日本消化器内視鏡学会雑誌
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総説
新しい知見に基づく大腸憩室出血に対する内視鏡治療戦略
青木 智則 永田 尚義藤城 光弘
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2023 年 65 巻 4 号 p. 335-343

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要旨

大腸憩室出血には特異的な薬物治療が存在しないことから,再出血の多さが臨床上の課題である.内視鏡治療による止血効果や再出血抑制効果が重要視され,これまで様々な治療法が提唱されてきた.しかしながら,2020年頃までの報告は大多数が単施設研究であり症例数が少なかったため,十分なエビデンス構築に至っていなかった.

近年,本邦の全国規模の急性血便症例データベース(CODE BLUE-J study)より,憩室出血研究の成果が複数報告された.①憩室出血を疑う患者の内視鏡検査時に積極的に出血所見を同定して治療することは,再出血を抑制するため意義があり,②内視鏡治療は左側結腸出血よりも特に右側結腸出血において推奨され,③バンド結紮法はクリップ法よりも治療効果が期待でき,特に右側結腸出血では出血状況に応じた治療法の選択(クリップ直達法か縫縮法かも含めて)が望ましい,ことが大規模データより示唆された.大腸憩室出血に対する内視鏡治療の適応や戦略の標準化に寄与すると考えられる.

Abstract

As there is no specific medication for colonic diverticular bleeding (CDB), high rate of rebleeding is a clinical challenge. The efficacy of endoscopic treatment in reducing rebleeding has been studied, and various methods have been proposed. However, most of the reports up to 2020 were single-center studies with few cases, thus lacking any convincing evidence.

Recently, several reports on CDB from the CODE BLUE-J study, a nationwide study of acute hematochezia cases in Japan, have suggested the followings: i) the strategy of finding and treating bleeding points during colonoscopy, in patients with suspected CDB, helps in reducing recurrent bleeding; ii) endoscopic treatment is more recommendable for right-colon CDB than left-colon CDB; and iii) band ligation is more effective than clipping, with the choice of treatment method depending on the situation, especially in right-colon CDB. These findings can contribute in standardizing the indications and strategies for endoscopic treatment of CDB.

Ⅰ はじめに

急性の血便症状で緊急入院を要する急性下部消化管出血の中で,大腸憩室出血は最も頻度が高い(30-47%).酸分泌抑制剤による再出血抑制が期待できる上部消化管出血と異なり,大腸憩室出血には特異的な薬剤治療が存在しないことや動脈性出血であることから,再出血の多さが臨床上の課題である(1年で20-35%).そのため,内視鏡治療による止血効果や再出血抑制効果が重要視され,これまで様々な治療法が提唱されてきた.しかしながら,2020年頃までの報告は大多数が単施設研究であり症例数が少なかったため,十分なエビデンス構築に至っていなかった.

近年,本邦の全国規模(49施設)急性血便症例データベース研究(CODE BLUE-J study)より,示唆に富む研究成果が次々と報告されている 1)~3.急性血便症例10,000を超えるデータベースでありながら,カルテ調査でしか得られない詳細な内視鏡データ項目を多数有することが特長であり,世界的に見ても唯一無二である.本稿では,それまでの知見にどのような新知見を上乗せしているかに焦点をあてながらCODE BLUE-J studyの3論文を紹介することに主眼を置き,新知見に基づく大腸憩室出血に対する内視鏡治療戦略を概説する.まず「積極的に出血所見を同定して内視鏡的に治療介入する意義があるのか」を,次に「内視鏡治療法の選択は有用か」を,最後に「内視鏡治療の安全性」をテーマとする.

Ⅱ 出血所見の同定と内視鏡治療の意義

急性下部消化管出血に対して,出血源同定および治療を遂行できる大腸内視鏡検査が推奨されている.従来,上部消化管出血に準じて,大腸憩室における出血所見(活動性出血・露出血管・凝血塊,Figure 1)がStigmata of recent hemorrhageとして認識され,内視鏡治療適応とされてきた.しかしながら,上部消化管出血と異なりその検証は乏しかった.また,大腸憩室出血は70-90%と高率で自然止血することが知られており,内視鏡検査での出血所見同定率が13-33%と低率であることから,内視鏡検査時に積極的に出血所見を同定して治療する意義があるのか,の検証が必要であった.

Figure 1 

止血術の適応となる内視鏡所見(stigmata of recent hemorrhage).

a:活動性出血.

b:露出血管.

c:凝血塊付着.

(都立墨東病院 小林克誠先生ご提供)

出血所見の同定と内視鏡治療の意義に関して,2022年にCODE BLUE-J studyデータを用いて勝呂らが検証した(n=5,823)(Table 1 1.まず,短期(30日以内)および長期(1年以内)の再出血率をもとに,出血所見を同定する意義があるかを確認した.内視鏡検査中に出血所見を同定し治療介入しえた群は,出血所見を同定できず治療介入に至らなかった群よりも有意に再出血率が低かった.次に,出血所見を同定した場合に,内視鏡治療を行う意義があるかを確認した.出血所見に対し治療を行った群は,非治療群よりも有意に短期の再出血率が低かった.多変量解析のみならず,豊富な症例を生かしてプロペンシティスコアにより患者背景をマッチングした群間比較をすることで,結果の頑健性を確認している.

Table 1 

大腸憩室出血に対する出血所見の同定と内視鏡治療の意義 1

また,興味深いサブグループ解析の結果として,右側結腸出血(横行結腸以深)においては,治療介入群は非治療群よりも再出血率が有意に低かったが,左側出血においては両群の再出血率に有意差はなかった.活動性出血と非活動性出血(露出血管・凝血塊)に分けたサブグループ解析では,どちらのサブグループにおいても治療介入群は非治療群よりも再出血率が有意に低かった.

このように,勝呂らの報告による重要な新知見は,「大腸憩室出血の出血所見を積極的に同定して治療することの意義を,大規模データをもとに初めて示した」こと,および「左側結腸憩室からの出血よりも右側結腸憩室からの出血の方が十分な治療効果を見込める」ことである.右側結腸憩室からの出血において特に内視鏡治療効果が見込める点は,「大腸ポリープ内視鏡切除後のクリッピングによるポリープ切除後出血抑制効果は,特に右側結腸ポリープ切除時に期待できる」という,近年確立されてきた知見に合致する 4),5

Ⅲ 内視鏡治療法選択の有用性

大腸憩室出血に対して本邦で使用されている内視鏡治療法は大きく分けてクリップ法と結紮法であり,前者はクリップのかけ方によって縫縮法と直達法に細分化され,後者は使用デバイスによってバンド結紮法と留置スネア結紮法に細分化される(Figure 2).クリップ縫縮法は出血憩室開口部を閉じるようにクリップをかける方法で,最も簡便な方法の一つであるが,直動脈を把持できない.一方,クリップ直達法は憩室内の血管を直接把持するため治療効果を期待できるが,一定の技量を要するほか,憩室開口部の小ささから物理的に施行不可能なことがある.バンド結紮法は,静脈瘤や痔核に対する内視鏡治療に使用される結紮デバイスを用いて,出血憩室ごと吸引した上でゴムバンドを根元にかける方法であるが,通常は出血所見同定後に一度内視鏡を抜去しデバイスを内視鏡先端部に装着して再挿入するという煩雑さがある.留置スネア結紮法は,ポリープ切除時に使用される留置スネアを用いて出血憩室を結紮する最も新しい手法で,内視鏡再挿入が不要ながら結紮効果を期待できるが,使用施設や報告は限定的である.

Figure 2 

大腸憩室出血に対する主要な内視鏡的止血術.

a:クリップ縫縮法(憩室開口部を閉じる).

b:クリップ直達法(憩室内の血管を直接把持).

c:バンド結紮法.

d:留置スネア結紮法.

(a:筆者オリジナル,b,c,d:都立墨東病院 小林克誠先生ご提供)

大腸憩室出血に対するバンド結紮法の有用性が2003年より,クリップ法の有用性が2008年より報告され,その後,バンド結紮法がクリップ法よりも再出血率を下げる可能性を示唆する報告が続いた(Table 2 6)~22.しかし,それらは単施設研究で症例数が少なく,報告により再出血率が大きく異なった.また,出血部位や出血所見の詳細情報を含む研究は乏しかった.2020年前後に,総説論文やメタ解析論文における症例集積によって,バンド結紮法がクリップ法より再出血抑制において優れていることが強調されたが(Table 2 23),24,各論文のアウトカムの不均一性や詳細情報の欠損から,導ける新知見は限られていた.例えば,クリップ法では右側結腸出血が左側出血と比較して再出血率が高く,バンド結紮法では左側結腸出血が右側出血と比較して再出血率が高いという既報があるが,「出血部位(左側か右側か)で治療後の再出血リスクが異なるのか」や「出血部位と再出血リスクの関連は,治療法ごとに異なるのか」に関して,十分に洞察できる詳細情報をもつ症例数がなかった.さらには,バンド結紮法には内視鏡再挿入という大きなハードルがあるが,「すべての出血所見に対してクリップ法ではなくバンド結紮法を選択すべきか」すなわち治療法の使い分けについて,知見が不足していた.

Table 2 

大腸憩室出血に対するクリップ法とバンド結紮法の治療効果(CODE BLUE-J study以前の報告).

内視鏡治療法選択の有用性に関して,2022年にCODE BLUE-J studyより2つの報告がなされた 2),3.小林らの報告(n=1,679)では,短期および長期の再出血率が,バンド結紮法においてクリップ法よりも有意に低いことを示した(Table 3).さらに興味深いことに,右側結腸出血においてはバンド結紮法のクリップ法に対する優位性は明確であったが,左側出血においては両者の治療効果に有意差はなかった.これは,バンド結紮法のために内視鏡を再挿入する必要性が,左側出血よりも右側出血の方が高いことを意味する.さらに,バンド結紮法のクリップ法に対する優位性は,非活動性出血よりも活動性出血において強いことが明らかとなった.

Table 3 

大腸憩室出血に対する内視鏡治療法選択の有用性 2),3

岸埜らの報告(n=1,041)では,短期および長期の再出血率が,クリップ直達法においてクリップ縫縮法よりも有意に低いことを示した(Table 3).こちらも興味深いことに,右側結腸出血においてはクリップ直達法の縫縮法に対する優位性は明確であったが,左側出血においては両者の治療効果に有意差はなかった.また,クリップ直達法の縫縮法に対する優位性は,活動性出血よりも非活動性出血において強いことが明らかとなった.

以上より,これら2つの報告による重要な新知見は,「内視鏡治療法の種類によって短期および長期再出血率が有意に異なることを,大規模データをもとに初めて示した」こと,および「異なる治療法間の治療効果の差は,左側結腸出血よりも右側結腸出血の方が強く現れることが示唆された」ことである.右側結腸と比較して左側結腸では,腸管腔が細く屈曲が強いため内視鏡時の観察視野や操作性が不良となりやすく,異なる治療法間の治療効果の差が現れにくいのだろう,と論文内で考察されている.

Ⅳ 内視鏡治療の安全性

治療関連の偶発症が稀であるため,CODE BLUE-J study以前は大腸憩室出血に対する内視鏡治療の安全性を確認できるデータも乏しかった.CODE BLUE-J studyデータを用いた小林らの報告に,治療関連偶発症データ(腸管穿孔または憩室炎)も示されている.偶発症率は全体で0.30%(5/1,679)と低率で,バンド結紮法(0.47%)とクリップ法(0.19%)の2群間で有意差はなかった(Table 4).左側結腸出血に対するバンド結紮法後に腸管穿孔が認められた点は,既報に合致する 25.一方で,クリップ法後の憩室炎発症は初めての報告である.前述の治療法間の治療効果の差に加え,低率ながらバンド結紮法後に腸管穿孔と憩室炎が,クリップ法後に憩室炎が起こりうることも踏まえて,内視鏡医は治療法を選択すべきかもしれない.

Table 4 

内視鏡治療後の偶発症 2

Ⅴ 3報告の結果まとめ

以上,CODE BLUE-J studyから創出された新知見に基づく大腸憩室出血に対する内視鏡治療戦略をまとめると,①内視鏡検査時に積極的に出血所見を同定して治療することは,再出血抑制に寄与するため意義があり,②内視鏡治療は左側結腸出血よりも特に右側結腸出血において推奨され,③バンド結紮法はクリップ法よりも治療効果が期待でき,特に右側結腸出血では出血状況に応じた治療法の選択(クリップ直達法か縫縮法かも含めて)が望ましい.

Ⅵ 終わりに

頻出疾患である大腸憩室出血において,検査法・治療法選択や抗血栓薬対応を含む疾患マネージメントは多彩であり,いまだ標準化されていない.マネージメントの標準化や個別化につながる新知見の創出が,CODE BLUE-J studyより引き続き期待される.

謝 辞

今回の新知見を得たCODE-BLUE-J studyに関わる以下の先生方に謝意を表する.

東京都立墨東病院 消化器内科 小林克誠先生,北野病院 消化器内科 山内淳嗣先生,東京大学 消化器内科 山田篤生先生,日本医科大病院 消化器内科 大森順先生,貝瀬満先生,聖路加病院 消化器内科 池谷敬先生,広島市立安佐市民病院 青山大輝先生,佐賀県医療センター好生館 冨永直之先生,聖マリアンナ医科大学 消化器肝臓内科 佐藤義典先生,市立奈良病院 消化器内科 岸埜高明先生,東京品川病院 消化器内科 石井直樹先生,名古屋大学 消化器内科 澤田つな騎先生,京都医療センター 消化器内科 村田雅樹先生,都立駒込病院 消化器内科 高雄暁成先生,大分大学 消化器内科 水上一弘先生,福岡大学筑紫病院 消化器内科 金城健先生,日本医科大病院千葉北総病院 藤森俊二先生,静岡赤十字病院 消化器内科 魚谷貴洋先生,川崎医科大学総合医療センター 検査診断学 藤田穣先生,眞部紀明先生,新潟大学 消化器内科 佐藤裕樹先生,宮崎大学 消化器内科 鈴木翔先生,筑波大学 消化器内科 奈良坂俊明先生,虎ノ門病院 消化器内科 早坂淳之介先生,済生会横浜市東部病院 救急科 船曵知弘先生,那覇市立病院 消化器内科 金城譲先生,東京シーフォートスクエアクリニック 水城啓先生,山口厚生連 周東総合病院 消化器内科 清時秀先生,弘前大学 光学医療診療部 三上達也先生,熊本大学 消化器内科 具嶋亮介先生,福岡東医療センター 消化器・肝臓内科 藤井宏行先生,九州大学大学院 病態機能内科学 冬野雄太先生,福島県立医大 内視鏡診療部 郡司直彦先生,岩手医科大学 消化管内科 鳥谷洋右先生,防衛医科大学校 内科学講座 成松和幸先生,市立吹田市民病院 消化器内科 長生幸司先生,琉球大学 光学医療診療部 金城徹先生,国立病院機構九州医療センター 消化器内科 隅田頼信先生,福岡大学 消化器内科 船越禎広先生,北里大学 消化器内科 小林清典先生,秋田大学 消化器内科学 松橋保先生,鹿児島大学 消化器内科 小牧祐雅先生,国立国際医療研究センター 消化器内科 渡辺一弘先生

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:藤城光弘(オリンパスメディカル,富士フイルム株式会社)

文 献
 
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