日本消化器内視鏡学会雑誌
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手技の解説
内視鏡検査・治療におけるプロポフォールを使用した鎮静法
久保田 陽石戸 謙次草野 央
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2023 年 65 巻 2 号 p. 147-153

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要旨

内視鏡検査・治療における鎮静は,患者苦痛の軽減や安全に治療を行うという観点から,その必要性が増してきている.本邦ではベンゾジアゼピン系薬剤が鎮静薬として頻用されているが,2017年に発表された「内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第2版)」において内視鏡検査・治療におけるプロポフォールの有用性や,消化器内視鏡医によるプロポフォールの使用の可能性に関して明記されるようになった.しかし,保険収載の問題や安全面の問題から内視鏡検査・治療におけるプロポフォールの使用は未だ限定的である.そのため,消化器内視鏡医がプロポフォールを用いた鎮静をより安全かつ的確に行えるよう,さらなる症例の集積が望まれると共に,鎮静に関する教育システムを構築することが今後の課題と思われる.

Abstract

Sedation in endoscopy and treatment is becoming increasingly necessary for the purposes of reducing patient distress and ensuring safe treatment. In Japan, benzodiazepines are frequently used as sedative agents and the second edition of the Guidelines for Sedation in Endoscopic Practice (published in 2017) now includes a clear statement regarding the usefulness of propofol in endoscopy and treatment and the possibility of propofol use by gastrointestinal endoscopists. However, use of propofol in endoscopic practice and treatment remains limited due to insurance coverage issues and safety concerns. Therefore, it is desirable to accumulate more cases so that endoscopists can safely and accurately sedate patients with propofol, and subsequently establish an educational system for sedation.

Ⅰ はじめに

早期消化管腫瘍に対する内視鏡診断や治療技術は日々進歩している.わが国における内視鏡診療における鎮静は,欧米と比較して実施率が低く,忍耐強い国民性を背景にした歴史がある.最近では苦痛のない内視鏡検査を希望する割合も増え,通常の上部・大腸内視鏡検査においても鎮静を用いる施設が増加し,高度かつ長時間に及ぶ治療内視鏡においては,鎮静は必須となっている.

本邦では,日本消化器内視鏡学会より,2013年に「内視鏡診療における鎮静ガイドライン」 1が報告され,さらに2020年には,「内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第2版)」が報告された 2.消化器内視鏡専門医,麻酔科医によって,Evidence Based Medicineに基づいて作成され,鎮静薬の使用にあたっての安全性の確保,有用性,適切な鎮静薬の選択について報告されている.ガイドラインの改訂に伴い消化器内視鏡分野における鎮静は,今後さらに重要度の高い医療行為として認識されていくものと考えられる.

内視鏡検査・治療における鎮静で使用される主な薬剤には,催眠鎮静薬としての作用を有するベンゾジアゼピン系薬剤(ジアゼパム,ミダゾラム,フルニトラゼパム,デクスメデトミジン塩酸塩)をはじめ,オピオイド性鎮痛薬(ペチジン塩酸塩,フェンタニル),拮抗性鎮痛薬(ペンタゾシン),そして静脈麻酔薬(プロポフォール)が挙げられる.中でも本邦においては,ベンゾジアゼピン系が比較的簡便かつ安全性が高い点や,拮抗薬が存在するという点から内視鏡鎮静薬として頻用されている.しかし,ベンゾジアゼピン系薬剤で良好な鎮静が得られず,診断や治療に支障をきたす症例に遭遇する機会も経験する.慢性腎不全の患者では,腎代謝であるベンゾジアゼピン系薬剤は代謝が遷延するため,低酸素血症や呼吸不全をきたす可能性が報告されている 3.また抗精神病薬を服用中の患者では,通常量の鎮静薬では十分な鎮静が得られず,その投与量が増加する可能性が示唆されている 4),5.そのような症例においてはプロポフォールが推奨されているが 2,本邦におけるプロポフォールの使用に関しては保険収載や安全面から,内視鏡鎮静で用いられることは一般的ではないのが現状である.しかし近年,欧米や本邦でも内視鏡治療におけるプロポフォールの安全性や有効性に関する報告が散見されるようになった 6)~9.そこで今回内視鏡検査・治療におけるプロポフォールの有用性,現状,そして今後の課題に関して概説する.

Ⅱ 鎮静・鎮痛の定義,必要性

まず内視鏡検査・治療における鎮静,鎮痛の定義を統一する.鎮静(sedation)は,投薬することで患者の意識レベルの低下を惹起することとされている.鎮痛(analgesia)とは意識レベルを維持したまま,痛みを軽減させることである.内視鏡検査・治療における鎮静の役割は,患者の不安や不快感を軽減し,手技に対する満足度を高めることである.内視鏡検査における患者の視点から鎮静の有用性を評価したメタアナリシスが2008年に報告され,鎮静を受けた患者の満足度は88~91%と高く,また再検査を行う際に鎮静を希望する患者は82~97%と非常に多い結果であった 10.また消化器内視鏡医の観点からは良好な鎮静が得られることで,安全かつ的確に処置を行えることが大きな利点と考えられる 11.大腸内視鏡検査において,麻酔薬と鎮静剤を併用することで終末回腸への到達する速度は早かったことが報告されており 12,患者,消化器内視鏡医の両観点からみても鎮静が有益な処置と考えられる.

処置における鎮静レベルに関しては,本邦ではASA(American Society of Anesthesiologists;米国麻酔学会)の鎮静・麻酔レベルを採用しており(Table 1 13,また鎮静麻酔の深度に関しては簡易的に評価できるRamsay鎮静スコアを汎用することが一般的である(Table 2 14.内視鏡検査・治療における最適な鎮静レベルは口頭または触覚刺激に対して意図して反応でき,気道維持に関して処置介入を必要としない,いわゆるmoderate sedationの状態とされており,これはRamsay鎮静スコアの3に相当する 2

Table 1 

米国麻酔学会 鎮静・麻酔の分類.

Table 2 

Ramsay 鎮静スコア.

Ⅲ プロポフォールの作用

①プロポフォールとは?

プロポフォール(2,6-ジイソプロピルフェノール)は麻酔導入や維持,鎮静処置に用いられる薬剤である.卵黄レシチン,グリセロール,大豆油を含む1%等張水中油型脂肪乳濁駅として調節される.そのため卵,大豆アレルギーの患者には注意して使用する必要がある.また細菌増殖を防ぐため,製造会社によってはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)やジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)受容体,ベンジルアルコールが添加されている.

②作用機序

プロポフォールは中枢神経系のγ-アミノ酢酸タイプA(GABAA)受容体に作用し,細胞外のCl-を細胞内に流入されることで細胞自体が過分極し興奮性が低下し,抑制性神経伝達を増強させる.

③薬物動態

主な代謝臓器は肝臓であるが,肝臓以外(腎臓,肺)においても代謝酵素が含まれているため,覚醒の質がよく,悪心・嘔吐が少ないとされている.薬理活性のない代謝産物となったのち,腎臓から排泄される.また全血中濃度は3相性で,各相の半減期は2.6分(t1/2α),51.0分(t1/2β),365分(t1/2γ),となっている 3.拮抗薬がないものの,持続投与を中止し中枢コンパートメントの薬物濃度が50%に低下する時間(context-sensitive half-time;CSHT)は2時間の注入でも15分と短いため,中止することで速やかに意識が改善され,投与時間による影響は少ないとされている.

④副作用,欠点

プロポフォールは催眠作用があるが鎮痛作用はなく,健忘作用もベンゾジアゼピン系と比較して弱い欠点がある 15.心血管系の副作用としては,用量依存性に前負荷と後負荷を減少させるため,心収縮性の低下をきたし,血圧低下や心拍出量の低下を招く場合がある.さらに呼吸器系の副作用としては,用量依存性に呼吸数と1回換気量を減少させる.そのため,循環器系や呼吸器系に障害を有する患者や高齢者に関しては,低血圧,徐脈,無呼吸などをきたす可能性があるため,1回投与量を少量にして緩徐に投与することが推奨されている 2.またベンゾジアゼピン系薬剤との併用で,麻酔・鎮静作用が増強され,収縮期血圧,拡張期血圧,平均動脈圧,心拍出量が低下し循環器系に影響を及ぼす可能性あるため注意が必要である.さらにプロポフォールを静脈内投与する際に血管痛が生じることがあるため,太い静脈から投与するなど予防策も試みられている 2

Ⅳ 内視鏡検査・治療におけるプロポフォールの有用性に関して

欧米ではプロポフォールの使用数は増加傾向にあり,様々な報告が散見される.大腸内視鏡検査におけるプロポフォールと既存の鎮静薬を比較したメタアナリシスでは,プロポフォールは低血圧や低酸素血症の減少,鎮静到達時間,回復時間,離床時間,離院時間の短縮が報告されている 6),7.本邦では,長い手技時間を要する内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)に関して,プロポフォールは既存の鎮静薬と比較して,体動に伴う手技中断の頻度が少なく,術後覚醒率が有意に高く,また低酸素血症や血圧低下に関しては有意差がなかったと報告されている 8.また食道ESDを対象としたプロポフォール群とミダゾラム群の比較では,プロポフォール群では低血圧の頻度は多かったが,ミダゾラム群と比較して有意に手技中断の頻度が少なく,医療者の満足度が高かったと報告されている 9.そのため,「内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第2版)」でも,内視鏡におけるプロポフォールの有用性に関して「適切なモニタリング下で使用されれば,偶発症は増加せず,回復・離床時間が短く,長時間にわたる手技中断率が低く,医師・看護師・患者満足度が高い」と記載されている 2

Ⅴ 内視鏡検査・治療におけるプロポフォールの推奨症例とは?

本邦における内視鏡検査・治療時の鎮静薬は,単回投与での作用持続時間が長く,術中の刺激の記憶が残りにくい静注用ベンゾジアゼピン系薬剤が広く用いられている.しかし,ベンゾジアゼピン系薬剤を用いても,特に大酒家を中心に鎮静困難となってしまう症例をしばしば経験する 16)~18.またGFR 60mL/分/1.73m2以下の腎機能が低下した症例の鎮静では,通常より低酸素血症や呼吸不全をきたす可能性が高く,短時間作用型で肝代謝であるプロポフォールが推奨されている 3.またベンゾジアゼピン系薬剤やオピオイド性鎮痛薬,抗精神病薬などを常用している症例に対しては,耐性により鎮静薬の投与量が増加する傾向にある.そのため患者満足度が低下し,安全に検査が施行できない可能性もある 4),5.さらにベンゾジアゼピン系薬剤は随意筋と呼吸筋の筋弛緩作用を有するため,重症筋無力症の増悪の可能性があるため禁忌とされている 2.一方,プロポフォールは神経筋接合部への影響がなく,短時間で作用する点で重症筋無力症症例に対する有用性が報告されている 19

以上のようにベンゾジアゼピン系薬剤にて鎮静が困難な症例,慢性腎不全の症例,抗精神病薬を常用している症例,そして重症筋無力症を合併している症例においてはプロポフォールの使用が考慮される.また,このような症例に遭遇することも想定し,事前に既往歴,生活歴(飲酒歴,喫煙歴,内服歴)など聴取することが非常に重要である.

Ⅵ プロポフォールを用いた鎮静時の患者モニタリング

①鎮静前の準備,確認しておくべきこと

内視鏡検査・治療における鎮静は中等度鎮静(moderate sedation)が推奨されているが,治療の内容や治療時間,患者の状態により鎮静深度を変える必要がある 13),20.また,術者が手技と鎮静を同時に施行していると,治療に集中している際に,患者の状態を適切にモニタリングできなくなる可能性がある.そのため鎮静下の内視鏡検査時は,施行医とは別にモニタリング専任の医師を配置することが推奨されている 21),22.さらに,プロポフォールは呼吸が保たれている鎮静状態から,自発呼吸が停止する全身麻酔の状態までの領域が狭いため,容易に過鎮静になりやすい.さらに拮抗薬も存在しないため,心疾患,閉塞性睡眠時無呼吸症候群,高度肥満,肝不全,腎不全など鎮静のリスクが高い症例においては麻酔科医によるバックアップが必要不可欠である.「内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第2版)」においてもプロポフォールで鎮静を行う際は,「鎮静深度に十分注意しASA-PS分類ⅠまたはⅡの患者に限れば,気道確保などの訓練を受けた医師によるプロポフォール使用は可能である」と明記されている.

鎮静前の準備として,患者の併存疾患の有無や薬剤歴などの問診,血圧,脈拍などバイタルサインを把握しASA分類を用いて鎮静に伴うリスクを評価することが重要である.また,消化器内視鏡医やコメディカルスタッフは急変時に迅速かつ冷静に対応できるように,救急カート(人工呼吸用酸素マスク,アンビューバック,挿管用具一式)の中身を確認し,急変時のシミュレーションや応援体制,蘇生講習を定期的に行うことが重要である.

②鎮静中のモニタリング

鎮静薬開始後の患者モニタリングにおいて重要なポイントは,視診と継続した呼吸循環動態の観察である 23.具体的に呼吸器系に関しては,視診や聴診により胸郭の動きを含めた呼吸状態や呼吸数を測定することである.パルスオキシメーターは血中酸素飽和度を的確に数値化してモニタリングできるため,重宝される呼吸モニターである 11.鎮静中は経鼻カニューレから継続して酸素投与を行い,パルスオキシメーターの数値を確認しながら,血中の酸素化を保つことが重要である.循環器系に関しては脈拍,血圧を監視することが大切であり,長い治療時間を有する症例や高齢者,心疾患の既往のある症例に関しては心電図モニタリングを行う必要がある 13.またプロポフォールによる鎮静時は,脳波を測定し客観的に鎮静レベルを数値化するbispectral index(BIS)モニター(BISモニターA-2000;アスペクト社製)が有用であり,処置に伴う過鎮静のリスクを軽減させることが報告されている 24),25

Ⅶ プロポフォールの実際の投与方法

プロポフォールを用いた内視鏡検査・治療の鎮静方法は各施設や処置の内容によって異なるのが現状である.投与方法は手動(マニュアル)で行うことも可能だが,ESDのように処置時間が長くなる症例においては,target controlled infusion(TCI)ポンプ(TE-371;テルモ社製)を使う方法も簡便である 26.それぞれの投与方法に関して以下に説明する.

A:手動で投与する方法

「内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第2版)」では,プロポフォールを0.5~2.0mg/kg静注することが推奨されており,添付文書では集中治療における人工呼吸中の投与量として初期投与:0.3mg/kg/h,維持投与:0.3~3.0mg/kg/hで調節するように記載されている 2.一方Imagawaらは初期投与量:1.0~1.4mg/kg(ボーラス投与),維持投与量:1.0~2.0mg/kg/h,追加投与:0.4~0.6mg/kg/hで上部消化管ESDが良好な鎮静下で施行可能であったと報告している 26.またYamagataらは上部消化管ESDに対して,鎮痛剤と併用してプロポフォールを手動で投与し安全に施行可能であったと報告している 27

B:TCIポンプを使用する方法

TCIポンプは,内蔵ソフトによりプロポフォールの予測血中濃度,脳内濃度の計算値が表示され,輸液ポンプの投与速度を調節し,プロポフォールの血中濃度を維持させることが可能である(Figure 1).プロポフォールの目標予測血中濃度は,添付文書上では目標血中濃度:3.0μg/mlから開始することが記載されている.一方海外では,上部・大腸内視鏡同時検査において,プロポフォールの目標血中濃度:2.0~4.0μg/mlに設定したところ,SpO2低下(90%以下)の頻度が高いことが報告されているため,目標血中濃度の初期設定が高い可能性が考えられる 28),29.本邦ではImagawaらが,ESDにおいて目標血中濃度を1.2μg/mlとして体動やバイタルサイン,BISモニター値を参考に血中濃度を0.2μg/mlずつ増減し調節したところ,SpO2低下の頻度が3.6%と低かったと報告している 30.そのため日本人においては,目標血中濃度を下げる必要性が示唆される.

Figure 1 

target controlled infusion(TCI)ポンプ(TE-371;テルモ社製).

Ⅷ 内視鏡検査・治療におけるプロポフォールの今後の課題

内視鏡検査・治療におけるプロポフォールの有用性に関しては多数報告されているが 6)~9),26)~30,本邦においてはプロポフォール使用に関して保険収載は未だ認可が下りていないのが現状である.その大きな理由として安全面が懸念される.前述したようにプロポフォールの鎮静コントロールが難しく,過鎮静に伴い呼吸循環機能が抑制され,患者への不利益が生じる可能性が考えられる.非麻酔科医によるプロポフォールを用いた鎮静の安全性に関する報告も散見されるが 31,対象症例がASA-PS分類ⅠまたはⅡの低リスク症例に限られており,ASA-PS分類Ⅲ以上の症例においては麻酔科管理下のプロポフォールの使用が推奨される 2.欧米では内視鏡における非麻酔科医におけるプロポフォール投与に関するガイドラインが存在するが 32,本邦では非麻酔科医がプロポフォールを安全に使用するための教育システムや指針がないため,現時点では欧米と同様に安全に施行できるかどうかは不透明である.今後,非麻酔科医である消化器内視鏡医がより安全にプロポフォールの鎮静が行えるような保険診療を含めた体制づくりが必要である.

Ⅸ おわりに

内視鏡検査・治療におけるプロポフォールの有用性,現状,そして今後の課題に関して概説した.内視鏡技術の普及と発展に伴い,鎮静の必要性が増えることが想定される.プロポフォールを用いた鎮静がより安全に施行できる様に,症例のさらなる集積と,教育システムの構築,保険診療の整備が望まれる.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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