日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
経口胆道鏡にて診断しえた再発肝細胞癌の1例
勝又 理沙金子 俊 小林 正典中川 美奈勝田 景統加藤 祐己桐村 進大塚 和朗朝比奈 靖浩岡本 隆一
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2023 年 65 巻 12 号 p. 2413-2420

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要旨

症例は71歳,男性.55歳からC型肝硬変にて当院通院中であった.肝細胞癌再発に対して肝動脈塞栓術やラジオ波焼灼療法を複数回行われており,70歳時には陽子線治療,肝動脈塞栓術が行われた.その後の画像検査では再発所見なく経過していたが,門脈血栓を生じ抗血栓療法が開始された.今回,胆道出血による閉塞性胆管炎を発症し,出血源の精査目的に行った経口胆道鏡で前区域枝根部に白苔の付着した易出血性の腫瘤を認めた.生検では壊死・変性を伴うGlypican-3陽性の異型細胞を認め,肝細胞癌胆管浸潤と診断して肝癌薬物療法を導入した.肝細胞癌の再発を経口胆道鏡でのみ診断しえた症例は稀であり文献的考察を加えて報告する.

Abstract

A 71-year-old man was on regular follow up for hepatitis C-related cirrhosis and hepatocellular carcinoma (HCC). At 70 years of age, he had undergone proton beam radiation for HCC located in S8 near the hepatic portal vein and transcatheter arterial chemoembolization in peripheral S6 and the dome (S8). Thereafter, no recurrence of HCC was seen on contrast-enhanced CT/MRI. However, he had recurrent obstructive jaundice and cholangitis due to biliary hemorrhage. Peroral cholangioscopy revealed a white mass with blood clots at the root of the biliary tract in the anterior segment. Biopsy of this mass revealed atypical cells with necrosis and degeneration, and immunostaining for Glypican-3 was positive. Based on these results, he was diagnosed with hepatocellular carcinoma with bile duct invasion. Lenvatinib was administered as chemotherapy for HCC. We report a rare case in which diagnosis and therapeutic intervention were achieved by performing peroral cholangioscopy in a patient with radiological image (CT/MRI) negative hepatocellular carcinoma.

Ⅰ 緒  言

肝がんは予後不良の疾患であり,死亡者数は悪性新生物の中ではわが国では第5位である 1.その中で肝細胞癌は90%を占める主な悪性腫瘍であり,世界的な健康問題となっている 2),3.肝細胞癌の診断としては造影CT,造影MRIが中心となるが 4,種々の治療が介入されている症例や,胆管浸潤例では肝細胞癌再発の診断に難渋することが多い 5.今回われわれは造影CT,造影MRIでは明らかな肝細胞癌再発病変を指摘できなかったにもかかわらず,胆道出血が契機となり経口胆道鏡検査を行うことで,肝細胞癌胆管浸潤再発を診断可能であった症例を経験した.造影CTおよび造影MRIでは診断できず,胆道鏡でのみ肝細胞癌を診断しえた症例は稀であり,肝細胞癌診断における経口胆道鏡の新たな有用性が示唆されたため文献的考察を加えて報告する.

Ⅱ 症  例

患者:71歳,男性.

主訴:右季肋部痛.

既往歴:扁桃炎術後,C型肝硬変,門脈血栓症.

生活歴:喫煙:20-40本/日×5年,飲酒:機会飲酒,アレルギー:ペニシリン・シプロフロキサシン,輸血歴:あり(18歳:扁桃腺手術).

家族歴:なし.

現病歴:55歳時にC型肝硬変を指摘され,58歳で初発の肝細胞癌に対して経皮的ラジオ波焼灼術(radiofrequency ablation:RFA)が行われた.62歳時には門脈血栓症を指摘されワルファリン内服を開始した.63歳に抗C型肝炎ウイルス薬内服し,sustained virologic response(SVR)が達成された.その後も肝細胞癌再発を繰り返し,肝動脈塞栓術(transcatheter arterial chemoembolization:TACE)を8回,RFAを4回行われていたが,70歳で肝S8の肝細胞癌に対して陽子線治療,肝S6辺縁およびS8ドーム下の肝細胞癌に対してTACEが行われて以降,造影CTおよび造影MRIによる画像所見上は再発なく経過していた.

今回入院の2カ月前にも心窩部痛にて受診した経緯がある.WBC 4,100/μl,CRP 0.56mg/dl,AST 141U/l,ALT 69U/l,ALP 344U/l,γ-GTP 223U/l,T-Bil 3.8mg/dl,D-Bil 2.0mg/dlと肝胆道系酵素上昇あり,造影CTで,肝内胆管,総胆管の拡張を認め閉塞性黄疸の診断で入院した.なお,この際の造影CTでは門脈血栓は認めなかった.内視鏡的逆行性膵胆管造影検査(ERCP)では,乳頭部からの出血を認め,胆道出血による閉塞と考えた.胆道内の血腫の排泄を促進させるため,内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)を行った上で,経鼻胆管ドレナージ(endoscopic nasobiliary drainage:ENBD)チューブを留置し,心窩部痛,肝障害とも速やかに改善した.採取した胆汁細胞診はClassⅡであった.出血原は不明であったが以前から門脈血栓症に対して内服していたワルファリンの中止のみで止血され,陽子線治療後の炎症にワルファリンが加わったことで出血したと考え経過観察となっていた.その後,ワルファリンは中止したまま外来に定期通院していたが,約2カ月の経過で,D-dimerが6.2μg/mlから18.1μg/mlに上昇し,門脈血栓症の再発が疑われたためエドキサバン15mgを開始した.開始翌日に急激な心窩部痛を発症して受診し,胆道出血の再発と閉塞性胆管炎の診断で再度,緊急入院した.

入院時現症:意識清明,身長170cm,体重78kg,体温36.5℃,血圧135/69mmHg,脈拍95回/分.眼瞼結膜貧血なし,眼球結膜黄染なし.腹部は平坦・軟で心窩部に圧痛を認めた.

血液生化学検査:WBC 4,400/μl,Hb 10.8g/dl,Plt 5.9×104/μl,Alb 2.8g/dl,BUN 12.8mg/dl,Cre 0.81mg/dl,CRP 1.37mg/dl,AST 102U/l,ALT 43U/l,ALP 63U/l,γ-GTP 74U/l,T-Bil 2.0mg/dl.凝固系検査:PT 64.0%,D-dimer 15.5μg/ml.肝胆道系酵素,D-dimerは上昇し,腫瘍マーカーはAFP 58.9ng/ml,L3分画32.3%と上昇していた(Figure 1).

Figure 1 

腫瘍マーカー(AFP,L3分画)の推移.

肝細胞癌治療後低下傾向にあったAFP,L3分画の再上昇を認める.

TACE: transcatheter arterial chemoembolization, ERCP: endoscopic retrograde cholangio pancreatography, LEN: lenvatinib, Anti-PVT: anti-coagulant therapy for portal vein thrombosis

腹部造影CT検査(Figure 2):肝臓は右葉前 区域が高度に萎縮し変形していた.胆囊内腔に高吸収域を認め,左肝内胆管は拡張していた.門脈本幹から肝内門脈の大部分に門脈血栓を認めた.胆管内含め肝内に明らかな腫瘍性病変は指摘できなかった.

Figure 2 

入院時造影CT.

a:軸位断.

b:冠状断.肝臓は右葉優位に高度に萎縮変形していた.胆囊,胆管内腔に高吸収域を認め(黄矢頭),左管内胆管は拡張していた.門脈本幹から肝内門脈の大部分に既知の門脈血栓を認めた(赤矢頭).肝内に明らかな腫瘍性病変は認めなかった.

ERCP検査(Figure 3-a):前回と同様十二指腸乳頭から血液の排出を認め胆道出血と考えた.胆道造影では右前区域枝,後区域枝は描出されなかった.左肝内胆管B4の合流部近傍に血餅と思われる透亮像が観察され,出血源と考えた.B3にENBDチューブを留置して終了した.

Figure 3 

ERCP.

a:入院日.

b:入院後7日のERCP像.入院日の造影で左肝管のB4合流部近傍に認めた透亮像(黄矢頭)は入院後7日では消失しており,血餅と考えられた.

入院後経過:繰り返す胆道出血で,門脈血栓に対して継続的な抗血栓療法が必要であったことから出血源の同定が必要と判断した.抗血栓薬を休薬しENBDチューブ造影で血餅が消失し(Figure 3-b),排液からも血液の流出なく止血されたのを確認した上で,入院7日目に経口胆道鏡を行った.

胆道鏡所見(Figure 4):経口胆道鏡(SpyGlassTM DSⅡ,Boston scientific,Natick,MA)で右後区域枝はいわゆる早期分岐の所見で単独分岐であり,右前区域枝は左方に偏位していた.右前区域枝の根部にはまり込む形で類円形の白苔に覆われた隆起性病変を認め,同部位に血餅の付着を認めた.生検を行うと生検鉗子(SpyBiteTM Max Biopsy Forceps,Boston scientific,Natick,MA)が埋もれる柔らかい腫瘍で,生検でも容易に出血する易出血性の腫瘍であった.生検後,前区域枝の腫瘍の再出血予防目的にフルカバー金属ステントを留置する方針とした.前区域枝に近いB4に閉塞予防目的に7 Fr 12cmのストレート型プラスチックステント(FleximaTM Plus,Boston scientific,Natick,MA)を乳頭出しで留置した上で,腫瘍のある前区域枝を塞ぐ一方で,後区域枝塞がないように6mmを選択してB2/3合流部を遠位端としてフルカバー金属ステント6×120mm(HANAROSTENT Biliary Full Cover BenefitTM,Boston scientific,Natick,MA)を近位端が乳頭から出るように留置した(Figure 5).

Figure 4 

胆道鏡.

前区域枝根部にはまり込む形で類円形の白苔に覆われた隆起性病変を認め,同部位に血餅の付着を認めた.

Figure 5 

ERCPステント挿入時.

前区域枝の圧迫止血を考えた際に,B4が閉塞することを懸念してまずはB4に7 Fr 12cmのストレート型プラスチックステントを留置した上で,総胆管径から後区域枝を閉塞させない径の6mmを選択して,B2/3合流部を遠位端として6×120mmのフルカバー金属ステントを乳頭出しで留置した.

病理所見(Figure 6):生検検体は壊死・変性を伴う少数の異型細胞を認め,免疫染色ではGlypican-3陽性であり,肝細胞癌と診断した.

Figure 6 

胆管腫瘤生検病理.

a:HE染色では壊死・変性を伴う異型細胞を認めた.

b:免疫染色ではGlypican-3陽性であった.

Scale bars:50μm

処置後経過:ステント留置の翌日からアンチトロンビン製剤とダナパロイドナトリウムによる門脈血栓溶解療法を開始し,以降出血なく門脈血栓の縮小も確認された.肝細胞癌再発に対してレンバチニブを導入し,その後も有害事象の出現なく,処置後19日で退院した.レンバチニブでの治療開始から約1カ月後にはAFP 17.2ng/ml,L3分画25.0%と腫瘍マーカーの低下を認めた.

Ⅲ 考  察

肝細胞癌における画像診断は一般的に造影CTまたは造影MRIによって行われ,補助的に造影超音波,肝腫瘍生検が行われる 4.造影CTの肝細胞癌における診断の感度,特異度は89%,99%と良好であり 6,造影MRIの感度も86%とされるが 7,腫瘍サイズに依存し,2cm未満の腫瘍において感度は47%まで低下する 8.さらに予後不良とされる肝細胞癌の胆管浸潤 9)~11は1~9%と比較的稀な上に,造影CTまたは造影MRIではその検出が難しいとされている 5

近年,経口胆道鏡が普及し,胆管狭窄の評価や直視下での生検,胆道出血の評価に関して有用とする報告があり 12,胆道鏡の診断に関するレビューも報告されている.これらの報告では主に胆管癌を対象として直視下生検の感度は60~69%,特異度は98%程度であるとされ 13),14,観察のみでも感度は90%,特異度は87%とする報告もあり高い有用性が期待されている 14.胆道出血に対しての胆道鏡の有用性についてはangiodysplasia 15,胆のう癌 16に関するものの他に,肝細胞癌胆管浸潤に関しても報告されており 17),18,本症例のように画像上明らかな出血源が不明な胆道出血に対しては行う意義は高いと思われる.

肝細胞癌の胆管浸潤に関して胆道鏡で観察しえた報告について,PubMedで「hepatocelluar carcinoma」「bile duct invasion」「cholangioscopy」,医中誌で「肝細胞癌」「胆管浸潤」「胆道鏡」をキーワードとして組み合わせ検索を行ったところ,それぞれ論文報告として5件,2件あり,あわせて7件であった(Table 1 17)~23.造影CTまたは造影MRIにて全例胆管拡張がみられていた.肝内または胆管内に腫瘤を認めその観察および生検目的に胆道鏡を施行した症例 18)~23,もしくは本症例と同様腫瘤は認めなかったものの胆道出血の出血源精査のため胆道鏡精査を施行し肝細胞癌の診断に至った症例 17があった.本症例のように肝細胞癌治療後の経過中に胆道鏡でのみ再発が診断できた症例はなかった.肝細胞癌胆管浸潤の胆道鏡の所見としては易出血性,血餅または白苔の付着する腫瘤といった特徴が共通して挙げられており,本症例でも矛盾しない所見であった.

Table 1 

胆道鏡で診断しえた肝細胞癌胆管浸潤の既報のまとめ.

本症例では肝細胞癌に対する陽子線治療後であり,照射部位からも当初胆道出血は陽子線治療に伴うものと考えていた.陽子線治療に関する有害事象として,早期では皮膚炎,腹部膨満,嘔気,晩期では色素沈着,腹水,肺炎などが挙げられており 24)~26,胆道出血に関する既報はないものの,消化管に隣接する病変では消化管出血も報告されており 27),28,考えうる合併症と考えていた.しかし,本症例も結果的には肝細胞癌の胆管浸潤が原因であった.陽子線治療後の経過においてはいまだ症例の集積が不十分なため,本症例のようにCTやMRIの画像では指摘できない再発がある可能性に留意する必要がある.

肝癌診療ガイドライン2021年版 29では胆管浸潤を含む脈管侵襲陽性肝細胞癌の推奨治療として切除可能例では肝切除,切除不能例では全身薬物療法を推奨しており.本症例については肝障害度,全身状態を含めた耐術能評価からは外科的切除は困難であった.近年,内視鏡的胆管内ラジオ波焼灼術が可能となり,肝外胆管癌と乳頭部癌に関して無作為化比較試験が2報 30),31報告されているが肝細胞癌の胆管浸潤に関する報告はない.本症例では前区域枝にはまり込むような腫瘍で,焼灼プローブで十分焼灼できるか難しい位置であったこと,また易出血性の肝細胞癌で十分な焼灼が得られないと出血を助長させる可能性があったことから行わなかった.レンバチニブの胆管浸潤肝細胞癌例に対する有効性の報告もあり 32,本症例においては肝癌診療ガイドライン 29に順じて,全身薬物療法であるレンバチニブを選択した.

本症例では胆道出血を契機に,他の画像検査では指摘できない胆管浸潤を来した肝細胞癌の再発を経口胆道鏡で診断できたことで,肝癌薬物療法の開始につながり,適切な治療介入が可能となった.肝細胞癌の経過中は治療修飾により再発評価が画像上,困難になることから,原因不明の胆道出血などで胆道病変が疑われる際には再発の可能性を考え経口胆道鏡による精査を検討すべきと考えられる.

Ⅳ 結  語

肝細胞癌の治療経過において胆道出血を認めた場合には肝内に明らかな病変を認めなくとも肝細胞癌の胆管浸潤を鑑別に挙げ,胆道鏡を施行することで診断および適切な治療介入が可能になることが示唆された.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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