日本消化器内視鏡学会雑誌
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手技の解説
細径内視鏡を用いた内視鏡的粘膜下層剝離術
根岸 良充大圃 研
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2022 年 64 巻 4 号 p. 1025-1032

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要旨

近年の細径内視鏡とその周辺デバイスの進歩は目覚ましいものがある.元来は観察専用の内視鏡と認識されてきたが,状況によっては処置用として従来の内視鏡を超える優位性を擁する場合もある.われわれは1)鎮静剤使用を回避する,2)狭窄によって処置用内視鏡が使用できない,3)咽頭の病変へのアプローチ,の3つの場合において細径内視鏡を処置用として用いている.制約はありつつも,徐々に治療内視鏡としての可能性も持ち始めた細径内視鏡による内視鏡的粘膜下層剝離術の実際について詳述する.

Ⅰ はじめに

内視鏡治療には処置用内視鏡がほとんどの施設において最も汎用されていると思われる.一方で経鼻使用を目的とした細径内視鏡は検診内視鏡をはじめとした,観察用の内視鏡と一般的には認識されている.実際,内視鏡治療を念頭においた場合,操作性,鉗子孔径,送水機能など処置用内視鏡のアドバンテージは大きい.しかし,近年の経鼻用の細径内視鏡の進化は目覚ましく,その特性を理解すると状況によってはデメリットを補っても余りあるほどの優位性を持つ場合がある.われわれは以前より細径内視鏡の処置用への流用を積極的に行ってきた.実際にわれわれが行っているのは内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD),Hybrid ESDであり,その手技について解説する.

Ⅱ 使用機器

細径内視鏡による手技といっても,ESDの手技そのものは通常径の処置用内視鏡と大きな違いはない.実際に細径内視鏡において使用可能なデバイスをよく知っておく事が,細径内視鏡を用いたESDの一番のポイントともいえる.現状でも一通りの処置用デバイスは使用可能であり,処置用内視鏡を用いた場合との大きな違いは送水機能の有無のみである.

【使用スコープ】

各社より経鼻用の細径内視鏡が販売されているが,フジフイルムのEG-L580NW7(LL-7000光源と接続),EG-740N(BL7000光源と接続),EG-6400N(EP-6000光源と接続)は鉗子孔径が2.4mmと細径内視鏡としては最も大きく,内視鏡治療に使用可能である.処置用デバイス径を考えると,現時点ではこれらの内視鏡以外で処置を行う事は不可能である.保有している光源装置によって接続できるスコープが制限されるため確認が必要である.

【処置具】

スネアと高周波メス:SOUTEN(ST1850-20:カネカメディックス)先端にノブ型のチップが付いたスネアである.チップの部分だけを出してESD用の高周波メスとして使用する事もできるし,全体を出してスネアとして使用も可能な,マルチファンクションのスネアである(Figure 1).

Figure 1 

スネアの先端にノブ型のチップが付いており,スネアと一体型となっている.

止血鉗子:RAICHO2(RC1900-2:カネカメディックス)回転機能が高く,かつ細径の止血鉗子である(Figure 2).

Figure 2 

細径内視鏡で使用可能ながら回転性能が非常に高い事が特徴の止血鉗子である.

クリップ:SAIKEI(SK1650:カネカメディックス)チューブシース外径が2.3mmとなっている.汎用のクリップ同様に回転機能と掴み直し機能を有する(Figure 3).

Figure 3 

細径ながら回転機能と掴み直し可能なクリップである.

局注針:小腸局注針(01873:トップ)細径設計かつ小腸用ロングシースを採用しているため注入抵抗は高いので,局注液は生理食塩水に限定される.

【アタッチメント】

市販の細径用のアタッチメントは厚みがあり,装着すると経鼻アプローチができなくなる.経鼻アプローチをしない場合でも,先端が太くなるという事自体が,細径内視鏡を用いているアドバンテージを少なくしてしまう.われわれはビニールテープを用いて自作のテープフードを作成している.テープフードは0.02mmの厚みしかないので,装着しても経鼻アプローチに支障がない.作成方法をFigure 4に示す 1

Figure 4 

a:自作テープフードを装着した状態.

b:市販の透明ビニールテープ(厚さ0.2mm,太さ19mm)を使用する.

c:テープの1/3ほどを粘着面側に折り曲げる.折り曲げた一端を,少し曲線状に斜めに切り落とす.角ばっていると挿入時に同部位が引っかかるためである.

d:折り曲げていない粘着部分を,スコープ先端に一周分巻き付けて貼る.何周も巻き付けると無駄に厚みが出る.一周巻けばフードとしては十分な強度があるので,それ以上巻き付けない様にする.

e:最後の巻き終わりの部分もやや曲線状に斜めに切り落として,貼り終わりの部分が挿入時に引っかからない様にする.

Ⅲ 高周波装置設定

高周波装置はSOUTENの先端でナイフとして使用する場合,SOUTENをスネアとして使用する場合,RAICHOによる止血処置を行う場合に使用する.SOUTENはハイブリッドナイフの特性上,メスとスネアのつなぎ目で電流密度が低くなる.そのため最大出力が低い旧式の高周波装置では,切開辺縁の熱変性が強く出てしまう傾向がある事に留意したい(Table 1).

Table 1 

高周波の設定.

Ⅳ 実際の施行例

われわれが実際に細径内視鏡を用いる状況は,以下の様な場合である.

1)鎮静剤使用を回避して経鼻アプローチで処置を行う場合(Figure 5).

Figure 5 

a:前庭部の15mm大隆起性病変,通常観察.

b:無鎮静,経鼻アプローチで治療をしている様子.

c:術時間短縮のため,不必要に大きな切除を行わないですむ様に,ぎりぎりのマーキングとする.

d:SOUTENの先端のノブの部分だけを突出させて粘膜切開を行う.先端部分は一度スネアを大きく出してから,締めながら固定する.スネアを引き込んでくると先端部分になったところで抵抗があってハンドルがある程度固定される.

e:固定されたらハンドルを握らずに持つ様にすると,無意識に先端が出てしまう事がない.

f:トリミング:Hybrid ESDの場合,トリミングが不十分だと病変を取り残してしまう可能性が高くなる 5

g:十分にトリミングしたので,スネアリングした様子.取り残しのない様に中心部が凸になっている事を確認してから切除する.中心部が凸になっていない場合には,トリミングが足りないので追加する.

h:切除後の潰瘍底の様子.遺残なく切除できている事が分かる.

i:切除標本.

j:病理結果well differentiated tubular adenocarcinoma(tub1>tub2),17×11mm,0-Ⅰ,pT1a(depth M),Ly0,V0,pVM0,pHM0.

ESDでは鎮静剤使用下での施行が一般的であるが,高齢者や重篤な心疾患や呼吸器疾患を有する患者では,鎮静剤使用自体に大きなリスクを伴う場合がある.経鼻アプローチによる内視鏡検査はスコープが舌根部に触れず嘔吐反射が少ない.また,心筋酸素消費量の変化も少ない事から,鎮静剤を使用する経口内視鏡より酸素飽和度の低下も抑えられる.患者への侵襲性が低い細径内視鏡の利点を活かした内視鏡治療として,無鎮静下で経鼻ルートでのESDを行っている 2.また,術時間を極力短くするために,Hybrid ESDとしてスネアリングを併用する場合が多い 3),4.症例は90歳代,男性,高齢で基礎疾患ありという事で無鎮静下のESDによる治療を選択した.

内視鏡挿入から抜去までの時間は20分であり,術中術後ともに偶発症は認めなかった.術中に患者との会話も可能であり,治療直後は自力で車いすに移動,帰室後も床上安静は不要であった.

2)狭窄で処置用内視鏡が通過できない場合(Figure 6).

Figure 6 

a:食道の良性狭窄部の内視鏡像.

b:食道造影検査では食道は左側へ変移し屈曲部で椎体と気管による狭窄像が見られた.

c:体部小彎からやや前壁寄りに20mm大の隆起性病変を認める.

d:マーキングを行ってから全周切開をしたところ.

e:術時間の経過に伴って,病変に近接が困難になってきたため,SAIKEIを用いて糸付きクリップによるトラクションを用いた.

f:トラクションを用いる事で,粘膜下層の視認性が向上し無事一括切除をする事が可能となった.

g:切除後の潰瘍底.

h:切除標本.

i:病理結果well differentiated tubular adenocarcinoma(tub1),22×12mm,0-Ⅱa,pT1a(depth M),Ly0,V0,pVM0,pHM0.

咽頭や食道で外科術後や内視鏡治療後の影響など種々の理由で狭窄をきたし,通常の経口内視鏡が通過しないような場合も,経鼻内視鏡治療が有用な事がある 6),7.症例は70歳代,男性,食道に気管と椎体の圧排による良性狭窄があり治療用の経口内視鏡の通過は不可であった.これまでも通常の内視鏡の挿入ができずいつも経鼻内視鏡検査に変更していたという.この場合は,食道そのものが狭窄しているのではなく,壁外性の圧排でもありバルーン拡張をしても狭窄の改善は見込めないと判断し,経鼻内視鏡を用いたESDを施行する方針とした(経口アプローチ).

操作性そのものは処置用内視鏡に及ばず,内視鏡挿入から抜去までの時間は50分と長くかかってしまった.しかし,細径内視鏡であっても糸付きクリップによるトラクションをかける事は可能であり,それは治療の完遂に際して大きな助けとなった.

3)咽頭の処置の場合(Figure 7).

Figure 7 

a:右梨状陥凹に拡がる早期下咽頭がん.ルゴール散布にて,2病変が近接している事が分かる.

b:経口アプローチをして,SOUTENでマーキングを行った.

c:経口アプローチで処置しているが,筋層が徐々に垂直となり剝離がしにくくなってきたところ.

d:経鼻アプローチに切り替えたところ,筋層とSOUTENが並行となり処置がしやすくなった.

e:切除後の潰瘍底.

f:切除標本.

g:病理結果.

(lesion1) squamous cell carcinoma,17×14mm,type 0-Ⅱb,tumor thickness 220μm,ly0,v0,pVM0,pHM0.(lesion2) squamous cell carcinoma,9×5mm,type 0-Ⅱb,tumor thickness 120μm,ly0,v0,pVM0,pHM0.

咽頭の処置の場合には細径カメラのアドバンテージが大きくなる場合が多い.そもそも咽頭はワーキングスペースが狭く,また気管チューブとスコープが干渉してしまい病変にアプローチしにくい場合がある.細径のカメラだと狭いスペースに内視鏡を潜り込ませやすく,口腔内のチューブ等との干渉がしにくい 8.さらに経口アプローチの場合にはマウスピースのサイズと細径カメラの径の差が大きいためにスコープの固定性が悪いが,経鼻アプローチに切り替えるとスコープが経鼻ルート内でしっかり固定されるために視野の安定性が格段に高まる.そして,経口から経鼻にアプローチルートを変えると病変に対してのスコープの入射角が変わり,処置がしやすくなる場合もある.これらの理由から現在当院では,まず経鼻アプローチから処置を開始する様にしている.

Ⅴ 細径内視鏡による内視鏡治療の利点と課題

処置用内視鏡を使用できる環境であれば,基本的には細径内視鏡を用いるアドバンテージはない.しかし,前述した1)鎮静の使用を回避したい場合の経鼻アプローチ,2)狭窄で処置用内視鏡が使用不可な場合,3)病変へのアプローチ角度を変えたい時の経鼻アプローチに関しては,細径内視鏡を用いる事の優位性が期待できる.一方で,依然として使用可能なデバイスは限られており,高周波ナイフも止血鉗子もSOUTENとRAICHO2に限定される.またスコープの操作性や特に強い反転操作を必要とする場合,特に処置具を挿通した状況ではアングルが十分にかからないため,体上部での処置は現実的に厳しい.フードが使用可能となり視野の確保はかなり改善されたが,送水機能がないために出血をきたした場合に処置に難渋する事がある.筆者らは送水機能の代わりにレンズの洗浄で出る水を利用して止血を行っているが,大量の出血の場合にはやはり送水機能は必要である.細径内視鏡を用いた処置はESD自体の難易度を下げるものではない.むしろ難易度は格段に上がるであろう.しかし,通常の処置用内視鏡で対応困難な場合,限定的な状況ではあるが有効な場合があり,その事に留意した上で導入する事が必要である.

Ⅵ 終わりに

細径内視鏡を用いた内視鏡的粘膜下層剝離術について詳説した.通常の処置用内視鏡が可能な状況であれば,デバイス選択の幅や操作性の観点からもそれを最優先で使用すべきと考える.ただし,昨今の細径内視鏡は操作性も格段に向上しており,年齢や基礎疾患などの患者背景や狭窄で処置用内視鏡が使用できない場合など,極めて有用なツールとなりうる.治療内視鏡に携わるならば細径内視鏡を用いた治療も自身の引き出しとして持っておいて損はないと考える.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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