80歳男性.2018年8月に施行した上部消化管内視鏡検査で十二指腸球部下面に6mm大の不整な陥凹性病変を認めた.生検結果は印環細胞癌であり,内視鏡所見から異所性胃粘膜を背景とする粘膜内癌と診断した.CT検査では明らかな転移を認めず内視鏡的治療対象病変であるとされ,腹腔鏡内視鏡合同手術の方針となった.しかし,同年11月の治療時には病変は著明に増大していた.内視鏡的に一括切除されたが,病理組織学的診断は腫瘍径10×8mm,adenocarcinoma(por>sig),pT1b,Ly1,V0,pHM0,pVM1と非治癒切除であった.未分化型癌の早期十二指腸癌の報告は極めて少なく,短期間に急激な増大を示した報告はないことから,文献的考察を加えて報告する.
In August 2018, a man in his 80s was referred to our hospital for upper gastrointestinal endoscopy, which revealed a 6-mm, slightly depressed lesion in the lower part of the duodenal bulb. Biopsy showed signet-ring cell carcinoma in the intrinsic layer of the mucosa. Initially, we planned to resect the lesion endoscopically due to the absence of obvious metastasis on contrast-enhanced computed tomography. However, by the time of the treatment in November 2018, the lesion had rapidly increased in volume and presented as a thick depressed lesion with marginal elevation. The lesion was resected en bloc endoscopically. Histologically, it was diagnosed as poorly differentiated adenocarcinoma with signet ring cell carcinoma, featuring a submucosal invasion depth of greater than 1000μm, positive deep tumor margin, and positive lymphatic invasion. Additional surgery including pancreaticoduodenectomy was recommended, but the patient declined and eventually succumbed to cancer in October 2019.
The occurrence of undifferentiated duodenal adenocarcinoma with a gastric phenotype at an early stage is rare. Furthermore, no case reports have documented early-stage duodenal adenocarcinoma showing a rapid progression within a short period. Our case was rare and holds value in understanding the progression of early-stage duodenal adenocarcinoma.
十二指腸腫瘍はまれな疾患であり,乳頭部腫瘍を除く原発性十二指腸腫瘍の剖検例における発生頻度は0.02~0.5%程度である 1)~3).さらに表在型非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍(superficial non-ampullary duodenal epithelial tumor:SNADET)が上部消化管内視鏡検査(EGD)で発見される頻度は,腺腫で0.039%,癌で0.017%と報告されており極めてまれである 4).近年,内視鏡診断の進歩によりSNADETの報告は増加しているが,疾患頻度が低いことから,早期十二指腸癌の悪性度や増殖速度,治療適応,予後などに関する知見は未だ十分に得られていない.今回われわれは,十二指腸粘膜内癌と診断し病変発見から3カ月後に内視鏡切除を行ったが,手術日までの短期間に病変が増大し,非治癒切除後の経過観察中(病変発見から14カ月後)に原病死となった症例を経験したため報告する.
症例:80歳,男性.
主訴:なし.
既往歴:声門癌,膵管内乳頭粘液性腫瘍,慢性閉塞性肺疾患.
内服:なし.
現病歴:2018年8月,当院耳鼻科での声門癌術後の消化管スクリーニングとして施行されたEGDにて,十二指腸球部に腫瘍性病変を認めたため当科紹介となった.
入院時現症:血圧:122/70mmHg,脈拍:60/分,体温:36.8℃,SpO2:96%(room air).身体所見に特記すべき事項なし.
臨床検査成績:CEA 4.0ng/mL CA19-9 41U/mL,抗Helicobacter pylori IgG 抗体3U/mL.
EGD:2018年8月のスクリーニング検査で,十二指腸球部下面に大きさ6mmの境界明瞭な陥凹性病変を認めた(Figure 1).色素内視鏡では陥凹の辺縁不整が明瞭となり癌と診断した.陥凹内には胃粘膜上皮様の小隆起を認め,異所性胃粘膜であると考えた.背景粘膜には散在する異所性胃粘膜を認めた.小隆起部からの生検検体では,表層は過形成性の胃腺窩上皮であったが,上皮下間質に核が偏在した印環細胞癌がびまん性に増殖する像を認めた.

初回発見時の上部消化管内視鏡検査.通常内視鏡像.
2018年9月の精査内視鏡検査(Figure 2)では,病変は8mm大に増大していたが,病変に厚みや硬さはなく粘膜内癌であると考えた.Narrow band imaging(NBI)拡大観察(Figure 3)では,陥凹部の腺管構造は不明瞭化しており,上皮下の腫瘍によって微小血管が圧排・伸長される所見を認めた.陥凹部の微小血管の走行は不規則であり,未分化型癌に伴う所見であると考えた.胸腹部の造影CTで明らかなリンパ節転移や遠隔転移は認めず,胃癌取り扱い規約に基づきcT1N0M0 stageⅠAと診断し内視鏡的治療対象病変であると考えた.病変は未分化型癌であり,確実な一括切除を行うには内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)による切除が望ましいと考えた.しかし十二指腸ESDは穿孔などの偶発症率が高いことが報告されており 5),当院では十二指腸ESD後潰瘍を腹腔鏡下に十二指腸壁外から縫縮する腹腔鏡内視鏡合同手術(Laparoscopic endoscopic cooperative surgery for duodenal tumors:D-LECS)を行っているため,本症例もD-LECSでの切除が望ましいと考えた.なお,術前に深部断端陽性であった場合の外科的追加切除の可能性についても説明したが,希望されなかった.

初回発見から1カ月後の精査内視鏡検査.通常内視鏡像.

精査内視鏡時のNBI拡大内視鏡像.
同年11月のD-LECS時,病変は球部下面に10mm大の病変として認識された(Figure 4).病変全体が明らかな厚みを有し,陥凹周囲に辺縁隆起を伴っていた.一括切除後の病理組織結果をもとに今後の治療方針を決定する方針とし,FlushKnife BT-Sを使用して偶発症なく一括切除した.病変回収後,腹腔鏡にて十二指腸壁外からESD後潰瘍を外科的に縫縮した.術後経過に問題なく,術後10日目に退院となった.

初回発見から3カ月後のD-LECS時の内視鏡像.
切除標本病理所見:切除標本では,病変は辺縁隆起を伴う10×8mm大の境界明瞭な不整形陥凹性病変として認識された(Figure 5).切除標本の切片#6の組織学的検討では,陥凹部に一致して低分化腺癌がびまん性に増殖し,一部に印環細胞癌を認めた(Figure 6-a,b).病変は粘膜筋板を越えて粘膜下層(SM)に達し,腫瘍最深部は粘膜筋板下端から1mmを越えていた.深達度は少なくともpT1bと考えられ,垂直断端は陽性であった.抗podoplanin染色では,リンパ管内に腫瘍細胞を多数認めリンパ管侵襲陽性であった.以上より胃癌取り扱い規約15版に準じて,34×26mm,Type0-Ⅱc,10×8mm,por2>sig,pT1b(SM2)or more,pUL0,Ly1,V0,pHM0(5mm),pVM1と診断した.腫瘍部はMUC5AC染色が陽性となり,胃腺窩上皮型粘液形質であることが確認された(Figure 6-c).腫瘍周囲にはMUC5AC陽性の胃上皮化生粘膜を認めたが,MUC5AC陽性腫瘍部との間に明らかな連続性は認めなかった.なお,腫瘍のKi-67 indexは,30%であった.

ホルマリン固定標本.
黄線:粘膜内癌.
赤線:粘膜下層浸潤部.

切除切片の病理組織像.
a:ルーペ像(切片#5).
b:ルーペ像の赤枠拡大像(100倍)(割面#5).
c:MUC5AC染色(割面#6).
赤点線部:MUC5AC陽性の腫瘍部.
青点線部:MUC5AC陽性の非腫瘍部.
転帰:D-LECSの病理結果は非治癒切除であったため,追加治療として膵頭十二指腸切除術が勧められたが 6),患者が希望せず経過観察となった.4カ月ごとのEGDとCT検査で経過観察がなされ再発なく経過していたが,2019年10月初旬より右季肋部痛と食思不振が出現した.血液検査で肝胆道系酵素や膵酵素の上昇を認め,胸腹部造影CT検査では十二指腸下行脚から膵頭部にかけての腫瘤影や総胆管拡張,主膵管拡張,傍大動脈リンパ節転移,肝転移を認めた.入院加療となったが,全身状態は悪化の一途をたどり2019年11月に原病死となった(Figure 7).

201X+1年10月の腹部造影CT像.
本症例は発見時,内視鏡診断および生検により未分化型の原発性早期十二指腸癌と診断した症例である.同腫瘍は未分化型癌であるだけでなく胃型形質を有する癌であったが,それが短期間に増大したことは,今後十二指腸癌の悪性度や治療方針を検討するうえで重要な症例であると考えられたため報告した.
原発性十二指腸癌の組織発生は,①de novo発生,②十二指腸腺腫の癌化,③ブルンネル腺由来,④異所性胃粘膜由来,⑤迷入膵などが挙げられる 7),8).本症例では,術前の上部内視鏡検査で背景の球部粘膜に異所性胃粘膜を疑う小隆起が散在した.また,D-LECS後の切除検体の免疫染色では,周囲の非腫瘍性粘膜内に胃型形質を呈する胃上皮化生粘膜が散見された.胃上皮化生粘膜は十二指腸炎や潰瘍などの後天的な炎症に伴って生じる胃腺窩上皮のみの組織であり,胃腺窩上皮に加えて主細胞,壁細胞からなる胃底腺を認める異所性胃粘膜とは区別される 9).本症例は,内視鏡所見および組織学的検討から,胃上皮化生粘膜由来の可能性が考えられた.しかし,腫瘍と連続して併存する胃上皮化生粘膜を認めないことから,本症例が胃上皮化生粘膜由来であるとは確定できなかった.腫瘍の由来は確定されなかったものの腫瘍部はびまん性にMUC5AC陽性であり,本症例は胃型形質を呈する十二指腸癌であると診断された.
牛久らの十二指腸癌31例(早期癌:16例,進行癌:15例)における検討 10)では,早期癌の中でリンパ管侵襲や静脈侵襲を認めた症例は4例で,いずれも胃型形質を有するSM浸潤癌であった.さらに,Minatsukiらの早期十二指腸癌の検討では,少数例での検討ではあるものの胃型形質を有する症例は有意にSM浸潤の頻度が高かったと報告している 11).Ushikuらの十二指腸進行癌における生存分析でも,胃型形質癌は腸型形質癌と比較して予後が不良であったとされ 12),これらのことから,十二指腸非乳頭部癌が胃型形質を呈する場合は,腫瘍の悪性度が高い可能性が示唆される.
また,十二指腸非乳頭部に発生する癌は分化型腺癌が多く,未分化型癌はまれである 13).十二指腸未分化型癌について,医学中央雑誌で「十二指腸/十二指腸癌/原発性十二指腸癌」と「低分化腺癌/低分化型腺癌/印環細胞癌/未分化型癌」といったキーワードを組み合わせを変えて検索したが,非乳頭部に発生した早期の未分化型癌の報告は4例のみであり(Table 1) 13)~16),郷田らの国内多施設アンケート調査におけるSNADET364例の検討でも低分化腺癌は2例(1.2%)のみであった 16).一般的に,他の消化管における未分化型癌は悪性度が高いとされるが,原発性早期十二指腸癌の未分化型癌の報告は極めて少なく,その悪性度や腫瘍の増殖速度は不明である.なお,進行癌も含めた検討では,未分化型は十二指腸癌の中でも予後不良であるとの報告があり 17),竹田らが検索しえた十二指腸原発未分化型癌9例のうち8例で外科的根治術が施行されていたが,予後記載のあった6例のうち3例で術後3カ月以内に死亡したと報告がなされている.十二指腸未分化型癌の予後に関しては多数例での報告が存在しないが,自験例や他臓器の未分化型癌において予後不良例が多いことを踏まえると,組織型は重要な予後規定因子の一つとなりうると考えられた.

十二指腸早期未分化型癌の報告例.
十二指腸における胃型形質を伴う低分化腺癌や印環細胞癌に対する内視鏡治療の適応は,本症例の経験からは慎重に考慮すべきである.また,患者への十分な説明と同意のもと内視鏡治療を選択するのであれば,未分化型の原発性早期十二指腸癌の増殖速度を考慮して,より早期に治療を行う必要があると考えられた.今後症例を集積し,原発性早期十二指腸癌における悪性度や治療適応,予後などに関して知見を重ねる必要がある.
短期間に増大した胃型形質の十二指腸低分化腺癌/印環細胞癌の1例を経験した.
なお,本論文の要旨は日本消化器病学会近畿支部第111回例会にて発表した.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし