日本消化器内視鏡学会雑誌
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総説
浸水法を用いた大腸内視鏡検査の開発と応用
水上 健 杉本 真也
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2023 年 65 巻 1 号 p. 19-28

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要旨

ループ形成や屈曲を招きやすいS状結腸は大腸内視鏡の挿入困難部位とされる.初学者では過送気によってS状結腸を拡張させてしまい,軸保持短縮法を用いても挿入困難となることがある.日本で開発された注水法では,少量の水の注入により短縮直線化が容易となるメリットがある.注水法に直腸S状結腸部での脱気を追加して改良した浸水法では,水と空気の境界面が解消され,視野の改善が得られた.初学者でも修得しやすく,ループ形成抑制による盲腸到達率の向上,患者の苦痛軽減が示されている.また,S状結腸軸捻転解除,過敏性腸症候群や腸管形態異常の評価などにも応用されている.欧米にも浸水法は普及し,腺腫発見率の向上につながるWater Exchangeや,内視鏡挿入手法に留まらず治療時に活用する浸水下内視鏡的粘膜切除術へと応用されている.浸水の特性を生かし,送気法における困難を克服する注水関連手技は,今後ますます普及することが期待される.

Abstract

The sigmoid colon tends to form loops and bends easily and is therefore considered a difficult site for colonoscope insertion. Inexperienced trainees may accidentally dilate the sigmoid colon following excessive air insufflation, and colonoscope insertion is challenging in such cases even with the use of the axis-retaining shortening method. The water infusion method developed in Japan involves injection of a small amount of water, which facilitates shortening and straightening. The collapse-submergence method, which includes a combination of degassing at the sigmoid colon and the water infusion method, is an improved technique that eliminates the water-air interface to provide a better field of view. The water immersion method can be easily learned even by trainees and is shown to improve the cecal intubation rate and suppress loop formation, which minimizes patient discomfort. This method is also utilized to perform detorsion of sigmoid volvulus and evaluation of irritable bowel syndrome and intestinal morphological abnormalities. Water-aided colonoscopy is popular in the U.S. and Europe, and studies have reported improved adenoma detection rates using “water exchange.” This innovative method is not only useful for endoscope insertion but also aids with underwater endoscopic mucosal resection. Water infusion-related techniques put to advantage the characteristics of water and overcome the limitations encountered with air insufflation methods and are expected to become increasingly popular in the future.

Ⅰ はじめに

近年の内視鏡技術の進歩により,その印象は変化しつつあるが,大腸内視鏡検査は患者側には苦痛が強く,術者側には労力を強いることの多い検査である.上部消化管内視鏡検査と異なり,1分間で全く苦痛なく盲腸に到達する症例がある一方で,1時間近くを要して強い苦痛を与えながらも盲腸に到達しない症例があるなど,年齢,性別,開腹術既往,便秘の有無などが要因 1とされる挿入難易度の著しい差がみられる.大腸内視鏡挿入に求められるのは安全性であり,苦痛が少なく短時間で盲腸に到達し,目的である観察に十分な時間を確保することが重要である.検査自体を容易にし,かつ苦痛を軽減するために,原理の異なる種々の挿入法の開発が試みられ報告されてきたが,それぞれに適した症例,機材,施設環境,医師の嗜好と得手不得手がある.本稿では,われわれが改良を重ねてきた浸水法の原理や開発経緯とともに,近年治療へも応用されている注水関連手技について概説する.

Ⅱ 大腸内視鏡検査を取り巻く問題

検査の難易を決定する因子として,患者側要因と術者側要因がある.患者側にはS状結腸過長症や総腸間膜症,多発憩室などの腸管形態(Figure 1),鎮痙剤で抑制できない腸管運動 2,前処置不良という3つの要因,術者側には巧緻性,挿入法,機材,麻酔を含めた前投薬という4つの要因が主に挙げられる.

Figure 1 

大腸内視鏡検査を困難にする要因としての腸管形態異常.

スコープ挿入が容易(盲腸到達時間2分)な腸管形態異常のない症例(a)と結腸長240cmで挿入困難(盲腸到達時間40分)であった症例(b)のCT colonography.

検査の挿入に関する主要な評価項目として患者の苦痛と盲腸到達時間の2つがある.容易な症例であれば,初心者で操作が適切でなくても苦痛なく短時間で挿入されてしまう.巧緻性に優れていれば,多少の難易や挿入法に関わらず苦痛なく短時間で挿入されてしまう.麻酔は一定のリスクがあるが,苦痛への配慮を軽減し,時間短縮が図れる.適切な機材選択は検査時間短縮や患者の苦痛軽減に貢献する.挿入法は巧緻性を補完するが,医師の挿入法に対する嗜好や得手不得手も存在する.挿入法の優劣を評価するにはすべての条件を揃える必要があるが,実際には非常に困難である.

Ⅲ 患者の苦痛と麻酔

初学者は内視鏡挿入時に患者の苦痛を招きやすく,非鎮静下では指導医が十分なアドバイスを行えずに患者の不安も増長される.緊急検査であれば多少の苦痛は認容されるものの,健診など待機検査では苦痛は認容されず,施設の評価にも関わる.麻酔は安全性に配慮して適正に行われれば,苦痛への配慮を軽減でき,研修や施設の評判に良い影響がある.

しかし一方で,苦痛は腸管穿孔や腸間膜破断のリスクを知らせるアラームサインでもあり,腸管へのストレスの限界を知らない医師が麻酔で苦痛をマスクすることは安全とはいえない.大腸内視鏡は挿入時に腸管や腸間膜を伸展させなければ苦痛は起きないことを認識すべきである.麻酔を行う上で,対象患者や施設特性を考慮したベネフィットとともに,麻酔や検査におけるリスクを十分に考慮する必要がある.浸水法は初学者を対象としたため,そのような観点から「無麻酔での自制内腹痛」を初学者が熟練者と交代せずに内視鏡操作を継続する原則と考えている.

Ⅳ 挿入困難部位とその対策:「ループ法」と「軸保持短縮法」

挿入法の理想は「より多くの患者で苦痛が少なく,安全かつ短時間で盲腸に到達可能」であることだが,既報の挿入法それぞれに得手不得手がある.まず挙げられる挿入困難部位は,短い2点間を相対的に長い結腸が接続するS状結腸である.その対策として,大きく分けるとS状結腸をスムーズなループにして通過した後に短縮する「ループ法 3」と,S状結腸のらせん構造を用いて短縮しながら挿入するShinya method 4から始まり工藤が完成させた「軸保持短縮法 5」の2つがある.「ループ法」はシンプルで習得や挿入時間が短い傾向にあるが,ループを作るためS状結腸を伸ばし苦痛面で不利なことがある.「軸保持短縮法」は操作がやや複雑で習得や挿入に時間を要するが,S状結腸をスコープにより伸展させないので苦痛は少ない.現在は軸保持短縮法が主流だが,S状結腸が長く伸展しやすい症例ではループを形成することが多く,「ループ法」でも機材により苦痛を軽減できる 6.検査対象や機材,医療機関の特性によって状況が異なるが,指導環境や麻酔管理が十分ではない施設ではS状結腸を伸ばさず苦痛が少ない「軸保持短縮法」が適する.浸水法 7はS状結腸の容積を抑制して短縮しながら挿入するため,「軸保持短縮法」を容易にする方法として位置付けられる.

Ⅴ 注入媒体による違い:送気法と注水法

送気や注水の目的は内視鏡先進部の管腔を拡張させて視野を確保することである.現状の内視鏡挿入法では左側臥位による検査開始が基本であるため,S状結腸を通過するにはスコープは下方向へ移動することとなる.S状結腸でガス(空気もしくはCO2)を注入すると体の上方,すなわち進行方向と逆に貯留する.肛門側が十分拡張して初めて内視鏡の口端が拡張するため,多くの送気量を要する.初学者では,送気の制御ができずにS状結腸を拡張させ過ぎて屈曲やループ形成を招き,挿入が難しくなる悪循環に陥りがちである.

一方,注水では体の下方,すなわち進行方向である内視鏡先進部に水が貯留するため自ずと注水量は少なく制限される.送気下では粘膜同士が表面張力で密着するため,管腔の視野確保には粘膜同士の距離を保つための十分な送気が必要となるが,水中では粘膜同士が密着しないため管腔の視野確保に必要な注水量は少なく済む.少量の注水で十分で自ずと制限されるため,初学者でもS状結腸を伸展させにくいというアドバンテージを有する.これは酒井の「注水法 8」や関岡らの「サブマリン法 9」のエッセンスである(Figure 2).

Figure 2 

S状結腸における送気と注水による視野確保の差異の概念図.

送気ではガスが上方に浮上して送気量が増え,腸管が拡張伸展する.

注水では水が下位に留まるため少量で済み,腸管が拡張伸展しない.

Ⅵ 注水法のデメリットとその解決策としての浸水法

水の屈曲率(1.333)により注水法では内視鏡の画角が狭まり,また,水とガスの境界面は視界を遮る.さらに,前処置が不十分な状況下では残渣が撹拌されて視野が悪化する.これらのデメリットの解決のため「直腸S状結腸のガスを完全に吸引する」手技を追加したのが浸水法 7である.ガスを完全に吸引すれば境界面は消失し,サイホンの原理で水が下行結腸に流出して,S状結腸が自ずと短縮する(Figure 3).直腸を透明な水で満たして挿入を開始すれば,透明な水が内視鏡と共に進行してS状結腸ではクリアな視野を保つことができる.

Figure 3 

S状結腸における注水と脱気を組み合わせた浸水法の概念図.

注水のみ(a):直腸S状結腸部にガスが残存するとガスが水の流出を妨げる.

注水と脱気(b):直腸S状結腸部で脱気するとサイホンの原理で水が下行結腸に流出する.

前処置ができない場合,特に大量出血などで直腸を洗浄しきれない場合は浸水法の限界である.また,下行結腸より口側は体の下方向への移動がないため浸水法としてのメリットは活用できない.浸水法のオリジナリティーは「直腸S状結腸のガスを完全に吸引する」ことであり 7,体の上方から下方の方向へと挿入する際のS状結腸通過法であるといえる.

浸水法の開発契機は,筆者が巧緻性や研修機会に恵まれず苦痛がない検査を実現できなかったことにある.2000年頃よりサブマリン法を使用し,現在の浸水法に近い直腸S状結腸の脱気を含めた先端キャップを用いるサブマリン法を2003年の第65回日本消化器内視鏡学会総会で発表したのが起源である.浸水法は筆者同様に巧緻性や研修機会に恵まれず,挿入法の習得に難渋している医療者に向けたもので,感覚的な操作を極力排除し,操作の自由度を高いものを目標として開発した.

1.前投薬

光島らはSimple total colonoscopy 6として無麻酔大腸内視鏡を提唱した.筆者自身も光島の無麻酔検査を被検者として経験し,適切に施行されれば痛みどころか違和感すらないことを実感した.どこまでの腸管ストレスが穿孔や腸間膜の断裂を起こすのか初学者には把握できないことから,苦痛というアラームサインをマスクしないために鎮痛剤や鎮静剤は使用せず,鎮痙剤のみを投与して検査を行える手法開発を目指した.

2.先端キャップ

少量の注入で管腔の視野を確保する注水では自ずとクリアランスが狭くなる.内視鏡先端キャップは限られたクリアランスの中,結腸ひだから進行方向を把握する上で有用である 10.開発当初は合焦距離2mmを確保するリユースのラバーキャップを使用したが 7,種類を問わず使用可能である.

3.注水と脱気

スコープを挿肛後,50mlシリンジを用いて直腸内に100ml注水する(Figure 4).視野が確保できない場合は50mlシリンジで適宜注水を追加する.水を利用して直腸S状結腸部で完全に脱気を行うと,視野を阻害する境界面が消失するとともにサイホンの原理で水は下行結腸方向へと流出する 7.内視鏡先進部に水が貯留するため注水量は自ずと制限されるが,過剰に注水しても残渣を含めて下行結腸で容易に回収できるため,注水量の自由度は高い.挿入時の総注水量は,筆者では234±19mL(mean±SD;n=11)であり,1分間(中モード)で1,600mlが注入される送気と比較すると著しく抑制される.標準装備の機種が増えているwater jetシステムでは,より利便性が高くなり,総注水量も112±47.7ml(mean±SD;n=17)とシリンジに比して有意に注水量が抑制された 11

Figure 4 

挿入手順.

直腸で約100ml注水後,水を利用して脱気する.S状結腸のらせんに合わせて捻りこむと短縮して挿入される.

4.内視鏡操作:軸保持短縮

浸水法では,経験を要する送気コントロールが自由度の高い注水に置き換わり,挿入困難の原因となるS状結腸容積の増加が抑制されるため,軸保持短縮操作とその維持が容易となる.軸保持短縮法の定石通り,S状結腸のらせん構造を推測して内視鏡を捻りこむと「コルク抜きがコルクに食い込む」ようにループを作らず下行結腸まで直線的に挿入される.送気法との最大の差異は注入量が少なく,クリアランスが小さいことであり,「行き止まりを捻りこむ」ことで挿入されていく.内視鏡画面では「らせん階段の裏面を見上げながら登る」ような視野となり,結腸ひだの弦のある方向に画像が滑るように挿入される.画像を滑らせるような挿入にはクリアランス確保のため先端キャップの装着が極めて重要である 7

Ⅶ S状結腸軸捻転解除への応用

S状結腸軸捻転の症例の多くはS状結腸のらせん構造に問題があることが多い.捻転部位より肛門側の便は排出されており,残渣が残ることは少ないため,浸水法を行う障害とはなりにくい.100ml程度注水した後,S状結腸のらせんに合わせて捻り挿入すると容易に捻転部位を通過でき,捻転部口側の減圧を行い直線化するだけで捻転解除することができる.送気法と異なり,挿入時の過送気で捻転部口側を拡張させるリスクもない.安全に施行可能であり,浸水法を用いた軸捻転解除の有用性を報告している 12

Ⅷ 機能性腸疾患の浸水法を用いた評価と活用

慢性便秘症や過敏性腸症候群は大腸内視鏡挿入困難例で,苦痛が強いことが多いとされる 1),13

成人過敏性腸症候群患者184名に浸水法で無麻酔大腸内視鏡検査とCTコロノグラフィーを同日に施行して評価した結果,鎮痙剤で抑制されない腸管運動異常が28.8%,S状結腸回転異常などの腸管形態異常が77.7%に認められた.下痢型では腸管運動異常,混合型・便秘型は腸管形態異常が多く(Figure 5),結果として盲腸到達時間は12.1±6.9分と無症状者49名の4.6±1.9分に比して有意に延長した 2.鎮痙剤で抑制されない腸管運動異常や腸管形態異常は大腸内視鏡挿入困難や苦痛の一因であり,排便障害の原因ともなりうる.機能性腸疾患の大腸内視鏡検査は炎症や腫瘍などの器質的疾患は存在せず異常なしとされるが,腸管運動や腸管形態により挿入が困難であること自体が病態を示唆しており,機能性腸疾患の評価としての意味をもつ.浸水法による無麻酔大腸内視鏡では,鎮静剤では抑制されてしまう腸蠕動を観察できる点,また,水の重力により浸水下で腸管の空間的な認識が可能であるという点で,有用である.すなわち,送気をしない浸水法では,S状結腸においてガスが貯留して拡張した腸管が確認されることはS状結腸回転異常の存在を示唆し,脱気した後の浸水下では本来水のみが存在することになる下行結腸においてガスが確認されることは下行結腸の蛇行が存在するといった形態異常の存在認識につながる.このように,浸水法を用いた大腸内視鏡検査は,過敏性腸症候群における器質的疾患の除外と併せて,病態評価とそれに応じた治療選択に貢献しうるものである 14

Figure 5 

過敏性腸症候群の所見.

腸管運動異常(a):下痢型,40代男性.挿入時は緊張で強い収縮性の蠕動がみられる.抜去時は安心により緊張が解かれ,蠕動が速やかに消失する.

腸管形態異常(b):便秘型,10代女性.大腸内視鏡検査同日に施行したCTコロノグラフィーの所見.S状結腸下行結腸接合部は小骨盤内に下垂し,S状結腸はループ形成して拡張している(盲腸到達時間15分).

Ⅸ 浸水法の海外展開とその後

このように日本で独自の発展を遂げてきた注水法,浸水法であるが,Mizukamiらの浸水法が2007年にDigestive Endoscopyに掲載後,2007年4月にスタンフォード大学のSoetiknoからビデオ指導の依頼があり,その後,同グループが従来法と比較した229名対象のRCTで初学者の時間短縮・鎮静剤の削減と患者の苦痛軽減について報告した 15.同グループのLeungらが2010年4月にカリフォルニア州サクラメントで開催したColorectal Cancer Symposiumで行ったMizukamiによる招待講演と浸水法の教育法の論文報告 16は,アメリカで浸水法が普及しはじめる契機となった.LeungらはRCTを積極的に行い,深鎮静での内視鏡検査が一般的であるアメリカにおいても,浸水法によってオンデマンドの鎮静で検査施行可能であることを報告し,その有用性が欧米でも認識されることとなった 17.日本でもAsaiらが1,000例を対象とした従来の送気法,キャップ法と比較するRCTでS状結腸通過におけるループ形成抑制への浸水法の有用性を報告している 18

浸水法の海外展開とともに,英語名の問題,また変法の出現による定義上の問題が生じることとなった.浸水法は発表時にcollapse-submergence method,その後water navigation colonoscopyと名前を変えたが,2015年にInternational WATERS(Water-Aided Techniques in Endoscopy and Research Society)が発足し,注水を用いる大腸内視鏡全般がWater-aided(-assisted) colonoscopy(WAC)と命名された.浸水法はWACの中のWater Immersion(WI)に分類される.欧米では盲腸到達率以上に腺腫発見率(adenoma detection rate;ADR)を重視するため,Leungらは観察に焦点をあて,インジコカルミンを添加して注水する試み 19を経て,「直腸からS状結腸のみならず全結腸で便汁・残渣とガスを吸引して水で置換する」Water Exchange(WE)を提唱した 20.送気下では腸管は緊満・伸長・屈曲し,観察すべき表面積が増えるとともに,屈曲部の裏面が死角になる.さらに拡張した腸管では収縮輪やひだが深くなる.一方で,腸管内を脱気して透明な水で充満させると粘膜同士の接着がないため送気に比較するとごく少量の水で管腔を確保できる(Figure 6).観察すべき表面積は小さく,収縮輪やひだの段差は小さくなる.腸管の屈曲も緩くなり死角が少なくなる.WEで残渣が除去されていることもあり,RCTでWEは従来の送気法やWIに比してADRが上昇すると報告された 21.ただしWEでは全結腸でのガスと腸液を回収して水に置換するため,必然的に検査時間は延長する.ADR向上は非常に魅力的ではあるが,そもそも前処置は残渣が残らないよう徹底すべきであり,ひだ裏の観察は先端キャップの装着である程度は改善できる.挿入困難症例での適応はともかく,容易な症例を含む全例で行うにはやや難しい面があるのも事実であり,検査時間・検査対象のバランスを考慮して運用する必要がある.事実,WEを報告したLeungが共著者となって左半結腸のみにWEを応用してLeft-colon WEとした報告があるが 22,これは浸水法そのものであり定義の食い違いが生じている点を指摘した 23.定義の統一を目指し,International WATERSがWACを行わない内視鏡エキスパートを招待した上で,Delphi法による国際コンセンサスの作成が2017年から開始された.最終的に,WIは内視鏡挿入時に水を注入し必要に応じて送気を行い,注入した水はほとんどが抜去時に吸引される挿入法と定義され,WEは主に挿入時に注入した水が吸引され,送気はせずにすべてのガスが脱気され大腸の洗浄度が最大限に高められた標準化された挿入法として定義された 24.実臨床ではほとんどがWIとなり,臨床試験などのための厳密な手法のみがWEというのが実際のところであろう.本ステートメントでは,多数のRCTにより示されてきたデータをもとに,WACにより盲腸到達率が向上すること,WEでは2~4分追加で挿入時間を要すること,WEでは送気法に比べ2分追加で検査時間を要すること,WEでは高い腸管洗浄度を得られること,WEでは送気法に比べ高いADRが得られること,WACでは送気法に比べ患者の苦痛が軽減されることについてコンセンサスが得られている 24

Figure 6 

注水と送気での観察.

注水は少量で管腔を確保できるため,観察すべき表面積は小さく,収縮輪やひだの段差は小さくなる.腸管の屈曲も緩くなり,送気時に比して死角が少なくなる.

Ⅹ 浸水下内視鏡的粘膜切除術への応用

Binmoellerらは,浸水下で粘膜下局注を行わずに腫瘍性病変をスネアで絞扼し,高周波手術装置を用いて通電切除する内視鏡切除法としてUnderwater EMR(UEMR)を報告した 25.注水により,粘膜および粘膜下層が管腔内に浮きあがって突出し,固有筋層と離れることでスネアによる絞扼が容易かつ安全となる(Figure 7).内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)の適応とされるような比較的大きな広基性の病変に対し,処置の難易度などの問題でESDが日本ほど普及していない欧米においてもUEMRはその簡便さから受け入れられている 26.局注が不要であることに加え,通電時の安全性や出血の確認の容易さ,従来の内視鏡的粘膜切除術(EMR)よりも小さい潰瘍径などのメリットがあり,従来のEMRに比して高い一括切除率が報告されている.UEMRは大腸腫瘍のみならず,穿孔リスクが高いとされる十二指腸腫瘍の切除法としても有害事象や線維化を低減する治療法としても注目されている 27.一方で一括切除率が低くなることや穿孔がないわけでないことなど問題点もあり,局注の併用やESDへの変更など,臨機応変な治療選択が求められる.欧米からスタートしたUEMRについて,まだ十分な治療成績の評価はなされていないが,近年,日本でも次々とUEMRの良好な成績が報告されており 28),29,さらに普及していくものと思われる.このように,浸水法により管腔を水で満たすことは送気法では得られない多角的なメリットを生み出し,従来は困難であったことを容易にする単純な内視鏡挿入法に留まらない大きな可能性をもっている.

Figure 7 

UEMRによる大腸腫瘍の切除.

右側結腸に20mm大の腫瘍を浸水下で一括切除している.白色光通常観察(a),浸水下Narrow band imaging(NBI)観察(b),浸水下でのスネアリング(c),切除後のNBI観察(d).

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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