2022 年 64 巻 6 号 p. 1249-1250
患者:30歳代,女性.
主訴:血便.
既往歴:なし.
現病歴:1年前に便秘を主訴に施行した大腸内視鏡でS状結腸にひだの引きつれを伴う粘膜下隆起を認めた(Figure 1-a).生検病理では非特異的炎症であり,経過観察としたが,今回血便を主訴に当院受診となった.
大腸内視鏡所見.
a:S状結腸にひだの引きつれを伴う粘膜下隆起を認めた(白丸).
b:同部位に腫瘤形成性病変を認めた.
大腸内視鏡所見:S状結腸に40mm大の腫瘤形成性病変を認めた.病変は発赤調で八つ頭状の凹凸不整を呈していた(Figure 1-b).
病理組織学的所見:子宮内膜様の腺管と間質からなる組織が認められた(Figure 2-a).免疫染色では腺管,間質細胞にエストロゲン受容体が陽性であった(Figure 2-b).
病理組織学的所見.
a:子宮内膜様の腺管と間質からなる組織を認めた(HE染色,100倍).
b:免疫染色では腺管,間質細胞にエストロゲン受容体が陽性であった(ER染色,100倍).
腹部MRI所見:S状結腸にT1強調画像で低信号,T2強調画像でわずかに高信号を示す境界明瞭な腫瘤性病変を認めた.
経過:以上より腸管子宮内膜症と診断した.腸管閉塞症状がないため手術療法は施行せずに,薬物療法を選択し,プロゲステロン製剤内服を開始した.
子宮内膜症は子宮内腔以外で子宮内膜組織が異所性増殖する非腫瘍性疾患の総称で,閉経前女性の約10%に認められる.腸管子宮内膜症は全子宮内膜症の約10%を占め,腸管での発生頻度は直腸,S状結腸が多い 1).異所性の子宮内膜組織が腸管内に侵入して増殖するため,腹痛,出血,便秘,狭窄などの非特異的な消化器症状を引き起こす 2).形態は子宮内膜組織が早期に粘膜下に達し増殖する,腫瘤形成主体のendometrioma型と子宮内膜組織が漿膜側で増殖し,壁内に出血や消退を繰り返し壁の線維化を引き起こす,狭窄症状主体のdiffuse endometriosis型に分類される 3).病変の主座は漿膜から固有筋層であるため,大腸内視鏡においてはendometrioma型では粘膜下腫瘍の形態をとることが多い.粘膜面に隆起,びらん,発赤などの肉眼的形態変化を生じるのは子宮内膜組織が粘膜下層から粘膜に進展してから生じうる所見であり,腸管子宮内膜症の13%程度である 3).そのため,生検病理での診断率は腸管子宮内膜症全体で9%と低く,外科的切除により診断される症例が多い 4).月経時には粘膜表面に発赤,びらんが出現するため,この時期に生検を施行するとよいとの報告や,超音波内視鏡ガイド下穿刺吸引による診断率が40%であったとする報告もあり,今後の診断率向上の一助となる可能性がある 3),5).
今回,粘膜下病変から腫瘤形成性病変へと進展したことにより生検にて確定診断がついた1例を経験した.腫瘤形成性病変を呈する腸管子宮内膜症は極めて稀であり,腸管子宮内膜症の進展様式を捉えることができたのでここに報告する.腸管子宮内膜症は様々な大腸内視鏡所見を呈するので,閉経前女性の消化管病変では,腸管子宮内膜症を鑑別診断として考慮することが必要であると考えられた.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし