良は依然として必要であるが,D-ARMSを用いた胆道ドレナージは安全に施行可能であり,十分なTRBOが得られた.本結果の検証には,長期経過観察期間を設けた多数例での多施設共同研究が必要である.

Ⅰ 緒  言

遠位悪性胆道閉塞(distal malignant biliary obstruction,DMBO)に対する内視鏡的ドレナージは胆膵疾患診療における主要な問題の1つである.自己拡張金属ステント(self-expandable metal stent,SEMS)を用いた胆道ドレナージは切除不能DMBOにおいて広く普及しており,術前化学療法施行例における術前ドレナージとしても有用であると報告されている 1)~4

SEMSを用いた胆道ドレナージに際しては,胆泥貯留あるいは食物残渣による再発性胆道閉塞(recurrent biliary obstruction,RBO)が主な問題となる.十二指腸主乳頭は,食物や腸内細菌を含む腸液の胆管内逆流を予防する構造となっているが,SEMS留置後にはその予防効果が消失しRBOを発症する 5),6.この問題に対処すべく逆流防止弁(anti-reflux valve,ARV)付き金属ステント(anti-reflux metal stent,ARMS)が開発された.ARMSの有用性は今日までに多数報告されているが 7)~16,最適なARMS形状は明らかになっていない.

近年,カモノハシの嘴の形状に類似した逆流防止弁を有するダックビル型逆流防止弁付きSEMS(SEMS with duckbill-shaped ARV,D-ARMS)が開発された.しかし,実臨床におけるD-ARMSの治療成績は明らかになっていない.そこで,本研究ではD-ARMSを用いた胆道ドレナージの安全性,有用性につき評価することとした.

Ⅱ 対象・方法

研究デザイン

本研究は後方視的多施設共同観察研究であり,本邦の三次医療機関3施設(手稲渓仁会病院,東京医科大学,久留米大学)で実施した.本研究は各施設の倫理審査委員会の承認を受けており,大学病院医療情報ネットワークセンター(University Hospital Medical Information Network,UMIN)に登録している(登録番号;UMIN000040152).

対象

対象は,D-ARMSを用いて胆道ドレナージを実施したDMBOであり,病理学的に悪性が証明されていること,胆汁うっ滞に伴う肝機能障害,黄疸,胆管炎を認めることを条件とした.Billroth Ⅰ法以外の術後再建腸管,肝門部胆管閉塞合併例は本研究から除外した.更に,施設間のばらつきを避けるために,2018年12月以降の連続10症例を各施設から集積した.胆道ドレナージ既往は,症例選択に際して不問とした.

D-ARMSの形状

D-ARMSはフルカバー型のSEMSであり,遠位端に12.5mmのARVを装着している(川澄ダックビル 胆管ステント,川澄化学工業株式会社;Figure 1).ステント形状はレーザーカット型であり,ショートニングが少なく正確なステント留置が容易となっている.使用金属はナイチノールであり,ステントを被覆する樹脂膜およびARVには延伸ポリテトラフルオロエチレンを使用している.ARVはカモノハシの嘴様であり,通常時は先端が閉鎖し十二指腸液の逆流を防止しているが,胆汁流出時には開通する構造となっている.ステント両端には着色不透過マーカーが付いており,透視および内視鏡下でのステント位置確認が容易になっている.本研究で使用したD-ARMSの口径は10mm,ステント長は60mmあるいは80mmであり,デリバリーシースは9Frである.

Figure 1 

ダックビル型逆流防止弁付き金属ステント.

手技の実際

内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)は,十二指腸鏡(TJF-260V, -Q290V;オリンパスメディカルシステムズ株式会社)を用いて意識化鎮静下に実施した.内視鏡的乳頭切開術や膵炎予防目的の膵管ステント留置は術者判断で併用した.留置するD-ARMSのステント長は胆道造影上での閉塞長により決定した.ステントは金属部分を5-10mm程度乳頭から出して留置し,ARVが確実に十二指腸内となるように位置調整した(Figure 2電子動画 1).

Figure 2 

ダックビル型逆流防止弁付き金属ステント(D-ARMS)を留置した1例.

a:透視画像.胆管閉塞部の確認後,D-ARMSを留置した.

b:内視鏡画像.逆流防止弁が十二指腸内に確実に露出している.

電子動画 1

RBO後の再処置は原則ステント交換とした.把持鉗子やスネア鉗子でD-ARMSを抜去後(電子動画 2),別のSEMSを留置した.D-ARMS抜去が困難な場合には,SEMSのステント内追加留置や経消化管的・経皮的胆道ドレナージなどを考慮した.

電子動画 2

評価項目

主要評価項目は手技的成功であり,D-ARMSの留置成功と定義した.また,留置に際して難渋したか否かも併せて評価した.副次評価項目は,機能的奏効,偶発症,RBOまでの期間(Time to RBO,TRBO)とした.機能的奏効は,ステント留置後14日以内の血清総ビリルビン値の半減あるいは正常化と定義した 17.先行ドレナージによって既に血清ビリルビン値が正常化していた症例では,D-ARMS留置後の血清ビリルビン値無増悪を機能的奏効とした.偶発症は処置後14日以内の早期偶発症と14日以降の後期偶発症に分類し,重症度は米国消化器内視鏡学会の提言に応じて評価した 18.TRBOはステント留置からRBO発症までの期間とし,RBOの成因,3・6カ月のステント開存率,RBO後の再処置についても併せて検討した.ステント逸脱に関しては,血清ビリルビン値上昇,肝機能障害,胆管炎などの症状確認時にRBO発生と判断した.

統計解析

連続変数は中央値と範囲,カテゴリー変数は例数と割合で表記した.TRBOはカプラン・マイヤー法で解析した.統計解析にはRコマンダー(The R Foundation for Statistical Computing,version 3.0.2)の機能を有するEZR(自治医科大学附属さいたま医療センター,version 2.0-3) 19を用いた.

Ⅲ 結  果

2018年12月から2019年10月までの期間中,30例にD-ARMSによる胆道ドレナージを施行した(Table 1).このうち,70%以上は膵癌であり,60%以上は遠隔転移を有していた.胆道閉塞長中央値は25mm(10-62)であり,腫瘍の十二指腸浸潤を27%に認めた.抗腫瘍療法は67%で実施していたが,その他33%は緩和療法を施行していた.

Table 1 

患者背景.

胆汁うっ滞に伴う症状(肝障害,黄疸,胆管炎)は80%以上に認め,血清総ビリルビンの中央値は2.3mg/dl(0.3-33.0)であった.初回胆道ドレナージあるいはRBO非合併下でのステント交換にD-ARMSを用いたのは63%であり,残りの37%は先行ドレナージのRBOに対する再処置としてD-ARMSを留置した.

内視鏡処置,手技的成功,機能的奏効,有害事象

内視鏡的乳頭切開術は93%,予防的膵管ステント留置は7%に施行した(Table 2).使用したD-ARMSのステント長は,60mm 47%,80mm 53%であり,胆管狭窄長に応じて選択した.処置時間中央値は25分(9-50)であった.

Table 2 

内視鏡処置,手技的成功,機能的奏効,有害事象.

手技的成功は28例(93%)に認めた.手技的成功が得られなかった1例ではステント留置位置が予定より肝門側となり,把持鉗子を用いてステントを腸管側に引いたところ破損したため,D-ARMSを抜去して他のSEMSを留置した.もう1例では,ステント展開時に過度の牽引力がかかってメッシュが伸張し,胆管閉塞部に一致してステント内腔が狭小化した.その後もステントの完全拡張が得られず,ステント追加留置することとなった.

ステント留置に際して手技的に難渋しなかったのは23例(77%)であった.残り5例における処置難渋の要因に関して2例ではステント端にある着色不透過マーカーを内視鏡・透視下で確認することが困難であった.その他の2例では,ステントが術者の意図に反して展開したが,研究開始初期に認めたステント装着不全によるものであった.もう1例は胆管閉塞長が長く,肝門側にステントの追加留置を要した.

機能的奏効は26例(87%)で得られた.機能的奏効を認めなかった4例のうち,2例は手技的成功が得られなかった症例であった.残り2例のうち,1例は処置後膵炎を合併しD-ARMSを抜去したが,もう1例の胆汁うっ滞は保存的に軽快した.

早期偶発症は3例(10%)に認め,胆管炎2例(軽症1,中等症1)と膵炎(中等症)であった.うち2例は内視鏡治療を要したが,軽症胆管炎の1例は保存的加療にて軽快した.後期偶発症としてステント逸脱を2例に認めたが,いずれも化学療法によりDMBOが改善した例であった.逸脱に関連する症状を認めず,内視鏡治療は施行しなかった.

RBOの発生

中央値5.1カ月(0.8-22.8)の処置後観察期間において,RBOはD-ARMSを留置した27例のうち9例(33%)に認めた(Figure 3).TRBOの中央値は261日であり,累積3・6カ月ステント開存期間は各々76%,55%であった.D-ARMSを初回ドレナージとして使用した16例において,TRBOの中央値は未達成であり,累積3・6カ月ステント開存期間は各々75%,62%であった.

Figure 3 

再発性胆道閉塞までの期間(TRBO)に関するカプラン・マイヤー曲線.

a:全症例のカプラン・マイヤー曲線.

b:D-ARMSを用いて初回胆道ドレナージを施行した症例のカプラン・マイヤー曲線.

RBOの成因は,胆泥貯留5,腫瘍増殖による十二指腸閉塞3,胆道出血1であり(Table 3),胆泥貯留の5例中2例でARVの破損を認めた(Figure 4).RBO発症9例に対する再処置に関して,6例(67%)でD-ARMSの抜去が可能であったためステントを交換した.このうち,3例では抜去時にD-ARMSの断裂を認めなかったが,残り3例では把持鉗子,生検鉗子を用いたD-ARMS抜去の際に断裂した.D-ARMSの抜去が困難であったのは3例であり,うち2例では十二指腸閉塞の合併を認め,各々超音波内視鏡下胆管胃吻合術(endoscopic ultrasound-guided hepaticogastrostomy,EUS-HGS),十二指腸ステント留置にて対処した.もう1例は腫瘍増悪に伴う胆道出血合併例であり,多量の血塊により経乳頭的アプローチが困難であった.本例においては,全身状態が不良であったため追加の胆道ドレナージは施行しなかった.

Table 3 

再発性胆道閉塞.

Figure 4 

D-ARMS留置後に再発性胆道閉塞を合併した1例.

a:D-ARMS全体を撮影した内視鏡画像.

b:Figure 4-aの白四角部分の拡大図.逆流防止弁の破損(白矢印)を認める.

予後

研究期間中の生存は12例であった.死亡は18例(60%)に認め,原病死16,他病死2であり,処置後生存期間の中央値は4.4カ月(0.8-22.8)であった.RBOと予後との関連については,RBO未発症の生存10,死亡8であった.

Ⅳ 考  察

本研究により,D-ARMSによる胆道ドレナージは安全に実施可能であることが示された.また,ステント開存期間も十分長く,RBO発症時においてもステント交換が可能であることも証明された.本稿は,著者の知る限りにおいてDMBOに対するD-ARMSを用いた胆道ドレナージを初めて評価した論文である.

腸液の胆管内逆流予防は胆道ステント留置における重要な課題の1つである.その1つとして,ステントを乳頭から出さないで留置する胆管内留置術がある 20)~22.胆管内留置の際には,胆管閉塞部位が主乳頭から離れていることが条件となるため,特に肝門部悪性胆管閉塞における胆管内留置術の有用性は数多く報告されている.しかし,DMBOでは胆管閉塞部位と主乳頭が非常に近く,胆管内留置の適応とならないことが多い.そのため,ARMSなど他の方法による腸液逆流予防法を検討する必要がある.

ARMSの形状は今日までに多数報告されている(Table 4).Huらは,無作為化比較試験(randomized controlled trial,RCT)を通じて,nipple型と呼称される十字型の小さなARVを有するARMSを提案した.本ステントのTRBOは中央値13カ月であり,比較対象となったアンカバー型SEMSより開存期間が長かったと報告している 11.Leeらは,S型のARVを有するARMSの可能性および安全性に関する後方視的研究を行い,中央値14.4カ月のTRBOを報告している 8.Leeらは,windosock型と呼称される長くて柔らかいARVを考案した.カバー型SEMSとのRCTにおいて,ARMSの方がTRBOが長かったことを示し,腸液の胆管内逆流予防に有効であることを証明した 13.HamadaらとMoritaらは,funnel型のARVを有するARMSの有用性に関して多くの研究を通じて報告している 10),12),14),15

Table 4 

逆流防止弁付き金属ステントの手技的成功,機能的奏効,再発性胆道閉塞までの期間に関する報告.

一方,ARMSに関する否定的な報告も認めている.Kimらは,wine glass型ARVを有するARMSを開発したが,開存期間が短くステント検証試験を中断することとなった 9.Hamadaらは,開存期間に関するfunnel型ARVを有するARMSと従来のSEMSとのRCTを実施したが,ARMSの優越性は示されなかった 16.Kwonらは,ARVの機能不全の機序を調べるために多くのARMSを様々な状況下において評価する机上実験を実施した.その結果,十二指腸内のpHによってARVの形態が変化し,機能不全につながることを示した 23.従って,現状ではARMSの改善点はまだまだ多数存在している 24

本研究において,D-ARMSを用いた胆道ステント留置術の手技的成功率,機能的奏効率は各々93%,87%であった.この結果は既報に相当する成績であり,D-ARMSを用いた胆道ステント留置術が可能であることを示唆している.早期偶発症は10%に認めたが適切な治療により全例軽快しており,後期偶発症は無症候性のステント逸脱のみであった.このことから,D-ARMSの留置は安全と考えることができる.TRBOに関しても,中央値8.7カ月と既報とほぼ同等の成績であった.ただし,TRBOに関する検討には問題があり,少数例の検討であること,初回ドレナージおよびRBO発症後の再処置例の両方が含まれていること,観察期間が短いことなどが挙げられる.TRBOの正確な評価に関しては,多数例での前向き研究による更なる検討が必要である.

本研究のlimitationは以下の通りである.少数例での後方視的研究であり,選択バイアスを完全に避けることはできないため,多数例によるRCTでの検証が必要である.本邦の三次医療機関3施設で実施した研究であるため,本研究結果の日常臨床における再現性は明らかではない.対象に初回ドレナージ,ステント交換,RBO後の再処置例が含まれており,D-ARMS留置時の状況が画一的でないため,機能的奏効,偶発症発生率,RBO発生率の解釈には注意を要する.従って,初回ドレナージを対象とした前向き研究により本研究結果の妥当性を確認する必要がある.

Ⅴ 結  論

D-ARMSを用いた胆道ドレナージは安全に施行可能であり,十分なTRBOを得ることができる.本研究結果の妥当性は,長期経過観察期間を設けた多数例での多施設共同研究を通じて示されると考える.

謝 辞

本研究に際して,個々の症例の診療および症例集積に御協力頂いた以下の先生方に厚く御礼申し上げます:手稲渓仁会病院 消化器病センター 豊永啓翔,植木秀太郎,本多俊介,筑後孝紀,石井達也,那須野央,林毅,高橋邦幸;東京医科大学 消化器内科 小嶋啓之,黒澤貴志,朝井靖二,松波幸寿,山本健治郎,永井一正,向井俊太郎,本定三季,殿塚亮祐,田中麗奈,土屋貴愛,祖父尼淳;久留米大学 医学部内科学講座消化器内科部部門 牛島知之,安元真希子,島松裕.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:糸井隆夫および潟沼朗生は,川澄化学工業株式会社および株式会社メディコスヒラタのコンサルタントである.岡部義信は,ガデリウスメディカル株式会社のコンサルタントである.岡部義信は,川澄化学工業株式会社より講演料を受け取っている.岡部義信は,特許(US9072507B2;United States Patent, July 2015)を取得している.これらの資金は,本研究の計画,実行,解析に使用されていない.それ以外の著者には,特記すべきCOI開示はない.

補足資料

電子動画 1 ダックビル型逆流防止弁付き金属ステント(D-ARMS)を留置した1例(Figure 2と同一症例).

胆管造影にて閉塞部を確認し,内視鏡的乳頭切開術後にD-ARMSを留置した.

電子動画 2 再発性胆道閉塞によりD-ARMSを抜去した1例.

D-ARMS内の胆泥貯留を確認した後にスネア鉗子を用いてステントを抜去し,別の金属ステントを留置した.

文 献
 
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