透明なgelを管腔内に注入して視野確保するgel immersion法は2016年に初めて報告された.Gelの粘性により血液・腸液や食物残渣と混ざり合わずに押しのけて透明な作業空間を作りだし,透明な視野が確保できる.この方法に最適化したgelであるビスコクリアが医療機器として2020年10月に発売され,内視鏡的止血術だけでなく,ESD,EMR,EUS,捻転整復,異物回収など様々な内視鏡手技に応用できることが報告されている.内腔を虚脱させた状態でも視野確保できるため,スコープの撓みが抑制されて操作性が改善する.また,管腔内圧が低圧に保たれ,苦痛の軽減や偶発症リスクの軽減も期待できる.
Barrett食道腺癌(Barrettʼs Esophageal Adenocarcinoma:BEA)は欧米では増加している.本邦でも徐々に増加傾向があることが報告されている.BEAに関する内視鏡診断と治療は本邦と欧米では大きく違いがある.病理診断,さらに病変に対する背景の違い(Short Segment Barrettʼs esophagus:SSBE,Long Segment Barrettʼs Esophagus:LSBE)それに伴う残存Barrettʼs Esophagus(BE)に対する,治療方針に違いがある.本邦でのBEAに対する治療はESDが主体であるが大半の症例がSSBE由来である.一方欧米は半数以上がLSBE背景であり,BEA visible lesionの内視鏡治療後に背景のdysplasiaの存在によりBEそのものに対しablation治療が推奨されているが本邦では異なる.2022年食道癌取扱い規約第12版で変更になったバレット食道に関する変更点に基づいてESDと治療成績について述べる.
症例は70歳女性.上部消化管内視鏡検査にて,胸部上部食道に顆粒状の凹凸を呈する黄白色調の扁平隆起性病変を認めた.narrow band imaging拡大観察では,背景粘膜よりやや拡張した血管が整然と並んでおり,その深部に境界不明瞭な黄白色調の類円形構造が透見された.病理組織学的には,異型に乏しい重層扁平上皮の増生と,上皮下に泡沫状組織球の集簇を認め,疣贅型黄色腫と診断した.3年の経過観察で病変に変化は認めなかった.
症例は42歳男性.2016年に心窩部痛にて近医受診し,EGDを施行され,胃前庭部・十二指腸球部に多発潰瘍性病変を指摘され紹介となった.当院初回のEGDでは,食道には異常を認めず,胃・十二指腸病変部の生検にて100/HPF以上の好酸球浸潤を認め,好酸球性胃腸炎と診断した.ステロイド内服で治療を開始し,改善が見られた後にボノプラザン内服を継続していたが,2021年のEGDで,下部食道に輪状溝・縦走溝を伴う血管透見の消失した粗造な粘膜領域を認めた.同部位の生検でも著明な好酸球浸潤を認め,好酸球性胃腸炎の食道病変と診断した.好酸球性胃腸炎は全消化管に起こり得るが,異時性に食道病変が顕在化した報告は稀であり報告する.
症例は45歳男性.慢性腎不全で維持透析中.黒色便の精査で上部消化管内視鏡検査を施行し,前庭部大彎に長径20mmの迷入膵様の開口部を伴う粘膜下腫瘍を認めた.開口部に凝血塊が付着しており,同部位からの出血を疑った.EUSで粘膜下層に病変を認めたことから,迷入膵からの出血を疑い,止血術としてESDを施行した.病理診断は胃過誤腫性内反性ポリープであり,嵌入した粘膜面に形成された潰瘍からの出血と診断された.胃過誤腫性内反性ポリープは稀に消化管出血の原因となることがあり,ESDでの病変切除が止血に有用な場合もあると考えられた.
56歳,男性.1週間前から頻回な水様性下痢と,腎機能障害を認めており,高度下痢による腎前性腎不全と診断した.感染性腸炎を疑い,絶食下に大量補液を施行したが下痢,腎機能の改善は乏しく,糞便培養検査からは有意菌の検出は認めず原因は不明であった.CSを行い,S状結腸から直腸にかけて血管透見低下とひび割れ様の粘膜所見を認め,ランダム生検を施行した.病理組織学的所見で上皮間リンパ球の増加を認めLymphocytic colitisと診断した.コレスチミドの投与により下痢,腎機能は改善した.原因不明の慢性下痢患者において,Lymphocytic colitisを含めたMicroscopic colitisの診断を行うには,微細な内視鏡所見をとらえ積極的に生検を施行し,病理組織学的評価を行うことが重要である.
Texture and Color Enhancement Imaging(TXI)はEVIS X1に搭載されている新しい画像強調内視鏡(Image-Enhanced Endoscopy:IEE)である.TXIは白色光画像をベースとして「構造」,「色調」,「明るさ」の3つの要素を自動で最適化する画像技術であり,内視鏡診療における病変の同定や質的・量的診断能の向上に期待されている.しかしながら実臨床における有用性の報告は十分に集積されておらず,どのような場面でTXIが活用できるかは現時点では不明である.当院での経験と既報を基に上部消化管内視鏡診療におけるTXIの有用性を探索的に検討する.
小児の炎症性腸疾患診療において内視鏡検査は必要不可欠である.一方で検査の施行にあたっては安全かつ有用な検査とするために,検査の適応,鎮静,スコープの選択など小児特有の事項を症例ごとに検討する必要がある.体格による使用できるスコープの制限,内視鏡の術者のみでなく,鎮静や全身管理を担当する小児科医や麻酔科医の必要性など,小児の内視鏡検査には越えなければならないいくつかのハードルが存在することは間違いない.しかし,そういった障壁を乗り越え,炎症性腸疾患で苦しむこども達に少しでも苦痛や不安の少ない内視鏡診療を提供することが,この先の本邦の炎症性腸疾患診療の発展につながると思われる.
【背景・目的】拡大や画像強調内視鏡などの内視鏡診断技術による大腸病変の質的評価は,費用対効果の高いリアルタイムな手法として臨床導入されている.更に,内視鏡治療技術の進歩に伴い,内視鏡的切除術が潰瘍性大腸炎(Ulcerative colitis:UC)罹患者の大腸腫瘍性病変の治療選択肢となりつつある.そのため,術前の正確な質的評価の重要性が増している.本システマティック・レビューでは,UC患者に対する大腸病変の内視鏡的質的評価の現状と限界を検証した.
【方法】2000年1月1日から2021年11月30日までの期間で,オンラインデータベース(PubMed経由のMEDLINE,Cochrane Library経由のCENTRAL)の文献検索を実施した.
【結果】文献検索で748報の論文が同定され,最終的に,25報の研究が対象となった.23報は腫瘍・非腫瘍の鑑別,1報はUC関連腫瘍と散発性腫瘍の鑑別,1報はlow-grade dysplasiaとhigh-grade dysplasia/癌の鑑別が検討されていた.
【結論】UC罹患者の大腸病変の質的評価は,最新鋭の内視鏡診断技術を用いてもなお困難であり,課題が残されている.
北陸地区の鎮静の現状評価のため,専門医が勤務する270医療機関にアンケートを行った.160医療機関(73病院,87診療所)より回答を得られ,上部消化管内視鏡307,628例中38.6%,大腸内視鏡86,034例中25.4%に鎮静が施行された.主に使用する鎮静薬はジアゼパム(52.5~64.1%)がミダゾラム(31.7~43.6%)に比して多かった.過去1年間プロポフォールを使用した施設は16.3%であった.過去5年間で重篤な有害事象は呼吸停止6例,脳梗塞1例で死亡例は報告されなかった.鎮静に対する意見として早期の保険収載を求める割合が多かった.わずかに重篤な有害事象はあるものの,大多数の症例で安全に鎮静内視鏡を行っていた.
【背景】悪性遠位胆管閉塞に対するフルカバー付き金属ステント(fully covered self-expandable metal stents:FCSEMSs)は汎用されている.本研究目的は悪性遠位胆管閉塞に対するFCSEMS留置時のアンカリング用プラスチックステントの有用性を検討することである.
【方法】多施設コホート研究により,悪性遠位胆管閉塞に対するFCSEMS留置時にアンカリングプラスチックステント追加留置の有無の有用性を後方視的に比較した.アンカリングの方法は,選択的胆管挿管後に2本のガイドワイヤを留置した後,7-Frのダブルピッグテールプラスチックステント(double-pigtail plastic stent:DPPS)を先行留置させた.次いでFCSEMSをside-by-sideに留置した.DPPSの近位端はFCSEMSを跨ぐように,10cm以上のステントを選択した.FCSEMS長は内視鏡医が選択した.
【結果】185例中120例がDPPS留置の併施(アンカリング群),65例がFCSEMS単独留置(単独群)であった.基礎疾患は両群ともに膵癌がもっとも多かった(72.5 vs 80%,NS).FCSEMS長は5 or 6cmが多く,ステント開存期間中央値はアンカリング併施群で単独群と比較して有意に延長した(342日 vs 240日,P=0.04).ステント迷入はアンカリング併施群で単独群と比較して有意に少なかった(10.8% vs 27.7%,P=0.01).ステント閉塞や偶発症(膵炎,胆嚢炎など)は両群間で有意差は認められなかった.
【結語】DPPSによるアンカリングはシンプルな方法でありながらFCSEMSの開存期間を延長させるだけでなく,偶発症も増加しなかった.FCSEMSの迷入リスクを減少させる可能性も示唆された.