免疫チェックポイント阻害剤(immune checkpoint inhibitor:ICI)は腫瘍細胞に対する免疫反応を活性化することにより抗腫瘍効果を発揮するものであるが,様々な免疫関連有害事象(immune-related adverse event:irAE)を誘発することが知られている.腸炎は抗CTLA-4抗体によるirAEの中でも頻度が高く,免疫チェックポイント阻害剤同士との併用や他の抗腫瘍薬(殺細胞性抗がん剤,分子標的薬)で頻度や病態が変化するため注意の必要なirAEのひとつとして知られており本項ではこれまでの知見をまとめ概説する.
膵癌の高リスク群として,家族歴に膵癌家族歴や家族性膵癌が,遺伝疾患の中に,遺伝性膵炎,遺伝性膵癌症候群があげられる.家族性膵癌家系は第一度近親者内に2人(一対)以上の膵癌患者がいる家系と定義されている.これら,リスクを有する個人に対して,膵癌を早期に発見するサーベイランスが世界的に取り組まれている.特に米国を中心としたCancer of the Pancreas Screening(CAPS)ではEUS,MRIを主軸としたサーベイランスの方針であり,世界的にも同様の方法が多く,様々な有用性の報告がなされている.
日本においてもエキスパート・コンセンサスによるステートメントが出され,また多施設前向き介入研究も開始されている.
【背景・目的】下部直腸癌に対する手術では肛門側断端距離(DM, distal margin)の確保が重要である.術前内視鏡検査において,腫瘍下縁から肛門側方向へ延びる柱状の粘膜隆起(柱状隆起)がしばしば認められる.今回,DMの確保に柱状隆起を考慮すべきか検討した.
【方法】下部直腸癌94例を対象とし,柱状隆起と腫瘍の肛門側壁内進展との関係について評価した.
【結果】柱状隆起を10.6%に認めた.柱状隆起陽性例の60.0%に腫瘍の肛門側壁内進展を認め,陰性例(9.5%)と比較し有意に高率であった(P=0.0006).一方,柱状隆起の長さと壁内進展距離とは一致せず,柱状隆起陽性例の壁内進展距離(平均4.9mm)は陰性例(同6.4mm)と比較して短かった.
【結論】下部直腸癌における柱状隆起は腫瘍の直接浸潤そのものを示す所見ではなく,柱状隆起が存在してもガイドライン通りのDM確保で根治性は損なわれないと考えられた.
症例は62歳男性.前医にて検診目的に上部消化管内視鏡を施行され,中部胸部食道に6mm大の隆起を伴う平坦病変を指摘された.Squamous cell carcinomaの病理診断で,精査加療目的に当科紹介となった.精査から35日後に治療目的を前提に内視鏡検査を施行したところ,腫瘍は20mm大に増大していた.内視鏡的粘膜下層剝離術で一括切除したところ,病理所見はcacinosarcomaの診断であった.1カ月という短い期間で著明に増大した食道癌肉腫の1例を経験した.小径で食道癌肉腫が発見されることはまれであるが,白苔で覆われる食道隆起病変で平坦病変が付随するような場合には本疾患を鑑別に挙げる必要がある.
症例は55歳,男性.黒色便と労作時の動悸を主訴に受診し精査の結果,長径22mmの出血性十二指腸脂肪腫と診断した.内視鏡医と外科医が合同で透視下超音波内視鏡検査を行い,ESDが可能な病変であること・腹腔鏡による補強が可能な局在であることを確認し,十二指腸-腹腔鏡内視鏡合同手術(laparoscopy and endoscopy cooperative surgery for duodenal tumor:D-LECS)の方針とした.手術手技としては,外科術者が腹腔鏡操作で十二指腸周囲の剝離・授動を十分に行い,内視鏡術者がESDで脂肪腫を切除したのちに,潰瘍部より外側の漿膜筋層を縫合した.この手技により,狭窄の予防と遅発性穿孔のリスクを軽減することができると考えられるが,治療方針の決定には内科外科間における術前のコンセンサスの共有が重要と考えられる.
症例は53歳の男性.S状結腸憩室炎によるS状結腸膀胱瘻に対してS状結腸切除術及び一時的な双孔式回腸人工肛門造設術を施行した.術後5カ月に人工肛門閉鎖を考慮した下部内視鏡検査にて吻合部に完全閉塞を認めた.手術も考慮したが,侵襲が低い内視鏡治療を選択し,双方向的(経肛門及び経人工肛門)アプローチによる内視鏡的切開・拡張術を施行し腸管穿孔すること無く再疎通が得られ,その後回腸人工肛門閉鎖術を施行した.吻合部完全閉塞に対して双方向的アプローチによる内視鏡的切開・拡張術は低侵襲かつ有効な治療法と考えられた.
症例は,55歳男性,左上腹部痛を主訴に紹介受診となった.血清CA19-9などの腫瘍マーカーの上昇を認め,CT検査で膵尾部,脾門部近傍に60mm大の腫瘤性病変を認めた.病理診断目的にEUS-FNAを施行した.EUS-FNA後に腫瘤内感染・腫瘤穿破を認め,経皮的膿瘍ドレナージを行った.EUS-FNAで確定診断に至らず悪性病変を否定できなかったため,その後外科的切除を行い膵リンパ上皮囊胞(lymphoepithelial cyst:LEC)と診断した.膵囊胞性病変に対する穿刺の偶発症につき中心に報告する.
症例は57歳女性.他院で大腸内視鏡検査中に,スライディングチューブが腸管内に滑入し,回収困難となった.当院へ搬送され,精査にて下行結腸脾彎曲部まで滑入したチューブを認めた.透視下に内視鏡とイレウス管,スライディングチューブをもう1本用いることで,滑入したチューブの回収に成功した.治療翌日より食事を開始し,治療2日後に退院した.下行結腸に滑入したスライディングチューブを内視鏡的に回収するには,単純に牽引して回収することは困難で,いくつかの工夫が必要であり,その経験を報告する.
Red Dichromatic Imaging(RDI)は3種類の特定の波長光を照射し,コントラストを形成する新規画像強調内視鏡(Image-enhanced endoscopy:IEE)である.光の強調処理の違いにより3種類のmodeに分けられ,各modeの特性に応じた効果が期待される.大腸ESDではmode1とmode2を状況に応じて使用する.RDIの効果としては,①深部組織の視認性を向上する,②動静脈の鑑別を容易にする,③出血時の迅速な止血を可能にする,④脂肪によるレンズの曇りを改善する,などが挙げられる.術者はRDIの特性を十分に理解し,状況に応じて使用することが望ましい.
小児に対する胆膵内視鏡は技術的難易度が高く,重篤な偶発症リスクも高い.頻度が低く専門家も少ないために施行体制が構築されていない施設も多いと考えられる.また,専用の内視鏡,治療デバイスがないことも問題である.当科では,比較的多数の症例を定期的に治療している.その際には成人用のスコープ,デバイスを使用し,小児科・小児外科のサポートにより鎮静下で施行している.また,全身麻酔の際にも院内の連携によりスムースに手術室が使用できる体制も構築している.今回は治療内容の説明と同意,麻酔,実際の手技,などについて解説し,われわれが取り組んでいる院内連携について紹介する.また,小児においては身体面のみならず精神面においても成人以上に配慮する必要があり,実際に注意している点についても言及する.
【目的】超音波内視鏡下生検(Endoscopic ultrasound-guided fine-needle biopsy:EUS-FNB)は細い針を用いるため,組織学的エビデンスがサンプル内に含まれているか否かが不明瞭である.われわれは標的検体確認照明器(Target sample check illuminator:TSCI)の有用性を多施設共同前向き試験にて確認した.
【方法】われわれは,52例の症例を登録した.採取されたEUS-FNBサンプルは,通常法(通常光による目視確認)およびTSCI法(TSCIを用いた目視確認)を用いてサンプル内に標的検体が存在するか否かを評価した後,病理組織学的診断を行った.通常法とTSCI法における標的検体有無の病理学的診断との一致率および診断能に対し個別に評価した.
【結果】通常法とTSCI法によるサンプル内への標的検体有無の一致率に関しては,(ⅰ)全症例で感度51.0%(25/49) vs 95.9%(47/49)(P=0.001),特異度100%(3/3) vs 66.7%(2/3),陽性的中率100%(25/25) vs 97.9%(47/48),陰性的中率11.1%(3/27) vs 50.0%(2/4)(P=0.002);(ⅱ)膵腫瘤で感度28.0%(7/25) vs 96.0%(24/25)(P<0.001),特異度100%(2/2) vs 100%(2/2),陽性的中率100%(7/7) vs 100%(24/24),陰性的中率10.0%(2/20) vs 66.7%(2/3)(P<0.001)で,TSCI法は通常法に比較して感度および陰性的中率において有意に良好であった.(ⅲ)リンパ節腫瘤においては感度75.0%(18/24) vs 95.8%(23/24)(P=0.025),特異度100%(1/1) vs 0%(0/1),陽性的中率100%(18/18) vs 95.8%(23/24),陰性的中率14.3%(1/7) vs 0%(0/1)であった.
【結語】TSCI法は膵腫瘤におけるEUS-FNBの感度,陰性的中率,正診率を改善した.EUS-FNB施行時に迅速細胞診が困難で,採取されたサンプルが微量である場合,TSCI法は非常に有用である(標的検体確認照明器の有用性に対する多施設共同試験,Clinical Trial ID:UMIN000023349).
【背景と目的】消化管早期癌への内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)の有効性は確立されているものの,欧米からの多施設集約データは未だ少ない.今回ドイツにおける多施設前向きESDレジストリーを用いてその有効性を評価した.
【方法】参加20施設,観察期間延べ35カ月,腫瘍性病変1,000件へ施行されたESDを解析した.一括切除,根治切除,再発率(12カ月以内)を主要評価項目とし,参加施設の症例数に応じた評価を行い,非根治切除に相関する危険因子を多変量解析で評価した.
【結果】一括切除,根治切除,再発率はそれぞれ92.4%,72.3%,2.1%であり,合併症発症は8.3%であった.すべての評価項目において,症例数の多い(年間51件以上施行)施設はそれ以外と比べて正の相関関係が認められた.病変の大きさ,T1b病変,年齢,ハイブリッドESDの施行,施設の症例数(年間50件以下)が非根治切除に相関する危険因子であった.
【結論】ドイツで施行されたESDは良好な一括切除率が得られたが根治切除率向上には未だに改良の余地があり,高い技術精度の必要性と病院間による結果の差が示された.