2023 年 65 巻 10 号 p. 2200-2201
症例は南アジア出身の22歳男性.既往歴および家族歴,アレルギー歴に特記すべき事項なし.受診17日前に入国し,10日後より39℃台の発熱と腹痛,下痢が出現し,2カ所の医療機関を受診したが診断を得られなかった.当院への来院時は解熱と下痢の消失が見られ,腹痛はあったが腹膜刺激症状はなく,皮疹等も認めなかった.白血球数6,090/μlと基準値内であり,C反応性蛋白7.97mg/dl,アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ395IU/l,アラニンアミノトランスフェラーゼ353IU/lと上昇していた.出身地から腸チフスの可能性を考慮し,血液培養を提出した.臨床診断に繋がる可能性を考え,翌日,大腸内視鏡(CS)を施行した.CSで回腸に多発するアフタ潰瘍(Figure 1,2),盲腸に抜き打ち潰瘍を認めた(Figure 3).介在粘膜の大部分は正常であった(Figure 2,3).また,回盲弁は発赤・腫脹していた(Figure 3).臨床像とCS所見から,腸チフスの可能性が高いと判断し,セフトリアキソン(ceftriaxone:CTRX)を開始した.回盲弁からの生検で,粘膜固有層に非乾酪性肉芽腫を認めた(Figure 4).過ヨウ素酸シッフ染色,Gram染色,Ziehl-Neelsen染色で菌体は認めなかった.血液培養と回腸潰瘍の組織培養からチフス菌が検出され,腸チフスと確定診断した.投与開始時に弛張熱が見られたが,治療開始4日目に解熱し,治療開始8日目に下痢が軽快した.CTRX感受性,レボフロキサシン耐性であり,CTRXを14日間投与した.その後,3回の便培養を行い,チフス菌の陰性化を確認した.

CS(白色光観察)における回腸末端の脱気時の内視鏡像を示す.様々な大きさのアフタ潰瘍が多発していた.介在粘膜に出血斑を認めた.回腸末端の潰瘍から組織培養を提出した.

CS(白色光観察)における回盲部の送気時の内視鏡像を示す.介在粘膜の大部分は正常であった.

CS(白色光観察)における回盲部の内視鏡像を示す.盲腸に僅かに隆起した辺縁を有する抜き打ち潰瘍を認める.介在粘膜は正常である.回盲弁は発赤・腫脹していた.

回盲弁からの採取した強拡大の生検組織像(ヘマトキシリン・エオジン染色)を示す.組織球が集簇していたが,乾酪壊死は伴っていなかった(非乾酪性肉芽腫).リンパ球や形質細胞も見られた.
腸チフスはチフス菌による全身性感染症である.腸チフスは小児または若年成人に好発する.潜伏期間は通常7~14日間である.通常,発熱,悪寒を伴うインフルエンザ症状,前頭部痛,倦怠感,食欲不振,嘔気,腹部不快感,乾性咳嗽,筋肉痛で発症するが,身体所見はほとんどない 1).最初は微熱だが,次第に上昇し,2週目までに39~40℃の稽留熱になることが多い 1).特異的な症状や徴候がなく,腸チフスの臨床診断は困難である 1).血液培養は60~80%,骨髄培養は80~95%,便培養は30%で陽性である 1).組織培養が陽性になることは少ない 2).骨髄培養は罹患期間に関係なく,抗生物質を数日間服用していても陽性となる 1).
CS所見では,好発部位は回腸末端が最多であり,回盲弁,上行結腸,横行結腸が続くが 2),左半結腸,全結腸全体に見られることもある 3).僅かに隆起した辺縁を有し,多発する,様々な大きさの抜き打ち潰瘍が一般的である 2).出血斑や浮腫が見られることがあるが,介在粘膜の大部分は正常である 2).アフタ潰瘍,びらん,潰瘍性大腸炎様病変が見られることもある 3).組織学的所見では,中心部の壊死とともに,リンパ球および形質細胞が混合した,組織球に富む肉芽腫が見られる 4).生検の特徴的な所見は,過形成性パイエル板を覆う潰瘍である 4).
本症例は,症状経過より鑑別疾患として,サルモネラやカンピロバクター等の一般的な感染性腸炎の回復期,腸チフス等の稀な感染症,炎症性腸疾患の初期を考えた.腸チフスは日本では稀であるが,出身地から早急に除外が必要と判断し,CSを施行した.結果,CS所見に病理組織学所見を加え,腸チフスの臨床診断に至った.典型的な腸チフスのCS所見ならびに組織学的所見を認識することが重要であると考え,報告した.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし