日本消化器内視鏡学会雑誌
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64 巻, 4 号
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総説
  • 加藤 元彦, 佐々木 基, 矢作 直久
    2022 年 64 巻 4 号 p. 963-975
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
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    表在性非乳頭部十二指腸上皮腫瘍(Superficial non-ampullary duodenal epithelial tumor:SNADET)は近年,その発見と治療の機会が増えている.膵頭十二指腸切除術の周術期の有害事象の発生割合の高さを考慮して,内視鏡切除(Endoscopic resection:ER)はSNADETに対しても行われている.ERのうちEMRは比較的型の病変に対する標準的な治療法であるが,十二指腸においては治療前の生検による粘膜下層の線維化などにより,技術的に困難なことがある.近年,Underwater EMR(UEMR)やコールドポリペクトミー(Cold polypectomy:CP)などのEMRの変法が提案された.UEMRでは,十二指腸の内腔を水または生理食塩水で満たし,粘膜下層に注入することなくスネアで病変を切除する.特に20mm以下のSNADETに対してより技術的難易度が高いESDの候補を減らしうる治療法である.CPは対象病変を高周波電流を用いずに物理的に切除する方法で,切除能に課題は残るものの,SNADETに対する安全で簡便な方法として期待されている.SNADETに対するESDは技術的に困難であり,遅発性偶発症のリスクも極めて高いと考えられている.しかし,近年報告されたwater pressure methodやpocket creation methodなどのテクニックを用いることでその成績が向上しうることが報告されている.さらに,切除後の粘膜欠損部を閉鎖することで,十二指腸ER後の遅発性偶発症が有意に減少することが示されている.治癒基準,長期成績および適切なサーベイランス方法を明らかにするためには,さらなる研究が必要である.

  • 池松 弘朗, 斎藤 豊, 片岡 智子
    2022 年 64 巻 4 号 p. 976-982
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
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    リンパ節転移高リスク下部直腸粘膜下層浸潤癌に対する標準治療は,リンパ節郭清を伴う外科的切除である.しかし,術後の永久人工肛門,肛門機能の低下や合併症の問題から外科手術を拒否する患者が少なからず存在する.そのため日本臨床腫瘍研究グループ(Japan Clinical Oncology Group:JCOG)で,局所切除後に化学放射線療法を追加する試験治療が,標準治療である外科的切除に対して劣らないことを検証する試験(JCOG1612「局所切除後の垂直断端陰性かつ高リスク下部直腸粘膜下層浸潤癌(pT1癌)に対するカペシタビン併用放射線療法の単群検証的試験」)を計画した.Primary endpointは5年無再発生存割合とした.試験デザインは,多施設,単群検証的試験である.試験治療の内容は,予防照射45Gy(1.8Gy/日)とし,放射線療法の増強効果目的としてカペシタビンを承認用法用量で用いる.予定登録数は210例,予定登録期間は4年,追跡期間は登録終了後10年であり,平成30年1月10日から患者登録が開始された.

原著
  • 水野 裕介, 山田 智則
    2022 年 64 巻 4 号 p. 983-991
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
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    【目的】急性出血性直腸潰瘍(Acute Hemorrhagic Rectal Ulcer;以下AHRU)の臨床的・内視鏡的特徴,および難治性や致死的な経過をたどる因子を明らかにする.

    【方法】AHRUを発症した44例を対象とし,1)患者背景,2)内視鏡所見および止血処置,3)一次止血処置後の再出血例,4)死亡例についてデータを収集し解析した.

    【結果】1)75歳以上の高齢者,Performance Status 3以上の発症が多い傾向にあった.基礎疾患として,心血管疾患,脳神経疾患,整形外科疾患が多くを占めた.2)内視鏡観察時に半数以上で出血像を認め,クリップ法による止血術が最多であり,一次止血は良好な成績であった.3)一次止血後の再出血リスク因子として,ステロイド薬使用が検出された.4)AHRUを発症した患者の入院中死亡リスク因子として,透析が検出された.

    【結論】AHRUにおける内視鏡的止血後の再出血と入院死亡のリスク因子は,それぞれ「ステロイド薬使用」と「透析」である.

症例
  • 島本 宜紀, 木下 陽亮, 川田 雄司, 森口 明宣, 北田 峻平, 南野 弘明, 山上 博一, 林 克平, 西田 裕, 藤原 靖弘
    2022 年 64 巻 4 号 p. 992-998
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
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    症例は78歳男性.cT4N1M1b(LYM),stageⅣAの肺大細胞癌に対するペムブロリズマブ療法中に貧血が出現した.上部消化管内視鏡検査を施行したところ,食道に非連続性に全周性の潰瘍性病変を認めた.他の薬剤性潰瘍や感染症は否定的であり,ペムブロリズマブの免疫関連有害事象による食道潰瘍と診断した.経過中に嚥下障害が増悪したため,免疫関連有害事象による大腸炎の治療に準じて,プレドニゾロン1mg/kg/日(60mg/日)の投与を開始したところ臨床症状,内視鏡所見ともに著明な改善を得られた1例を経験した.

  • 岩室 雅也, 田中 健大, 倉岡 紗樹子, 小橋 真由, 里見 拓也, 岡上 昇太郎, 田邊 俊介, 藤原 敬士, 河原 祥朗, 岡田 裕之
    2022 年 64 巻 4 号 p. 999-1004
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
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    症例は87歳男性.75歳時に逆流性食道炎に対して下部食道および胃噴門部切除,空腸間置法再建を実施.87歳時の上部消化管内視鏡検査にて,穹窿部に境界明瞭な約10mmの白色調の領域を認め,narrow-band imaging観察では白色~緑色調であり,腺管構造は不明瞭であった.生検にて胃扁平上皮化生と診断した.以後,1年毎に上部消化管内視鏡検査を施行.経過中に扁平上皮化生領域は軽度増大し,92歳時点では地図状の形態となっていた.胃扁平上皮化生が食道粘膜から非連続性に発生することはまれであるが,上記の内視鏡所見を認める場合は,本症を鑑別に挙げるべきと考えられた.

  • 加納 佑一, 山本 英子, 内藤 岳人, 松原 浩, 服部 峻, 前多 松喜, 新井 義文, 大橋 信治, 浦野 文博
    2022 年 64 巻 4 号 p. 1005-1010
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
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    症例は64歳女性.腹部症状に対して施行した上部消化管内視鏡検査にて胃穹隆部に基部に粘膜下腫瘍様隆起を伴う30mm大の発赤調の隆起性腫瘍性病変を認めた.進行胃癌の診断で胃全摘出術を施行し,病理組織学的評価で表層部に胃型粘液形質の低異型度分化型胃癌を伴う進行癌と診断した.本疾患はH. pylori未感染症例や除菌後症例で萎縮のない胃底腺領域に発生することが多い.また早期癌で発見されることが多く,一般的に予後は良好と考えられている.今回われわれは,先進部に低分化腺癌成分が混在し,特徴的な内視鏡形態を示した表層部に胃型粘液形質の低異型度分化型胃癌を伴う進行癌の症例を経験したため,内視鏡的特徴や病理学的特徴について文献的考察を加えて報告する.

  • 児島 一成, 佐々木 文郷, 樺山 雅之, 藤野 悠介, 軸屋 賢一, 田中 啓仁, 霧島 茉莉, 東 美智代, 谷本 昭英, 井戸 章雄
    2022 年 64 巻 4 号 p. 1011-1017
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
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    症例は63歳の男性.十二指腸下行部に15mm大の側面に陥凹を伴う粘膜下腫瘍様病変で,陥凹面に大小不同の絨毛様構造を認め,管状腺腫もしくは高分化型腺癌が疑われた.超音波内視鏡検査では,腫瘍内部に無エコー域を認めた.早期十二指腸癌も否定できず,EMRを施行した.病理組織検査では,側面の陥凹面は管状腺腫と診断した.また,十二指腸内腔側と嚢胞内腔側は粘膜筋板を共有しており,腺腫を合併した十二指腸重複症が疑われたが,十二指腸腔内憩室(Intraluminal duodenal diverticulum:IDD)との鑑別が困難であった.両疾患は,稀ではあるものの十二指腸腫瘍性病変の鑑別の一つとして考慮すべき疾患と考えられた.

手技の解説
  • 永島 一憲, 入澤 篤志
    2022 年 64 巻 4 号 p. 1018-1024
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
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    孤立性胃静脈瘤(isolated gastric varices:iGV)からの出血は致死的となるため,その予防治療を行うことは非常に重要である.以前からiGVに対する内視鏡治療として,組織吸着薬(Cyanoacrylate:CA)と硬化剤(Ethanolamine oleate:EO)を併用したCA/EO法が行われているが,近年ではEUS下穿刺術を応用したコイル留置術が良好な成績をもって報告されている.本法は,EUSでiGV内腔を直接観察しながら穿刺すること,また,使用するコイルはiGV径の150%のコイルを用いること等から,安全かつ効果的な治療が可能である.われわれはコイル留置に引き続きEOの注入を行うEUS-guided coil deployment with sclerotherapy(EUS-CS)を施行し,iGVのみならず供血路の塞栓化も図っている.なお,治療に際しては各種画像診断による門脈圧亢進症の血行動態を事前に評価し,十分に理解しておくことが必要である.

  • 根岸 良充, 大圃 研
    2022 年 64 巻 4 号 p. 1025-1032
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
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    近年の細径内視鏡とその周辺デバイスの進歩は目覚ましいものがある.元来は観察専用の内視鏡と認識されてきたが,状況によっては処置用として従来の内視鏡を超える優位性を擁する場合もある.われわれは1)鎮静剤使用を回避する,2)狭窄によって処置用内視鏡が使用できない,3)咽頭の病変へのアプローチ,の3つの場合において細径内視鏡を処置用として用いている.制約はありつつも,徐々に治療内視鏡としての可能性も持ち始めた細径内視鏡による内視鏡的粘膜下層剝離術の実際について詳述する.

資料
  • 田中 聖人
    2022 年 64 巻 4 号 p. 1033-1038
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
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    Coronavirus disease 2019の感染拡大は消化器内視鏡診療をはじめとするわが国の医療に大きな影響を及ぼした.今回Japan Endoscopy Databaseに提供されたデータを解析し,その影響を検討した.消化管内視鏡診療は2020年4月の最初の感染拡大により大きな影響を受け,消化管内視鏡診療件数は半減するほどの影響を被っていた.特に上下部消化管内視鏡検査と大腸内視鏡治療への影響が非常に大きかった.一方緊急症例や癌診療が多くを占めるERCP関連手技は比較的影響が少なかったといえる.しかしながら2020年5月からは,感染拡大の影響から回復し,2020年12月まで,前年と同様の診療件数近くまで回復基調にあった.その後いわゆる第三波が2020年年末から2021年初頭にかけて,次に2021年5月には第四波が,そして2021年8月ごろから第五波と呼ばれる大きな感染者数の増加がみられたが,内視鏡診療件数は2020年5月ほどの極端な減少はみられていない.

    感染拡大という社会的影響は主に病変発見を目的とする検査で大きな影響を受けたものの,内視鏡診療を行う医療関係者の努力や国民の感染対策に関する意識の向上やワクチン接種が広がってきたことにより速やかに原状回復したと考えられる.今後2021年の消化器内視鏡診療への影響に関しても見守ってゆく必要がある.

  • 今川 敦, 藤城 光弘, 道田 知樹, 溝上 裕士
    2022 年 64 巻 4 号 p. 1039-1047
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
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    【背景・目的】EGDの周術期管理においてタイムアウト及び鎮静後の帰宅判定基準はどの程度普及しているか不明である.本研究の目的はその導入の実態を明らかにすることである.

    【方法】国内の内視鏡医にアンケート調査を依頼した.

    【結果】66施設より回答を得た.タイムアウトは61%(40施設)ですでに導入されていた.確認事項(項目)は6割以上の施設で患者氏名・検査内容・抗血栓薬・アレルギー・基礎疾患を採用していた.一方,帰宅判定基準は65%(43施設)で導入されていたが,いずれの検討も施設ごとに基準が様々で統一されていなかった.

    【結論】EGDにおけるタイムアウト及び鎮静後の帰宅判定基準は普及しつつあるが,全国的に統一された基準の作成が望ましいと思われた.

  • 石村 典久, 沖本 英子, 柴垣 広太郎, 長野 菜穂子, 石原 俊治
    2022 年 64 巻 4 号 p. 1048-1061
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
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    過去20年の間に好酸球性食道炎(eosinophilic esophagitis:EoE)の罹患率および有病率は特に欧米諸国において急激な増加を示しており,日本においても近年,症例数の増加傾向が示されている.しかしながら,欧米と日本におけるEoEの臨床像の類似点および相違点については,これまで十分に評価されていない.現在のEoEの診療ガイドラインでは,食道機能障害に起因する症状および食道上皮における密な好酸球浸潤の存在が含まれている.日本においては,健診の際に偶発的に診断される症例が大半であり,EoEに見られる典型的な内視鏡像を認めるものの無症状の症例にしばしば遭遇する.日本人のEoEの臨床的特徴は欧米人と同様である.日本人に認められる最も頻度の高い症状は嚥下困難であるが,食物嵌頓は非常に稀である.また,内視鏡像では縦走溝が最も頻度の高い所見であるが,食道狭窄や内腔の狭小化は稀である.EoEの治療方針には薬剤,食事療法に加え,食道狭窄を認める際は内視鏡的拡張術が含まれる.日本においてはプロトンポンプ阻害薬単剤で多くの症例で症状および組織学的な改善が認められるが,薬剤や除去食療法などの有効性を検討した前向き無作為化比較試験は行われていない.全体として,日本人と欧米人のEoEの臨床像は同様であるが,日本人の症例の方が疾患の重症度が軽い傾向にあると思われる.今後,遺伝子要因,疾患の自然経過,薬剤や除去食療法の効果に関して欧米人と比較したさらなる検討が必要である.

内視鏡室の紹介
最新文献紹介
  • 平岡 佐規子
    2022 年 64 巻 4 号 p. 1070
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
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    【背景と目的】潰瘍性大腸炎(Ulcerative colitis:UC)は世界的に罹患者数が増加している炎症性腸疾患である.UCの病因には自己免疫異常の関与が示唆されているが,特異的な自己抗原や自己抗体は未だ明らかではない.UCは上皮バリア機能障害など大腸上皮障害を特徴としていることより,UC患者は大腸上皮細胞の接着分子に対する自己抗体を持っている可能性がある.インテグリンはヘテロ二量体細胞表面タンパク質で,細胞-細胞外マトリックスの結合を仲介する細胞接着分子である.そこでインテグリンに注目し研究をすすめた.

    【方法】スクリーニングとして,23種のリコンビナントインテグリン蛋白を用い,UC患者とコントロール群(クローン病/他の腸管疾患/膠原病患者/健常人)の血清中のインテグリン抗体をELISAで測定した.さらに,UC患者とコントロール群の大腸粘膜組織におけるインテグリンの発現とIgG結合をそれぞれ免疫蛍光染色法と共免疫沈降法で検討した.自己抗体のブロッキング活性は,固相結合および細胞接着アッセイを用いて検討された.

    【結果】スクリーニング検査ではインテグリンαvβ3とαvβ6に対する抗体がUC患者に多く検出された.今回は上皮のみに発現するインテグリンαvβ6に注目し,更に研究をすすめた.UC患者ではコントロール群と比較して高率にインテグリンαvβ6に対するIgG抗体を有しており(103/112(92.0%)vs. 8/155(5.2%),p<0.001),UC診断の感度は92.0%,特異度は94.8%であった.また,抗インテグリンαvβ6抗体価はUCの疾患活動性と一致し,UC患者のIgGは,大腸上皮細胞に発現するインテグリンαvβ6に結合した.さらに,UC患者の抗インテグリンαvβ6抗体は,RGD(Arg-Gly-Asp)トリペプチドモチーフを介してインテグリンαvβ6-フィブロネクチン結合を阻害し,細胞接着を阻害することがわかった.

    【結論】潰瘍性大腸炎患者は高率にインテグリンαvβ6に対する自己抗体を有しており,診断用バイオマーカーとして期待される.

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