2023 年 65 巻 9 号 p. 1443-1451
Texture and Color Enhancement Imaging(TXI)はEVIS X1に搭載されている新しい画像強調内視鏡(Image-Enhanced Endoscopy:IEE)である.TXIは白色光画像をベースとして「構造」,「色調」,「明るさ」の3つの要素を自動で最適化する画像技術であり,内視鏡診療における病変の同定や質的・量的診断能の向上に期待されている.しかしながら実臨床における有用性の報告は十分に集積されておらず,どのような場面でTXIが活用できるかは現時点では不明である.当院での経験と既報を基に上部消化管内視鏡診療におけるTXIの有用性を探索的に検討する.
Texture and color enhancement imaging (TXI) is a novel image-enhanced endoscopy technology that is available in the EVIS X1 endoscopy system. This imaging technology automatically optimizes the “structure,” “color tone,” and “brightness” of white light images, thereby improving lesion detection and the qualitative and quantitative diagnostic performance of endoscopy. However, there are not enough reports of its efficacy in daily clinical practice, and it is unclear when to use TXI. Based on our experience and previous reports, we aim to explore the efficacy of TXI in esophagogastroduodenoscopy.
スクリーニング上部消化管内視鏡検査(EGD)は特にヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori:H. pylori)感染や胃がん発生の多い東アジア諸国において,早期発見による胃がん死亡率を減少させる効果的な方法として広く知られている 1),2).Narrow-band imaging(NBI),Blue-laser imaging(BLI),Linked color imaging(LCI)といった画像強調内視鏡(Image-Enhanced Endoscopy:IEE)は白色光(White-light imaging:WLI)のみでの観察時と比較して早期胃癌の検出率を向上させることが報告されている 3)~5).また自覚症状を伴わない表在型の咽頭癌や食道癌はスクリーニングEGDで偶発的に発見される.その多くは熟練した内視鏡医であってもWLIのみで同定することが難しいことが知られておりIEEの併用がほぼ必須となっている 6).しかしながらIEEを用いてもすべての病変を同定することはできないため,更なる内視鏡技術(人工知能,ハイビジョン内視鏡,新規プロセッサー等)やIEEシステムの開発が必要であると考えられている.近年,オリンパス株式会社から内視鏡検査の質の向上を目的とした,新たなIEEであるTexture and Color Enhancement Imaging(TXI)が開発された.本稿では,TXIを用いた上部消化管内視鏡検査について,その原理と探索的な臨床応用への可能性について述べる.
2020年4月にオリンパス株式会社から新規内視鏡システム「EVIS X1」が発売され日常診療で利用できるようになっている.EVIS X1にはTXIという新たなIEEが搭載されている.その特徴は白色光観察における消化管粘膜の「構造」,「色調」,「明るさ」の3つの要素を自動で最適化するRetinex理論に基づいた画像強調観察法である.TXIを用いることでわずかな色調や構造の変化が強調され,病変の観察能の向上が期待されている.TXIの原理は白色光画像をdetail layerとbase layerに分割し,前者には構造強調を,後者には明るさの補正を行い(明るさの補正は近点のハレーションが生じないよう遠点の暗い部位のみ明るくする),2つの成分画像を合成して画像が出力される.ここで出力される画像がTXI mode 2である.更に色調強調を加え赤色の色調をより赤く,白色の色調をより白く色調コントラストを強めた画像が出力される.これがTXI mode 1である.つまりTXI mode 2は構造と明るさのみを強調したモードであり,TXI mode 1はmode 2に色調強調が加わったモードである.TXI mode 2は色調強調がないため,白色光観察に近い色合いで出力される.
通常ほとんどの表在型の咽頭癌や食道癌は随伴症状がなく,スクリーニングEGDで偶発的に発見される.しかし表在型食道癌と表在型咽頭癌のWLIの感度は熟練した内視鏡医であっても,それぞれ55%と8%と十分でないことが知られている 6).そのため病変の同定のためにはNBI,BLIやLCI等のIEEの併用がほぼ必須である 7)~9).Dobashiら 10)はEVIS X1と経口内視鏡(GIF-EZ1200,GIF-XZ1500)を用いて撮像された59例の扁平上皮癌(squamous cell carcinoma:SCC)疑いの咽頭・食道病変の内視鏡画像についてCommission Internationale de Lʼ Eclairage(CIE)L*a*b* color space 11)を用いて色差解析を行っている.病変の内訳はSCC24例,高異型度扁平上皮内腫瘍(high-grade intraepithelial neoplasia:HGIN)11例,低異型度扁平上皮内腫瘍(low-grade intraepithelial neoplasia:LGIN)16例であった.病変と背景粘膜との平均色差はWLIで11.6±4.8,TXI mode 1で18.6±6.8,TXI mode 2で14.3±5.5,NBIで17.2±7.3といずれのIEEもWLIに比し有意に色差が大きい結果であった(P<0.001).この結果は局在(咽頭・食道),組織学的所見(SCC・HGIN・LGIN),肉眼型,腫瘍径によらず同様であった.少数例の検討ではあるが,この結果からTXIは咽頭・食道の扁平上皮癌疑いの病変の拾い上げに有用である可能性が示唆されている.今後TXIのmodeの使い分け等も含めた実臨床での研究が待たれる.
胃がんは一般的に多因子・多段階のプロセスによって発生するが,高度胃粘膜萎縮と腸上皮化生は危険因子として広く知られている 12),13).また近年ではH. pylori既感染患者に見られる地図状発赤は腸上皮化生を示すとされ,新たに発見された胃癌の独立した危険因子である 14),15).われわれはEVIS X1とオリンパス株式会社製の第3世代の新型経鼻内視鏡GIF1200Nを用いてスクリーニングEGDを行った60名の患者を白色光とTXI mode 2(n=30),白色光とNBI(n=30)で観察した2グループにランダム化し,CIE L*a*b* color spaceを用いて胃粘膜萎縮,腸上皮化生,地図状発赤とその背景粘膜との色差について検討を行った 16).
TXI mode 2とNBIで比較すると萎縮粘膜の平均色差はTXI mode 2で20.8±9.7,NBIで19.3±8.0 (P=0.553),腸上皮化生においてはTXI mode 2で10.9±3.8,NBIで13.5±4.7(P=0.057),地図状発赤ではTXI mode 2で13.5±5.6,NBIで11.7±9.3(P=0.703)であり,いずれもモダリティ間の有意差はなかった.
またTXI mode 2と白色光で比較すると萎縮粘膜の平均色差はTXI mode 2で20.8±9.7,白色光で14.0±7.3(P=0.003),腸上皮化生においてはTXI mode 2で10.9±3.8,白色光で6.5±3.1(P<0.001)とTXIで色差が大きかったのに対し,地図状発赤ではTXI mode 2で13.5±5.6,白色光で13.1±3.1(P=0.885)と有意差を認めなかった.
本検討の結果からは,既存のIEEであるNBIに対する優位性は示せなかったが,白色光に比しTXIは胃粘膜萎縮や腸上皮化生において色調のコントラストがつきやすいことが示された(Figure 1-a~c).胃癌のリスクを層別化する上で胃粘膜萎縮や腸上皮化生の存在の認識は重要であり,日常診療でのスクリーニングEGDでTXIは有用である可能性がある.TXI mode 1に関する報告はこれまでにないため今後の検討が待たれる.

GIF1200Nで撮像されたH. pylori除菌後の胃粘膜萎縮.
a:白色光像.木村・竹本分類のclosed type(C-3)の萎縮を認める.前壁側の萎縮境界は若干不明瞭である.
b:TXI mode 2像.白色光に比べより萎縮境界がはっきり認識できるようになった.
c:NBI像.TXIと同様に萎縮境界がはっきり認識できる.TXIと比較し遠点は暗くなるため穹窿部の視認性が低下している.
これまでの早期胃癌に対するTXIの有用性に関する報告は数本のみであり,いずれの報告も症例数は少ないもののみである 17),18).Ishikawaら 17)は12例の胃腫瘍(腺腫ないしは癌)と20例の胃粘膜萎縮症例についてEVIS X1と経口内視鏡(GIF-EZ1500,GIF290Z)を用いて撮像された画像に対しCIE L*a*b* color spaceを用いた色差解析を行っている.胃粘膜萎縮と非萎縮胃粘膜の平均色差は白色光で8.7±4.2,TXI mode 1で14.2±8.0,TXI mode 2で10.0±4.2であり,TXI mode 1は白色光よりも有意な色差(P=0.009)を有していたのに対し,TXI mode 2は白色光と比較し色差に有意差を認めなかった(P=0.261).またTXI mode 1はmode 2よりも有意な色差を示した(P=0.017).また胃腫瘍と非腫瘍粘膜の平均色差は白色光が8.0±4.2,TXI mode 1が18.7±16.0,TXI mode 2が10.2±8.4でありTXI mode 1は白色光よりも有意な色差(P=0.01)を有していたのに対し,TXI mode 2は白色光と比較し色差に有意差を認めなかった(P=0.831).またTXI mode 1はmode 2よりも有意な色差を示したと報告している(P=0.042).Abeら 18)は20例の早期胃癌について,EVIS X1とGIF 290Zを用いて撮像された画像の色差解析を行い胃癌と非腫瘍粘膜の平均色差は白色光が10.3±4.7,TXI mode 1が15.5±7.8,TXI mode 2が12.7±6.1でありTXI mode 1は白色光よりも有意な色差(P=0.04)を有していたのに対し,TXI mode 2は白色光と比較し色差に有意差を認めなかった(P=0.61).またTXI mode 1とmode 2の間に有意差はなかったと報告している(P=0.54).
2報をまとめると色差に関してはTXIの原理通り色調強調が加わったTXI mode 1が萎縮・非萎縮粘膜や癌・非癌粘膜の「色」のコントラストが最も強い結果であった.一方でTXI mode 2は色調強調がないものの「明るさ」が強調されている影響もあって有意差はなかったものの数値自体は白色光の色差よりも高い結果であった.これらの結果はいずれも少ないサンプル数や使用している内視鏡の違いに影響を受けている可能性があり,更なる検討が必要と考えられる.
当施設ではスクリーニングの際に色調強調がなく白色光に近いTXI mode 2を併用し検査を行った.当施設で内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)前にEVIS X1とGIF1200Nを用いて撮像された31例の早期胃癌画像の色差解析を行い胃癌と非腫瘍粘膜の平均色差は白色光が10.2±5.5,TXI mode 2が16.0±10.1でありTXI mode 2は白色光に比し有意な色差(P=0.001)を有していた(Figure 2-a~c) 19).近年発売された第3世代の経鼻内視鏡は第1世代や第2世代に比し解像度が向上し正確な内視鏡診断が可能となっている 20)~22).異なる研究デザインのため直接の比較は困難であるが,実際に既報 17),18)の経口内視鏡を使用した白色光画像における癌・非癌粘膜の色差(石川ら:8.0±4.2,阿部ら:10.3±4.7)と当施設での経鼻内視鏡を使用した色差(10.2±5.5)は同程度であり経口内視鏡と遜色のない画像が得られていると考えられる.更にはTXI等のIEEを組み合わせることでより色調のコントラストが増し,スクリーニングEGDにおける早期胃癌の同定率向上に貢献できる可能性がある.今後経口内視鏡と経鼻内視鏡の比較も含め更なる検討が必要である.

GIF1200Nで撮像された胃体下部小彎前壁よりの分化型早期胃癌(H. pylori除菌後).
a:白色光像.胃体下部小彎前壁よりの萎縮粘膜を背景に表層にびらんを伴う発赤調の平坦隆起性病変を認める.小彎側は色調変化に乏しく境界を認識し難い.
b:TXI mode 2像.小彎側の構造が強調され微細な隆起が強調され,境界が認識できる.
c:NBI像.病変部位に一致してbrownish areaとなり,境界も明瞭である.
主観的な視認性の評価としてIshikawaら 17)は12例の胃腫瘍(腺腫ないしは癌)に対し4-pointスケール 23),24)を用い6名の内視鏡医の画像読影による視認性評価試験を行った.各モダリティの平均視認性スコアは白色光で2.0±0.9,TXI mode 1で2.8±1.0,TXI mode 2で2.2±0.9でありmode 1,mode 2共に白色光に比し視認性が向上していた(P<0.01).Abeらも20例の早期胃癌に対し,別の視認性スコア 25)を使用し4名の内視鏡医の画像読影による視認性評価試験を行い白色光に比しTXI mode 1は35%(7/20),TXI mode 2は20%(4/20)の症例で視認性の向上を示した.
いずれの報告もTXI mode 2は早期胃癌の客観的視認性(色差)が向上しなかったのに対し,主観的視認性はTXI mode 1,mode 2共に向上していた.
当施設でもEVIS X1と第3世代の新型経鼻内視鏡GIF1200Nを用いて撮像された31例の早期胃癌画像に対し4-pointスケール 23),24)を用い10名の内視鏡医(内視鏡学会専門医5名,内視鏡学会非専門医5名)の画像読影による視認性評価試験を行った 19).読影医全体の視認性スコアの中央値(四分位範囲)は白色光で4(3-4),TXI mode 2で4(4-4)でありTXI mode 2は白色光に比し視認性が向上していた(P<0.001).またこの結果は専門医,非専門医,肉眼型に関わらず同様であった.一方でH. pylori除菌後胃癌(n=21)でTXI mode 2の視認性は白色光に比し向上していたのに対し,H. pylori感染胃癌(n=7)では視認性に有意差を認めなかった.この結果はH. pylori感染胃癌の症例数が少なかったことが影響している可能性があるが,特に発見が困難とされるH. pylori除菌後胃癌の診断にTXIが有用である可能性がある.
【症例1】H. pylori除菌後,高分化型管状腺癌(tub1).白色光観察で胃前庭部前壁の萎縮と腸上皮化成を伴う背景粘膜に発赤調の陥凹領域を認める(Figure 3-a).白色光からは高い確信度を持って腫瘍性病変と認識することは困難であった.TXI mode 2では明るさと構造が強調され,発赤陥凹部の存在及び周囲との境界の識別が可能となった(Figure 3-b).更にTXI mode 1では色調強調により発赤陥凹部がより赤く,周囲との境界もより判断しやすくなった(Figure 3-c).同部位は通常NBI観察でbrownish areaとして認識できた(Figure 3-d).同部位からの生検結果はtub1であった.内視鏡診断は前庭部後壁の0-Ⅱc病変,腫瘍径は10mm大で潰瘍はなく,絶対適応病変としてESDで病変を一括切除した.病理結果はtub1,8×4mm,0-Ⅱc,pT1a(M),UL0,Ly0,V0,pHM0,pVM0であり,eCuraAであった.

GIF-EZ1200で撮像された胃前庭部前壁の分化型早期胃癌(H. pylori除菌後).
a:白色光像.
b:TXI mode 2像.
c:TXI mode 1像.
d:NBI像.
【症例2】H. pylori除菌後,高分化型管状腺癌(tub1).白色光観察で胃体下部後壁の萎縮粘膜を背景に淡い発赤調の陥凹領域を認める(Figure 4-a).TXI mode 2では,より明瞭に陥凹部の表面構造が認識できるようになり,明るさが強調された影響で発赤もより目立っている(Figure 4-b).TXI mode 1では色調強調により背景の萎縮粘膜とのコントラストがついたが病変の同定,境界の認識においてはmode 2と差異ははっきりしなかった(Figure 4-c).また非拡大のNBI観察で同部は明瞭なbrownish areaとして認識でき,境界も全周性に追うことが可能であった(Figure 4-d).NBI併用拡大観察では陥凹部に一致して明瞭なdemarcation lineを認め,病変内部は不整に蛇行するnetwork状の微小血管を認め生検でtub1の診断を得た.内視鏡診断は前庭部後壁の0-Ⅱc病変,腫瘍径は10mm大で潰瘍はなく,絶対適応病変としてESDで病変を一括切除した.病理結果はtub1,6×6mm,0-Ⅱc,pT1a(M),UL0,Ly0,V0,pHM0,pVM0であり,eCuraAであった.本症例においては内視鏡医の慣れも関係しているかもしれないが,TXIに比べNBIの方が,病変の認識,範囲診断においては有用と思われた.

GIF-EZ1200で撮像された胃体下部後壁の分化型早期胃癌(H. pylori除菌後).
a:白色光像.
b:TXI mode 2像.
c:TXI mode 1像.
d:NBI像.
これまでのTXIの有用性に関する報告例はいずれも少数例かつ単施設での検討であり,確立されたエビデンスはないのが現状である.われわれの施設での検討及び使用経験からは目的に応じてTXIのmodeを使い分けると良いと考えている.例えば現在も多くの健診施設や臨床現場においてスクリーニングEGDのゴールドスタンダードは白色光観察であり,白色光画像に近いTXI mode 2は既存の診断学を用いた病変の拾い上げに有用であると考えている.またTXI mode 1はこれまでのIEEのように病変の質的診断や範囲診断に利用できると考えている.しかしながらTXI mode 1は白色光とは明らかに異なった色調を呈するため使用に関しては内視鏡医の慣れが必要であると感じている.TXIの臨床的有用性については今後既存のIEEとの比較を含め多施設での大規模前向き研究で明らかにされるべきである.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし