消化管原発悪性リンパ腫は節外性リンパ腫のなかで30~40%を占めており,消化管はリンパ節に次ぐ悪性リンパ腫の好発臓器である.消化管悪性リンパ腫は組織型と臨床病期により予後を含めた臨床経過,選択すべき治療法が異なるため,正確な病理組織診断および病期診断が求められる.また,さまざまな組織型があり内視鏡所見も多彩であるが,病型とある程度対応しているため,消化管悪性リンパ腫の基本的な発育進展様式を理解した上で,組織型ごとの特徴的な内視鏡所見を把握することが正確な病理組織診断につながる.本稿では代表的な内視鏡所見を提示しながら,消化管悪性リンパ腫の内視鏡診断の要点について概説する.
症例は76歳,男性.食道胃接合部癌に対し食道亜全摘術および胃管再建術を施行された.術後7日目に嚥下障害がみられ,各種検査により吻合部の完全閉塞と診断した.対側の食道粘膜を巻き込むように縫合したことが原因と考えられ,口側および胃側からの内視鏡的アプローチ(ランデブー内視鏡法)を試みる方針とした.全身麻酔下に手術時の腹部創より胃管を小切開して胃側内視鏡の挿入経路を確保した.完全閉塞部は各々の内視鏡の透過光が対側の内視鏡で確認された.ESDナイフ(Hook knife-J)で閉塞部を切開後,ガイドワイヤを挿入し,バルーンカテーテルで拡張術を行い,偶発症はなく終了した.
術後食道完全閉塞に対してはランデブー内視鏡法により外科的再吻合術を回避し得る可能性がある.
52歳男性.15年前他院で内痔核に対しstapled hemorrhoidopexyを施行された.腹部膨満感,排便困難感を主訴に当院を受診し,直腸背側にstapled hemorrhoidopexyのステープルに接して囊胞性病変を認めた.内視鏡的に開窓術を施行し,囊胞内から径2.5cm大の球形の異物が摘出され,症状は消失した.stapled hemorrhoidopexy後に生じた症状を伴う傍直腸囊胞に対して,内視鏡的開窓術を施行することは有用と考えられた.
87歳女性.13年前に総胆管結石に対して胆管プラスチックステント留置歴がある.下腹部痛,暗赤色便にて救急搬送された.腹部造影CT検査にてStent-stone-complex(SSC)を認めるものの,造影剤の血管外漏出は確認できなかった.上部消化管内視鏡検査で胆管十二指腸瘻を認め,瘻孔深部から緩徐な出血を認めた.消化管出血が持続し循環動態が不良となったため腹部血管造影検査を施行すると,右肝動脈瘤と同部位からの総肝管への造影剤漏出を認めた.コイル塞栓術により止血が得られ,状態は安定した.13年前に留置した胆管ステントを核にSSCを形成し,その機械的刺激に加えて繰り返す胆管炎の炎症波及により,今回出血源となった動脈瘤形成に至ったと思われる.
症例は64歳女性.多発肝転移を有する切除不能膵頭部癌の診断にて化学療法を施行中であったが,胆管内への自己拡張型金属ステント留置後に尾側膵管からの膵液瘻を遅発発症した.経乳頭的アプローチは困難であったため,超音波内視鏡下膵管ドレナージ術を施行し,膵管拡張は消失した.しかし,腸腰筋から大腿内転筋群へと被包化壊死(walled-off necrosis:WON)が拡大し感染を合併した.このため,経皮的ドレナージに加え極細径内視鏡を用いて経皮内視鏡的ネクロセクトミー(percutaneous endoscopic necrosectomy:PEN)を施行し,加療に成功した.広範囲のWONに対する経皮的ドレナージとPENは外科的ドレナージの代替治療になり得ると考えられた.
内視鏡検査・治療における鎮静は,患者苦痛の軽減や安全に治療を行うという観点から,その必要性が増してきている.本邦ではベンゾジアゼピン系薬剤が鎮静薬として頻用されているが,2017年に発表された「内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第2版)」において内視鏡検査・治療におけるプロポフォールの有用性や,消化器内視鏡医によるプロポフォールの使用の可能性に関して明記されるようになった.しかし,保険収載の問題や安全面の問題から内視鏡検査・治療におけるプロポフォールの使用は未だ限定的である.そのため,消化器内視鏡医がプロポフォールを用いた鎮静をより安全かつ的確に行えるよう,さらなる症例の集積が望まれると共に,鎮静に関する教育システムを構築することが今後の課題と思われる.
内視鏡的スリーブ状胃形成術(endoscopic sleeve gastroplasty:ESG)は,内視鏡的縫合器を用いて胃壁を全層で縫縮し,胃の容積を減少させる内視鏡的減量・代謝改善手術である.高い減量効果が得られることや低い侵襲度に加え,重篤な合併症が少ないことから欧米を中心に広まりつつある.本稿では,ESGのキーデバイスである内視鏡的縫合器の使用方法とESG手技について解説する.
【目的】早期胃癌患者の大部分は非胃癌が原因で死亡するが,早期胃癌のリンパ節転移リスクと非胃癌死を含めた全死亡との関連については分かっていない.本研究では,早期死亡と後期死亡の関連因子を明らかにすることを目的とした.
【方法】2003年から2017年に早期胃癌に対し内視鏡的切除,外科切除を施行した患者を後ろ向きに解析した.リンパ節転移リスク,治療法,そのほか9つの非胃癌関連の因子について,3年をカットオフとして早期死亡,後期死亡に分けて関連因子を解析した.
【結果】経過観察期間中央値79カ月で,1,439例が解析された.5年全生存率は86.8%であった.多変量解析で,早期死亡,後期死亡の最も重要な予測因子は,年齢85歳以上[ハザード比(hazard ratio;HR)2.88(早期死亡);4.54(後期死亡)],Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status≥2(HR 3.00;4.19)であった.チャールソン併存疾患指数≥2(HR 2.76;1.99),米国麻酔科学会術前身体状態分類≥3(HR 2.35;1.79),CRP/アルブミン比≥0.028(HR 2.30;1.58)も早期死亡,後期死亡の関連因子であった.男性(HR 2.26),eCura systemでみたリンパ節転移中リスク(HR 2.12)と高リスク(HR 1.85),腸腰筋の断面積で評価したサルコペニア(HR 1.70)は早期死亡の関連因子であった.
【結語】様々な予後関連因子の総合的評価は,早期胃癌患者の早期死亡,後期死亡を予測するのに有用な可能性がある.eCura systemは早期死亡に関連していた.
日本消化器内視鏡学会の附置研究会「A型胃炎の診断基準確立に関する研究会」から自己免疫性胃炎(autoimmune gastritis:AIG;A型胃炎)の診断基準に関する新たな提案を行った.
「内視鏡所見,組織所見のいずれか,もしくは両者がAIGの要件を満たし,かつ胃自己抗体(抗壁細胞抗体あるいは抗内因子抗体,もしくは両者)陽性を確診例」とした.
本診断基準の提案により,これまで統一されていなかったAIGの診断基準が確立され,過少診断されていたAIGがより多く,より早期に診断され,胃腫瘍や悪性貧血などの高リスク群に層別化することで,適切な診療が行われることが期待される.なお,早期AIGの内視鏡所見の確立や胃自己抗体の保険適用取得などの課題も残されている.
【背景と目的】総胆管結石再発患者の最大60%が内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)後にさらなる再発に見舞われている.ほとんどの患者において,再発を予防する有効な方法はない.本研究では,再発した総胆管結石に対する内視鏡的乳頭ラージバルーン拡張術(Endoscopic papillary large balloon dilation:EPLBD)の短期および長期の有効性をランダム化比較試験で評価することを目的とした.
【対象と方法】連続した総胆管結石再発患者を対象とし,1:1の割合でEPLBD群と対照群にランダムに割り付けた.主要評価項目はERCP後2年以内の総胆管結石再発率とした.解析は intention-to-treat の原則に従った.【結果】2014年から2021年まで,各群90名の総胆管結石再発患者180名を対象とした.すべての患者で1回または数回のERCPにより総胆管結石が完全に除去された.1回での完全結石除去率はEPLBD群で有意に高かった(95.6% vs 85.6%,P=0.017).観察期間中,2年以内の総胆管結石再発率はEPLBD群が対照群より有意に低かった(21.1% vs 36.7%,相対リスク0.58,95%信頼区間0.36-0.93,P=0.021).観察期間中央値約56カ月の時点で,総胆管結石再発はEPLBD群34.4%,対照群51.1%に認められた(ハザード比0.57,95%信頼区間0.36-0.89,P=0.012).2回以上の多発再発もEPLBD群で減少した(4.4% vs 18.9%,P=0.020).
【結論】長期経過観察中,総胆管結石再発患者のほぼ半数が従来のERCP後に結石再発を経験した.本研究は,EPLBDが総胆管結石再発を効果的に減少させることを示した初めての研究である.