2023 年 65 巻 12 号 p. 2401-2406
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma:DLBCL)の内視鏡所見は潰瘍形成を伴う軟らかい隆起病変であることが多いが,今回,非典型的な所見を呈したDLBCLの1例を報告する.患者は76歳男性,右頸部の腫脹と倦怠感を主訴に受診した.精査の結果,右頸部リンパ節原発のDLBCL,Lugano分類Ⅳ期と診断した.上部消化管内視鏡検査で胃体部に7mm大の白色扁平隆起の散在および十二指腸下行部に中心部が陥凹した白色調の隆起病変を認め,病理学的には粘膜固有層のリンパ球系細胞の増殖があり,CD20陽性,CD3陰性,CD10陽性,CD5陰性でKi-67 labeling indexは90%であったことから,DLBCLの節外病変と診断した.
Diffuse large B-cell lymphoma (DLBCL) is a lymphoma characterized by its predilection for the stomach, and endoscopic findings often show soft protrusions with ulceration. We report a case of DLBCL that did not show such typical findings. The patient was a 76 year old male who presented with right neck swelling and malaise of four months duration. After several examinations, he was diagnosed with stage Ⅳ(Lugano classification) primary DLBCL of the right cervical lymph node. Upper gastrointestinal endoscopy showed flat white protrusions of 7 mm in size in the gastric corpus and whitish protrusions with depressed centers in the second part of duodenum. Histopathological examination of these lesions revealed proliferation of lymphoid cells in the interstitium of the lamina propria. Immunohistochemically, the tumor cells were cluster of differentiation (CD)20-positive, CD10-positive, and CD3-negative; Ki-67 labeling index was 90%. These findings led to a diagnosis of DLBCL. This case presented with atypical endoscopic findings of DLBCL such as small, flat white protrusions.
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma:DLBCL)は消化管では胃に好発するリンパ腫である.内視鏡所見では頂部に潰瘍形成を伴う腫瘤性病変として認められ,病変の大きさに比して壁の変形に乏しく,軟らかい腫瘤を形成することが特徴的であるほか,表面型病変や多発ポリープとしてみられることもある 1).今回,DLBCLの内視鏡所見として非典型的な小型の白色調扁平隆起病変を呈した症例を経験したので報告する.
患者:76歳男性.
主訴:右耳下腺リンパ節の腫脹,倦怠感.
既往歴:高血圧,2型糖尿病,逆流性食道炎,胆石症術後,総胆管結石.
内服薬:テルミサルタン・アムロジピン配合錠,ラベプラゾール,ビルダグリプチン・メトホルミン配合錠,ミチグリニド・ボグリボース配合錠.
生活歴:機会飲酒,喫煙歴なし.
Eastern Cooperative Oncology Group - Performance Status(ECOG-PS):1.
アレルギー:なし.
現病歴:4カ月前から右耳下腺のリンパ節腫脹を自覚した.前医から耳鼻咽喉科に紹介されたが炎症性耳下腺炎の診断で経過観察となった.1カ月前から増大し,倦怠感,盗汗も出現した.前医の血液検査でLDH,CRPの上昇を指摘され,精査目的で当院に紹介された.
身体診察所見:身長165.0cm.体重61.0kg.血圧122/59mmHg.脈拍83/min.整.右耳下腺リンパ節腫大を触知する.右胸鎖乳突筋から鎖骨上窩にかけてリンパ節腫大を触知する.
血液生化学所見:Alb 3.0g/dL,ALP 123U/L,AST 28U/L,ALT 28U/L,LDH 959U/L,γ-GTP 40U/L,ChE 233U/L,Cre 0.74mg/dL,BUN 12mg/dL,Na 130.6mmol/L,Cl 95.2mmol/L,K 4.54mmol/L,CRP 6.66mg/dL,白血球数8,300/μL,赤血球数 392×104/μL,Hb 11.7g/dL,血小板数 39.9×104/μL,CEA 2.4ng/mL,CA19-9 4.1U/mL,可溶性IL-2レセプター(sIL-2R)932U/mL.
胸腹部造影CT検査:右頸部~鎖骨上領域に造影効果の乏しいリンパ節腫大を認めた.肝十二指腸間膜,および肝内の辺縁優位な造影効果を伴う多発腫瘤および肋骨の溶骨性変化を認めた.
Fluorodeoxyglucose-position emission tomography(以下:FDG-PET)検査(Figure 1):頸部,鎖骨上,腋窩,縦隔,肺門,肝十二指腸間膜,腹部大動脈周囲,腸骨リンパ節にFDGの集積を認めた.リンパ節外臓器では肝両葉,脾臓,体幹部を中心とした骨へのFDGの集積を認めた(Figure 1-a).胃体部への集積は認められたが,生理的集積との判別は困難であった(Figure 1-b).
Fluorodeoxyglucose-position emission tomography(FDG-PET)検査.頸部,鎖骨上,腋窩,縦隔,肺門,肝十二指腸間膜,腹部大動脈周囲,腸骨リンパ節のほか,リンパ節外臓器では肝両葉,脾臓,体幹部を中心とした骨へのFDGの集積を認めた(a).胃体部へのわずかな集積(白矢印)は認められたが,生理的集積との判別は困難であった(b).
上部消化管内視鏡検査:ヘリコバクターピロリ除菌歴は聴取できておらず不明だが,背景はopen typeの萎縮性胃炎を認め,壁伸展性は良好であった.穹窿部から体下部にかけて白色調の扁平隆起が複数個存在した(Figure 2-a).胃体中部,7mm大の白色調扁平隆起の近傍には白色小顆粒状隆起が散在していた(Figure 2-b).白色光では上皮性病変を疑う扁平隆起であるが,Narrow Band Imaging(NBI)近接観察では粘膜模様は周囲粘膜と同様であり,病変の主座が粘膜下層にあると推定された.白色小顆粒状隆起は扁平隆起と異なるvilli様構造であり,過形成性変化を疑った(Figure 2-c).十二指腸下行部にも白色扁平隆起を複数認め,辺縁は白色調に腫大した絨毛であり,中心部は陥凹していた(Figure 2-d).
上部消化管内視鏡検査.
a:通常光観察で穹窿部から胃体下部にかけて複数の白色調扁平隆起(黄矢印)を認めた.
b:胃体中部の7mm大程度の白色扁平隆起の近傍に1mm大の白色顆粒状隆起(緑矢印)の散在を認めた.
c:Narrow Band Imaging(NBI)でbの病変を近接観察すると,粘膜模様は周囲粘膜と同様であった.また白色小顆粒状隆起(緑矢印)は扁平隆起と異なるvilli様構造であり,過形成性変化を疑った.
d:十二指腸下行部にも白色扁平隆起を複数認め,辺縁では白色調に腫大した絨毛を認め,中心部は陥凹していた.
病理組織学的所見(Figure 2-bの白色扁平隆起から生検):表層の粘膜上皮細胞は残存しているが,粘膜固有層に大型の異型lymphoid cellsの増殖を認めた.これらの細胞は免疫染色ではCD20陽性,CD3陰性,CD10陽性,CD5陰性でKi-67 labeling index 90%と高率に陽性であったことから,DLBCLと診断した(Figure 3).Figure 2の十二指腸病変からの生検も同様に大型の異型lymphoid cellsの増殖を認めた.
Figure 2-aの白色扁平隆起の病理組織像.HE染色弱拡大(a)で表層の粘膜上皮細胞は残存しているが,強拡大(b)にて表層直下の粘膜固有層に大型で異型を伴うlymphoid cellsの増殖を認めた.CD20およびCD10陽性の異型を伴うlymphoid cellsのCD3(c)は陰性であった.Ki-67(d)はlabeling index 90%と高率で陽性であった.
経過:上部消化管内視鏡検査と同時期に右耳介リンパ節からも局所麻酔下で摘出生検を行い,胃,十二指腸病変と同様の組織像を認めた. Lugano分類Ⅳ期,International Prognostic Index:High risk(予後因子4)のDLBCLと考えられた.頸部により大きな病変があったことから胃十二指腸病変は原発ではなく消化管浸潤と診断した.治療目的に他院血液内科に紹介し,症状,経過,身体所見,検査所見,画像所見,リンパ節生検,上部消化管内視鏡検査の病理所見を総合してDLBCLの最終診断に至った.診断後1カ月より化学療法(R-CHOP療法)を開始し,治療は奏効したが,治療開始後6カ月に中枢神経再発を認めた.救援化学療法(R-DeVIC療法)などで治療したが,治療開始から約1年後に発熱性好中球減少症,敗血症により永眠された.
DLBCLとは大型B細胞がびまん性に増殖する腫瘍である 2).免疫学的表現型はB細胞マーカーであるCD19,CD20,CD22,CD79aが陽性になるが,約5~10%でCD5陽性,約20~30%でCD10陽性,約50~80%でbcl-2が陽性になる 3).Ki-67 labeling indexは40%以上となることが多い 1).
胃悪性リンパ腫の内視鏡所見は本邦では佐野分類(表層型,潰瘍型,隆起型,決壊型,巨大皺襞型) 4)や八尾分類(表層拡大型,腫瘤形成型,巨大皺襞型) 5)によって分類されることが多い.中村ら 6)による集計によると,胃DLBCLの内視鏡所見は潰瘍型が43%,隆起型が28%と潰瘍型,隆起型で多い.内視鏡所見で胃DLBCLを疑うポイントとしては①壁の伸展性が保たれ,②粘膜下腫瘍(submucosal tumor:SMT)の要素がみられ,③潰瘍を伴う病変では幅の狭い耳介様周堤と陥凹内に厚い白苔を伴い,④病変の多発など,多彩な所見を呈し,⑤超音波内視鏡(EUS)で均一な低エコー腫瘤として,描出されるような胃腫瘤性病変が挙げられる 7).
DLBCLを含む消化管悪性リンパ腫は粘膜上皮下組織から腫瘍が発生するため,腫瘍表層は非腫瘍性腺管で覆われており,その後に腺管の間隙を押し分けるように進展する.また腫瘍組織は髄様に増生し,周囲に繊維化を伴わないため,軟らかい外観となる.特にDLBCLの増殖は速いため腫瘍中心には潰瘍形成を来し,腫瘍辺縁に萎縮した非腫瘍性腺管が部分的に存在する耳介様周堤を呈する 8).本例は潰瘍形成や耳介様周堤など,前述した特徴を有していないが,粘膜下に腫瘍の主体があることなど一部で共通する部分が認められた.
本例はDLBCLの胃浸潤と考えられた.DLBCLは成人T細胞白血病/リンパ腫と並び消化管浸潤を呈する代表的な悪性リンパ腫であり 9),消化管浸潤部位は胃が最も多いと報告されている.全身性悪性リンパ腫の胃浸潤病変の肉眼的形態は胃原発と同様に潰瘍型,びまん型,隆起型,表層型に分類されている.胃浸潤病変は胃原発病変と類似した肉眼型を呈し,潰瘍型が多いが,表層型がなかったと報告されている 10).
本例はこれまでの胃原発悪性リンパ腫や胃浸潤病変の一般的な肉眼型とは異なり,多発する小白色扁平隆起を呈していた.佐野は肉眼分類を記した著書の中で 4),隆起型は胃癌のBorrmann分類の1型や早期胃癌0-Ⅰ型の肉眼所見を呈するものが多く,まれに0-Ⅱa様の丈の低い隆起の場合があると述べている.そのため,本例の特徴的な肉眼型は佐野分類の隆起型に分類できると考えられた.一方で佐野分類の表層型はすべて0-Ⅱcないしは0-Ⅱc+Ⅲであると記載されているため,表層型とは異なる形態である.ここで,同様の小白色扁平隆起を呈するDLBCLの報告例を検索した.PubMedの全期間で“DLBCL”および“flat protrusion”で検索したほか,医中誌で“DLBCL”および“扁平隆起”で検索したところ,田崎ら 11)による報告の1例のみ確認されたため,本症例の肉眼型はまれであると考える.この症例も,Lugano分類Ⅳ期の全身性リンパ腫の浸潤であったことが本例と共通している.しかしながら,田崎らの症例では胃病変は敷石状の大型の扁平隆起であったのに対して,本例は全身のリンパ節や多くの節外臓器に浸潤したDLBCLにもかかわらず,胃病変は小型の扁平隆起にとどまっており,興味深い症例と言える.
このようなまれな肉眼型を呈した機序であるが,本例は全身性のDLBCLが比較的遅くに消化管浸潤したため,大型隆起や潰瘍形成を来す前の初期病変像をとらえた可能性がある.また,本例および田崎らの報告例はいずれも全身性悪性リンパ腫の胃浸潤例であり,胃浸潤病変では胃原発病変と異なる浸潤,発育様式をとった可能性も想定されるがDLBCLの消化管浸潤の発育進展様式に関する報告もなく,症例数が限られており,今後の症例集積によってさらに検討を要する.
一方,本例の様な胃に発生する白色調扁平隆起で,鑑別すべき疾患として腺腫,腸上皮化生,多発性白色扁平隆起(春間・川口病変)が挙げられる.これらの病変は上皮性の変化であり,本例には粘膜変化が乏しく粘膜下層に主座がある点で異なる.
なお,本例の十二指腸病変は白色調の陥凹を伴う扁平隆起であったが,小腸のDLBCLも胃と同様に潰瘍型・隆起型を呈することが多く 12),本所見は非典型的である.
全身に浸潤した進行期にも関わらず,消化管DLBCLとして非典型的な多発する小さな白色調扁平隆起病変を呈したDLBCLの1例を経験した.DLBCLの消化管浸潤において発育進展様式の報告はなく,本報告をきっかけに今後悪性リンパ腫の消化管浸潤病変の症例蓄積に繋がれば幸いである.
謝 辞
本稿の執筆にあたり病理画像のご提供並びに病理所見についてご教授いただきました岡山大学腫瘍病理第二病理学,都地友紘先生に深謝いたします.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし