日本消化器内視鏡学会雑誌
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65 巻, 4 号
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総説
  • 二神 生爾, 阿川 周平, 植木 信江
    2023 年 65 巻 4 号 p. 325-334
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
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    機能性ディスペプシア(Functional dyspepsia:FD)に対するガイドラインが2021年に上梓され,FDに対する理解が深まってきたと同時に難治性FD患者が臨床上問題となっている.難治性FD患者の中には,超音波内視鏡検査によって,早期慢性膵炎などの膵疾患が包含されていることが指摘されており,鑑別診断に準じた治療によって,臨床症状が改善することが報告されている.難治性FD患者においても十二指腸粘膜における炎症細胞浸潤が指摘されており,FDの動物実験モデルにおいても,十二指腸粘膜の炎症が指摘されている.FD患者においては,膵機能低下症例も少数ながら報告されており,膵酵素異常を伴うFD患者のうち,早期慢性膵炎へと進展する少数例があることを勘案すると一部の難治性FD患者においてはElastographyを用いた膵線維化の評価も今後必要と思われる.今後,難治性FD患者においては,超音波内視鏡やElastographyによる複合的な評価が重要であると思われる.現在われわれは,こうしたことに加え,特殊光を用いたFD患者の十二指腸粘膜の画像解析を進めている.

  • 青木 智則, 永田 尚義, 藤城 光弘
    2023 年 65 巻 4 号 p. 335-343
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
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    大腸憩室出血には特異的な薬物治療が存在しないことから,再出血の多さが臨床上の課題である.内視鏡治療による止血効果や再出血抑制効果が重要視され,これまで様々な治療法が提唱されてきた.しかしながら,2020年頃までの報告は大多数が単施設研究であり症例数が少なかったため,十分なエビデンス構築に至っていなかった.

    近年,本邦の全国規模の急性血便症例データベース(CODE BLUE-J study)より,憩室出血研究の成果が複数報告された.①憩室出血を疑う患者の内視鏡検査時に積極的に出血所見を同定して治療することは,再出血を抑制するため意義があり,②内視鏡治療は左側結腸出血よりも特に右側結腸出血において推奨され,③バンド結紮法はクリップ法よりも治療効果が期待でき,特に右側結腸出血では出血状況に応じた治療法の選択(クリップ直達法か縫縮法かも含めて)が望ましい,ことが大規模データより示唆された.大腸憩室出血に対する内視鏡治療の適応や戦略の標準化に寄与すると考えられる.

症例
  • 宮嶋 佑輔, 片山 政伸, 由本 純基, 渡邉 和久, 落合 都萌子, 米倉 伸彦, 田中 信, 田中 基夫, 重松 忠
    2023 年 65 巻 4 号 p. 344-352
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
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    症例は78歳,女性.約10年前に胃癌に対してRoux-en-Y法再建による胃全摘術を施行されていた.緩徐発症の右下腹部痛および嘔吐を主訴に当院を救急受診した.腹部造影CTにてRoux-en-Y吻合部近傍に逆行性腸重積を認めた.腸管の虚血性変化がないことから内視鏡的整復を試みたが,自然整復後であったため症状の軽快とともに退院とした.約1カ月後に同様の経過で再度受診し,逆行性腸重積の再発を認めていた.EGDにてY脚吻合部に腸重積の先進部を認め,狭窄部を内視鏡で複数回通過させることで内視鏡的整復に成功した.Roux-en-Y法再建後のY脚吻合部に関連する逆行性腸重積を内視鏡的に整復しえた例は稀であり報告する.

  • 水江 龍太郎, 井原 勇太郎, 鳥巣 剛弘, 川床 慎一郎, 藤原 美奈子
    2023 年 65 巻 4 号 p. 353-360
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
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    患者は72歳の男性.4年前に前立腺癌の診断で重粒子線治療・内分泌療法が施行された.肝胆道系酵素の上昇のため施行した造影CT検査で前立腺に異常を指摘しえなかったが,多発肝腫瘤と直腸の腫瘤影および周囲のリンパ節腫大を認めた.CSで直腸Rbに頂部に陥凹を伴う40mm大の粘膜下腫瘍様隆起を認め,生検では内分泌細胞癌であった.直腸内分泌細胞癌と考え化学療法を開始し腫瘍は縮小傾向であったが,遺伝子パネルによるがんゲノム検査で前立腺癌特異的融合遺伝子であるTMPRSS2-ERGを認めた.本症例は前立腺癌が内分泌療法により神経内分泌分化を起こし,転移巣が急速に増大して直腸浸潤した極めて稀で貴重な症例と考えられた.

  • 中村 太二, 橋詰 清孝, 渡邉 一正, 國井 伸, 石川 大介, 加賀 充朗, 宇都宮 節夫
    2023 年 65 巻 4 号 p. 361-367
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
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    症例は83歳女性.1週間以上続く嘔吐のため当院紹介受診となった.造影CTでは胆管拡張を認め,胆囊壁には一部欠損を認めた.胃周囲には被包化された液体貯留を認め,胃壁膿瘍や腹腔内膿瘍が考えられた.MRIでは総胆管に積み上げ結石を認め,胃周囲の膿瘍腔内にも胆管結石と同様の無信号域を多数認めた.第9病日にERCPを施行し総胆管結石の採石を行った後,胆囊管を選択し造影を行ったところ,胆囊から腹腔内への造影剤漏出を認めた.内視鏡的経鼻ドレナージチューブを膿瘍腔内に留置し,膿瘍ドレナージを行った.第24病日に抗生剤投与を終了し,第29病日に外科的根治術を行い,穿孔性胆囊炎による網囊膿瘍と診断した.特に合併症なく退院となった.

  • 栗原 正道, 江川 隆英, 小林 正典, 大塚 和朗, 渡邊 秀一, 赤星 径一, 田邉 稔, 岡本 隆一
    2023 年 65 巻 4 号 p. 368-374
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
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    悪性遠位胆道狭窄に対して自己拡張型金属ステント(self-expandable metallic stent:SEMS)は有効だがしばしば逆行性胆管炎を発症し治療に難渋する.閉塞予防目的に逆流防止金属ステント(anti-reflux metal stent:ARMS)が開発され開存期間の延長が期待されているが,逆行性胆管炎の予防効果は未だ明らかではない.本症例では膵頭部癌による閉塞性黄疸に対して通常のSEMSを留置されたが,その直後から反復する逆行性胆管炎を来した.最終的にダックビル型ARMSを留置することで改善し化学療法が可能となった.膵癌に対する術前化学療法が広まる中,早期に安定して化学療法を導入するために,症例の蓄積による逆行性胆管炎のリスク症例の抽出と,逆行性胆管炎に対するARMSの有用性の評価が期待される.

Video Communication
手技の解説
  • 豊嶋 直也, 阿部 清一郎, 斎藤 豊
    2023 年 65 巻 4 号 p. 376-384
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
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    従来,内視鏡治療による遅発性穿孔や後出血に対する予防策として主にクリップを用いた縫縮が行われていた.近年,新たな縫縮方法としてGotoらによって開発された軟性持針器と縫合糸を用いた内視鏡的手縫い縫合法の出現により,クリップ縫縮より強固で確実な創閉鎖が可能になった.内視鏡的手縫い縫合法とは管腔内で内視鏡単独で外科手術の縫合と同様な手技が行える方法である.新内視鏡用軟性持針器を用いて手術で使用されている外科用縫合糸を対象部位まで運び,その後灣曲針を把持し粘膜下層まで縫合糸を通して連続縫合することが可能であるため,従来のクリップ縫縮と比較し,より信頼性の高い縫合をすることができるため,遅発性合併症の予防が期待される.胃を対象として開発された当手技であるが大腸病変に対しても応用可能であり,本稿では大腸ESD後の潰瘍底に対する内視鏡的手縫い縫合法について概説する.

  • 岩下 拓司, 上村 真也, 清水 雅仁
    2023 年 65 巻 4 号 p. 385-392
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
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    ERCPは胆道病変に対する低侵襲な精査・加療方法として一般臨床において広く施行されおり,その第一段階として深部胆管挿管が必要となる.高い胆管挿管の成功率が報告されているが,プレカット法などのいわゆるadvanced cannulation techniqueを使用しても,ときにその獲得に難渋する.EUSランデブー法(RV:Rendezvous technique)は,EUS下に胆管を穿刺し,穿刺針を介してガイドワイヤーを胆管内へ挿入,さらにガイドワイヤーを操作し乳頭部を超えて十二指腸内に留置する.その後,ERCPを再度行い留置されたガイドワイヤーを利用して深部胆管挿管を獲得する方法である.EUS-RVは胆管挿管困難症例のサルベージ方法としてその有用性が報告されている.本稿では,EUS-RVの手技的な要因に着目し,その基本手技,成功率改善のための工夫,トラブルシューティングについて概説する.

資料
  • 花田 敬士, 清水 晃典, 栗原 啓介, 池田 守登, 山本 卓哉, 奥田 康博, 田妻 進
    2023 年 65 巻 4 号 p. 393-404
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
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    膵癌の予後改善には早期診断が必須であるが,依然として困難である.一方,CTやMRIなどの画像検査で指摘ができない限局する高異型度膵上皮内腫瘍性病変(high grade-pancreatic intraepithelial neoplasm:HG-PanIN)の患者は長期予後が期待できる.膵囊胞性病変や主膵管拡張はHG-PanINの診断契機となる重要な間接所見である.magnetic resonance cholangiopancreatography(MRCP)およびEUSは限局的な膵管狭窄,主膵管の口径不同,小型囊胞性病変,分枝膵管の拡張などの異常所見の同定に重要な役割を果たしている.加えてEUSでは,一部のHG-PanINにおいて膵管狭窄の周囲に淡い低エコーを呈する場合がある.ERCPおよび内視鏡的経鼻膵管ドレナージ(endoscopic nasopancreatic drainage:ENPD)チューブを留置して行う複数回連続膵液細胞診(serial pancreatic juice aspiration cytological examination:SPACE)は,HG-PanINの確定診断において高い正診率を示す可能性がある.ERCPとSPACEを含む膵液細胞診は検査後の急性膵炎の危険が伴うが,近年の前向き研究では4Fr.のENBD tubeの使用が検査後膵炎を減少させる可能性がある.今後,SPACEの標準化に向けた前向きの多施設共同研究が必要である.加えて,十二指腸液や膵液を用いた新たなマーカーの研究が,膵癌を正確かつ早期に診断する方法の確立に役立つ可能性がある.

内視鏡室の紹介
最新文献紹介
  • 千野 昌子
    2023 年 65 巻 4 号 p. 411
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
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    【背景】Serrated polyposis syndrome(SPS)において,これまで生殖細胞変異の解析における一貫した見解は示されていない.2019年British Society of Gastroenterology(BSG)ガイドラインでは,他のポリポーシス症候群の除外のため,50歳未満または,複数の家系内罹患者,Dysplasiaを伴うポリープを有する場合において,遺伝子パネル検査を行うように勧告している.

    【方法】Oxford University Hospitals NHS Foundation TrustにSPS患者のデータベースが作成され,患者の既往歴や家族歴,希望に基づいて遺伝学的評価のために紹介された.大多数の患者は,MUTYH,APC,PTEN,SMAD4,BMPR1A,STK11,NTLH1,POLD1,POLE,GREM1(40-kb duplication),PMS2とミスマッチ修復遺伝子を含む遺伝性大腸癌パネルについて調べられた.

    【結果】2010年2月から2020年12月の間に173名の患者がWorld Health Organization 2019の基準に基づいてSPSと診断された.診断時の平均年齢は54.2±16.8歳であった.73名の患者が遺伝子検査を受け,15/73名(20.5%)が生殖細胞変異を有し,そのうち7/73名(9.6%)が病原性変異(MUTYH;2,SMAD4;1,CHEK2;2,POLD1;1,RNF43;1)を有することが明らかにされた.これらの患者のうち60%(9/15)のみがBSGガイドラインに従った遺伝子パネル検査を推奨された患者であった.

    【結論】検査をうけたSPS患者の20.5%が,未だ報告されていないCHEK2とPOLD1を含むヘテロ接合型の遺伝子変異の影響を受けており,7例(9.6%)でマネージメントの変更に至った.現時点で考えられるのは,予想以上に一般的な遺伝子変異を有するSPSが見逃されている可能性があることである.

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