2024 年 66 巻 12 号 p. 2713
【背景と目的】膵囊胞性腫瘍(pancreatic cystic tumor;PCT)に対する超音波内視鏡ガイド下アブレーション(endoscopic ultrasound–guided pancreatic cyst ablation;EUS-PCA)は,選択された症例において外科手術の代替治療として実施されている.本研究は,PCTに対するEUS-PCAと手術の長期成績を直接比較することを目的とした.
【方法】2004年1月から2019年7月までの期間にEUS-PCAまたは手術を受けた単房性または6房以内の寡房性のPCT患者を,PCTデータベースから抽出した.潜在的な交絡因子に基づき,1対1の傾向スコアマッチングを行った.主要評価項目は長期合併症とし,副次評価項目として早期(14日以内)および後期(14日超)の重大な有害事象(major adverse events;MAE),糖尿病の発症,再入院,在院日数,治療効果を評価した.
【結果】傾向スコアマッチングの結果,計620人の患者(EUS-PCA群310人,手術群310人)が選択された.EUS-PCA群は,10年間の累積長期合併症率が手術群に比べて有意に低かった(1.6%対33.5%,P=.001).また,早期MAE(1.0%対8.7%,P=.001),後期MAE(0.3%対5.5%,P=.001),再入院率(1.0%対15.2%,P=.001)もEUS-PCA群で低かった.さらに,EUS-PCA群の在院日数は短く(3.5日対10.3日,P=.001),糖尿病発症率も低かった(2.2%対22.8%,P=.001).一方,手術群では完全治癒率が高く(76.5%対100%,P=.001),再発率は低かった(4.6%対0.3%,P=.001).
【結論】選択されたPCT患者において,EUS-PCAは外科手術に比べ,長期的な安全性および膵機能の保持に優れていることが示された.
本研究は,PCTに対するEUS-PCAと外科手術の長期成績を比較した最大規模の研究である.特筆すべき点は,傾向スコアマッチングを用いて患者背景を調整し,長期の追跡期間(平均5.5年)で評価を行ったことである.結果として,EUS-PCAは手術と比較して,安全性プロファイルと膵機能温存の観点で優れていることが示された.特に,長期合併症率や糖尿病発症率が有意に低く,低侵襲治療としての有用性が示された.一方で,完全治癒率は手術群が優れており,再発率も低かったことから,悪性度の高いPCTに対しては手術が第一選択となることも示唆された.
本研究では,従来適応外とされていた膵管との交通を有する分枝型IPMNに対しても,予防的膵管ステント留置を併用することで安全にEUS-PCAが施行可能であることが示されている.この知見は,治療適応の拡大につながる可能性がある.しかし,本治療法のさらなる普及には,統一された手技プロトコルの確立と治療適応の明確化が必要である.特に,アブレーション時のエタノール洗浄回数や,パクリタキセル併用の適応など,手技の標準化に向けた検討が重要である.
本研究の限界として,後ろ向き研究であることや,EUS-PCAの症例選択に内在的なバイアスが存在する可能性が挙げられる.また,EUS-PCAは熟練した内視鏡医によって実施されており,その治療成績は施設間で異なる可能性がある.しかし,適切に選択された症例においては,EUS-PCAがPCTの一次治療として考慮できることを示した重要な研究と言える.今後は,悪性化リスクの層別化や治療適応の確立に向けた更なる検討が期待される.