症例は74歳,男性.食事のつかえ感,嘔吐のため当院を受診した.上部消化管内視鏡検査で食道下部に全周性腫瘍,胃体上部大彎に単発の粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めた.食道腫瘍と胃病変ともに生検組織で索状や充実性に増殖,浸潤する大型異型細胞を認めた.両病変の腫瘍細胞はCK7,CK20,アルシアンブルーが陽性,p40,synaptophysin,chromogranin A,CD56が陰性を示し,低分化腺癌であった.CT検査で明らかなリンパ節腫大,肝・肺腫瘤は認めなかった.胃壁内転移を伴う食道低分化腺癌と診断し,ステント留置後に化学療法を施行している.食道腺癌の胃壁内転移は稀であるが,治療方針や予後に関わるため,内視鏡観察で胃壁内転移を見落としなく正確に診断することが重要である.
A 74-year-old man presented to our department with a feeling of food sticking in his throat and vomiting. Esophagogastroduodenoscopy showed a circumferential tumor in the lower esophagus and a solitary subepithelial-lesion-like elevated lesion in the greater curvature of the upper gastric tract. Histopathological examination showed that large, atypical cells had proliferated in the cords or in lumps and infiltrated the stroma of the esophageal tumor. The tumor cells were positive for CK7, CK20, and Alcian blue and negative for p40, synaptophysin, chromogranin A, and CD56; thus, the esophageal tumor was diagnosed as a poorly differentiated adenocarcinoma. Biopsy of the gastric lesion also showed atypical cell proliferation and infiltration in the deep layer of the fundic glands. Immunohistochemical staining showed an expression pattern similar to that of poorly differentiated esophageal adenocarcinoma, and the gastric tumor was diagnosed as an intramural gastric metastasis of esophageal cancer. CT revealed no lymph node, liver, or lung metastases. The patient was diagnosed with poorly differentiated esophageal adenocarcinoma with solitary intramural gastric metastasis. He underwent metallic stent placement and chemotherapy. Although intramural gastric metastasis from esophageal adenocarcinoma is rare, careful endoscopic observation is important to make an accurate diagnosis and avoid overlooking intramural gastric metastasis.
食道癌は本邦で扁平上皮癌が90%を占め,腺癌は10%に満たない 1).一方で,欧米では腺癌が直近30年間で急速に増加して扁平上皮癌を上回り,最も多い組織型となった 2).食道腺癌の発生母地となるBarrett食道は,欧米でlong segment Barrettʼs esophagus(LSBE)の割合が多いのに対して,本邦ではshort segment Barrettʼs esophagusがほとんどを占めるため発癌率に差があるが,本邦でも食道腺癌は少しずつ増加傾向にあり,日常臨床で遭遇する機会が今後増えることが予想される 1),3).
今回,われわれは食道低分化腺癌が胃壁内に転移した稀な症例を経験したので報告する.
患者:74歳,男性.
主訴:食事のつかえ感,嘔吐.
既往歴:30年前に逆流性食道炎を指摘されるも治療歴なし.
家族歴:特記事項なし.
嗜好歴:機会飲酒,喫煙 20-50歳に5-6本/日.
現病歴:受診3カ月前から食事のつかえ感を自覚していた.1カ月前から食後に嘔吐をきたし,食事摂取困難のため当科を受診した.
初診時現症:身長164.5cm,体重52.7kg,BMI 19.5kg/m2,表在リンパ節の腫脹なし.腹部は平坦,軟で圧痛なし.
血液生化学検査:WBC 5,600/µL,Hb 14.6g/dL,CRP 1.68mg/dL,SCC 0.9ng/mL(正常値0- 1.5ng/mL),CEA 1.6ng/mL(正常値0-5ng/mL),CA19-9 26.3U/mL(正常値0-37U/mL),NSE 7.1 ng/mL(正常値0-16.3ng/mL),抗ヘリコバクターピロリIgG抗体は3U/mL未満であった.
上部消化管内視鏡所見:切歯列より35-40cmの食道に腫瘍に伴う狭窄部を認めた(Figure 1-a,b).腫瘍による狭窄部は細径内視鏡がかろうじて通過した.食道下部棚状血管は確認できなかったが,腫瘍下縁の肛門側に胃の縦走ひだの口側終末部を視認した.胃体上部大彎には単発の中心陥凹を伴う発赤した隆起性病変を認めた(Figure 1-c).Narrow band imaging(NBI)観察では上皮性腫瘍を疑う不整な表面構造はなく(Figure 1-d),粘膜下腫瘍(SMT)様病変で中心陥凹部より生検した.胃体部小彎の皺襞は黄色調で肥厚していたのに対して,大彎側の皺襞は肥厚なく送気で容易に伸展し,SMT様病変と胃体部小彎の肥厚した皺襞とに連続性を認めなかった(Figure 1-e).背景胃粘膜に萎縮はなかった.

上部消化管内視鏡検査.
a,b:切歯列より35-40cmの食道に全周性腫瘍を認める(a:白色光,b:NBI).
c:胃体上部大彎に単発の中心陥凹を伴う発赤した隆起性病変を認める.
d:NBI観察で胃病変は粘膜下腫瘍様で上皮性腫瘍を疑う不整な表面構造は認めない.
e:胃病変(矢印)は食道腫瘍と正常粘膜を介して連続性はなく,周囲の皺襞は肥厚なく伸展良好である.
病理組織学的所見:食道病変の生検組織で,間質に索状や充実性に増殖,浸潤する核偏在性の大型異型細胞を認めた(Figure 2-a).腫瘍細胞は免疫・特殊染色でCK7がびまん性,CK20とアルシアンブルーが一部で陽性,p40,synaptophysin,chromogranin A,CD56が陰性を示し,低分化腺癌と診断した.胃SMT様病変の生検組織でも胃底腺粘膜深部に異型細胞が索状に増殖,浸潤していた(Figure 2-b).免疫染色で食道低分化腺癌と同様の発現パターンを示したため,胃転移と診断した.食道腺癌のPD-L1発現はcombined positive score 5以上,HER2(IHC法)はスコア1+であった.胃体部小彎の肥厚した皺襞より複数生検したが,癌は検出されず,食道癌の上皮内進展は否定的であった.

病理組織学的検査.
a:食道腫瘍の間質に索状や充実性に増殖,浸潤する核偏在性の大型異型細胞を認める.
b:胃病変でも胃底腺粘膜深部に食道病変と同様の索状に増殖,浸潤する異型細胞を認める.
造影CT所見:食道下部に全周性の造影効果を伴う壁肥厚を認めた(Figure 3-a,b).食道壁肥厚は縦軸方向に5cmであり,腫瘍中心部は胸部下部食道であった(Figure 3-b).リンパ節の腫大や腹水はなく,肝臓や肺に転移も認めなかった.

造影CT検査.
a:食道下部に全周性の造影効果を伴う壁肥厚を認める.
b:食道壁肥厚は縦軸方向に5cmで胸部下部食道を中心に存在する.
食道造影所見:胸部下部食道から腹部食道にかけて長さ35mmの癌による狭窄を認めた(Figure 4).

食道造影検査.
胸部下部食道から腹部食道に長さ35mmの癌による狭窄を認める.
以上より胃壁内転移を伴う食道低分化腺癌と診断した.癌による狭窄に逆流防止弁付きステントを留置後,狭窄症状は消失して経口摂取可能となった.診断から5カ月後の現在,SOX療法による化学療法を施行している.
食道腺癌の発生母地として,食道固有腺,食道噴門腺,異所性胃粘膜,Barrett食道が挙げられる 4).ほとんどがBarrett食道から癌が発生したいわゆるBarrett食道癌である 1).Barrett食道と食道腺癌は,主に胃酸や胆汁を含む慢性的な胃食道逆流が固有の扁平上皮から円柱上皮への化生を引き起こすことで生じる 4)~6).腹腔内圧を上昇させ胃食道逆流を増加させる肥満はBarrett食道ならびに食道腺癌のリスクとなる 4),5).また,男性は食道腺癌のリスク因子である可能性が指摘されている 4),5).食道腺癌はBarrett粘膜が生じる食道胃接合部や食道下部に多く発生するため,大きな進行癌では食道胃接合部癌と明確に鑑別できない症例も多い 1).自験例は食道腫瘍下縁の肛門側に胃の縦走ひだの口側終末部を確認でき,腫瘍中心部が食道胃接合部の口側2cmよりさらに口側の胸部下部食道に存在したことから食道腺癌と診断した.また,進行癌や狭窄に伴う粘膜炎症のためBarrett粘膜を明確に視認することは困難であったが,未治療の逆流性食道炎の既往があった.進行食道癌が胃の縦走ひだの口側終末部の直上まで存在したため正確な評価は困難であるが,内視鏡像でgastroesophageal flap valveの高さが減少し,スコープも組織ひだで完全に取り囲まれておらず,胃食道逆流が食道腺癌の発症に関与した可能性が考えられた.
食道腺癌の組織型は高分化が62%,中分化26%,低分化12%と報告されている 7).同時性遠隔転移は肝臓,遠隔リンパ節,肺,骨,脳の順に多い 8),9).なかでも肝臓と脳へ転移する割合が扁平上皮癌と比べて多く,肺転移は少ない 8),9).胃転移について扁平上皮癌では1.0-4.7%に同時性胃転移をきたすのに対して,食道腺癌はPubMedで「esophageal adenocarcinoma」,「gastric metastasis」,医学中央雑誌で「食道腺癌orバレット腺癌orバレット食道癌」,「胃転移」をキーワードに2023年8月までの検索期間で検索したところ1例の既報があったが,胃と皮膚に同時性転移した食道中分化腺癌で患者背景の詳細や臨床経過の記載はなかった 10)~13).われわれが調べた限りでは,自験例が同時性に胃へ単独転移をきたした食道腺癌の初めての報告であった.
食道癌の胃への転移経路は,胃壁への直接浸潤,上皮内進展,胃壁内転移,胃周囲リンパ節転移からの浸潤が挙げられ,胃壁内転移および周囲リンパ節転移から浸潤した転移の予後は不良であると報告されている 14).胃壁内転移は肉眼的に主病巣と離れている,主病変との間に正常組織が介在し連続性を認めない,組織型が主病巣と同一である,病変の主座が上皮下に存在する,周囲リンパ節からの直接浸潤ではないといった診断基準項目5つのすべてを満たすものと定義される 10).自験例はCTならびに内視鏡検査,病理組織学的検査の結果で上記の基準をすべて満たすことから食道癌の胃壁内転移と診断した.胃体部小彎の皺襞が肥厚していたため上皮内進展も疑い複数の生検を行ったが,癌細胞は認めなかった.自験例は,食道腺癌も扁平上皮癌と同様の転移形式で胃壁内へ転移する可能性を示す症例であると考えられた.
転移性胃癌の原発巣では,乳癌,肺癌についで食道癌は3番目に多いと報告されている 15).食道癌は特有の進展形式をもち,リンパ管経由で縦軸方向へ非連続性に壁内転移をきたす.食道から胃へのリンパ管は粘膜下のリンパ管で連続するため,食道癌の胃壁内転移はSMT様の形態で胃上部領域に発生することが多い 12),16),17).菊池らは,胃上部領域に65%が発生し,肉眼型はSMT様の形態が86%を占めると報告した 16).胃壁内転移は遠隔臓器転移として扱われ,予後は著しく不良であり,治療方針にも関わるため内視鏡で正確に診断する必要がある 10),18).生検により91%の症例で診断可能とされるが,胃病変の主座は粘膜下層のためボーリング生検を要する場合もある 19).自験例では食道腺癌であったが,既報と同様に胃上部にSMT様の転移巣をきたしており,食道癌胃転移の典型的特徴を示していた.癌細胞は胃底腺粘膜の深部に存在したが,SMT様病変の中心陥凹面からの生検で診断は可能であった.
遠隔臓器転移を伴う食道癌では化学療法が推奨される 20).胃壁内転移を伴う食道癌に対して食道切除術と胃転移病巣の合併切除が施行された報告もあるが,予後は非常に不良であった 10),11).食道腺癌の遺伝子発現は扁平上皮癌と異なるのに対して,胃癌や食道胃接合部癌に類似することから,食道腺癌の化学療法は胃癌や食道胃接合部癌と同様のレジメンを選択されることが多い 21),22).本邦では胃癌や食道胃接合部癌にSOX療法が広く行われており,自験例ではSOX療法を選択した.しかし,食道腺癌の5年生存率は20%と予後不良であり,今後の新規治療法の開発が期待される 2).
今回,われわれは食道低分化腺癌が胃壁内に転移した症例を経験した.胃壁内転移をきたす食道腺癌は稀であるが,自験例は食道腺癌も扁平上皮癌と同様の転移形式で胃壁内へ転移する可能性を示す症例であった.治療方針や予後にも関わるため,食道腺癌においても内視鏡観察で胃壁内転移を念頭に置き見落としなく正確に診断することが重要である.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし