日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
最新文献紹介
潰瘍性大腸炎患者における抗インテグリンαvβ6自己抗体の同定
平岡 佐規子
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2022 年 64 巻 4 号 p. 1070

詳細
 

【背景と目的】潰瘍性大腸炎(Ulcerative colitis:UC)は世界的に罹患者数が増加している炎症性腸疾患である.UCの病因には自己免疫異常の関与が示唆されているが,特異的な自己抗原や自己抗体は未だ明らかではない.UCは上皮バリア機能障害など大腸上皮障害を特徴としていることより,UC患者は大腸上皮細胞の接着分子に対する自己抗体を持っている可能性がある.インテグリンはヘテロ二量体細胞表面タンパク質で,細胞-細胞外マトリックスの結合を仲介する細胞接着分子である.そこでインテグリンに注目し研究をすすめた.

【方法】スクリーニングとして,23種のリコンビナントインテグリン蛋白を用い,UC患者とコントロール群(クローン病/他の腸管疾患/膠原病患者/健常人)の血清中のインテグリン抗体をELISAで測定した.さらに,UC患者とコントロール群の大腸粘膜組織におけるインテグリンの発現とIgG結合をそれぞれ免疫蛍光染色法と共免疫沈降法で検討した.自己抗体のブロッキング活性は,固相結合および細胞接着アッセイを用いて検討された.

【結果】スクリーニング検査ではインテグリンαvβ3とαvβ6に対する抗体がUC患者に多く検出された.今回は上皮のみに発現するインテグリンαvβ6に注目し,更に研究をすすめた.UC患者ではコントロール群と比較して高率にインテグリンαvβ6に対するIgG抗体を有しており(103/112(92.0%)vs. 8/155(5.2%),p<0.001),UC診断の感度は92.0%,特異度は94.8%であった.また,抗インテグリンαvβ6抗体価はUCの疾患活動性と一致し,UC患者のIgGは,大腸上皮細胞に発現するインテグリンαvβ6に結合した.さらに,UC患者の抗インテグリンαvβ6抗体は,RGD(Arg-Gly-Asp)トリペプチドモチーフを介してインテグリンαvβ6-フィブロネクチン結合を阻害し,細胞接着を阻害することがわかった.

【結論】潰瘍性大腸炎患者は高率にインテグリンαvβ6に対する自己抗体を有しており,診断用バイオマーカーとして期待される.

《解説》

UC関連の自己抗体としてProteinase 3-antineutrophil cytoplasmic antibody(PR3-ANCA)などが挙げられるが,PR3-ANCAはANCA関連血管炎の自己抗体であり,UC患者での陽性率は高い報告で6割程度である 2.今回のUCに対するインテグリンαvβ6自己抗体は,92%の陽性率であり,診断の特異度も高く,さらに大腸粘膜局所への関与も証明されている.本研究は単施設での検討であり,今後,国内多施設,さらに他人種患者での検証が必要ではあるが,UCの診断バイオマーカーの有力候補であることは間違いなく,将来UCはインテグリンαvβ6抗体を有する腸炎という認識になる可能性もある.

インテグリンαvβ6は上皮障害後の修復時に誘導され,上皮のバリア機能や粘膜修復に関連した重要な役割を担っているとの報告がある 3.よって,この自己抗体が存在することは粘膜修復に悪影響を及ぼす可能性がある.さらにこの自己抗体が補体を介した上皮障害を誘発する可能性も考察されている.今後の更なる研究によりこの自己抗体がUCの病態とどのような関連があるか,解明されることを期待する.

文 献
 
© 2022 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
feedback
Top