日本消化器内視鏡学会雑誌
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急性骨髄単球性白血病の大腸浸潤の1例
岩田 朋之 中島 謙三澤 綾子
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2022 年 64 巻 5 号 p. 1138-1139

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症例

70歳代女性.高血圧,脂質代謝異常症に対して他院通院中.約10日前から発熱,上腹部痛,嘔気,下痢が出現し,当院に入院となった.骨髄穿刺を行い急性骨髄性白血病(acute myelogenous leukemia:AML)(M4)と診断された(Figure 1).入院後すぐに化学療法が開始となるも,第4病日に便潜血と食欲不振を認め当科紹介となった.第7病日に大腸内視鏡検査(Colonoscopy:CS)を行った.盲腸から上行結腸に5~10mm大の浅い不整形潰瘍が多発していた(Figure 2).盲腸病変から生検を行うと粘膜下層中心にびまん性に幼若な血球系の腫瘍細胞の浸潤を認めた.免疫染色ではミエロペルオキシダーゼ染色陽性,リゾチーム陽性であり白血病細胞の盲腸浸潤と診断した(Figure 3).第46病日に下血が繰り返されたため再度CSを施行すると,盲腸の潰瘍は増大・癒合し,辺縁は浮腫が強くなっていた(Figure 4).

Figure 1 

骨髄生検(HE染色;×1,000).

有核細胞の50%程度に幼若な異型細胞を認め急性骨髄性白血病(M4)と診断した.

Figure 2 

大腸内視鏡検査:盲腸(通常光).

左側にある虫垂開口部のやや右側に約5mm台の発赤調の2個の潰瘍性病変を認めた.

Figure 3 

盲腸(左)(HE染色;×1,000),盲腸(右)(免疫染色リゾチーム;×1,000)病理組織検査.

粘膜下層を中心に幼若な血球系の腫瘍細胞の浸潤を認め,免疫染色リゾチーム陽性であり白血病細胞の盲腸浸潤と診断した.

Figure 4 

大腸内視鏡検査:盲腸(通常光).

第46病日の同部位の画像である.骨髄生検で化学療法が効果なく病状進行が確認されていたが,内視鏡でも潰瘍は増大し,易出血傾向が強く周堤が癒合傾向していることが確認された.

考察

白血病における腸管浸潤の報告は成人T細胞白血病リンパ腫を除くと極めて少なく,画像診断で遭遇することは極めて稀である 1.一方,白血病患者の剖検例の検討では,消化管病変の合併は14.8-25%に認め,AMLにしぼると13.0%と報告されている 2.少数例のAMLの剖検例における消化管浸潤の部位別頻度の報告では食道9%,胃11%,大腸15%と報告されている 3ことからどの臓器にも浸潤を来すことが予想される.これは,単球系の形質を持つAML(FAB分類のM4やM5)では,単球系細胞が白血化した後も形態的,機能的に遊走しやすく,血管外に遊走した後にも,局所で分裂する能力があるためとされている.そのためM4やM5のAMLでは歯肉出血や皮膚浸潤が多いと報告されている 4

白血病細胞の消化管浸潤の本邦報告例では2003年までに24例35病変が報告されており,白血病の病型では,慢性リンパ性白血病が13例,慢性骨髄性白血病5例,急性リンパ性白血病3例,急性骨髄単球性白血病(acute myelomonocytic leukemia:AMMoL)は2例,AML1例であった.この中で本症例と同病型のAMMoLの消化管浸潤部位は,どちらも小腸の腫瘤形成として報告されていた 1.また,海外文献では2000年代に入ってからAMLの腸管浸潤はわずか2例の報告しか確認できなかった 5),6.AMLでは骨髄芽球ないし未熟骨髄細胞が髄外に腫瘍を形成する骨髄性肉腫を消化管に形成することがある 7が,本症例では過去の報告とは肉眼形態が異なっていた.また,Prollaらは白血病細胞の消化管浸潤について浸潤形態から①平盤状変化,②小結節様変化,③ポリープ状隆起,④脳回転様皺壁腫大の4型で,①型~③型が多いとしている 8が,本症例では潰瘍性病変で経時的変化を観察できた稀な症例と考えられた.

謝 辞

本報告にあたり,東京北医療センター病理診断科天野与稔先生および血液内科平井理泉先生に深謝致します.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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