2023 年 65 巻 2 号 p. 162-172
【目的】早期胃癌患者の大部分は非胃癌が原因で死亡するが,早期胃癌のリンパ節転移リスクと非胃癌死を含めた全死亡との関連については分かっていない.本研究では,早期死亡と後期死亡の関連因子を明らかにすることを目的とした.
【方法】2003年から2017年に早期胃癌に対し内視鏡的切除,外科切除を施行した患者を後ろ向きに解析した.リンパ節転移リスク,治療法,そのほか9つの非胃癌関連の因子について,3年をカットオフとして早期死亡,後期死亡に分けて関連因子を解析した.
【結果】経過観察期間中央値79カ月で,1,439例が解析された.5年全生存率は86.8%であった.多変量解析で,早期死亡,後期死亡の最も重要な予測因子は,年齢85歳以上[ハザード比(hazard ratio;HR)2.88(早期死亡);4.54(後期死亡)],Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status≥2(HR 3.00;4.19)であった.チャールソン併存疾患指数≥2(HR 2.76;1.99),米国麻酔科学会術前身体状態分類≥3(HR 2.35;1.79),CRP/アルブミン比≥0.028(HR 2.30;1.58)も早期死亡,後期死亡の関連因子であった.男性(HR 2.26),eCura systemでみたリンパ節転移中リスク(HR 2.12)と高リスク(HR 1.85),腸腰筋の断面積で評価したサルコペニア(HR 1.70)は早期死亡の関連因子であった.
【結語】様々な予後関連因子の総合的評価は,早期胃癌患者の早期死亡,後期死亡を予測するのに有用な可能性がある.eCura systemは早期死亡に関連していた.
Objectives: Although many patients with early gastric cancers (EGCs) die of non-gastric cancer-related causes, the association of the risk categories of lymph node metastasis (LNM) with all-cause mortality remains unclear. We aimed to clarify the predictors of early and late mortality, separately.
Methods: Patients with endoscopic resection or gastrectomy for EGCs between 2003 and 2017 were retrospectively enrolled. We analyzed predictors for early and late mortality, including risk categories of LNM, treatment method, and nine non-cancer-related indices, separately, with a cut-off value of 3 years.
Results: We enrolled 1439 patients with a median follow-up period of 79 months. The 5-year overall survival rate was 86.8%. In the multivariate Cox analysis, the most important predictors for early and late mortality were age ≥85 years (hazard ratio [HR] 2.88 and 4.54, respectively) and Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status ≥2 (HR 3.00 and 4.19, respectively). Charlson comorbidity index ≥2 (HR 2.76 and 1.99, respectively), American Society of Anesthesiologists Physical Status ≥3 (HR 2.35 and 1.79, respectively), and C-reactive protein/albumin ratio ≥0.028 (HR 2.30 and 1.58, respectively) were also predictors for both early and late mortality. Male (HR 2.26), intermediate- (HR 2.12)/high-risk (HR 1.85) of LNM in eCura system, and sarcopenia evaluated by the psoas muscle mass index (HR 1.70) were predictors for early mortality.
Conclusion: The combined assessment of multiple predictors might help to predict early and/or late mortality in patients with EGCs. The eCura system was associated with early mortality
内視鏡的切除とリンパ節郭清を伴う外科切除は2つの早期胃癌治療法であり,ガイドラインにおける治療法推奨はリンパ節転移リスクに基づいて行われる 1),2).リンパ節転移リスクを有する早期胃癌患者において,外科切除あるいは内視鏡的切除後追加外科切除は,再発のリスクを減らし,疾患特異的生存率を改善させると考えられているが 3),4),大多数の早期胃癌患者はその治療法やリンパ節転移リスクにかかわらず,非胃癌が原因で死亡する 5).そのため,全死亡が早期胃癌患者における最も重要な転帰である 6).
早期胃癌患者における全死亡とその関連因子に関しては,いくつかの問題が未だ解決されていない.第一に,リンパ節転移リスクが全死亡にどの程度影響を与えるのかは不明である.第二に,予後関連因子について報告した研究は複数あるが 7)~11),各研究によってその結果が異なっている 12).この原因としては,研究によって解析している因子が異なっていること,症例数が少ないこと,内視鏡的切除もしくは外科切除を受けた患者のどちらか一方を対象とした研究のため,選択バイアスが生じていることが考えられる.第三に,早期死亡と後期死亡では予後関連因子が異なる可能性があるが,これに焦点を当てた研究はほとんどない.患者によって余命は異なるので,早期死亡と後期死亡に分けることは,しばしば臨床的に重要である.早期死亡,後期死亡で関連因子が異なる場合,例えば高齢者や全身状態が悪い患者にとっては,後期死亡関連因子よりも,早期死亡関連因子のほうがより重要な可能性がある.特に,リンパ節転移リスクや治療法が早期死亡や後期死亡に関連しているかどうかは,その後の治療方針や経過観察方針を決めるのに重要である.一方で,後期死亡関連因子は,非高齢者や全身状態が良好な患者にとって重要な情報である.
そこで本研究の目的は,リンパ節転移リスクや治療法を含めた様々な因子を解析することで,早期胃癌患者の早期死亡と後期死亡それぞれの関連因子を明らかにすることとした.
本研究は単施設,後ろ向きコホート研究である.2003年1月から2017年8月に内視鏡的切除もしくは外科切除を受けた早期胃癌患者を対象とした.除外基準は,1)進行胃癌の診断で術前化学療法が行われ,化学療法後の外科切除病理結果が深達度T1であった患者,2)内視鏡的切除後,垂直断端陽性で追加外科切除を行ったところ筋層浸潤が認められた患者とした.診療録からデータを集め,予後など不足する情報があれば電話にて問い合わせを行った.
本研究のプロトコルは東北大学倫理委員会により承認を受けた(2020-1-693).インフォームドコンセントの必要性は自施設のウェブサイトを通じて,オプトアウト法により免除された.また,本研究はStrengthening the Reporting of Observational Studies in Epidemiology(STROBE)声明に基づき実施された.
治療法と治療後の経過観察について原則として,早期胃癌の治療法(初回治療として内視鏡的切除あるいは外科切除を行うか,内視鏡的切除後に無治療経過観察あるいは追加外科切除を行うか)は,治療を受けた時期の胃癌ガイドラインに準じた 13).しかし,背景疾患など様々な理由により,ガイドラインの推奨とは異なる治療法を選択した患者もいた.
治療後の経過観察は原則としてガイドラインに準拠して行った 1).内視鏡的根治度A(eCuraA)の患者は6-12カ月毎の上部消化管内視鏡を実施した.eCuraBもしくはeCuraC-1/C-2の患者は上部消化管内視鏡の他に,6-12カ月毎のCT検査を少なくとも5年間実施した.
評価項目はじめに,全生存率と疾患特異的生存率を評価した.第二に,胃癌死した患者の詳細について検討した.第三に,早期死亡と後期死亡の関連因子の解析を行った.最後に,非胃癌早期死亡・非胃癌後期死亡のリスク分類を作成し,胃癌死リスクと非胃癌死リスクを比較検討した.上部消化管癌に関する過去の研究では,早期死亡と後期死亡のカットオフは3年に設定していた 14),15).また,早期胃癌患者の死亡の約半数は3年以内に生じていた 16),17).さらに,胃癌研究において,3年は主要な長期予後指標の1つであり 18)~21),3年を基準に前後で分けて予後関連因子を評価することが重要である可能性がある.そこで,本研究においては,早期死亡と後期死亡のカットオフを3年とした.
第三の評価項目である予後関連因子において,リンパ節転移リスクは内視鏡的根治度 22)とeCura system 23)に沿って,以下5つのカテゴリーに分けた:eCuraA/B;eCuraC-1;eCuraC-2-低リスク;eCuraC-2-中リスク;eCuraC-2-高リスク.このリンパ節転移リスク分類は外科切除を受けた患者に対しても適用した.同時性の早期胃癌を有する患者においては,よりリンパ節転移リスクが高い分類を適用した.治療法は,内視鏡的切除のみと,追加外科切除を含めた外科切除に分けた.非胃癌関連の因子は,9つの因子について検討した.以下7つの因子については既報を参考に 11),24)~28),低値と高値に分けた:Eastern Cooperative Oncology Group performance status(ECOG-PS)(<2,≥2);米国麻酔科学会術前身体状態分類(American Society of Anesthesiologists physical status;ASA-PS)(<3,≥3);チャールソン併存疾患指数(Charlson comorbidity index;CCI)(<2,≥2);prognostic nutritional index(PNI)(<45,≥45);modified Glasgow prognostic score(mGPS)(<1,≥1);好中球/リンパ球比(neutrophil/lymphocyte ratio;NLR)(≤3,>3);血小板/リンパ球比(platelet/lymphocyte ratio;PLR)(<150,≥150).CRP/アルブミン比(C-reactive protein/albumin ratio;CAR)については,予後に関して一定のカットオフ値の報告がなかったため,receiver-operating characteristic(ROC)曲線を用いて決めた.サルコペニアを評価する,L3レベルの腸腰筋面積/身長の2乗(psoas muscle mass index;PMI,cm2/m2)については,性別に応じたカットオフ値(男性6.36cm2/m2,女性3.92cm2/m2)が用いられた.
統計学的解析連続変数は中央値と四分位範囲,名義変数は標本数と割合で示した.全生存率と疾患特異的生存率はカプランマイヤー法を用いて計算した.早期死亡,後期死亡の関連因子に関してはCox比例ハザードモデルを用いて計算し,単変量解析でP値0.05未満の変数を多変量解析にいれた.多重共線性の有無はvariance inflation factors(VIF)により評価した:一般的にVIFが5を超えると多重共線性が生じていると判断される 28).欠損値は統計ソフトRのmiceパッケージを使用し,多重代入法による処理を行った.本研究結果はmiceによって作られた欠損値のない完全な200シリーズのデータセットから得られた結果を統合したものである.すべての統計解析は統計ソフトR(version 3.6.1)を用いて計算し,P値0.05未満を統計学的有意とした.
外科切除前に術前化学療法が行われた2例と,追加外科切除の結果,筋層浸潤を認めた5例を除いた,早期胃癌患者1,439例を本研究の対象とした.経過観察期間中央値(四分位範囲)は79(54-117)カ月であった.患者背景をTable 1に示す.ROC曲線により,CARのカットオフ値を0.028に設定した.
患者背景.
経過観察中に死亡した315例のうち,わずか21例(6.7%)が胃癌死であった(Table S1(電子付録)).5年全生存率は86.8%,5年疾患特異的生存率は99.2%であった(Figure 1-a,b).リンパ節転移リスク分類別の全生存率と疾患特異的生存率をFigure 2-a,bに示す.
早期胃癌患者の予後.
a:全生存率.
b:疾患特異的生存率.
3年全生存率,5年全生存率はそれぞれ92.2%(95% CI,90.9%-93.6%),86.8%(95% CI,85.0%-88.7%)であった.3年疾患特異的生存率,5年疾患特異的生存率はそれぞれ99.3%(95% CI,98.9%-99.8%),99.2%(95% CI,98.8%-99.7%)であった.
CI,confidence interval(信頼区間).
リンパ節転移リスク分類別にみた早期胃癌患者の予後.
a:全生存率.
b:疾患特異的生存率.
5年全生存率はeCuraA/B,C-1,C-2-低リスク,C-2-中リスク,C-2-高リスクでそれぞれ,88.6%,81.1%,88.6%,83.7%,75.6%であり,生存率に統計学的有意差を認めた(ログランク検定P=0.005;ウィルコクソン検定P=0.002).疾患特異的生存率も同様に有意差を認めた(5年疾患特異的生存率はそれぞれ100.0%,100.0%,100.0%,97.7%,90.8%)(ログランク検定P<0.001;ウィルコクソン検定P<0.001).
リンパ節転移リスク分類別の全死亡数と胃癌死亡数をFigure 3に示す.胃癌死した症例のうち,内視鏡的切除後のリンパ節転移リスクがeCuraA/BとeCuraC-1であった症例はすべて異時性胃癌による死亡であったのに対し,eCuraC-2-中リスク,C-2-高リスクの症例は治療法に関係なく,原発性胃癌による死亡であった.eCuraC-2-低リスクで胃癌死した3例のうち,2例は異時性胃癌による死亡であった.
リンパ節転移リスク分類別にみた全死亡と胃癌死.
† 異時性胃癌による死亡.
‡ 内視鏡的切除後の追加外科切除89例を含む(eCuraA/B,2例;eCuraC-2-低リスク,32例;eCuraC-2-中リスク,32例;eCuraC-2-高リスク,23例).
§ リンパ節転移を47例に認めた(eCuraC-2-低リスク,7例;C-2-中リスク,9例;C-2-高リスク,31例).
3年以内の死亡は110例認め,うち9例が胃癌死であった.単変量解析では,年齢,男性,CCI≥2,ASA-PS≥3,ECOG-PS≥2,mGPS≥1,NLR高値,CAR高値,PLR高値,PNI低値,PMI低値,リンパ節転移リスク分類が早期死亡と関連があった(Table S2(電子付録)).
多変量解析では,ECOG-PS≥2のハザード比(hazard ratio;HR)が最も高く(HR 3.00),年齢85歳以上(HR 2.88),CCI≥2(HR 2.76)が続いていた(Figure 4).また,ASA-PS≥3(HR 2.35),CAR高値(HR 2.30),男性(HR 2.26),PMI低値(HR 1.70)が独立早期死亡関連因子であった.リンパ節転移リスク分類では,eCuraC-2-中リスク,C-2-高リスクが独立早期死亡関連因子であった.多重共線性は認められなかった(Table S3(電子付録)).
早期死亡の多変量解析.
† 欠損値あり(mGPS 25例,CAR 77例,PNI 300例).
‡ カットオフ値は男性6.36cm2/m2,女性3.92cm2/m2.
HR,hazard ratio(ハザード比);CI,confidence interval(信頼区間);CCI,Charlson comorbidity index(チャールソン併存疾患指数);ASA-PS,American Society of Anesthesiologists physical status(米国麻酔科学会術前全身状態分類);ECOG-PS,Eastern Cooperative Oncology Group performance status;mGPS,modified Glasgow prognostic score;NLR,neutrophil/lymphocyte ratio(好中球/リンパ球比);CAR,C-reactive protein/albumin ratio(CRP/アルブミン比);PLR,platelet/lymphocyte ratio(血小板/リンパ球比);PNI,prognostic nutrition index;PMI,psoas muscle mass index.
非胃癌の早期死亡関連因子についても評価を行った.多変量解析では年齢85歳以上,男性,CCI高値,ASA-PS高値,CAR高値,PMI低値が独立早期死亡関連因子であった(Table S4(電子付録)).
後期死亡関連因子後期死亡の解析においては,3年以内に死亡した110例は打ち切り症例として解析した.治療後3年以降の後期死亡は205例に認められた.単変量解析では,年齢,CCI≥2,ASA-PS≥3,ECOG-PS≥2,mGPS≥1,NLR高値,CAR高値,PNI低値,PMI低値が後期死亡との関連を認めた(Table S5(電子付録)).
多変量解析では,85歳以上(HR 4.54),ECOG-PS≥2(HR 4.19)が早期死亡と同様に,高いHRであった.CCI≥2(HR 1.99),ASA-PS≥3(HR 1.79),CAR高値(HR 1.58)も早期死亡と同様に,後期死亡の独立関連因子であった(Figure 5).一方,早期死亡と異なり,年齢80-84歳(HR 3.40),75-79歳(HR 2.64)は独立後期死亡関連因子であった.VIFの値から多重共線性は認められなかった(Table S3(電子付録)).
後期死亡の多変量解析.
† 欠損値あり(mGPS 25例,CAR 77例,PNI 300例).
‡ カットオフ値は男性6.36cm2/m2,女性3.92cm2/m2.
HR,hazard ratio(ハザード比);CI,confidence interval(信頼区間);CCI,Charlson comorbidity index(チャールソン併存疾患指数);ASA-PS,American Society of Anesthesiologists physical status(米国麻酔科学会術前全身状態分類);ECOG-PS,Eastern Cooperative Oncology Group performance status;mGPS,modified Glasgow prognostic score;NLR,neutrophil/lymphocyte ratio(好中球/リンパ球比);CAR,C-reactive protein/albumin ratio(CRP/アルブミン比);PNI,prognostic nutrition index;PMI,psoas muscle mass index.
非胃癌の後期死亡関連因子について解析を行ったところ,年齢(75-79歳,80-84歳,85歳以上),CCI≥2,ASA-PS≥3,ECOG-PS≥2,CAR高値が独立後期死亡関連因子であった(Table S6(電子付録)).
非胃癌早期死亡・後期死亡のリスク分類胃癌死と非胃癌死のリスクを最小限の因子を用いて比較するために,Table S4,S6(電子付録)でHRの高かった3つの主要な因子を用いて(非胃癌早期死亡は85歳以上,CCI,ASA-PS;非胃癌後期死亡は75歳以上,CCI,ECOG-PS),非胃癌早期死亡と非胃癌後期死亡のリスクを算出した.続いて,低リスク,中リスク,高リスクに分類した(Table S7,S8(電子付録)).早期死亡に関しては,非胃癌早期死亡率は低リスク2.1%,中リスク11.0%,高リスク28.7%であったのに対し,リンパ節転移リスク分類別にみた胃癌死亡率は,eCuraA/B/C-1で0.0%,C-2-低リスク0.0%,C-2-中リスク/高リスク4.3%であった(Table 2).後期死亡の結果をTable S9(電子付録)に提示する.
非胃癌早期死亡のリスク分類別にみた非胃癌早期死亡と,リンパ節転移リスク別にみた胃癌死亡の比較.
本研究は,早期胃癌患者の早期死亡,後期死亡の関連因子について明らかにした初めての研究である.年齢85歳以上,ECOG-PS≥2,CCI≥2,ASA-PS≥3,CAR高値は早期死亡,後期死亡の独立関連因子であった.男性,eCuraC-2-中リスク,C-2-高リスク,PMI低値は早期死亡のみの独立関連因子である一方,年齢75-79歳,80-84歳は後期死亡のみの独立関連因子であった.
本研究では,非癌関連の予後因子について2つの臨床的重要性を発見した.第一に,年齢85歳以上は早期死亡,後期死亡の最も重要な関連因子の1つであったが,年齢75-79歳,80-84歳は後期死亡のみの関連因子であった.これは,平均余命を考えれば驚くことではないが,早期胃癌の治療方針を考えるうえで,年齢85歳以上は早期死亡と関連があるということを念頭に置く必要がある.第二に,過去にも報告された因子(ECOG-PS,CCI,ASA-PS)を含め,多くの因子について早期死亡,後期死亡との関連が示された.さらに2つの予後関連因子(CAR,PMI)の有用性が新たに実証された.CARについてはLiuらが外科切除を受けた胃癌患者において全生存と関連があることを報告していた 29).本研究においては,内視鏡的切除を含めた早期胃癌患者で,CAR高値が早期死亡,後期死亡の関連因子であった.サルコペニアの指標であるPMI低値は,早期死亡の独立関連因子である一方で,後期死亡とは関連傾向を示すのみであった(P=0.089).この違いの理由は明らかではないが,後期死亡においては年齢がより大きな影響を及ぼし,PMI低値のハザード比の低下につながった可能性がある.
本研究では,リンパ節転移リスク分類と全死亡との関連についても明らかにした.eCuraA/Bと比較し,eCuraC-2-中リスク,C-2-高リスクは早期死亡の関連因子であったのに対し,eCuraC-1,C-2-低リスクは早期死亡,後期死亡いずれとも関連を認めなかった.われわれが知る限りでは,本研究は,内視鏡的切除,外科切除を行った早期胃癌患者において,リンパ節転移リスクeCuraC-1,eCuraC-2と全死亡との関連性を明らかにした初の研究である.早期死亡における胃癌死はすべてeCuraC-2-中リスク,C-2-高リスク患者に生じており,eCuraC-2-中リスク,C-2-高リスクの全死亡独立関連因子につながった可能性がある.
実臨床において,本研究で示したすべての関連因子を評価することは難しいと思われる.そこで,われわれは非胃癌早期死亡・非胃癌後期死亡を予測する簡便なリスク分類を作成した.続いて,非胃癌死亡リスク分類別の非胃癌死亡率と,リンパ節転移リスク分類別の胃癌死亡率の比較を行った.早期死亡に関しては,非胃癌早期死亡高リスク患者の非胃癌死亡率(28.7%)は,eCuraC-2-中リスク/高リスク患者の胃癌死亡率(4.3%)と比較してもはるかに高かった.さらに既報においても,追加外科切除をしなかったeCuraC-2-低リスク,C-2-中リスク,C-2-高リスク患者の3年胃癌死亡率はそれぞれ0.2%,1.4%,6.6%であり 23),本研究における非胃癌死亡高リスク患者の非胃癌死亡率と比較するとはるかに低かった.一方,既報における追加外科切除をしなかったeCuraC-2-高リスク患者の3年胃癌死亡率(6.6%)は,本研究における非胃癌早期死亡低リスク患者の非胃癌死亡率(2.1%)よりも高かった.これらの結果からは,非胃癌早期死亡高リスク患者においては,追加外科切除をしないことは許容される可能性がある一方で,非胃癌早期死亡低リスク患者では,eCuraC-2-中リスク/高リスクの場合,内視鏡的切除後の追加外科切除が推奨される.
本研究の強みを以下に挙げる.第一に,本研究では比較的多数の患者(1,439例)が長期間(中央値79カ月)経過観察されており,これにより多くのイベント数を解析することが可能であった.実際に,予後関連因子について解析したこれまでの最大の研究(585例) 9)よりもはるかに症例数が多かった.第二に,内視鏡的切除,外科切除を行った全早期胃癌患者を解析しており,選択バイアスが少ないことが挙げられる.また,後ろ向きで評価可能なほとんどすべての予後関連因子について評価を行った.
一方で,本研究には複数の限界がある.第一に,後ろ向き単施設研究であり,選択バイアスや報告バイアスといったバイアスが生じている可能性がある.第二に,早期死亡に関しては,多変量解析に投入した因子の個数あたりのイベント数が十分ではない(111/17=6.5:一般的に10以上が好ましい);このため,第2種の過誤が生じている可能性がある.第三に,内視鏡的切除後,外科切除後患者を本研究に登録したが,内視鏡的切除標本と外科切除標本では病理標本切り出しの間隔が異なっており(2mm vs. 5-7mm) 30),病理学的評価の差異を引き起こしている可能性がある.また,経過観察方法が患者間で異なっている.例えば,外科切除をした患者は通常6-12カ月毎のCT検査が施行されるが,これが外科切除患者における他臓器悪性腫瘍の早期発見に貢献している可能性がある.第四に,無治療経過観察された早期胃癌患者は含まれていない.最後に,喫煙歴や認知機能・老化の評価 31),32)といった未測定交絡因子が存在する可能性がある.こうした限界を克服するために,本邦において大規模多施設前向きコホート研究(E-STAGE trial)が現在進行中である(UMIN000040910).この研究により,早期胃癌患者の予後関連因子に関して有用な知見が得られることが期待される.
結論として,高齢,性別に加え多くの非胃癌関連の因子が,早期胃癌患者の早期死亡,後期死亡に関連していた.リンパ節転移リスク分類においてはeCuraC-1やC-2-低リスクは予後と関連がなかったが,eCuraC-2-中リスク,C-2-高リスクは早期死亡関連因子であった.これらの予後関連因子を総合的に評価することが,早期胃癌患者の早期死亡,後期死亡を予測するのに有用な可能性がある.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし
補足資料
Table S1 早期胃癌患者の死因の詳細.
Table S2 早期死亡の単変量解析.
Table S3 多変量解析におけるVIFの詳細.
Table S4 非胃癌早期死亡の関連因子.
Table S5 後期死亡の単変量解析.
Table S6 非胃癌後期死亡の関連因子.
Table S7 3つの因子(年齢≥85,CCI,ASA-PS)から算出した非胃癌早期死亡のリスク.
Table S8 3つの因子(年齢≥75,ECOG-PS,CCI)から算出した非胃癌後期死亡のリスク.
Table S9 非胃癌後期死亡のリスク分類別にみた非胃癌後期死亡と,リンパ節転移リスク別にみた胃癌死亡の比較.
本論文はDigestive Endoscopy(2022)34, 816-25に掲載された「Predictors of early and late mortality after the treatment for early gastric cancers」の第2出版物(Second Publication)であり,Digestive Endoscopy誌の編集委員会の許可を得ている.