2024 年 66 巻 12 号 p. 2674-2675
28歳女性.統合失調症のため近医精神科病院で入院加療中,筒型乾電池を異食したため当院へ救急搬送された.本人からの申告で異食が判明してから当院へ搬送されるまで約4時間の経過であった.CT画像所見で胃内のみに複数の筒型乾電池像を確認したため,内視鏡的に摘出する方針とした.内視鏡で胃内を観察したところ,胃体部大彎側に単3形と単4形の乾電池を複数認めた(Figure 1).オーバーチューブを挿入後,スネアで乾電池を1本ずつ把持してスコープごと取り出す作業を繰り返し,単3形乾電池4本,単4形乾電池5本を摘出した.回収した乾電池はすべてアルカリ乾電池で極端子の腐食もみられた.乾電池が停滞していた胃体部大彎を観察すると,黄色調に変性した脱落粘膜を認めた(Figure 2).洗浄してよく観察すると病変部は易出血であり,一部に黒色や青緑色の腐食粘膜がみられた(Figure 3).腹部単純X線撮影で残存異物がないことを確認後,ボノプラザン20mg/day内服を開始・継続する方針とし,紹介元へ帰院とした.2週間後に上部消化管内視鏡検査で,胃体部大彎の粘膜障害が治癒していることを確認した(Figure 4).

異食後4時間の内視鏡像.胃内に複数の乾電池を認めた.

乾電池摘出後の内視鏡像.乾電池が停滞していた部位に黄色調に変性した脱落粘膜を認めた.

乾電池摘出後の内視鏡像.病変は易出血で一部に黒色や青緑色の腐食粘膜を認めた.

2週間後の観察時には粘膜障害は治癒していた.
消化管内に存在する乾電池は鋭利異物ではないが,数時間で粘膜障害を惹起しえることから,速やかな摘出が必要とされている 1).乾電池による消化管粘膜障害の主な原因は,乾電池が停滞している局所で低電圧直流電流が流れることに起因した化学反応により,水酸化ナトリウムが生成されることと考えられている 2).乾電池の起電力と粘膜表面の体液中のイオンを介して電気回路が形成され電流が流れると,負極で塩化ナトリウム水溶液の電気分解が起き,水素ガスと水酸化ナトリウムが生成される.水酸化ナトリウムは強塩基であり,微量であっても局所の濃度が高くなれば進行性の粘膜障害の原因となる.また,負極では電極材質中で比較的イオン化傾向の大きい鉄が酸化溶出するため,時間経過とともに負極金属の腐食が進み乾電池より液漏れが発生する 3).アルカリ乾電池では電解液に強塩基である水酸化カリウムが使用されており,液漏れを起こした場合の組織障害はより高度になると考えられる 2).
本症例では電解液としての胃酸が豊富に存在する胃体部に乾電池が留まっていたこと,乾電池が新品であり起電力が高い状態であったことから,局所の組織液が短時間でアルカリ性に傾き,数時間で粘膜障害が進行したと考えられる.また,障害された粘膜の一部が黒色や青緑色となったのは,負極から溶出した金属の酸化物が組織に沈着,吸収された結果であったと考えられる 2).本症例では,異食した乾電池がすべて胃内に存在したため内視鏡での摘出が可能であったが,幽門を超えて小腸に存在する場合の内視鏡的摘出は困難となる.この場合は,単純X線撮影で厳重に経過観察し,同じ部位に停滞している場合には外科手術による摘出が必要である 4).大腸に乾電池が達している場合も同様に自然排泄されるのを待機するが,便秘傾向で停滞するようであれば内視鏡での摘出が必要と考える.
乾電池による消化管異物は,局所での電流と化学反応による機序から,短時間で粘膜障害を起こしえることを確認できた症例であり,報告した.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし