2023 年 65 巻 9 号 p. 1479-1487
北陸地区の鎮静の現状評価のため,専門医が勤務する270医療機関にアンケートを行った.160医療機関(73病院,87診療所)より回答を得られ,上部消化管内視鏡307,628例中38.6%,大腸内視鏡86,034例中25.4%に鎮静が施行された.主に使用する鎮静薬はジアゼパム(52.5~64.1%)がミダゾラム(31.7~43.6%)に比して多かった.過去1年間プロポフォールを使用した施設は16.3%であった.過去5年間で重篤な有害事象は呼吸停止6例,脳梗塞1例で死亡例は報告されなかった.鎮静に対する意見として早期の保険収載を求める割合が多かった.わずかに重篤な有害事象はあるものの,大多数の症例で安全に鎮静内視鏡を行っていた.
Currently, only a few drugs are approved for insurance coverage for sedation during endoscopy, and off-label drug use is commonly practiced due to a lack of public knowledge. To evaluate the current status of endoscopic sedation, we conducted a questionnaire-based survey of 270 medical institutions in the Hokuriku area where board-certified fellows of the Japan Gastroenterological Endoscopy Society work. We obtained questionnaire responses from 160 institutions, including 73 hospitals and 87 clinics. Sedation was found to be performed in 38.6% of 307,628 esophagogastroduodenoscopies and 25.4% of 86,034 colonoscopies at all institutions. The median percentage of sedation frequency at each institution was 25.0% (range, 0-98.1%) for esophagogastroduodenoscopies and 2.1% (range, 0-100%) for colonoscopies. Diazepam was the most commonly used sedative at each institution, accounting for 64.1% of esophagogastroduodenoscopies and 52.5% of colonoscopies, followed by midazolam, which accounted for 31.7% of esophagogastroduodenoscopies and 43.6% of colonoscopies. Propofol was used in 16.3% of institutions in one year, with 4,170 patients receiving it overall. Dexmedetomidine hydrochloride was used in 6.9% of institutions in one year, with 393 patients receiving it overall. In the past five years, serious adverse events such as six cases of respiratory arrest and one case of cerebral infarction have been reported. However, no deaths have been reported. Many endoscopists expressed the opinion (in free answers) that insurance coverage for sedation should be provided at the earliest. In conclusion, we assessed and reported the current status of sedation use in endoscopy. Although a few serious adverse events were reported, endoscopy under sedation was generally performed safely at most institutions.
日本消化器内視鏡学会から「内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(JGESガイドライン)」 1)が2013年に,第2版 2)が2020年に発行され,患者と医療者による意思決定を支援するために利用されている.
しかし日本の現状において,内視鏡時の鎮静に対する保険適用の承認を取得している薬剤はほとんどなく,主にベンゾジアゼピン系の薬剤が適用外で使用されている.これらの薬剤は,公知として一般臨床で広く使用されているのみであり,保険診療において査定されるかどうかは地域差などが介在している.医療提供者にとっては費用負担や重大事故発生時に責任が問われるなどの不利益となる可能性がある.安全性の観点からも,薬剤が保険適用となることが期待される.
これらの薬剤の公知申請からの保険償還への動きにむけ,まずは鎮静を行う内視鏡診療の現状評価を行うべきと判断した.このために,北陸の病院・実地医家での内視鏡診療において,JGESガイドラインの受け入れ状況と鎮静の現状と安全性についてアンケートを行った.
北陸支部専門医の勤務している270医療機関に対して,2022年2月に一斉にアンケートを送付し,期限内に集まったデータの解析を行った.
アンケート内容はFigure 1の如く合計9問で,JGESガイドラインのCQをもとに,日本消化器内視鏡学会の産学官連携推進⽀援担当と相談の上,北陸支部の幹事会に諮り決定した.

アンケート内容.
本プロジェクトは,金沢大学医学倫理審査委員会の承認を得た上で,学会北陸支部幹事会にて北陸支部多機関共同研究としても承認を得た.
270施設中,合計160医療機関(73病院,87診療所)より回答を得た(回答率59.3%).
・内視鏡検査における鎮静割合全施設の年間合計で,上部消化管内視鏡,大腸内視鏡毎に,それぞれの割合を病院,診療所別にFigure 2に示した.

全施設の合計で,年間に上部消化管内視鏡検査307,628例,大腸内視鏡検査86,034例の検査が行われ,そのうち上部消化管内視鏡検査118,702例(38.6%),大腸内視鏡検査21,824例(25.4%)に鎮静が施行されていた.
施設毎に主に使用している鎮静薬として,上部消化管内視鏡,大腸内視鏡毎にFigure 3に示した.

各施設の最も多く使用されている鎮静薬.上部消化管内視鏡検査と大腸内視鏡検査で多く使用されている鎮静薬はジアゼパムとミダゾラムの順であった.
JGESガイドラインで定義された侵襲度 2)別に,Figure 4に示した.

経口的・経肛門的内視鏡とも侵襲度が上がるにつれ,鎮痛薬を併用する割合が高かった.
過去1年間にプロポフォールを使用した施設の割合を病院,診療所別にFigure 5に示した.プロポフォールの鎮静管理を行う担当者は,Figure 6に示した.

プロポフォールは回答した施設の16.3%で使用され,全施設で合計4,170回使用されていた.

プロポフォールの鎮静管理は,麻酔科医によるものはわずか15.4%の施設であった.
デクスメデトミジン塩酸塩を使用した施設の割合を病院,診療所別にFigure 7に示した.

デクスメデトミジン塩酸塩は回答した施設の6.9%で使用され,全施設で合計393回使用されていた.
過去5年間で鎮静薬に伴う重篤な有害事象は合計7例報告され,Table 1に示した.死亡例は報告されなかった.

過去5年間の鎮静薬の使用に伴う重篤な有害事象報告.
鎮静薬に関与した重大事故が発生した場合の責任の所在は不明確であることから早期の保険収載を求める声の割合が最も多かった.その他の意見も含めTable 2に示した.

内視鏡診療における鎮静薬使用の現状に対する意見.
内視鏡診療の現状としては保険適用外の薬剤にて鎮静を行っていることがほとんどであり,本アンケート調査は,これらの薬剤の保険償還のために公知申請を行うにあたり,「臨床使用実態」を把握することを目的として行われた.
JGESガイドライン 1),2),対策型検診のための胃内視鏡検診マニュアル 3),日帰り麻酔の安全のための基準 4),安全な麻酔のためのモニター指針 5)を遵守するためには,麻酔科医の関与と検査時に2人目の医師による監視が必要とされ,積極的に鎮静薬を使用しにくい状況を招くため見直されるべきと考えられる.
JGESガイドラインでは,安全性および有効性のエビデンス 6)~8)からミダゾラムが提案されている 2)が,現状は保険適用外として使用されている.本邦における全国調査 9)からもミダゾラムの使用は増加しており,保険償還への公知申請については,まずはミダゾラムで行うこととした.
鎮静不良の際は,JGESガイドラインではペチジン塩酸塩やペンタゾシンなどの鎮痛薬の使用を推奨している 2).既報でもベンゾジアゼピン単独投与に比べ鎮痛薬の併用が有用であるとの結果 10)~12)が多い.本検討でも,侵襲度が上がるにつれて鎮痛薬を使用する頻度が増えることが明らかとなった.
プロポフォールは,現状は保険適用となっておらず,実際の使用にあたっては,薬剤添付文書の使用上の制約「一般の全身麻酔剤と同様,麻酔開始より患者が完全に覚醒するまで,麻酔技術に熟練した医師が,専任で患者の全身状態を注意深く監視すること」があるため,使用する場合には施設での倫理審査と管理体制の整備が必要である.本検討でも1年以内にプロポフォールを使用した施設の数は2割に満たず(16.3%の施設),この現状を反映していた.また,内視鏡医または内視鏡医の指導のもとで看護師により行われたプロポフォールの鎮静でも麻酔科医やICU専属医と比較し偶発症に違いはなかったと報告されている 13).
デクスメデトミジン塩酸塩は,2022年時点で唯一,内視鏡時の鎮静における保険適用が認められている薬剤である.本検討では1年以内に使用した施設は1割に満たなかった.交感神経遮断作用により徐脈や血圧低下など循環動態に影響を及ぼす副作用の報告があること 14),投与法の煩雑さが背景にあると考えられる.講習や勉強会などで,使用している施設の経験を広めていくことが重要と考えられる.
過去5年間で鎮静薬に伴う重篤な有害事象は,7例(呼吸停止6例,脳梗塞1例)で,概算にはなるが,施設での鎮静内視鏡件数を分母とすると,重篤な偶発症の発生率は0.002%程度と非常に少ないと考える.死亡例の報告はなかった.第6回全国調査報告 9)においても,偶発症は219件(0.001%),死亡は4例(0.00002%)と,本検討の結果と類似していた.つまり,鎮静における重篤な偶発症のリスクは約5~8万人に1人,死亡に至っては400万人に1人と非常に稀で,現状では鎮静下における内視鏡は非常に安全に実施されている.一方で,内視鏡検査に保険適用となっている薬剤がほとんどない現状は問題と考えられ,早期の保険収載を求める声が多く聞かれた.この事実を踏まえ,今回のアンケート調査の結果をもとに,ミダゾラムの保険償還のための公知申請に必要な「臨床使用実態」を記載し,日本医学会の承認を得た上で厚生労働省に提出した.その結果,2023年3月に「消化器内視鏡検査及び消化器内視鏡を用いた手術時の鎮静」に対して,診療報酬の計算上,原則としてミダゾラムの使用が認められることとなった.この事実は,本アンケート調査による大きな成果と言える.
本検討のLimitationとしては,①専門医を対象とした任意のアンケート調査であるため,選択バイアスが存在する可能性があること,②全例調査ではないため回答者の記憶に頼っているところが大きく,特に偶発症発生数や重篤度が低く見積もられる可能性があることが挙げられ,データの解釈には注意が必要である.
内視鏡診療における鎮静の臨床使用実態を調査した.数例の重篤な有害事象の報告はあるものの,大多数の症例で安全に鎮静内視鏡を行うことができていた.
謝 辞
本アンケート調査にご協力いただいた施設の先生に,深く感謝申し上げます.
本論文内容に関連する著者の利益相反:土山寿志(オリンパス株式会社)