症例は69歳女性.腹痛,嘔吐を主訴に来院した.CTにて最大37mm大の含気性の腫瘤像が胃に4個と空腸に1個みられた.空腸の腫瘤は内腔を占め,口側腸管は拡張して腸液が充満していた.柿の嗜好歴があり腫瘤は柿胃石と考え,胃石が空腸に陥頓したものと診断した.腹膜刺激症状はみられず,緊急手術ではなく,まず保存的加療を選択した.イレウス管を挿入し減圧後,コーラ溶解療法を行ったところ,胃石は回腸まで移動した.最終的に回腸に嵌頓したため,経肛門的にシングルバルーン内視鏡を挿入し,鉗子口からコーラを注入,スネア破砕を行い,胃石を回収することに成功した.結石分析はタンニン98%であり,柿胃石に矛盾しなかった.
A 69-year-old woman presented to our hospital for evaluation of abdominal pain and vomiting. CT revealed four air-containing gastric masses and one jejunal mass measuring up to 37 mm in size. The jejunal mass occupied the lumen, and the oral gastrointestinal tract was dilated and filled with intestinal fluid. Considering the patientʼs history of persimmon consumption, we suspected that the mass was a persimmon gastrolith, and the gastric stone had likely passed into the jejunum. We did not detect any evidence of peritoneal irritation; therefore, the patient received conservative treatment. We performed cola lysis therapy following ileus tube insertion and decompression. The gastrolith passed into the ileum and was eventually incarcerated in the ileum. We inserted a single balloon endoscope by the transanal route, injected cola and successfully used a snare to crush and remove the stone. Stone analysis revealed 98% tannin, which was consistent with the clinical suspicion of a persimmon gastrolith.
胃石による腸閉塞は比較的まれな疾患で,報告例の多くが外科的に手術されている.一方近年,食物胃石,特に柿胃石がコーラにより溶解されて保存的に治療できた症例の報告が散見されるようになっている.今回われわれは,小腸に嵌頓した胃石および胃内の多発胃石に対してコーラ溶解療法と小腸内視鏡的破砕術によってすべて摘出し得た症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
患者:69歳,女性.
主訴:腹痛,嘔吐.
既往歴:特記事項なし.
家族歴:特記事項なし.
生活歴:コカ・コーラⓇ(以下,コーラと略記)と柿の嗜好あり,干し柿を1日5~6個食している.コーラは健康のため,1年前より飲用中止している.
現病歴:2カ月前,検診の上部消化管内視鏡検査で2個の約30mm大の胃石と胃潰瘍を指摘され,経過観察されていた(Figure 1).2日前より腹痛と嘔吐を認め,改善しないため当院受診された.腹部CTにて空腸に35×30mm大の含気性の腫瘤像がみられ,胃石による小腸閉塞と診断した(Figure 2-a).CTにて胃内にも同様の胃石が4個みられ,最大径37mmであった(Figure 2-b).精査加療目的で同日に当院入院となった.

2カ月前の前医の上部消化管内視鏡検査.胃内に胃石を2個認めていた.

腹部単純CT検査(第1病日).
a:空腸に35×30mm大の含気性の腫瘤像を認め,その口側の空腸~胃内に液貯留を認める.拡張した口側空腸には壁肥厚と腸間膜の吸収値上昇がみられ,閉塞性腸炎に伴う浮腫を示すものと考えられたが,胃石嵌頓部小腸に穿孔や著明な炎症所見はみられなかった.
b:胃内にも同様の腫瘤像を4個認めた(水色矢印).最大径は37mm大であった.
入院時現症:身長 150cm,体重 53kg,体温 36.0℃,血圧 130/72mmHg,脈拍 75/分.腹部は膨満,軟,心窩部~上腹部に圧痛あるが腹膜刺激症状は認めなかった.
入院時検査所見:貧血やBUN/Creの上昇なし.白血球数は13,200/μLおよびCRPは14.25mg/dlと炎症反応の上昇を認めた.
入院後経過:嗜好歴を含む上記検査所見から多発柿胃石および胃石嵌頓による小腸閉塞と診断した.胃内の胃石を含めると計5個の胃石を認めた.柿胃石嵌頓による小腸腸閉塞,胃潰瘍に対して絶食加療およびプロトンポンプ阻害薬(Proton pump inhibitor:PPI),抗生剤CMZ(セフメタゾールナトリウム)1g 12時間毎の点滴静注を開始した.腹部単純CT所見では,嵌頓部位の口側空腸は拡張しており,腸管壁は浮腫状で骨盤腔に少量の腹水もみられたが,症状は限局した心窩部痛のみで腹膜刺激症状がないこと,発熱や頻脈もみられず全身状態は安定していることより,絞扼性腸閉塞には至っていないものと判断し,まずは保存的加療を行うこととした.同日より外科とも連携を行い,絞扼性腸閉塞を疑う所見がみられれば緊急手術で対応できる体制とした.患者の家族に絞扼性腸閉塞になる可能性,そうでなくとも保存的加療抵抗性であり,手術になる可能性が高いことを説明して了承を頂いた.コーラ溶解療法での腸管内圧上昇や腸管循環障害を考慮して,入院当日よりまずはイレウス管挿入による減圧のみを行った.イレウス管造影では胃石が嵌頓している所見であった(Figure 3).翌第2病日には腹痛は軽快しており,イレウス管造影で管先端は先進して胃石は肛門側に移動していた.閉塞機転が移動した場合は,そのまま保存的加療で改善する症例も多いとされるが,回腸~回盲弁への嵌頓のリスクがあり,第3病日よりコーラ溶解療法を開始した.イレウス管からのコーラ注入量は1回100~200ml程度として,1日2~3回行った.注入後は1時間クランプし,その後は減圧のため解放した.胃内の胃石の溶解も期待してコーラの飲用を300ml程度,第3~4病日のみ併用した.第6病日のイレウス管からのガストログラフィン造影にて空腸に嵌頓していた胃石は回腸まで移動しており,コーラ溶解療法を継続した.第8病日に腹痛が再燃して,回腸に再度結石が嵌頓したものと考えられた.イレウス管からのガストログラフィン造影にて回腸に胃石が嵌頓しており,CT再検にて嵌頓胃石は回腸末端から50~60cm程度口側に位置していた(Figure 4-a,b).サイズは変わらず30~35mm程度であった.また入院時に胃内にみられた4個の胃石はイレウス管の先端近くまで移動しており,こちらは縮小して20~25mm程度であった.血液検査所見では,白血球数は5,500/μLおよびCRPは1.09mg/dlと改善傾向であり,腹膜刺激症状はみられないことから,絞扼性腸閉塞には至っていないと考えられた.減圧を優先としてコーラ溶解療法は中止として,経肛門からの内視鏡的破砕,回収を試みることとした.第9病日にシングルバルーン小腸内視鏡(SIF-Q260)を肛門から挿入し,回腸末端から50cmほどに胃石が嵌頓しているのを確認した(Figure 5).スコープ接触により嵌頓が解除されたことを確認し,内視鏡鉗子口から直接コーラを注入し,その日は終了とした.第10病日に再度小腸内視鏡を肛門から挿入した.回腸末端から20cm程度口側回腸に胃石を認め,前日と比較して胃石辺縁は溶解しているような所見がみられた.再度内視鏡鉗子口からのコーラ注入を行い,スネア(captivator 27mm径)で胃石辺縁を数回破砕し,最終的に把持して回収を行った(Figure 6).第11病日のイレウス管造影検査では先端は上行結腸まで到達しており,明らかな胃石の遺残はみられなかった(Figure 7).同日の排便で残りの胃石が排石されたことを確認した.コーラ飲用を促し,第12病日の上部消化管内視鏡検査で胃潰瘍が改善傾向であることを確認し,食事を開始した.その後は症状の再燃なく経過し,第15病日に退院とした.結石分析はタンニン98%であり,柿胃石に矛盾しなかった.入院日より退院日までの16日間までの経過を簡潔に図にまとめた(Figure 8).

イレウス管造影.
トライツ靭帯から1/2ループ進んだ空腸に35×30mmの陰影欠損あり,それより肛門側へのガストログラフィンは流れず.

腹部単純CT検査(第8病日).
a:イレウス管の先端の回腸に4個の胃石を認めた.
b:イレウス管の先端のさらに肛門側の骨盤内の回腸に胃石が嵌頓していた(赤矢印).回腸末端からは50~60cm程度であった.骨盤内に腹水を少量認めた.

(第9病日)シングルバルーン内視鏡検査.
回腸末端から50~60cm回腸に胃石が嵌頓していた.

(第10病日)シングルバルーン内視鏡検査.
回腸末端から30cm程度の部位に,前日と比べて胃石の周囲にゼリー状の粘液付着が顕著にみられ,コーラにより軟化している所見であった.

腹部単純X線.
イレウス管の先端は上行結腸まで到達していた.ガストログラフィン造影を行うも骨盤内回腸に明らかな遺残胃石はみられなかった.

胃石は食物として摂取された物質や,毛髪などの誤食した物質が胃内で結石状の不溶性物質となったものであり,その構成成分から植物胃石,毛髪胃石,樹脂胃石,混合胃石に分類される 1).欧米では毛髪胃石が全胃石の55%と高いが,本邦では植物胃石が大部分であり,その中でも柿胃石は胃石全体の約70%以上を占めている 2),3).柿胃石生成はタンニン酸の主成分であるシブオールが胃酸との接触により不溶性物質となり,凝固・析出することによると考えられている 4).口腔内での咀嚼に始まり,蠕動運動などの過程で形成されることから内部に多量の空気が混入されることにより,CTで特徴的な含気性のスポンジ様の低濃度腫瘤像を呈する 5),6).
(柿)胃石の半数において嗜好歴などの問診が診断の一助になっており,本症例では柿の嗜好歴があり,検診の上部消化管内視鏡検査で胃石と胃潰瘍の診断を受けた症例であり,CTでの特徴的所見からも診断は容易であった.2カ月前には上部消化管内視鏡にて2個確認された胃石は入院日のCTでは5個に増えていた.胃石回収から2日後に再発したという症例も報告されており 7),胃石は短期間に形成され得るものと考えられた.
胃石症そのものは予後良好な疾患であるが,胃潰瘍は胃石の約3割,腸閉塞は1〜3割に合併するという報告がある 8).自然排石や保存治療に抵抗性であるため,診断された時点で速やかに治療介入を行う必要がある.本症例でも経過観察により胃石の増加,胃石嵌頓による小腸閉塞を来しており,無症状であっても胃石を認めた場合は速やかに治療介入をすべきと考える.落下胃石による腸閉塞に対しては外科的手術が行われた症例がほとんどで,落下胃石の嵌頓によるイレウスでは腸管壊死や穿孔を来した症例が報告されており 9),嵌頓部腸管の循環障害を念頭に置いて慎重に治療を進める必要がある.本症例では採血にてWBC,CRPともに高値であり,胃石嵌頓していることからも入院時より緊急手術も選択肢となり得る症例であった.腹膜刺激症状はみられず,全身状態も安定していたので,外科との連携と十分なインフォームドコンセントの上で,まずは保存的加療を選択し,イレウス管による減圧を優先として治療を開始した.ただし,本症例では単純CTを行ったが,近年では造影CTが腸管虚血,腸管壊死について高い診断能を示すことが報告されており 10),本症例でも造影CTは考慮されるべきであった.2002年胃石のコーラによる溶解療法が紹介されて以降,胃内にコーラを注入もしくは患者に飲用させることにより胃石の縮小をはかりその後に内視鏡的に摘出を行うコーラ療法が行われるようになってきている 11).コーラによる作用機序としては①炭酸およびリン酸を含むコーラのpHが2.6と胃液に近いこと,②二酸化炭素の細かい気泡が胃石表面の微細な凹凸に作用し軟化させる,③炭酸水素ナトリウムによる粘膜溶解作用などが推測されているが,明らかとはなっていない 12),13).さらに宗岡ら 14)は,落下胃石による小腸閉塞に対してイレウス管からコーラ注入量を1回100mlと比較的少量に設定し,少量ずつ頻回に施行することで小腸壊死などの重篤な副作用なくイレウス解除に成功している.自験例でも入院翌日には小腸閉塞していた落下胃石が移動しており,保存的治療を継続してイレウス管からコーラ溶解療法を開始したが,注入量は1回100~200mlと少量に設定した.300ml以上の注入を行うと腹痛の訴えもあったことからも少量の注入にとどめた.コーラ溶解療法で腸管内圧上昇や腸管循環障害による小腸壊死に至った症例の報告 9)もあり,ある程度の減圧をはかった後の第3病日より開始し,第8病日の腹痛増悪した後は中止とした.
本症例は,空腸に嵌頓していた結石が回盲弁より50~60cm口側回腸に再度嵌頓するという経過をたどった.食餌性腸閉塞,落下胃石の閉塞部位は回盲部から100cm以内の遠位回腸に多いとされ,小腸は上方より下方にかけて漸次口径小となること,可動性が低いこと,回盲弁による停滞など解剖学的要因が挙げられている 15)~17).多発結石の場合は残存した胃石の落下で腸閉塞が再発する可能性もあり,残存胃石腸閉塞により2回手術している症例もみられるため 18),コーラの飲用を追加して胃内の胃石の経過もおっていたが,イレウス管の先端近くまで移動しており,サイズ縮小もみられたため,こちらについては自然排石が期待された.近年,落下胃石による小腸閉塞に対する内視鏡治療の報告も散見されるが,内視鏡治療成功例での結石嵌頓部位は十二指腸水平部や回腸末端部であり,一方,手術症例では空腸や回盲部から離れた回腸に嵌頓しているものが多い 19).嵌頓部位が小腸で小腸内視鏡治療が試みられた症例はあるが 20),不成功例がほとんどであった.内視鏡治療で除石した症例の報告は医学中央雑誌(検索期間:1983~2021,検索語句:「柿胃石」「小腸内視鏡」)で検索した限りでは1例のみであった 21).本症例では入院時に診断が容易であったことから治療介入を速やかに行えたこと,またイレウス管や小腸内視鏡下に直接コーラによる溶解療法を行い,胃石が軟化したことが,スネアによる内視鏡的砕石,除石が可能となった要因と考える.胃石嵌頓による小腸虚血や壊死を考慮し緊急手術は十分念頭に置く必要はあるが,コーラ溶解療法と小腸内視鏡を組み合わせれば,嵌頓部位が小腸であっても外科手術を回避でき得る可能性があるものと考えられた.
多発胃石からの落下胃石による小腸閉塞の症例を経験した.嗜好歴により柿胃石の診断は容易で,イレウス管からのコーラ溶解療法と小腸内視鏡による破砕術を組み合わせて,小腸の嵌頓胃石と胃内の胃石を含めてすべて摘除することができた.コーラ溶解療法は少量でも十分効果があることが証明でき,嵌頓部位が小腸であっても,落下胃石による腸閉塞に対してコーラ溶解療法と小腸内視鏡による破砕術を試みることで手術を回避し得る可能性があり,治療の選択肢の一つになり得ると考えられた.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし