日本消化器内視鏡学会雑誌
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総説
内視鏡検査・処置のトレーニングモデル:本邦の現状
鈴木 翔河上 洋 三池 忠
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2023 年 65 巻 10 号 p. 2145-2158

詳細
要旨

消化器内視鏡は消化器診療において必要不可欠な医療機器で,検査・診断のみならず治療でも大きな役割を担っている.ルーチンのEGDや全大腸内視鏡検査(total colonoscopy:TCS)の他,胆膵内視鏡,EUS,ESDや止血処置・異物除去など内視鏡スキルは多岐に渡るが,内視鏡技術を向上させるには経験と時間が必要である.現在,様々なタイプのトレーニングモデルやシミュレーターが開発されており,初学者の練習や研修医・学生指導に用いられている.トレーニングモデルは簡便性や低コストが長所で,シミュレーターは豊富な種類の内視鏡検査・手技のトレーニングができる点で優れている.練習や指導の中でトレーニングモデルやシミュレーターを上手に活用して,個々のスキルアップ,実際の内視鏡診療の向上に繋がることが期待される.

Abstract

Gastrointestinal endoscopy is an essential tool in gastrointestinal care. It plays a key role not only in the examination and diagnosis but also in the treatment of gastrointestinal issues. Endoscopic care includes cholangiopancreatography, ultrasound endoscopy, ESD, hemostasis, and foreign body removal, in addition to the usual upper endoscopy and colonoscopy. Various types of training models and simulators have been developed for application in endoscopic care. They are used for practice by beginner endoscopists and for teaching residents or students. Training models have the advantage of simplicity and low cost; nevertheless, simulators are superior, in that they allow training in a wide variety of endoscopic examinations and procedures. We hope that training models and simulators can be used effectively in practice and instruction to improve individual endoscopic skills and actual clinical work.

Ⅰ 緒  言

消化管内視鏡は消化器診療とは相即不離な関係で,検査,診断,治療に必要不可欠な医療機器である.昨今,検診での上部消化管内視鏡検査(EGD)も広く行われるようになり,また,大腸癌検診の二次検査の大腸内視鏡検査(total colonoscopy:TCS)も多く,消化管内視鏡検査のニーズは今後も高まると思われる.また,Narrow Band Imaging(オリンパス,Tokyo)やBlue Light Imaging,Linked Color Imaging(Fujifilm,Tokyo)をはじめとする画像強調内視鏡の登場によって,消化管悪性腫瘍の検索や質的診断は飛躍的に向上した 1)~4.さらに早期胃癌をはじめ,食道,大腸の内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)も広く普及した.胆膵領域においては,後方斜視鏡を用いた内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)関連手技,超音波内視鏡検査(EUS)および超音波内視鏡下穿刺吸引生検法(EUS-FNA),EUSガイド下胆道・膵管ドレナージなど低侵襲かつ積極的な検査,治療が可能となっている.しかし,内視鏡の技術は専門性が高く,ある一定のレベルに達するまでには相応の時間と経験を要する.トレーニングの始めはスクリーニング内視鏡検査など基本的な症例で経験を積み,続いて色素内視鏡や画像強調内視鏡,拡大観察を含めた精密検査の内視鏡や生検組織採取,大腸ポリープ切除など,手技のステップや難易度を徐々に上げながら上達していく.しかし,病院によっては疾患の種類や症例数に偏りがあるため,検査や治療の機会に恵まれないこともある.そのため,実臨床を想定したモデルトレーニング・シミュレーショントレーニングを行うことは,学習機会の補填,習熟速度の向上の点で有用である 5)~7

本稿では,従来より使用されている内視鏡検査トレーニングモデル,内視鏡処置をトレーニングするための様々な疑似モデルや最新のシミュレーターについて,使用経験を基に現状を概説したい.

Ⅱ 消化管内視鏡モデル

1.EGDモデル

EGDは,口腔・咽頭観察に始まり,食道〜十二指腸までを観察する.上部消化管は大部分が結合織により固定されているため十二指腸まではほぼ確実に到達でき,TCSほど難易度は高くない.しかし,スムーズな食道への挿入や胃内の速やかな観察など,被験者に苦痛を与えないような操作が要求される.胃内では見下ろし操作と反転操作の2方向の観察が重要で,胃内の解剖的位置関係やスコープの押し引きを覚える必要がある.

●LM-103(Figure 1

Figure 1 

LM-103(高研)外観写真.

製造元:高研 LM-103

定価:¥480,000

シリコーン製の頭頸部と鼻腔・口腔,咽頭から十二指腸まで再現されているコンパクトなオーソドックスモデルである.

<長所>経口的および経鼻的な挿入のトレーニングで,中下咽頭の観察や食道入口部操作の基本から学べる.口腔~咽頭観察時に上下左右方向を覚えることができ,食道入口部への挿入の基本的イメージを掴むトレーニングとなる.経鼻内視鏡については,鼻中隔部品を交換することで,内視鏡の挿入困難設定も可能である.顔面部が正中で2つに分割できるので口腔~咽頭・喉頭の解剖学的構造を理解できる.また,胃角部小彎に胃潰瘍,胃体上部後壁に早期癌,胃角部大彎にポリープが作成されている(別売りで切除・止血ができるポリープもある).十二指腸では,ERCPにおける乳頭部へのERCPカテーテルの挿入も訓練できる.

<短所>実際の食道入口部挿入は梨状窩の粘膜を適切にめくる操作が必要となるが,このモデルでは輪状後部がある程度挙上した状態で入口部が開口している.また,モデル内の気密性が高くないので,胃内を十分に送気伸展させにくい.

●mikoto MIMT01-00(Figure 2) ※一旦販売終了

Figure 2 

mikoto MIMT01-00(mikotoテクノロジー)外観写真.

発売元:株式会社mikotoテクノロジー(注)株式会社R0で再開発・発売予定

 多くの内視鏡モデルが,単にシリコーン製ゴムの臓器を模した構造であるのに対し,「mikoto」は精密機械という方が近いかもしれない.限りなく人体に近い構造・機能を再現することをコンセプトに,頭髪や表情まで細部に渡り再現された女性の上半身が台に横たわった外観である.

<長所>モデル内の気密性が高く,胃・十二指腸内の送気・吸引により,管腔内の空気量を調節することができる.咽頭部の圧や幽門部を越えるときの圧を感知し,苦悶様表情をしたり,送気で胃の内圧が上がりすぎるとおくびが出たりといった患者の生体反応が再現される.圧や検査時間などの基準から,患者負担や検査技術をスコア化して評価する.音声認識機能で食道胃接合部では「息を吸ってください」という指示で,同部が開大するなど細やかな点も目を見張るところがある.経鼻内視鏡の挿入,観察にも対応している.

<短所>精密機械であるが故に,設置や移動には販売業者との連携・設定が必要になる点や価格も300万円程度と高価である点が挙げられる.かなり重量があるため設置後の移動は容易ではない.現在,改良モデルを再開発中で,価格を引き下げ,軽量化したモデルを上市予定とのことである.

2.TCSモデル

TCSは肛門から盲腸および終末回腸まで挿入し腫瘍を探索したり,粘膜の炎症などを評価する.固定されていないS状結腸および横行結腸では長さや位置関係・屈曲にバリエーションがあり,腹部手術歴や骨盤内臓器の疾患がある症例では腸管癒着が内視鏡挿入に影響することもある.いかに腸管を伸展させず,スムーズな挿入ができるかが重要となる.しかし,初学者は狭い管腔の視野から進行方向を見定めることに苦労し,ループを描きながら闇雲なプッシュ操作になりがちである.TCSモデルは挿入セオリーやパターン,短縮操作や腹部圧迫点のイメージなどを学ぶのに非常に有用である.

●大腸内視鏡トレーニングモデルⅡ型 LM-107(Figure 3

Figure 3 

大腸内視鏡トレーニングモデルⅡ型 LM-107(高研)外観写真.

製造元:高研

定価:¥240,000

このモデルは,腹部を模した枠の底に,上行および下行結腸が固定され,横行およびS状結腸が自然な形で配置されている.特徴的なのは小腸の腸管も再現されている点である.

<長所>S状結腸の丁寧な短縮,横行結腸の適切な“引き”のスコープ操作で基本的な大腸挿入パターンのトレーニングを積むことができる.また,上行結腸に側方発育型腫瘍(laterally spreading tumor:LST)を再現しており,上行および下行結腸に観察用のポリープを取り付けることができる.同社の上部モデルと同様にオプションのポリペクトミー用ポリープを装着することで,高周波スネアによる切除やクリップを使用しての止血といった内視鏡処置もトレーニング可能である.小腸(回腸)のパーツを使用すれば,経肛門的バルーン内視鏡(balloon endoscopy:BE)のトレーニングができる.実際のBEではX線透視装置が必要となるため,被曝せずにBEのトレーニングができるのは他のモデルにはみられない珍しいオプションである.

<短所>TCSの基礎を学べるツールとして十分であるが,S状結腸や横行結腸の長さを変えることはできない(1パターン).ループや癒着のバリエーションを考慮したトレーニングには不向きである.

●大腸内視鏡トレーニングモデルM40 11361-000(Figure 4

Figure 4 

大腸内視鏡トレーニングモデルM40 11361-000(京都科学)外観写真.

製造元:株式会社京都科学

定価:¥225,000

このモデルはゴムバンド付きのマジックテープによって腸管を腹部に模した枠の底に固定する様式である.十分な長さの腸管を様々なパターンで配置することができ,難易度を変えられることが最大の特徴と考える.腹部は付属の布で覆って,ブラインドでのトレーニングもできる.

<長所>S状結腸ループ(αγ,N)や横行結腸の長さを変えた6つの腸管配置パターンがあり,非常に自由度の高いトレーニングができる.また,肛門部の内径は空気の注入により調整ができるので,空気漏れを抑えて,脱気を併用しながら腸管内の空気量を調整した挿入操作が行える.

<短所>腸管とスコープの摩擦・抵抗は大きい.そのためスムーズなスコープ操作のために潤滑剤を腸管内へ塗布する必要がある.強いテンションがかかるスコープ操作を続けていると直腸Rbのレベルで破損するという事例を経験した.なお,腸管モデルのみの単独購入も可能である.

●mikoto colonoscopy training model R0CT01(Figure 5

Figure 5 

(左):mikoto colonoscopy training simulator(株式会社R0)内観写真.

(右):外観写真(天面).

発売元:株式会社R0

価格:オープン価格(希望小売価格2,000,000円) EGDモデルと並行して開発されたmikotoのTCSモデルで旧タイプを軽量化(約8.9kg)し改良したタイプが今春に上市された.外観は約40×20×30cmの箱型で,天面に15cmほどの長方形のタッチパネル画面がある.内部にはシリコーン製の大腸モデルが設置してあり,上からと横からの内部カメラが映像をリアルタイムに映し出す.また,結腸粘膜の無名溝が再現されていることで,腸管の進行方向が分かりやすいことに加え,スコープとの接地面積が減った結果,摩擦が減り,スムーズな操作性を感じられる(潤滑剤としてMCTオイル;中鎖脂肪酸油を使用).

<長所>挿入技術の評価は,検査時間,圧センサーへの接触,ループ形成の有無などの項目から100点満点で算出される.具体的には内部カメラでS状結腸の頭尾方向・腹背方向の伸展具合を検知し数値化,さらに圧センサーへの接触圧を測定し評価される.検査中の内視鏡画面と腸管の外観をリアルタイムで同時に確認し,挿入技術の理解を深める.挿入の難易度はS状結腸下行結腸移行部(sigmoid-descending colon junction:SDJ)の屈曲角度により4段階が用意されている.腹部圧迫併用の設定も含まれる.挿入課程を数値化し,手技のリプレイ動画などから自身の挿入技術の問題点を認識し,より客観的なフィードバックが行いやすい.MCTオイルを使用することでモデル腸管の洗浄が不要な点も大きい長所である.

<短所>天面のタッチパネルモニタは小さいが,パソコンなどの別モニタに接続することは可能.各機器はコードやケーブルで繋がっているので使用中の注意は必要.価格帯は旧タイプから半額程度に抑えられたが,通常のモデルの中では高価な部類である.

Ⅲ 胆膵内視鏡モデル

胆膵内視鏡検査は,後方斜視鏡を用いる.ERCPにはなくてはならないスコープであるが,直視鏡とは得られる視野も操作性も異なる上,狭く,薄い十二指腸を対象とするため偶発症のリスクは通常内視鏡よりも高い.十分な経験と専門性が求められる検査である.今回取り扱わなかったEST/EP教育用ファントム(アムコ社製)は日本消化器内視鏡学会雑誌65巻7号P1205-1217を参照いただきたい.

●側視鏡処置モデル(Figure 6

Figure 6 

側視鏡処置モデル(Cook Medical)外観写真.

製造元:Cook Medical ※非売品

外観はステンレスの格子の中に蛇腹状のチューブが固定されているのみで,胃を模した構造はない.非常にシンプルな外観である.

<長所>チューブの中腹に外から牽引するゴムが付いており,牽引具合の調節でチューブの屈曲が変化し,操作性の難易度が調節される.屈曲が強いほど難易度が上がる.十二指腸乳頭部および胆管・膵管のパーツは交換可能で,乳頭開口部の大きさや,膵管の合流角度の違いなどバリエーションがある.挿管の様子やその際のスコープの動きを直接見ることができる.胆管内にはコーヒー豆や小石などを入れて,経乳頭的なバスケット鉗子による総胆管結石除去術のトレーニングが可能である.また,電極に繋いで内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)の処置を行える乳頭パーツ(オプション)もある.

<短所>ESTトレーニングでは,乳頭部にデバイスを挿入し,適度なテンションをかけて通電しても,切開がスムーズに進まない.この点は今後の改良モデルに期待したい.また,このモデルは一般販売用ではない点にもご留意いただきたい.

●側視鏡処置モデル

製造元:Fujifilm(Figure 7) ※非売品

Figure 7 

側視鏡処置モデル(Fujifilm)外観写真.

外観は食道・胃・十二指腸を再現したシリコーン製の臓器を,平坦な土台に数カ所で固定している構造である.

<長所>このモデルは,胃も作られているので,後方斜視鏡による十二指腸挿入も含めたトレーニングができる.トレーニング内容はERCP時の挿管が主体となり,別付けの乳頭部のパーツを用いる.食道・胃・十二指腸の各パーツが離脱でき,洗浄も容易であるため衛生的である.場所を取らず,軽量であるので持ち運びや移動がしやすい.

<短所>土台が軽いため,スコープ操作に押されて動かないように土台自体を別途固定する必要がある.乳頭パーツはオイルで湿らせているので,挿管に抵抗はないが,胆管・膵管の区別はなく,トレーニング内容のバリエーションは少ない.

Ⅳ EUSトレーニングモデル

EUSはラジアル型もしくはコンベックス型のプローブを内視鏡先端に搭載した専用機で,膵臓や胆囊,肝内・肝外胆管や周辺のリンパ節などを評価できる.目的臓器に近接できるため,CTやMRIよりも局所的で精密な評価を可能とする.以下に胆膵領域のトレーニングモデルについて述べる.今回取り扱わなかったEUS-BD教育用ファントム(Mumbai model),EUS-CDウェットモデル(ボストンサイエンティフィック社)は日本消化器内視鏡学会雑誌65巻7号P1205-1217を参照いただきたい.

●描出ファントム胃モデル(Figure 8

Figure 8 

(左):描出ファントム胃モデル(オリンパス)外観写真.

(右):胃内からのEUS(ラジアル型)像.

製造元:オリンパス ※非売品

アクリル製の大きな容器から斜め上に筒が飛び出したような外観である.内部に胃および周囲に隣接する肝臓・胆囊・膵臓,腎臓や副腎が再現されている.筒の部分から容器内に十分に水を貯留させて使用する.外から内部の様子は見えない.

<長所>経胃的なEUSで,膵臓や肝臓の描出,区域の認識の基礎的なトレーニングを目的とする.腹部大動脈と分岐する腹腔動脈,上腸間膜動脈,門脈など主要血管,総胆管・膵管といった脈管系を描出するトレーニングも可能である.膵臓を頭側から尾側に追いかけていく動きをイメージするのにも役立つ.

<短所>胃の伸張性が再現困難なため,壁との密着感がなく臓器が遠く感じられる点は否めない.また実際の臓器・解剖の位置関係と多少差異があるため,各臓器や脈管を描出するためのスコープ操作に若干苦労する.例えばコンベックス型での観察において腹部大動脈が水平気味で,立てようとすると壁からスコープが離れる.また膵と周囲脂肪織とのエコー輝度の差が小さいため,慎重に観察しなければならない点は注意が必要である.

●超音波内視鏡トレーニングモデルFF-EUS-00A(Figure 9

Figure 9 

(左):内視鏡トレーニングモデルFF-EUS-00A(Fujifilm)外観写真.

(右):胃内からのEUS(コンベックス型)像.

製造元:Fujifilm ※非売品

緑色のアクリルケースの側面からやや上方に向かって白い筒が飛び出すような外観である.前出のオリンパスのファントムと同様に筒から水を入れ,内部を満たして使用する.

<長所>周囲の臓器や脈管の作り込みもオリンパス製のモデルと概ね同様である.初学者において,検査の流れとスコープ操作の基本を学ぶためには十分な製品と言えよう.

<短所>実際の解剖との位置関係に差異が感じられる.具体的には,腎臓の描出に違和感があったり,脾臓が実際より小さく見えたりなど,生体と同等ではない点がある.また,膵臓や肝臓と軟部組織のエコー輝度にもう少し差異があると観察しやすい.

●EUS-FNAトレーニングモデル(Figure 10

Figure 10 

(左):FNAトレーニングモデル(オリンパス)外観写真.

(右):EUS(コンベックス型)像.

製造元:オリンパス ※非売品

白い直方体のプラスチックケースの中に,円筒状にくり抜かれた弾力のあるゲル素材が入っている.ゲル素材の内部にはリンパ節や腫瘍を模したような類円形の構造物が複数,様々な大きさで作られている.

<長所>EUSのスコープを挿入すると,ゲル素材が等エコー,類円形の構造物が低エコーに描出される.スコープをゲル素材にしっかり密着させると,水分やゼリーを用いなくてもエコー画像が描出できる構造物に対して,穿刺用のデバイスを用いて実際に穿刺することができるため,EUS画像の穿刺ラインの確認,穿刺操作をトレーニングできる.コンパクトで軽量なため,利用しやすい.

<短所>穿刺を繰り返すとゲル素材は多少傷んでくるため,EUSの輝度にアーチファクトが出てくる.

Ⅴ ESDトレーニングモデル

ESDは粘膜下層へ局注液を注入することで粘膜を挙上させ,病変の周囲粘膜を切開する行程,粘膜下層を剝離する行程がある.切除部位によりデバイスの距離やアングル操作など繊細な操作が求められ,難易度の高い手技と言える.実際の平易な症例を手取り足取り指導してもらいながらon the jobで学ぶことも多いが,偶発症のリスクも伴うため,安全な環境で治療技術を高める目的でトレーニングモデルが活用されている.

●豚モデル(食道・胃・大腸)(Figure 11

Figure 11 

(上):豚モデル(胃)外観写真.

(下):豚モデル(食道)外観写真.

※非売品

ESDトレーニングで,人体に最も近いのは,豚臓器を用いたモデルと考えられる.衛生処理された豚臓器の周囲を電極で包むことで,ESDナイフによる通電が可能となる.豚胃を用いたESDのトレーニングはハンズオンや講習会で目にしたり使用したりする機会があり,ESD技術の向上が期待できる 8

<長所>粘膜下層への局注の際,適切な膨隆を作るための細やかな針先操作や,粘膜下層へ潜り込むためのフード操作など実際の治療時に必須となる技術が経験できることが最大の利点である.粘膜下層も人体と似た様な粗な線維成分であるため,線維を切断しながら剝離していく様子を体感することができる.ターゲットの位置や大きさを自由に設定し,胃であれば小彎側や噴門など反転操作を要する位置での処置も練習できる.血管の断端から疑似血液を持続的に圧入することで,術中に出血する状況も再現できる.

<短所>豚胃は粘膜が人体よりやや硬く,局注しにくい印象はある.そして,生体ではないため,蠕動はない.また,生の豚臓器であるため,感染リスクを低減するため動物用のスコープを別途用意する必要があり.大抵は医療機器メーカーの取り扱いのもと準備を進める.衛生面と費用面の問題を低減するため,筆者らは食用の鶏肉を利用したトレーニングモデルを考案した 9.物品や機具の準備に手間が少なく安価で手に入るため,日常診療の隙間時間に,医学生や研修医・若手の専攻医にESD手技に触れてもらう機会を設けている.

●EndoGel(Figure 12

Figure 12 

EndoGel(サン・アロー)外観写真.

製造元:株式会社サン・アロー

定価:ESD専用¥45,000 ESD/POEM兼用¥48,000

ESDや食道アカラシアに対する経口内視鏡的筋層切開術(per-oral endoscopic myotomy:POEM)のトレーニングモデルとして開発された製品である.製品は約20cm四方のコンパクトな箱に納められており,軽量である.バット内に粘膜下層を再現したゲル,その表面は粘膜を模したベージュ色のビニル素材で覆われている.

<長所>豚モデルは準備の手間や感染の問題があったが,これらの問題はEndoGelでは解消されている.粘膜・粘膜下層はポリビニルアルコールなどの人工的な素材で再現しているため,感染のリスクがない.粘膜はやや滑りやすい印象はあるものの,粘膜下層の弾力があるため,スコープを軽く押さえつけるようにして保持は可能である.実際に使用してみると,局注針はスムーズに刺入でき,局注液を注入すると,粘膜下に良好な膨隆が形成された.粘膜切開もスムーズで,粘膜下層へ潜り込めれば,適度な弾力を感じながら概ね生体と同様の操作で剝離を行える.EndoGel本体はマジックテープで箱の天面の裏や側面にも装着できるので,反転操作によるESDトレーニングも想定されている.

<短所>粘膜表面は合成樹脂であるため,やや滑りやすい.また,剝離途中で粘膜下層へ追加の局注を行っても,局注液が容易に流れ出てしまう印象であったが,粘膜下層は深く・厚く設計されているので,剝離自体は完遂できた.血管や線維化例の再現はない.

●G-master GM0001(Figure 13

Figure 13 

G-master GM0001(KOTOBUKI Medical)外観写真.

製造元:KOTOBUKI Medical株式会社

販売元:エム・シー・メディカル株式会社

定価:¥90,000~

G-Masterは,国立がん研究センター東病院にて共同開発された革新的なESDトレーニングモデルである.胃は非常に複雑でユニークな形をしているが,G-Masterは5カ所の調節機構を持ち,軸や角度を自在に変えることで,前庭部・体部・穹窿部など11パターンの部位を正確に再現できる.トレーニング用模擬臓器・VTT(Versatile Training Tissue)粘膜モデルの四方を牽引した状態でG-Masterに固定しESD手技を行う.

<長所>胃の必要な箇所だけ部分的に再現し,局注→切開→剝離までの一連の流れ,内視鏡の動きを外部からもよく見ることができる.VTT粘膜モデルは臙脂色の粘膜層とベージュ色の筋層で構成され,適度な弾力があり先端フードの固定は良好である.また粘膜下局注したときの粘膜膨隆や粘膜下層の弾力感も非常にリアルに再現されており,粘膜下層を剝離していく感覚も実際のESDに非常に近いものを感じる.また,VTT粘膜はコンニャクに用いられる植物由来の成分で,衛生的なので使用後に一般廃棄が可能な点も長所である.

<短所>VTT粘膜モデルは1枚あたり約10×10 cmで,価格は¥6,000程度である.10mm程度のターゲットなら3-5カ所の切除が限界と考えられる.また外部から見えるが故に,局注液や小さな切除片が周囲に飛び散ってしまう点は配慮が必要である.血管や線維化例の再現モデルは現行ではない.

Ⅵ 内視鏡検査・処置シミュレーター

シミュレーターの利点は,多彩な検査や処置のプログラムで,1つの機器でEGDもTCSも,またEMRやESD,ERCPなどのトレーニングができることである.EGD挿入時の嘔吐反射やTCS挿入時の苦痛音声,検査や処置のシナリオプログラムなども豊富でモデルとは違った疑似体験ができる.学生や初学者が「楽しい」という要素を含みながら,技術を高めていけるツールである.

●GI Mentor Ⅱ(Figure 14

Figure 14 

GI Mentor Ⅱ(シンビオニクス社)外観写真.

製造元:シンビオニクス社

販売元:株式会社トライメイド

定価:本体(卓上型) ¥9,600,000~

コンピュータ技術を駆使して消化器内視鏡医のために設計されたメディカルトレーニングシミュレーターで,初代機種よりハードウェアが小型化し,操作性がアップしている.すなわち,スコープを早く動かしすぎても,画面が飛んだり,欠損したりすることが少ない.外観は正面モニタが1つとその下に疑似スコープを挿入する人体模型が横たわる.

<長所>EGDモジュール,TCSモジュール,出血による緊急内視鏡モジュールなどの他,バルーンを割るゲームやバスケットボールのゲームプログラム(Cyberscocpy)も内蔵されている.TCSモジュールではスコープ位置の3Dマップや送気量,患者疼痛を示すゲージが表示され,苦悶様音声も複数のパターンで発せられる.スコープを押すべきか引くべきかを判断する訓練ができ,押すばかりではスコープにかかる抵抗感が徐々に強くなるという反応性が再現されている.ERCPモジュールでは内視鏡とX線透視画像の同時ディスプレイが可能で,EST,排石やステント留置術も訓練できる(十二指腸用スコープも販売).EUSモジュールのオプションでは,スコープを動かしてリニアもしくはラジアルでのEUS画像をリアルタイムに見ることができる.視覚補助でリアルな3D解剖のような画像や体内の情報を視認もできる.シミュレーターは使用後にスコープの洗浄が不要で,片付けは容易という点も利点の1つである.

<短所>EGDモジュールでもTCSモジュールでも,検査者は体の正面から前方へスコープを押す位置関係となる.すなわちTCSではモニタと体および挿入方向の位置関係が異なる.また,非常に繊細な内視鏡操作を100%再現するのは難しい.例えば,NBI拡大観察のようなミリ単位の内視鏡先端操作は機器で認識するのは困難である.精密機械なので,コストやメンテナンスに時間・費用がかかる.

●アキュタッチ(AccuTouch) VR気管支・消化器内視鏡トレーニングシミュレータ(Figure 15

Figure 15 

アキュタッチ(AccuTouch)VR気管支・消化器内視鏡トレーニングシミュレータ(ガデリウス・メディカル)外観写真.

製造元:ガデリウス・メディカル株式会社

定価:本体(上部消化管) ¥19,000,000~

このシミュレーターもEGD,TCSおよび胆膵系内視鏡の手技プログラムの多くを有している.練習用スコープは上部用,大腸用がそれぞれ搭載され,実際のスコープより若干軽い.正面には左右2画面が設置され,内視鏡画像と患者情報やバイタルサインが表示される.本体の左側にスコープ挿入口があり,前方にスコープを進めると,本体に縦巻きで収納されながら,スコープに抵抗を加えていく機構が作動する.

<長所>操作性は,食道入口部通過時の抵抗感や大腸挿入時のプッシュ感および直線化したときの抵抗が抜ける感覚などが再現されている.EGDでは胃内の貯留液を吸引する行程やインジゴカルミン撒布の行程もある.画面上では,粘膜面のツヤや定期的な蠕動がみられる.止血トレーニングでは貯留した血液を吸引し,止血法(クリップ,凝固,局注など)の選択ができる.ESDトレーニングでは,局注後,ナイフ選択,先端フードの有無など細かな選択ができる.TCSでは,通常検査以外に生検やポリペクトミーなどのプログラムを備える.ERCPは後方斜視鏡画面からの挿管と透視画面への切り替えも可能で,そこから引き続き胆管・膵管造影も行うことができる.

<短所>止血トレーニングでは画面上では正しく操作を行っていてもなかなか止血しないなど機械の認識困難場面が散見される.すべてのシミュレーターに共通することとして,処置具・デバイスによる「粘膜への押しつけ感」の再現は困難である.精密機器を含むため価格や維持費,故障に注意が必要である.

Ⅶ 最後に

内視鏡検査および処置のトレーニングモデル・シミュレーターの一部について概説した.各種トレーニングモデル・シミュレーターの比較はTable 1を参照されたい.簡便性や低コストを重視すればコンパクトな内視鏡モデルはメリットが多い.設置場所や予算が許せばシミュレーターは豊富な訓練内容を備える点で良い.モデルやシミュレーターを上手に活用して,個々のスキルアップを目指し,練習や指導および実際の内視鏡診療に活かしたい.

Table 1 

各種トレーニングモデル・シミュレーターの製品比較表.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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