近年内視鏡機器メーカーの創意工夫にて,極細径経鼻内視鏡は進化し,ハイビジョン化している.通常径経口内視鏡と同等な画像が得られ,さらに各種強調併用観察も可能になっている.検査中の苦痛も少なく患者の満足度は高く,心肺機能に及ぼす影響も少なく,高齢化社会において胃癌スクリーニング検査の良い適応となっている.胃癌は現在Helicobacter pylori除菌後胃癌がその多くを占め,内視鏡的特徴として陥凹型,発赤調を呈し,さらに粘膜表層には異型の少ない癌細胞を有するため,内視鏡的に診断することが難しくなっている.除菌後長期胃癌症例において未分化型胃癌の発生リスクが増加するとも報告されている.一方で胃癌リスク関連内視鏡所見として,内視鏡的胃粘膜萎縮から内視鏡的腸上皮化生に変化が生じている.細径経鼻内視鏡が,胃癌内視鏡検診に貢献することを期待している.
EUSなどの発展により微小病変の局在診断や膵切除時に外科医から正確な切離ラインを求められることがある.膵の切離ライン決定や術中超音波検査で探す時のメルクマールのために,消化管のように膵臓表面に点墨する超音波内視鏡ガイド下点墨法が行われるようになってきた.同手技の報告は多くはなく,また様々な方法が行われているが,使用薬剤,穿刺針,手技の方法,偶発症,有効性などについてまとめた上で,現状の課題について概説する.
症例は75歳,男性.EGDで胸部中部食道に2cm大のヨード不染を呈する白色調の扁平な隆起性病変を認めた.生検では乳頭腫の診断であったが,表在型食道扁平上皮癌を否定できず,診断的治療目的でESDを施行した.切除標本の病理組織はpT1a-EPの扁平上皮癌であり,病理学的特徴からverrucous carcinomaと診断した.術後4年経過した現在も無再発経過観察中である.
症例は78歳,男性.EGDで,胃前庭部小彎に15mm大の陥凹性病変を認め,生検で高分化型腺癌の診断となった.明らかな遠隔転移を認めず,ESDを施行した.病理組織学的検査では,深達度は粘膜内,切除断端陰性で脈管侵襲はみられず内視鏡的完全切除となったが,病変は淡明な胞体を有する細胞で構成されており,免疫染色でAFP,Glypican-3,SALL4陽性であり,AFP産生胃癌と診断された.治療後,5年間再発や転移なく経過しており,内視鏡治療にて完全切除が得られたAFP産生早期胃癌は稀であり報告する.
今回われわれは,胃癌に対してRoux-en-Y再建された78歳男性の総胆管結石性胆管炎に対して,シングルバルーン内視鏡を用いたERCPを試みたが,十二指腸憩室により胆管挿管困難だったため,Multi-loop traction deviceTM(MLTD,Boston Scientific Japan,東京)を併用した症例を経験したので報告する.症例は,乳頭が十二指腸憩室内の肛門側に位置しており,胆管軸が合わず,胆管挿管は困難を極めた.そこでMLTDを装着したクリップを憩室下縁の粘膜に留置した後,MLTDのループ部に新たなクリップを掛けて肛門側へ牽引後に留置し,乳頭の位置を矯正することで胆管挿管可能となり,胆管プラスティックステントの留置に成功した.消化管再建術後かつ傍乳頭憩室を有する症例での胆管挿管では,MLTDが有用である.
症例は80歳女性.急性の腹痛を主訴として受診した.来院時,下腹部に腹膜刺激症状を伴わない軽度の圧痛を認めた.腹部CTと病歴から魚骨による小腸穿通の診断となった.魚骨は既に穿通部から離れており,腹部所見と炎症反応が比較的軽度であったため,非手術的加療とした.入院9日目,腹部症状と炎症反応は改善したが,腹部CTで魚骨は上行結腸に停滞していた.魚骨が新たに結腸を損傷する危険性を考え,CSでこれを摘出した.その後の経過は良好で,入院17日目に退院となった.魚骨による小腸穿通後に非手術的経過を追えた報告は稀であり,自然脱落後に結腸に停滞した魚骨を内視鏡的に摘出しえた経過はさらに稀である.内視鏡介入の是非についての問題提示を含め文献的考察を加えて報告する.
EPSIS(Endoscopic pressure study integrated system)は下部食道括約筋(Lower esophageal sphincter:LES)機能を内視鏡的に評価し,24時間pHモニタリングの補助的診断法として用いることができる.胃内に送気を持続的に行うため,いわゆる負荷テストのようなものでありLESの潜在能力を試している,とも言える.EPSISは新たな分野“機能内視鏡”としてのモダリティーになりうると考えている.
食道静脈瘤や胃静脈瘤は,肝硬変症や特発性門脈圧亢進症などの門脈圧亢進症を来す様々な背景疾患に付随して発症する.食道静脈瘤や胃静脈瘤の治療は,背景疾患の病態に影響を与えることがある.したがって,食道静脈瘤や胃静脈瘤の治療は,患者の背景疾患の病態と血行動態を十分に理解した上で,理論的に行うべきである.本稿では,食道静脈瘤や胃静脈瘤の血行動態を把握するための診断方法,ならびに,それら血行動態を考慮した適切な内視鏡治療法について述べる.
スクリーニング内視鏡検査は,胃癌の発見と予後の改善に有効である.しかし,熟練した内視鏡医であっても,通常の白色光観察では早期胃癌を見落とすことがある.Texture and Color Enhancement Imaging(TXI)は,明るさ,表面の凹凸(隆起や陥凹),わずかな色調の変化を強調する画像強調内視鏡技術である.これまでの内視鏡画像を用いた研究では,白色光とTXIにおける胃癌の病変部と周囲の背景胃粘膜との色差が検討されている.これらの研究では,白色光と比してTXIでは色差が有意に高いことが示されただけでなく,早期胃癌の視認性においても白色光と比してTXIモード1が優れていることが報告されている.
これまでの報告からは,TXIが早期胃癌の発見に貢献することが期待される.しかし,実際の臨床におけるTXIの有効性は明らかとはなっておらず,今後スクリーニング内視鏡検査を受ける患者を対象とした大規模な前向き研究が必要である.
【目的】多施設共同前向きコホート研究で,早期胃癌(EGC)に対する内視鏡的切除術(ER)の長期的アウトカムを明らかにする.
【方法】2010年7月~2012年6月にERを受けたEGC10,021病変を持つ9,054人の長期転帰を分析した.主要評価項目は,5年全生存率(OS).全死亡のハザード比はCox比例ハザードモデルで算出.5年OSを,外科切除EGC患者で計算された予想OSと比較.5年OSの95%信頼区間(CI)下限値が,予想OSから5%を引いた値(閾値5年OS)を超えた場合,ERは有効と判断.一括切除・断端陰性・脈管侵襲陰性の病変はカテゴリーA1(分化型・pT1a・潰瘍陰性・≤2cm),A2(分化型・pT1a・潰瘍陰性・>2cmまたは分化型・潰瘍陽性・≤3cm),A3(未分化型・pT1a・潰瘍陰性・≤2cm),B(分化型・pT1b(SM1)・≤3cm)に4分類し(Table 1),上記以外は非治癒切除(カテゴリーC)とした.
【結果】全体の5年OSは89.0%(95%CI,88.3%-89.6%).多変量解析で,カテゴリーA2,A3,Bのハザード比はA1のハザード比と有意差はなかった.カテゴリーCを除くすべてのカテゴリーの5年OSは閾値5年OSを超えた.
【結論】ERは,カテゴリーA1,A2,A3,Bを満たすEGC患者の標準治療として推奨できる.