日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
ESD後に食道verrucous carcinomaと診断した1例
黒川 達哉坂井 大志大南 雅揮 永見 康明山村 匡史田上 光治郎丸山 紘嗣福永 周生北村 昌紀藤原 靖弘
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キーワード: verrucous carcinoma, 食道, ESD
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2023 年 65 巻 8 号 p. 1316-1321

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要旨

症例は75歳,男性.EGDで胸部中部食道に2cm大のヨード不染を呈する白色調の扁平な隆起性病変を認めた.生検では乳頭腫の診断であったが,表在型食道扁平上皮癌を否定できず,診断的治療目的でESDを施行した.切除標本の病理組織はpT1a-EPの扁平上皮癌であり,病理学的特徴からverrucous carcinomaと診断した.術後4年経過した現在も無再発経過観察中である.

Abstract

In a 75-year-old male, EGD revealed a 2-cm, white, flattened, elevated lesion without iodine staining in the mid-thoracic esophagus. Although histopathological examination of the biopsy tissue revealed papilloma, superficial esophageal cancer could not be completely ruled out. ESD was performed as a diagnostic treatment. Pathological examination of the resected specimen revealed squamous cell carcinoma with a depth of pT1a-EP, which was consistent with verrucous carcinoma. Four years after the ESD, the patient is still being followed up without recurrence.

Ⅰ 緒  言

食道verrucous carcinoma(VC)はきわめて高分化な乳頭状発育を示す扁平上皮癌であり,その多くは進行発育した隆起性病変となって診断されるため,外科切除,化学療法が選択される.今回,白色扁平隆起の形態を呈し,生検で乳頭腫と診断されたが,内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)で切除後に食道VCと診断した1例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

患者:75歳,男性.

主訴:心窩部痛.

既往歴:胃潰瘍.

嗜好歴:飲酒は機会飲酒でflusher,喫煙は40本/日×60年間.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:心窩部痛の精査で施行した前医の上部消化管内視鏡検査(EGD)で,食道に白色調の扁平な隆起性病変を指摘され,精査加療目的に当院へ紹介となった.

現症:身長156cm,体重52kg.身体所見に特記所見を認めなかった.

臨床検査成績:白血球は10,300/μlと軽度の炎症所見の上昇を認めたが,その他特記所見を認めなかった.

EGD所見:胸部中部食道の左壁に2cm大の白色調の基部の広い扁平な隆起性病変を認めた(Figure 1).狭帯域光観察(Narrow band imaging:NBI)では病変は淡いBrownish areaとして認識された(Figure 2-a).隆起部のNBI拡大観察では,乳頭様構造内に拡張・延長するループ様の血管を認めたが,口径不同や形状不均一は認めず,日本食道学会分類のType Aの所見であった(Figure 2-b).ヨード染色では,隆起部はpink color sign(PC sign)陽性の不染帯を呈し,隆起部から後壁側に伸び出す平坦な領域にもPC sign陽性の不染帯を認めた(Figure 3).

Figure 1 

上部消化管内視鏡検査.

胸部中部食道の左壁に2cm大の白色調の基部の広い扁平な隆起性病変を認めた.

Figure 2 

a:NBI非拡大観察.病変は淡いbrownish areaとして認識された.

b:NBI拡大観察.乳頭様構造内に拡張・延長するループ様の血管を認めたが,口径不同や形状不均一は認めず,日本食道学会分類のType Aであった.

Figure 3 

ヨード染色.

隆起部と後壁側に伸び出す平坦な領域はPC sign陽性の不染帯を呈した.

超音波内視鏡所見:病変は第2層に主座をおく低エコー性腫瘍として描出され,第3層の途絶は認めなかった(Figure 4).

Figure 4 

超音波内視鏡検査.

第2層に主座をおく低エコー性腫瘍として描出され,第3層の途絶は認めなかった.

生検病理組織所見(隆起部):乳頭状に増生する扁平上皮を認めたが,細胞異型はなく,乳頭腫と診断した(Figure 5).

Figure 5 

生検病理組織(隆起部)(HE染色).

乳頭状に増殖する扁平上皮を認めたが,細胞異型はなく,乳頭腫と診断した.

診断と治療方針:生検では乳頭腫と診断したが,ヨード染色でPC sign陽性の不染帯を呈することより,表在型食道扁平上皮癌を否定できず,診断的治療目的にESDを施行する方針となった.偶発症なく,病変を一括切除した.

病理組織学検査所見:切除標本径は27×22mm,病変径は20×15mmであった.隆起部と,隆起部から後壁側に伸び出す平坦な領域の基底層側に層形成の乱れや核の腫大を認め,比較的軽度な細胞異型を伴う高分化型扁平上皮癌の所見を認めた(Figure 678).隆起部は分化した扁平上皮が乳頭状に増殖しており,角化は乏しかった.深部では異型を増した扁平上皮が下方へ進展していた.高分化扁平上皮癌であり,形態学的特徴よりVCと診断した.食道癌取扱い規約による病理所見は,Squamous cell carcinoma,pT1a-EP,ly0,v0,pHM0,pVM0,pCurAであった.

Figure 6 

ESD切除標本(構築図).

切除標本径は27×22mm,病変径は20×15mmであった.黄線は乳頭状異型上皮を認めた部分,青線は平坦な異型上皮を認めた部分で,いずれもヨード染色で不染帯を呈した部位と一致した.

Figure 7 

切片5のルーペ像(HE染色).

隆起部と,隆起部から後壁側に伸び出す平坦な領域に,層形成の乱れや核の腫大を認めた(画像の左が後壁側,右が左壁側).

Figure 8 

切片5隆起部の病理像(HE染色).

a:深層:Figure 7黄枠.

b:表層:Figure 7赤枠.

隆起部は分化した扁平上皮が乳頭状に増殖しており,角化は乏しかった.深部では異型を増した扁平上皮が下方へ進展していた.高分化扁平上皮癌であり,形態学的特徴よりVCと診断した.

治療後経過:術後4年経過し,無再発経過観察中である.

Ⅲ 考  察

VCは,1948年にAckermann 1により,口腔領域に発生する扁平上皮癌のうち,角化の強い高分化型扁平上皮癌で,疣状の外観を呈し,外側に増殖する傾向を有するものを,他の扁平上皮癌と区別するよう提唱された.鼻腔や喉頭の口腔領域以外にも,亀頭,膣,外陰などの発生も多数報告されている 2

食道原発のVCはMinielly 3が1967年に初めて報告しているが,以後の報告を含めてもまれである.臨床的には緩徐な発育と局所進展を示し,リンパ節転移や遠隔転移を認めることは少なく,通常の扁平上皮癌に比べると予後良好である 4.下部食道に好発し,隆起進展して嚥下障害を来してから発見される症例が多い 5

発生機序は明らかになっていないが,食道アカラシア,食道憩室,逆流性食道炎,食道狭窄など食道内容物の停滞を来す疾患が既往として多くみられ,これらによる慢性炎症などがVCの発生要因の1つとして推測されている 6.本症例においては,食道内に慢性炎症を来す基礎疾患がなく,その成因は不明であった.また,VCの発生にヒトパピローマウイルス(human papilloma virus:HPV)の関与が疑われており,食道VC135例のシステマティックレビュー 7によるとHPVが検索された症例のうち17%が陽性であった.自験例でもHPVのマーカーであるp16を検討したが陰性であり,HPV感染の証明はできなかった.食道VCは一般的には疣状,カリフラワー状の外観を呈することが多いが 6,本症例のように表面が比較的平滑なポリープ様の形態を呈する症例は,実際に内視鏡像が確認できた既報25例中3例であり,12.0%であった 8)~10.その他,内視鏡的に切除可能であったイクラ状の外観を呈するVCが報告されており 11,初期には多彩な内視鏡像を呈する可能性が示唆されている 8.システマティックレビュー 7によると,VCの内視鏡像としては,白色斑(56%),隆起(33%),白色調(29%),外方発育性の腫瘤(29%)であることが多く,ポリープ(5%)や食道炎(5%)の所見を呈するものもあった.また,半数以上の59%が全周性であったとされている 7

前述のシステマティックレビュー 7でVCのTCGAを用いたゲノム解析が行われ,食道扁平上皮癌に多くみられるTP53の病原性変異は少数であったが,SMARCA4のミスセンス変異が多くみられた.VCは進行してから発見される例がほとんどであるが,通常の扁平上皮癌とゲノム解析での遺伝子学的な特徴が異なっているため,初期から扁平上皮癌とは異なった特徴を持っている可能性が示唆される.本症例ではゲノム解析ができていないが,VCの病態解明のためには,さらなる症例の集積が必要と考える.

病理学的な特徴としては,食道癌取扱い規約で,高分化な乳頭状発育を示す扁平上皮癌と定義されている 12.低異型度かつ角化が高度であるため,生検のみで診断されるのは約半数とされており 7,また初回からVCと診断し得た症例は10%と報告されている 5.そのため,VCを疑う場合には可能な限り深層から生検することが重要であり,ボーリング生検 3や超音波内視鏡下穿刺吸引法 13が有用なことがある.本症例のように内視鏡的切除が可能な病変であれば,診断的治療としてのESDも考慮される.

本症例では,隆起部の表層の1カ所から行った生検からは細胞異型は認めず,乳頭腫の部分像と診断された.この診断については,ESD検体でも表層部の細胞異型に乏しく,生検からはVCや扁平上皮癌の診断はできなかったものと考えられた.ESD切除標本では,隆起部で軽度の細胞異型を伴う扁平上皮が乳頭状に増生しており,角化は乏しかった.上皮突起の下方への進展を認め,浸潤傾向は乏しかった.隆起部から後壁側に伸び出すヨード不染となったⅡb進展部にも細胞異型を認め,隆起部の異型上皮と連続していた.角化については,実際に病理像や病理所見が確認できた既報15例の中では,本症例のように角化が乏しい症例はなかった.角化が乏しい点がVCとしては非典型的であったが,食道癌取扱い規約によるとVCの診断に角化は必須ではなく,乳頭状に増生する浸潤傾向の乏しい高分化型扁平上皮癌であり,形態学的特徴を含めてVCと診断した.

前述したように,本症例ではVCの起始部から後壁側へ伸び出す平坦な扁平上皮癌の領域,いわゆるⅡb進展がみられた.VCでは0-Ⅰなど丈の高い隆起を呈することが多いが,本症例と同様にⅡbが随伴している症例も報告されている 14.本症例では通常光やNBIでは認識できず,ヨード染色で初めてⅡb進展を認識できた.VCの病変の範囲診断の際には,隆起部の起始部周辺のⅡb進展の存在にも留意すべきと考えられた.

食道VCは隆起進展してから診断されることがほとんどであるため,治療は外科切除や,化学療法が選択されていることが多い.医学中央雑誌で「食道」,「verrucous carcinoma」,「ESD」のキーワードで,またPubMedで「esophagus」,「verrucous carcinoma」,「endoscopic submucosal dissection」のキーワードで,それぞれ1967年から2021年11月まで検索したところ,本症例のようにESDで切除した報告は村脇ら 15,Abeら 8の2例のみであった.進行例でもリンパ節転移や遠隔転移を認めることは少なく,早期にVCと診断できた場合はESDが有効な治療法となり得ると考えられた.

Ⅳ 結  語

白色扁平隆起の形態を呈し,ESDで切除後に食道VCと診断した1例を経験した.類似する病変では深部からの生検や診断的ESDを考慮する必要があると考えられた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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