2024 年 66 巻 10 号 p. 2454-2460
腸管囊腫状気腫症(pneumatosis cystoides intestinalis:PCI)は腸管壁内に多数の含気性囊胞を形成する原因不明の疾患であり,その発生機序は諸説あるが不明である.今回われわれは肺Mycobacterium avium complex(MAC)症の抗菌薬の内服治療開始後に発症し,治療終了後に消失したPCIの2例を経験した.PCIの発症に抗菌薬の長期内服が関与したと推測されるが,これまでPCIと抗菌薬との関連について報告している症例は少なく,本症例は貴重な症例と思われた.肺MAC症は近年,増加傾向にある疾患であり,今後同様の症例に遭遇する機会が増えると思われ,注意喚起とともに報告する.
Pneumatosis cystoides intestinalis (PCI) causes the formation of numerous pneumatic cysts on the intestinal wall and various theories have been proposed regarding its pathogenesis.
Herein, we report two cases of PCI that developed after the initiation of oral antibiotic treatment for pulmonary MAC infection and resolved after treatment completion. Case 1 involved an 84-year-old woman who was treated with rifampicin (RFP), ethambutol (EB), and sitafloxacin (STFX). Case 2 involved a 65-year-old woman who was initially treated with RFP, EB, and clarithromycin; however, RFP was later replaced with STFX due to a drug eruption. In both cases, no PCI was observed in the total colonoscopy (TCS) performed prior to antibiotic treatment but was observed in the TCS performed during treatment. Regular TCS during treatment enabled the tracking of PCI progression from onset to disappearance after treatment discontinuation.
We hypothesized that the long-term oral administration of antibiotics was involved in the onset of PCI. PCI may have developed as a result of multiple antibiotics disrupting the intestinal flora and increasing the gas-producing bacterial count.
The incidence of MAC pulmonary disease has increased in recent years, and cases similar to those reported here are likely to become more common in the future. Although patients undergoing PCI are typically asymptomatic, some patients experience abdominal pain and distension. Because MAC pulmonary disease requires treatment for several years, these symptoms may reduce the quality of life over time. Furthermore, MAC pulmonary disease has been associated with the emergence of drug-resistant bacteria. These symptoms cannot be ignored because they lead to poor medication adherence. Pulmonologists and gastroenterologists should be aware that PCI is an important adverse event that may result from MAC pulmonary disease therapy.
肺Mycobacterium avium complex(MAC)症は非結核性抗酸菌症の8-9割を占める慢性呼吸器疾患である.中高年に好発し慢性の経過をたどる,近年増加傾向の難治性疾患である.治療は 1),2)マクロライド(クラリスロマイシン(Clarithromycin:CAM)またはアジスロマイシン),エタンブトール(Ethambutol:EB),リファンピシン(Rifampicin:RFP)を含む3剤で治療し,RFPに不耐の場合はキノロン系を用いる.治療期間は排菌陰性化達成日から最低1年間とされ,多剤抗菌薬の長期内服が必要である.
一方,腸管囊腫状気腫症(pneumatosis cystoides intestinalis:PCI)は腸管壁内に多数の含気性囊胞を形成する原因不明の疾患である.比較的まれな疾患でこれまでの報告ではα-グルコシダーゼ阻害剤,ステロイドの投与例や膠原病,慢性閉塞性肺疾患などの基礎疾患を有している例の報告が多かった.近年は画像診断の進歩に伴い報告例が増加しているが,抗菌薬が原因と考えられた報告は少ない.今回われわれは,肺MAC症に対する抗菌薬内服前後でのPCIに特徴的な内視鏡所見の経時変化を捉えることができた2例を経験した.治療経過に伴う臨床所見より,PCIの発症に抗菌薬が関与したと推測された貴重な症例であり,報告する.
症例1:84歳(内視鏡診断時),女性.
既往歴:高血圧,脂質代謝異常症,甲状腺機能低下症.
内服薬:レボチロキシン,アロチノロール,アスピリン,ラベプラゾール,オルメサルタン,プラバスタチン.
生活歴:飲酒:なし,喫煙:なし.
現病歴:ポリープ切除後の経過観察目的に当科で定期的に大腸内視鏡検査を施行している患者であった.2015年,呼吸器内科で肺MAC症と診断,経過観察していた.2019年12月胸膜炎を併発したため,肺MAC症に対しRFP,EB,シタフロキサシン(Sitafloxacin:STFX)内服開始した.2020年2月頃から時折,腹痛を自覚していた.腹痛のため救急外来を受診することもあったが,診察時は左下腹部に軽度圧痛を認めるのみであり,対症的に経過をみていた.2020年7月当科で経過観察目的の大腸内視鏡検査を施行した.
検査所見:血液検査:WBC 5,830/μL,Hb 10.1 g/dL,Plt 16.2万/μL,Alb 3.2g/dL,CRP 0.53mg/dL.画像所見:腹部レントゲン像,CT検査で上行結腸にブドウの房状の透亮像を認める(Figure 1).

症例1の腹部レントゲン像.
黄色の矢印は類円形,ブドウの房状の透亮像を示す.
a:腹部レントゲン(立位画像).
b:腹部単純CT(冠状断,肺野条件).
大腸内視鏡検査所見:上行結腸に限局して半球状の軟らかい粘膜下腫瘍様隆起を多数認めた(Figure 2-b).前回検査時(1年前)には認めなかった所見だった(Figure 2-a).生検では粘膜下に空胞が散見され,PCIと診断した.

症例1(84歳女性)の上行結腸の内視鏡像.
a:肺MAC症薬投与前(2019年8月).
b:治療中(2020年7月).
c:治療薬投与終了後(2022年8月).
経過:下痢,腹部膨満感などあったが,対症的に経過観察されていた.抗菌薬治療後は肺MAC症の病状は安定しており,2021年12月に抗菌薬内服を終了した.抗菌薬内服終了後は腹部症状改善した.2022年8月の大腸内視鏡検査でPCIは消失していた(Figure 2-c).
症例2:65歳(内視鏡診断時),女性.
既往歴:顔面神経麻痺,慢性硬膜下血腫.
内服薬:酸化マグネシウム.
生活歴:飲酒:ビール350ml 2本/日,喫煙:なし.
現病歴:ポリープ切除後の経過観察目的に当科で定期的に大腸内視鏡を施行している患者であった.2020年1月から呼吸器内科で肺MAC症に対してRFP,EB,CAM内服開始.薬疹あり2月からRFPをSTFXに変更.3月頃から腹痛・腹部膨満感が出現.STFXの内服中止で経過をみていたが,腹部症状が継続するため抗菌薬3剤をすべて中止した.抗菌薬の内服中止により軽快した.4月末よりCAMをAZMへ変更した上で,抗菌薬の内服を再開した.その後腹部症状は再燃したが初期症状より軽度で,自制内であったため対症的に経過をみていた.2020年10月当科で経過観察目的の大腸内視鏡検査を施行した.経過中,腹部症状以外の自覚症状はなく,呼吸状態は安定していた.
検査所見:血液検査:WBC 3,830/μL,Hb 12.9 g/dL,Plt 22.2万/μL,Alb 3.9g/dL,CRP 0.01mg/dL.
大腸内視鏡検査所見:全大腸に粘膜下腫瘍様隆起が多数あり,前回検査時(Figure 3-b),前回検査時(2年前)には認めなかった所見だった(Figure 3-a).生検で粘膜下に空胞を認め,PCIと診断した.

症例2(65歳女性)の上行結腸の内視鏡像.
a:肺MAC治療薬投与前(2018年9月).
b:治療中(2020年10月).
c:治療薬投与終了後(2022年9月).
経過:肺MAC症に対する抗菌薬内服治療による影響が強く疑われたため,抗菌薬内服を中止としたところ,腹部症状が改善した.2022年9月の大腸内視鏡検査でPCIは消失していた(Figure 3-c).
2症例から肺MAC症の抗菌薬治療とPCIとの関連が示唆されたため,当院で2012~2022年の10年間に肺MAC症治療中の症例について大腸内視鏡検査歴を調査した.その結果,肺MAC症治療中の患者,全198例のうち23例で大腸内視鏡検査が施行されており,そのうち4例(症例1,2の2例を含む)でPCIの所見を認めた.症例3(68歳女性)は2020年1月より肺MAC症に対してRFP,EB,CAMの内服が開始された.薬疹のため抗菌薬の変更を行いながら加療された.2021年10月に抗菌薬治療が終了となっていたが血痰が出現したため,同年12月よりRFP,LVFX,AZMによる治療が再開.2022年8月に検診で便潜血陽性のため施行した大腸内視鏡検査で上行結腸にPCIを認めた(Figure 4-a).経過中,呼吸状態は安定しており,腹部症状もみられなかった.症例4(68歳女性)は2017年7月より肺MAC症に対してEMの内服が開始された.スクリーニング目的に2021年9月に大腸内視鏡検査を施行したところ上行結腸にPCIを認めた(Figure 4-b).経過中,呼吸状態は安定しており,腹部症状もみられなかった.4例の罹患部位は右側結腸に認める症例が3例で,全大腸に認める症例が1例であった.同じく右側結腸に認める症例でも腹部症状を自覚する症例もあれば自覚症状がない症例もみられた.いずれの症例も抗菌薬内服中は,呼吸状態は安定しており,罹患部位や呼吸状態と腹部症状との関連は不明であった.

症例3,症例4の大腸内視鏡像.
a:症例3.68歳女性 上行結腸(2022年8月).
b:症例4.68歳女性 上行結腸(2021年9月).
一方,2017~2022年の5年間に自施設での大腸内視鏡検査にてPCIと診断されたのは18例で,そのうち基礎疾患の併存は7例で認められ,前述のMAC症4例以外に慢性閉塞性肺疾患1例と気管支喘息1例,頭蓋咽頭腫術後のホルモン補充療法(ヒドロコルチゾン20mg含む)下1例であった.多くは無症状で偶発的な内視鏡検査による診断であり,呼吸器疾患に関する症例が多い傾向にあった.
PCIの成因に関しては,諸説が報告されている.①機械説:腫瘍,狭窄などによる腸管内圧の上昇により腸管内ガスが粘膜の損傷部位から腸管壁内に侵入 3),②細菌説:クロストリジウム属などのガス産生菌による腸管壁内でのガス産生 4),③化学説:ステロイド剤 5)や免疫抑制剤 6)の使用による腸管壁の脆弱化や,αグルコシダーゼ阻害剤 7),抗精神病薬 8)などの薬剤やトリクロロエチレンなどの化学物質への暴露 9),④肺原説:慢性閉塞性肺疾患など肺胞の損傷により縦隔気腫を生じ,後腹膜,腸管膜を介して腸管壁に達するもの 10),など諸説が報告されているが,実際にはこれらのいくつかが関連し合ってPCIを発症することも多いと考えられている.
PCIと抗菌薬の関連については過去全期間で「腸管囊胞状気腫症」or「腸管囊腫様気腫症」and「抗菌薬」のキーワード検索での医学中央雑誌での報告例(会議録含む)はなく,PubMedで「pneumatosis cystoides intestinalis」および「antibiotics」と検索し,2例のみでPCIの発症に抗菌薬が関与した報告例があり 11),12),うち1例 12)は本症例と同様に肺MAC症の症例であった.本症例の発生機序だが,肺MAC症はそもそも慢性呼吸器疾患であり,④肺原説の要素は関与していると思われるが,抗菌薬内服で発症し,中止で消失している経過からは,抗菌薬自体による③化学説や,抗菌薬による腸内細菌叢の変化(ガス産生菌の増加)による②細菌説の関与が強いのではと推測した.特に多剤で長期的な抗菌薬内服治療が必要な点からは,腸内細菌叢の変化が少なからず影響あるものと推測される.PCIに対してメトロニダゾールを投与し,PCIの改善がみられた報告がある 13).メトロニダゾールは,感染性腸炎やアメーバ赤痢,膣トリコモナス症などに対して保険適用薬となっている経口合成抗原虫剤・抗菌剤であり,嫌気性菌,特にBacteroides fragilis群に対して良好な感受性を有することが知られている 14).メトロニダゾール投与でPCIの改善が得られたことを考慮すると嫌気性菌がPCIの発症に関連する可能性が示唆される.また,短腸症候群に伴う繰り返すPCIに対してprobioticsを投与し,PCIの発症を抑制し得た報告がある 15).短腸症候群では腸内細菌叢の異常が日常的に認められることが,近年知られるようになった 16).報告例でもprobiotics開始時には,腸炎起炎菌であるStaphylococcus aureusが検出されるなど明らかに腸内細菌叢の異常が確認された.腸内細菌叢の異常はPCIの発症リスクになり,腸内細菌叢の改善はPCIの発症予防に繋がることが示唆され,PCIと腸内細菌叢には密接な関係があると推測する.
これまで肺MAC症に対する治療とPCIの関連を報告した症例は1例 12)しかなかったが,慢性的な呼吸器症状を有するような肺MAC症治療中の患者が大腸内視鏡検査を施行している例は少数と思われる.そのため診断はされていないが潜在的にPCIを発症している例があることが推測される.PCIでは無症状例も多い 3)とされるが,本症例のように腹痛,腹部膨満感などの症状を有している例が一定数存在する.しかし腹膜刺激症状を伴ったり,血液検査などで異常が出現したりすることは少ないため,対症療法で経過観察されてしまっている症例が多いのではないかと推測される.肺MAC症では年単位での治療が必要なため,腹部膨満感など症状が出現する場合は長期間に亘って生活の質(QOL)が低下することとなる.また服薬アドヒアランスにも影響しかねず,耐性菌が問題となる疾患であるため,肺MAC症治療時の重要な有害事象の一つとしてPCIを呼吸器内科医,消化器内科医ともに認識する必要があると思われた.
本症例は肺MAC症に対する抗菌薬内服後にPCIが発症し,中止で消失した経過について内視鏡所見により診断することができた貴重な症例である.PCIの発症に多剤抗菌薬の長期内服が関与したと推測された.なお,第169回日本内視鏡学会東北支部例会のプレナリーセッションで発表した.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし