日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
内視鏡室の紹介
東京慈恵会医科大学附属柏病院 内視鏡部
責任者:荒川廣志,炭山和毅  〒277-8567 千葉県柏市柏下163番地1
荒川 廣志炭山 和毅
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2022 年 64 巻 4 号 p. 1066-1069

詳細

概要

沿革・特徴

東京慈恵会医科大学は,高木兼寛により明治14年(1881)5月1日に創立された成医会講習所をその起源とし,大正10年に大学令により日本初の単科医科大学となった.今年は創立141年を迎える. 当院は,附属病院(港区),葛飾医療センター(葛飾区),第三病院(狛江市)についで四番目の附属病院として昭和62年(1987年)4月に千葉県柏市に開設された.病床数664床で29の診療科と12の中央診療部門を有する.平成24年(2012年)には救命救急センターが開設され,千葉県北西部東葛地域(松戸市,野田市,柏市,流山市,我孫子市,鎌ヶ谷市)唯一の大学病院として,先進医療と急性期医療を推進し地域に貢献することを理念としている.

組織

内視鏡部は中央診療部門に所属している.開設当初は内視鏡室に専任スタッフはおらず,総合内科や外科医師などが検査を行っていたが,平成11年(1999年)に附属病院内視鏡科から増田勝紀が専任の診療部長として赴任し,以後は内視鏡科(現 内視鏡医学講座)より専任医師が赴任している.ほかに消化器肝臓内科,外科,救急部の医師が検査を行っている.気管支鏡検査は呼吸器内科,呼吸器外科医が担当している.看護師,看護補助者,事務は外来部門所属となっている.

検査室レイアウト

 

 

 

当内視鏡室の特徴

内視鏡室は外来部門1階の奥まった場所に位置し病理部に隣接している.また,TV透視室や救命救急センターも同じ1階にあり1分程度でアクセス可能となっている.総面積は227平米で,受付,待合室,更衣室,洗浄室,検査室(4台),カンファレンス室などは同一スペース内にあるが,大腸前処置室は内視鏡室から10メートルほど離れた場所にある.手狭ではあるが,検査室を中心に洗浄室,リカバリー室,カンファレンス室などが無駄なく配置してあり,少ないマンパワーでも効率の良い検査が可能となっている.大腸前処置室は10名用の机椅子とトイレ4室が設置されているが,COVID-19対応により現在は7名に制限している.内視鏡部門システムは富士フイルムメディカル社NEXUSを導入し,すべての検査はNASに動画記録が可能となっている.動画記録は医療安全や教育指導の点から非常に有用である.意識下鎮静法は患者の希望や基礎疾患の有無,検査の侵襲度に応じて施行している.下部消化管内視鏡検査と治療内視鏡は全例で施行しており,通常の上部消化管内視鏡検査の鎮静率は約6割である.午前中に上部消化管内視鏡検査を行い,午後に下部消化管内視鏡検査と内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)などの治療内視鏡検査を行っている.バイタルが不安定な症例やハイリスク症例は,内視鏡室ではなく救命救急センターの初療室で救急部医師と協力し施行している.必要時は観血的動脈圧測定や気管挿管などの全身管理が迅速に行われるため,内視鏡医は検査に専念することができる.当院は東葛地域の休日・夜間緊急内視鏡当番制度(Gastrointestinal bleeding;GIB)ネットワークに参加しており,救命救急センターで内視鏡部医師や救急部医師が緊急内視鏡を行っている.

スタッフ

(2022年1月現在)

医 師:内視鏡部専任スタッフ4名,指導医3名,専門医6名(他科医師含む)

看護師:8名,看護補助員2名(外来部門所属)

事務員:2名(外来部門所属)

設備・備品

(2022年1月現在)

 

 

実績

(2019年4月~2020年3月)

 

 

指導体制・指導方針

内視鏡部は4名の専任内視鏡医がおり,消化器肝臓内科,外科,救急部医師やレジデント,研修医とともに内視鏡診療を行っている.すべての内視鏡診療を全員で行っているが,専門的検査や治療(超音波内視鏡検査(EUS),ESDや内視鏡的逆行性膵胆管造影法(ERCP)関連手技など)は,内視鏡部医師が指導し各科医師が各自の技量に応じて検査を行っている.初学者の指導教育は消化器系科や救急部の医師(入局予定者を含む)を対象とし,内視鏡部医師がマンツーマンで指導している.上部消化管内視鏡検査の1週間見学と基礎知識の取得,トレーニングモデルを用いた十分な反復練習後に,実際の臨床例で引き抜き観察から始め,最終的に検査全体を適切な時間内に完遂できるようにする.検査はすべて動画に保存し検査後に問題点や対処法を動画を見ながら指導している.主実施医症例100例以上かつ見学・介助(副実施医)症例を合わせて200例以上となった時点で指導医による技能試験を受ける.患者への態度,スコープの取り扱い,手技の習熟度,安全性の判断(自分の限界を理解し上級医を呼ぶことができる),病変の診断能や生検の精確度,内視鏡報告書の作成内容などを判定する.合格後はローリスク症例については上級医の立合いなく検査が可能となり,下部内視鏡検査の研修が始まる.ESDの研修は大腸内視鏡的粘膜切除術(EMR)100例以上の経験を有する卒後5年以上の消化器内科医を対象として,見学や処置具の介助から開始し型通りの研修を行っている.救急部レジデントは6カ月間の研修で,上下部内視鏡検査とEMR,止血術や異物除去などの緊急内視鏡検査,経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG:Percutaneous endoscopic gastrostomy)造設・交換が独力で可能になることを目標としている.

内視鏡部カンファレンスは週1回行い,内視鏡所見や病理診断の問題症例について検討し,今後の検査スケジュールや治療方針について電子カルテに記載し主治医へ連絡している.また,消化器肝臓内科とは随時,外科とは週1回のカンファレンスを行っている.ハイリスク症例の治療前には,主科主治医や診療部長,看護師,医療安全室も交えてハイリスクカンファレンスを行うこともある.

医療安全の点から,すべての内視鏡検査の開始と終了時には内視鏡医,看護師,患者が参加しタイムアウトを行っている.検査前には患者氏名,同意書,基礎疾患,薬剤アレルギー,抗血栓薬の内服,生検の可否を確認し,検査終了時には投与薬剤の総量と生検個数(ホルマリン瓶内の検体個数)を確認している.ESDやERCP関連手技,バルーン小腸内視鏡検査などでは予定手技時間を決め,1.5倍以上経過した時点で一度検査を止めてタイムアウトし,主実施医以外も交えて進捗状況と患者の状態を確認し検査を継続すべきか中止すべきか評価している.

現状の問題点と今後

柏病院は30年以上前に竣工しており,内視鏡室は当初内視鏡用として設計されていなかった.増田の優れたリフォーム設計のおかげで,狭いスペースを最大限効率的に運用し年間9,000件近くの検査を行ってきたが,近年は内視鏡室が個室化され患者のプライバシー・快適性に配慮した施設が増えており当内視鏡室の古さは否めない.大腸全処置室には車椅子対応の多目的トイレや十分な介助スペースがなく認知症患者の対応も難しい.今後はCOVID-19患者対応のために陰圧検査室も1室必要である.内視鏡部スタッフの献身的努力により設備面の欠点を運用で補ってきたが限界があり,病院長へ内視鏡室の拡張工事を申請中である.内視鏡機器は予算制限のため1~2世代前の旧式スコープを未だに使用せざるを得ない状況であり,検査精度管理の点からも新スコープ導入に注力している.

超高齢や複数の基礎疾患のために,内視鏡の手技リスクよりも全身状態のリスク管理が問題になる事例が多い.基礎疾患の主治医と協議して適切な治療目標を設定し,患者と家族に治療法,偶発症,患者固有のリスク,死亡リスク,他の治療法の選択,治療しない場合の予後などを十分に説明し,患者の希望・意見を踏まえて共有意思決定(SDM:Shared decision making)を行うことを心掛けている.

救急部医師を教育育成した結果,救命救急センターで救急部医師が夜間休日の緊急内視鏡検査を行うようになってきた.迅速な初期対応による患者の予後改善や安全性向上の面のみならず,内視鏡部,消化器肝臓内科医師の負担軽減や働き方改革の面からも好ましいことであり,今後も両部の協力を推進したいと考えている.

 
© 2022 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
feedback
Top