日本消化器内視鏡学会雑誌
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総説
小腸血管性病変に対する内視鏡的止血術
橋元 幸星 矢野 智則
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2023 年 65 巻 12 号 p. 2382-2393

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要旨

小腸出血の原因として血管性病変,潰瘍性病変,腫瘍性病変などが代表的な疾患であるが,その中でも血管性病変が23~52%を占めると報告されている.

小腸血管性病変は肝硬変や血液透析,弁膜症性心疾患,虚血性心疾患などの基礎疾患を有する患者に発症することが多い.拍動性の有無に着目した血管性病変の内視鏡分類である矢野-山本分類に基づいて止血方法を選択する.Type 1a,1bは静脈・毛細血管の特徴をもつ病変(angioectasia)に相当し,Argon plasma coagulation(APC)やポリドカノール局注療法による止血術が行われる.Type 2a,2bは動脈の特徴をもつ病変(Dieulafoy病変)に相当し,クリップ止血術が一般的である.Type 3は動脈と静脈の特徴をもつ病変(arteriovenous malformation)に相当し,小さな病変では流入血管を止血クリップで結紮しての内視鏡治療やinterventional radiology(IVR)も可能だが,原則的に外科的治療を選択する.

血管性病変は異時性,異所性に多発することが多く,再出血率は38.5%と報告されている.女性,遺伝性出血性毛細血管拡張症,心疾患,顕性出血,多発病変,肝硬変などが再出血の予測因子である.このようなリスク因子に応じた適切なフォローアップと基礎疾患のマネジメントによる出血予防が重要である.

Abstract

Vascular lesions of the small intestine are the major causes of small bowel bleeding, accounting for 23-52% of bleeding. Vascular lesions often occur in patients with underlying diseases, such as cirrhosis, valvular heart disease, and ischemic heart disease, and in those undergoing hemodialysis. A hemostatic procedure is selected based on the Yano-Yamamoto classification, which is an endoscopic classification of vascular lesions of the small intestine based on the presence or absence of pulsation. Type 1a and 1b correspond to angioectasia lesions and are treated by argon plasma coagulation (APC) or polidocanol injection therapy. Type 2a and 2b correspond to Dieulafoy lesions and are treated by clip-hemostasis. Type 3 corresponds to arteriovenous malformation and is treated with surgical resection in principle. The rebleeding rate of small intestinal vascular lesions after endoscopic hemostasis has been reported to be 38.5%. Female sex, hereditary hemorrhagic telangiectasia, heart disease, overt bleeding, multiple lesions, and cirrhosis have been reported as predictors of rebleeding. It is important to prevent bleeding by appropriate follow-up (based on the risk factors present) and management of underlying diseases.

Ⅰ はじめに

消化管出血全体のうち約5%が原因不明の消化管出血であり,そのうち75%が小腸出血である 1.小腸出血の原因として血管性病変,潰瘍性病変,腫瘍性病変などが代表的な疾患であるが,その中でも血管性病変が23~52%を占めると報告されている 2.ダブルバルーン内視鏡(double-balloon enteroscopy:DBE)の発売以降20年が経過し,現在では小腸血管性病変に対して内視鏡的止血術が選択されることが一般的となった.本稿では小腸血管性病変の特徴とそれに対する内視鏡的止血術について概説する.

Ⅱ 小腸血管性病変の診断

・小腸出血の原因

小腸出血の原因病変は,胃や大腸の出血の原因病変とやや異なり,血管性病変が40.4%,潰瘍などの炎症性病変が29.9%,腫瘍性病変が22.2%,メッケル憩室を含めた憩室からの出血が4.9%,その他が2.7%であったと報告されている 3.また,高齢者では血管性病変や潰瘍性病変が,若年者ではMeckel憩室やクローン病の割合が高くなる.血管性病変については肝硬変や血液透析,弁膜症性心疾患,虚血性心疾患などがリスク因子として報告されている 4

Ohmiyaらは,Table 1のような併存疾患によるスコア(Ohmiya index)を作成し,年齢とスコアにより疾患の頻度を推定している 5.発症年齢<50歳かつOhmiya index<2の群では53%がメッケル憩室かクローン病が原因であった.発症年齢≧50歳かつindex<2の群の72%が炎症性疾患,薬物誘発性傷害または腫瘍であった.一方でOhmiya index≧2では年齢によらず小腸血管性病変の占める割合が68%と高率であった.

Table 1 

New Comorbidity index:Weighted Index of Comorbidity(文献より引用).

・小腸出血の診断と治療のストラテジー

小腸出血は,主に消化管出血を認めるものの上下部内視鏡検査で到達できる範囲に出血源を同定できない病態である原因不明消化管出血(Obscure gastrointestinal bleeding:OGIB)を契機に発見される.以下に,日本消化器内視鏡学会,日本消化器病学会,日本消化管学会,日本カプセル内視鏡学会の4学会が共同で策定した「小腸内視鏡診療ガイドライン2015」で記載されているOGIBに対する診断アルゴリズムを示す(Figure 1 6.ガイドラインでは多くの施設で実施可能な造影CTが優先され,CTで造影剤の消化管内への漏出(extravasation)を含む有意所見がなく,バイタルサインが安定している場合はカプセル内視鏡検査が推奨されている.活動性小腸出血は通常造影CTやカプセル内視鏡で診断される.活動性小腸出血の診断に至った場合は,バルーン小腸内視鏡(balloon assisted enteroscopy:BAE)で確定診断および治療が行われる.バイタルサインが不安定でBAEの実施が困難な状況であれば血管内治療(Interventional Radiology:IVR)による治療が選択される.

Figure 1 

OGIBに対する診断アルゴリズム(小腸内視鏡診療ガイドライン2015より引用).

・小腸血管性病変の分類

血管性病変の内視鏡像は様々であるが,病態がまったく異なる静脈瘤や血管腫を除けば,病理組織学的に,① 静脈・毛細血管の特徴をもつ病変(angioectasia),② 動脈の特徴をもつ病変(Dieulafoy 病変),③ 動脈と静脈の特徴をもつ病変(arteriovenous malformation)の3種類に分類できる(Figure 2 7

Figure 2 

血管性病変の病理学的分類.

小腸血管性病変の内視鏡所見から病態を判断し,適切な治療方法を選択するため,動脈成分の有無,つまり拍動性の有無に着目して6つに分類したのが,「小腸血管性病変の内視鏡分類(矢野-山本分類Yano‒Yamamoto classification)」である(Figure 3 8

Figure 3 

小腸血管性病変の内視鏡的分類(矢野-山本分類).

① 静脈・毛細血管の特徴をもつ病変(angioectasia)

矢野-山本分類Type 1は①静脈・毛細血管の特徴をもつ病変(angioectasia)に相当する.従来,血管形成異常vascular malformationや血管異形成 angiodysplasia等の様々な用語が用いられているが,本項では消化器内視鏡用語集第5版で採用されている“angioectasia”で統一して記載する.

Angioectasiaは,小腸出血の原因となる血管性病変の中で最も多い病変である 9.粘膜固有層,粘膜下層の毛細血管(動静脈吻合)が拡張した数mmから1cm大の血管性病変である.赤色点red spot~クモの巣状・斑状の形態をとる.Angioectasiaは,末梢組織での酸素分圧低下による血管増生が原因の一つと言われており 10,慢性腎臓病,門脈圧亢進症,心臓弁膜症などの基礎疾患に合併する頻度が高い.Angioectasiaは同時性,異時性に多発することが珍しくないため,1カ所治療を行ってもその後の経過で他部位の病変より出血することがある.後述するDieulafoy病変や動静脈奇形は動脈性出血をきたすため出血量が多くショック状態になる場合が多いが,angioectasiaの場合は一般的に毛細血管からのoozingであり,ショック状態になることはない.黒色便や暗赤色便を呈したり,場合によっては自覚症状に乏しく倦怠感程度で採血により貧血に気づく場合もある 4.Argon plasma coagulation(APC)やポリドカノール局注療法による止血術が行われる.

② 動脈の特徴をもつ病変(Dieulafoy病変)

矢野-山本分類Type 2は②動脈の特徴をもつ病変(Dieulafoy病変)に相当し,動脈の特徴である内弾性板をもち,血液の色が透見されにくいため,出血していないときに内視鏡で見つけることは非常に困難である.間欠的な動脈性出血をきたすため,検査タイミング次第では造影CTでのextravasationを検出できないし,自然止血後ではカプセル内視鏡やBAEでも検出困難で小腸出血の中で最も診断・治療に難渋する病変である.Dieulafoy病変は,上部消化管出血の原因としてよく知られているが,小腸にも存在し,小腸出血の原因となる血管性病変の中でangioectasiaについで多い.胃と異なり小腸のDieulafoy病変はほとんど粘膜欠損を伴わず,絨毛間から拍動性に血液が噴出することもしばしばである.間欠的な出血のことが多く,検査タイミング次第では造影CTでのextravasationを検出できないし,自然止血後ではカプセル内視鏡やBAEでも検出困難である.そのため初回出血エピソードから確定診断までに数カ月を要する症例も経験する.出血しているタイミングで内視鏡ができれば検出は容易である一方で,多量の出血により狭い小腸内腔が満たされやすく,視野確保に難渋することが多い.確実な視野確保のもとクリップで結紮して止血する必要がある.

③ 動脈と静脈の特徴をもつ病変(arteriovenous malformation)

矢野-山本分類Type 3は動脈成分を示唆する拍動性隆起と,動静脈の短絡の存在を示唆する周囲の静脈拡張がみられることから,③ 動脈と静脈の特徴をもつ病変(arteriovenous malformation)に相当すると考えられる.50歳以下の若年者にも発症し,比較的大きな病変では手術中に漿膜側からでも視認できる.先天性過誤腫性病変と考えられているが,詳細な発生機序は不明である 4).AVMに対する治療は,小さな病変では流入血管を止血クリップで結紮しての内視鏡治療やIVRも可能だが,原則的に外科的治療を選択する.

また,特異な形態をとる病変もまれにあるため,分類不可能な病変はType 4としており,超音波内視鏡検査(EUS)や他の検査結果も踏まえて,治療方針を決定する.海綿状血管腫や青色ゴムまり様母斑症候群の消化管病変もここに分類される.

Ⅲ 小腸血管性病変に対する内視鏡治療

OGIBと診断された症例のうち造影CTやカプセル内視鏡にて腫瘍や潰瘍性病変などその他の小腸出血性病変が除外され,かつ病歴や前述のOhmiya index等で血管性病変からの出血である可能性が高いと判断される場合,十分な体制と準備を整えて検査・治療を進める.

補液や輸血をしても血圧を保つことが困難なほどの大量出血で,造影CTにてextravasationを認めている場合には,内視鏡治療の適応とはならずIVRを検討する必要がある.

・使用デバイスの選択と準備

BAEにはスコープ先端バルーンの有無によってダブルバルーン内視鏡(DBE)とシングルバルーン内視鏡(single-balloon enteroscopy:SBE)の2種類があるが,バルーン付きオーバーチューブにより腸管のたわみを抑制する基本原理は同じである.活動性小腸出血では,血性腸液の吸引や洗浄を行うため鉗子口径は大きいほうが良い.2022年末の時点で市販されているBAE用スコープ(Table 2)では,鉗子口径3.2mmのものが最大である.出血源が比較的近い場合には処置具の出し入れの時間を短くできるように,有効長が短い(1,520~1,550mm)スコープを選択する.管腔が狭く,屈曲が多い小腸においては,視野確保にD201-10704(オリンパス社)(Figure 4-a)か,スペースアジャスター(トップ社)が有用である.屈曲やひだをかき分けての視野確保の他,出血点の一時的な圧迫止血や,止血クリップをフード内で展開した状態で保持できるなど,多くの利点がある.また,BAE用スコープはスコープ外径を小さくするために送水チャンネルを装備しておらず,鉗子口に処置具を挿入した状態で洗浄を行うには工夫が必要である.通常の鉗子栓の代わりにBioShield irrigator(STERIS社(本邦では富士フイルムメディカル社が販売))(Figure 4-b)を用いれば,鉗子口に処置具を挿入したまま,その脇の隙間を通して液体を追加注入できる.

Table 2 

2022年末までに市販されたBAE用スコープ.

Figure 4 

a:先端アタッチメントD201-10704(オリンパス社).

b:BioShieldirrigator(STERIS社).

・Motorized spiral endoscopy:MSEの登場

2019年3月に海外で先行して発売された新たな小腸内視鏡システム「PowerSpiral」が本邦でも2022年末から使用可能になった.ただしその操作の特殊性から,使用には専用の教育プログラムを受講する必要がある(Figure 5).PowerSpiralは従来のバルーン内視鏡とは異なり,スコープに装着したらせん状のフィンを回転させて腸管をたぐり寄せることにより深部小腸へ挿入する.多施設前向き共同研究では,経口ルートでは平均25分で450cm挿入できるとされている 11.また他の報告でも全小腸観察率は64.9%と良好な成績が報告されている 12.一方で食道粘膜裂創や腸管穿孔などの偶発症も報告されており,特に狭窄や癒着のある症例では慎重な操作が必要とされる.ただ,経口挿入時には全身麻酔が望ましい点や,非常事態時に緊急抜去が困難な点は緊急内視鏡としての使用の妨げとなる.

Figure 5 

専用のモデルを用いた教育プログラムを受講.

・挿入ルートの選択

活動性小腸出血に対するBAEでは,経口ルートを選択する場合が多い.視野確保が容易で血性腸液が出血源を見つけるための重要な手がかりとなるからである.BAEの挿入ルートとして,経口ルートを選択して小腸内に血性腸液を認めれば,その近くに出血源が見つかる場合が多い.

一方でCT等の情報から出血源が回腸にあることが明らかな場合には,経肛門ルートを選択するが,腸管前処置ができても活動性出血のある症例では,血性腸液により視野確保が大きな問題となる.Water exchange法では注入した水は血液や便と容易に混ざりあうため視野確保が困難となり,少量の送気では血性腸液で視野が遮られる.その結果,過剰な送気を余儀なくされ,腸管内圧の上昇により,内視鏡の挿入性低下と,患者の苦痛につながる他,血性腸液が出血点よりも口側に逆流して出血源の同定に難渋することにもつながる.このような経肛門ルート挿入の問題点はGel immersion法を用いれば克服できる 13.Gel immersion法の詳細については後述する.

・経口ルートの注意点

経口ルートでのBAEでは,上部消化管内視鏡と同様に左側臥位で検査を行う.BAEでは短縮操作によってバルーン付きオーバーチューブ上に手前側の腸管を畳み込むことで深部小腸への到達を可能にする.この短縮操作時に口側腸管の内圧が上昇して,嘔吐を誘発しやすい.また,深鎮静で施行される場合が多く,誤嚥性肺炎の発生に注意が必要である.経口ルートでのBAE中の誤嚥を避けるためには,経口挿入後にスコープ先端が胃に入った時点で,胃液を可能なかぎり吸引し,嘔吐反射が起きても吐き出すものがないようにしておく.二酸化炭素送気であっても極力無送気を心がけ,腸管内圧が上昇しないように注意する.

経口ルートでの挿入中に血性腸液を認めたら,洗浄するよりも何よりも先にマーキングクリップを1本留置する.出血源が近いと考えられるが,小腸は他の消化管と異なり解剖学的なランドマークがないため,このマーキングクリップをランドマークとして出血源を探す.出血源を探しながら進んでいき,血性腸液が暗赤色となるなど出血源を通り過ぎたと考えられたら,マーキングクリップを2本留置する.これによりクリップが1本の部位と2本の部位の間に出血源があると考え,重点的に出血源を探す.

・経肛門ルートの注意点

経肛門ルートでのBAEでは,下部消化管内視鏡と同様に左側臥位で検査を開始して,適宜体位変換を行いながら挿入していく.活動性小腸出血のある患者では,血性腸液や凝血塊によって視野が妨げられ,挿入中の送気が多くなりやすい.この送気によって挿入効率が落ちるだけでなく血性腸液が口側に押し上げられるため,経口ルートと異なり血性腸液を参考に出血源を探すことが難しくなる.したがって活動性回腸出血で前処置が不十分な状態で経肛門ルートを選択する場合,われわれは前述の通りほぼ全例で挿入時からGel immersion法を使っている.視野確保に最低限必要なgelを注入しつつ挿入し,鮮血の貯留が目立つ部位で最初のマーキングクリップを1本おく.出血点が見つからない場合,深部まで観察しながら挿入し血性腸液が消失した部位で2本のマーキングクリップをおいて,抜去しつつ詳細に出血源を探す.

・Gel immersion endoscopy:GIE

GIEの原理

消化管出血に対する緊急内視鏡では,血液や残渣に妨げられて視野確保が困難になりやすい.特に重力の影響で液体が溜まりやすい部位や,内腔が狭い部位では流れ出た血液で視野が妨げられ,出血点の視認が困難になる.従来は水を注入しての浸水観察が試みられたが,部位によっては有効な水の流れを作り出せず,出血の勢いが強いと水と混和して赤く濁った視野になる.

水の代わりに適度な粘性のある透明なgelを注入するGIEを用いれば,血液と急速に混和せず,透明な作業空間を作り出せる(Figure 6 14.粘性により出血の勢いもやや低下し,透明な作業空間で出血点をピンポイントに同定して止血処置ができる 13

Figure 6 

Gel immersion endoscopyの原理.

このGIEに最適化した内視鏡用視野確保gelとして,ビスコクリア(大塚製薬工場製)(Figure 7)が2020年秋に発売となった.ビスコクリアは視野確保性能と注入の容易さを考慮した最適な粘性に調整してある他,電解質をほとんど含まないため電気伝導性が低く,高周波止血鉗子を気相状態と同じ設定で効率的に使用できる 15

Figure 7 

ビスコクリア(大塚製薬工場).

小腸の狭い管腔は血性腸液で埋まりやすいと同時にgelで満たしやすいため,小腸はGIEが非常に有用な臓器である.小腸血管性病変に限定した報告はないが,GIEを使用した265例をまとめた報告 13で,空腸では27例中23例,回腸では10例中10例で視野確保できている.この報告では回腸出血に対する経肛門DBEで,不透明な血性腸液で埋まった大腸・回腸の中をGIEによる視野確保で挿入して止血しえた動画も紹介されている.

基本的なGIEの使い方

Gelを使用しない止血方法と同様,円筒形フードやBioShield irrigatorを使用する.

Gelは泡立てないように30〜50mlのシリンジを使ってBioShield irrigatorを経由して鉗子孔から注入する.ポンプで注入することも可能だが,シリンジのほうが微調整しやすい.現行のバルーン内視鏡には副送水路(ウォータージェット管路)が装備されていないが,大腸用スコープなどの副送水路は鉗子孔より細く長い管路のため,ポンプを最大出力にしても注入速度が低いうえ,強い力がgelに加わって視野確保に必要な粘性の下限値近くまで粘性が低下する 16.ビスコクリアを4℃まで冷やしておけば粘性が高くなり,副送水路からの注入でも十分な粘性が保たれる 17

Gelの注入前に残存ガスを吸引して内腔を虚脱させておくと,gelで満たしやすくなる.また,スコープの手前側の管腔も虚脱させておくと,スコープがたわみにくくなり,操作性が改善する.残存ガスを吸引後に水を注入して浸水状態にしてからgelを注入すると良い.

Gelを注入する際には,円筒形フードの先端を壁に押し当て,まずはフード内をgelで満たす.次にひだをランドマークにしてスコープ先端を壁に沿わせるように動かして出血点を探す.出血点が見つかったら,真正面からではなく接線方向に近い浅い角度から,壁沿いに出血点にアプローチする.

鉗子孔からgelを注入していれば,処置具挿入により鉗子孔内のgelが押し出されていくが,処置具が鉗子孔から出たあとはgelが注入されなくなる.処置具挿入後に視野が悪化した場合には,適宜gelを追加注入して視野を維持する.

GIEにおいて,gel内に気泡が混入すると気泡が消えずに視野の妨げになるため,できるだけ気泡をつくらず,手技が完了するまで送気もしない.

吸引するとgelで遠くに押しやったはずの血液や残渣がスコープ近くに戻ってきてしまうため,手技が完了するまでは吸引もしない.

前述の通り,gelはその粘性によって出血速度を低下させる効果があるため,止血確認はGIEではなく浸水下もしくは送気下で行う.

・内視鏡的止血法

出血点が確認されれば,引き続き血管性病変のタイプに応じて以下の方法で止血処置を行う.

① 止血クリップ法

止血クリップ法は血管性病変を直接把持し結紮する方法である.出血している血管を確実に把持しなければ止血効果は得られず,特に小腸においてはスコープの操作性が悪いこともあり難易度が高い.クリップの先端で機械的に小腸粘膜を損傷し穿孔させる危険性もあるので注意が必要である.出血点をピンポイントで同定し,1本目のクリップで確実に止血することが望ましい.特にType 2病変など動脈性の血管性病変については流入する血管の確実な絞扼が必要である.クリップを深くかけるには,管腔内圧を低圧に保ち腸管壁の緊張を低減しておくほうが良い.さらに,1本目のクリップの両サイドにもクリップを複数本追加しておく.このように,操作性不良が予想される小腸において視野確保と安全で確実なクリップ操作のためには先端フードの装着が必須である.また出血量が多く視野確保が困難な場合にはGel immersion endoscopyが非常に有用である(Figure 8 13.クリップ止血法は主に血管性病変の他,露出血管を伴う潰瘍性病変,腫瘍性病変,憩室症に対しても用いられる.ただし血管性病変の中でも矢野-山本分類Type 3病変のサイズの大きな病変についてはIVRないし外科的治療が望ましい.

Figure 8 

a:出血の勢いが強いDieulafoy病変において送気や浸水観察では出血点の同定が困難.

b:GIEにより出血点をピンポイントで同定することが可能となる.

c:Dieulafoy病変では流入する血管を確実に絞扼できるように複数本のクリップを両サイドに追加する.

② 熱凝固法

局所に発生する熱により露出血管を凝固させ止血する方法である.APCとモノポーラーまたはバイポーラーの止血鉗子による凝固法がある.APCはイオン化したアルゴンガスに高周波電流を放電させることで組織を凝固させる非接触型の高周波止血法である 18.焼灼された部分は電気抵抗が上がり,焼灼されていない部分が順に焼灼されていくため,広く浅く焼灼される.しかし,小腸壁は薄く,同じ部位で通電時間が長くなれば穿孔の危険性がある.同じ部位で通電を繰り返す場合は,止血部位に生理食塩を局所注射するなど工夫が必要である.主に矢野-山本分類Type 1a,1bの治療に用いられる.一方,止血鉗子による凝固法も小腸で使用可能であるが,露出血管を確実に把持する必要があり難易度が高い.また,焼灼に伴う組織損傷や潰瘍形成に伴い穿孔などの偶発症を伴うこともありリスクが高い.

③ 局所注射法

A)高張ナトリウム(Na)- エピネフリン局注法(hypertonic saline epinephrine:HSE)

エピネフリンの強力な血管収縮作用と高張ナトリウム(Na)の物理的性質によるエピネフリン作用時間の延長,周囲組織の膨化,血管壁のフィブリノイド変性などの相互作用による血管内腔に血栓を形成し止血する方法である 19.出血点が確認できない場合でも近傍へ局注を行うことで止血が可能である.組織の凝固・固定力がないため組織侵襲は少ない.

B)ポリドカノール局注法

ポリドカノールによる間質の浮腫に伴う血管への圧迫と小血管内の血栓形成,血管内膜炎に伴う血栓形成により止血効果を得る方法である 20.1%ポリドカノールを出血源となる血管性病変の周囲に0.5ml単位で局注針を用いて局注する.Angioectasiaや血管腫に対する有用性と安全性が報告されており,特にポリドカノール局注にAPCやクリップ止血を組み合わせることでより有用とされている 21),22

Ⅳ 予  後

小腸血管性病変に対する内視鏡治療後の再出血率は10~50%と報告されている 23)~26.Enriqueらによる,2003年から2019年までに報告された文献のシステマティックレビューおよびメタ解析によると,再出血率の中央値は38.5%(range:10.9~53.3% 観察期間中央値24.5カ月)であった 27.女性,遺伝性出血性毛細血管拡張症,心疾患,顕性出血,多発病変,肝硬変などが再出血の予測因子として抽出された.このようなリスク因子に応じて適切にフォローアップを行う必要がある.

小腸内視鏡が実施可能な施設はかぎられており,繰り返す出血に対しその都度入院し小腸内視鏡治療を行うことは患者および医療資源への負担も大きく,基礎疾患のマネジメントによる出血予防が重要である.門脈圧亢進症に対するβ遮断薬や,大動脈弁狭窄症に対する根本治療により再出血が減少・消失することが知られているが 28,加えて小腸血管性病変に対する薬物療法のエビデンス構築にも期待したい.現状は遺伝性出血性毛細血管拡張症のガイドラインでトラネキサム酸やベバシズマブが推奨されているが,他の病態に対してサリドマイド,ソマトスタチンアナログ,ランレオチド等の薬剤に関して検討されているものの安全性や費用対効果の点から現状では推奨されるに至っていない 29

Ⅴ おわりに

小腸血管性病変の内視鏡治療について概説した.カプセル内視鏡とDBEの開発以降20年が経過し,小腸血管性病変の病態が明らかになりつつある.また,内視鏡的止血術に関する様々な工夫が報告されてきた.しかし依然として診断の困難性,内視鏡治療の限界,高い再出血率などの課題が残されている.現状では内視鏡的止血術単独では限界があり,基礎疾患のマネジメントおよび適切なフォローアップが重要である.加えて今後の薬物療法のエビデンスの構築が期待される.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:矢野智則(大塚製薬工場株式会社)

文 献
 
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