2024 年 66 巻 2 号 p. 211-215
生(いのち)を済(すく)う.済生会は1911年(明治44年)に明治天皇の御心に沿って創立されて以来,弱者救済の目的で恩賜財団社会福祉法人として成長し現在に至っている.当院は1938年(昭和13年)に開設された済生会岡山診療所を前身として1957年(昭和32年)に岡山済生会総合病院へと名称変更した.2016年(平成28年)に病院を新築移転した.移転前の岡山済生会総合病院は553床の急性期病院であったが,現在は岡山済生会総合病院(急性期473床;一般病床409床,小児病床13床,緩和ケア病床25床,ICU 10床,HCU 16床)と岡山済生会外来センター病院(地域包括ケア病床80床)の2病院に分離運営している.外来機能は旧病院に残し入外分離で診療している.外来受診して別棟で内視鏡を受けるほかに,地域の医療機関からは直接内視鏡予約をとるシステムを運用している.
当院は医療・保健・福祉の充実,発展のために活動している.当院の運営の中心は,救急医療,がん診療,センター医療およびへき地医療の4本柱である.とくに消化器がん診療には力を入れており,岡山県で初めて地域がん診療連携拠点病院に指定された.併設する予防医学健診センターでは内視鏡によるがん検診,総合病院では診断から内視鏡治療・外科治療・化学療法・放射線療法・がんゲノム医療,緩和ケア病棟では終末期医療を一連して担っている.消化器内科,消化器外科,放射線科,緩和ケア科,救急科など診療科間の横の連携がよい.
2016年(平成28年)の病棟の新築移転を機に内視鏡センターもリニューアルした.旧病院は現在,岡山済生会外来センター病院として運用しているが内視鏡検査室を2室残し,健診の上部消化管内視鏡検査を行っている.2022年度は岡山済生会総合病院で9,912件,岡山済生会外来センター病院で2,822件,合計で12,734件の内視鏡を行った.
当院では家庭を持つ女性医師ならびに勤務時間に制約がある医師を内視鏡担当医として積極的に起用している.継続的に臨床に関わる環境を提供し,仕事と家庭を両立する時短常勤医師・非常勤医師を支援する体制づくりをしている.
組織内視鏡センターは独立しており,消化器内科医師と一部消化器外科医師が消化器内視鏡を担当し,呼吸器内科医師が気管支内視鏡を担当している.看護師は内視鏡センター専従であるが,救急センターの当直業務を兼務している.臨床工学技士は透析室や手術室と掛けもちであるが,ローテーションで常時2名を配置している.看護師は抗血栓薬の有無のチェックや鎮静薬投与など患者の看護を行いながら内視鏡検査・処置の介助を担当し,臨床工学技士は高周波発生装置の管理・保守点検やディスポーザブルデバイスの購入管理や内視鏡チャンネルの定期的な培養検査を担当し,内視鏡検査・処置の介助もしている.ケアワーカーは内視鏡センターに専従し内視鏡機器のガイドラインに沿った洗浄を行っている.
検査室レイアウト
岡山済生会総合病院の1階に位置し,同じフロアには救急センター・放射線部門・IVRセンターがあり,救急センターからの緊急内視鏡の際にも利便性が高い.内視鏡センターの入り口付近に内視鏡受付,待合室,更衣室,大腸内視鏡前処置室とその専用トイレを配置し,7つの検査室と回復室を中央に配置している.奥には内視鏡保管庫,洗浄室,カンファレンスルームを配置している.
7つの検査室はすべて個室であり,とくに検査室1から5の背面にはスタッフ通路を設け,内視鏡保管庫から清潔な内視鏡を出す動線と使用後の内視鏡を洗浄室まで持ち帰る動線と,患者の動線を分けている.使用後の内視鏡は検査室で一次洗浄をしたのちに専用運搬トレイに入れて周囲を不潔にしないよう洗浄室まで運搬し機械洗浄してデータを記録している.
検査室1から5では午前中に上部消化管内視鏡を行い,午後から大腸内視鏡を行っている.面積が広い検査室1と検査室5で内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)や緊急止血症例を行っている.検査室6と7には放射線部門とは独立した専用の透視装置があり,内視鏡的逆行性膵胆管造影法(ERCP)や内視鏡下での消化管造影を行うことができる.両検査室には放射線遮蔽用カーテンやアクリル板を配備している.放射線発生装置はオーバーチューブ型1台とCアーム型1台であり,ERCPは専らCアーム型をアンダーチューブ式で施行することで術者・介助者の被爆量低減に配慮している.一方,検査台上が広く使えるオーバーチューブ型の検査室にはFUJIFILMの光源装置を置きダブルバルーン内視鏡を行っている.全室にオリンパスの光源装置を配置している.透視室の1つは陰圧室であり気管支内視鏡検査やCOVID-19陽性患者の検査に対応している.また,小腸カプセルは2機種を採用し使い分けをしている.出張内視鏡にも対応しており,患者の状態に応じて手術室やICU,救急センターでも内視鏡を実施することができる.
内視鏡情報管理システムは現在NEXUS version3を用いている.近年の内視鏡システムの進歩に伴い,緊急内視鏡やERCPを多く施行する検査室のブラウザにはVT318を導入し動画を自動ダウンロードするデフォルト設定にしている.ただしデータ量が多くサーバーがすぐに埋まってしまうため,残したい動画は担当医がその都度チェックを入れる運用にしている.
新型コロナウイルス蔓延期には感染対策マニュアルを作成し,医師・看護師・臨床工学技士で内視鏡センター陰圧室,救急センター,ICUでシミュレーション訓練を何回か行った.これまでに新型コロナウイルス陽性の3症例において安全に内視鏡を実施することができている.
大腸内視鏡の前処置スペースには椅子を8つ設置しトイレを1対1で8つ設けている.トイレの1つはストレッチャーを入れて浣腸ができるように改装し必要時に使用している.隣接してシャワー室も配置している.当院では多くの患者は事前説明を受けて自宅で大腸前処置の下剤を服用している.回復室にはベッドタイプ,ストレッチャータイプ,リクライニングチェアータイプのスペースを設けて常時1名の看護師を配備しバイタルサインを監視し安全の拡充を図っている.外来患者に鎮静剤を使用し,上部消化管内視鏡検査を行った後の帰宅基準は「チェックスコア」(岡山済生会総合病院雑誌49;11-14:2020)で判断している.このほかに専用の病状説明室とカンファレンス室を用意している.
(2023年6月現在)
医師:消化器内視鏡学会 指導医8名,消化器内視鏡学会 専門医4名,その他スタッフ8名,研修医など4名
内視鏡技師:Ⅰ種2名
看護師:常勤11名
事務職:2名
その他:臨床工学技士6名,ケアワーカー3名
(2023年5月現在)
(2022年4月~2023年3月まで)
当院は臨床研修指定病院であり,年間を通じほぼ常時,消化器内科に初期研修医が配属されている.1年目は2カ月周期でローテーションを組んでおり,病棟担当患者の全身状態を把握しルーチンの指示ができることをはじめの目標としている.一方で週間予定表を作成し,内視鏡や外来などのひと通りの消化器内科診療を体験できる体制にしている.内視鏡室に来ている日には上部用と下部用のトレーニング人体モデルがあるので,折に触れて内視鏡の操作練習を行うようにしている.トレーニング人体モデルでの操作訓練後に鎮静患者で抜きの撮影の順で経験するようにしている.初期研修2年目には1カ月の内視鏡選択コースを設けており,病棟患者をほぼ持たず毎日内視鏡センターで研修をすることができる.後期研修医は日本内科学会の内科専門研修プログラムの枠組みのなかで研修を行っている.消化器内科医を希望する後期研修医は,スクリーニングの上部消化管内視鏡検査と大腸内視鏡を独力で行うこと,大腸ポリペクトミー/内視鏡的粘膜切除術(EMR)までができることを目標としている.最近の後期研修医は年間で上部消化管内視鏡200症例,大腸内視鏡140症例程度を自ら行っている.胆膵系の内視鏡についても介助から入り,希望に応じて段階的に経験を積んでいる.このほかに,自身で診断した早期消化管悪性腫瘍はESDの介助・施行まで一貫して担当することを推奨し指導している.可能であれば上級医の指導のもとにマーキング・切開・剥離などESD処置を行っている.
また,学会発表も積極的に行っている.とくに消化器内科の後期研修医は在籍中に症例報告のみならず,主題演題の発表をすることをノルマにしており,ほとんどの者ができている.内視鏡の読影のみならずエビデンスを知ったうえで討論できる消化器内視鏡医を目指している.日常臨床においては,内視鏡画像読影ができることを目標とした内視鏡カンファレンスのほか,消化器ケモカンファレンス,消化管病理カンファレンス,消化管外科内科キャンサーボード,肝胆膵カンファレンスなどの現場の症例の治療方針を討論する場を多く設けている.担当の研修医はこのようなカンファレンスでプレゼンテーションをすることで修練を積んでいる.初期研修医・後期研修医ともに入院患者は指導医といっしょに受け持ち,適宜臨床現場でのフィ-ドバックができる体制にしている.とくに初期研修医には後期研修医もつけるようにしており,屋根瓦方式で後期研修医には「教え,教えられる」ことで厚いつながりを持てる機会を作っている.後期研修医は外来診療も1日担っており,外来から入院といった一連のマネジメントができることを目標としており,難渋症例については適宜カンファレンスで検討しフィードバックする体制を整えている.
最近の問題点としては,まず当院における若手内科志望医師の減少である.この数年での明らかな減少に加え,新内科専門医制度により後期研修医は1年間の院外研修に赴任するため,明らかに若手の人手が常時不足する状況になった.そのため当直をはじめとする種々の業務当番を組むことに常時苦慮している.消化器内科のみならず,ほかの内科診療グループとともに広報活動などに取り組んでいる.若手医師の減少ぶんはおのずと上級医が担っており,上級医も徐々に高齢化しており次を担う世代が必要となる.時を同じくして医師の働き方改革が始まった.2024年4月に向けて時間外勤務や緊急内視鏡当番などの拘束時間を精査すると,内科の中でも消化器内視鏡医師の負担が大きいことが明確になってきた.また,医師ごとに専門性によって負担の大きさに差があり,分散できる業務をいかに公平に分散するか,さらにはタスクシフトの検討を今後具体的に進めてゆく必要がある.
次に後期研修医が緊急内視鏡の修練を積む機会が減少するという大きな変化が起きている.止血手技を主とする緊急内視鏡処置は消化器内視鏡医として習得すべき技能であるが,ウイルス性肝硬変の減少に伴い出血性食道静脈瘤症例は減少し,ピロリ菌除菌治療の広まりによって出血性消化性潰瘍患者も減少している.社会にとっては望ましい変化であるが,これに伴い勤務時間外の緊急内視鏡はこの5年で半数近くに減少しており(2017年度162件,2022年度87件)おのずと後期研修医が経験する緊急処置も減っている.とくに日中の救急センターからの止血目的の当日依頼症例などの際には後期研修医に積極的に声かけをしている.
内視鏡センターの職員の専門性の担保も課題である.後期研修医の日本消化器内視鏡学会専門医の取得は当然の目標であるが,看護師や臨床工学技士で消化器内視鏡技師の資格を持つもののサポート体制がまだ不十分である.
最後に内視鏡件数の減少の問題である.2020年4月に新型コロナウイルス感染拡大に対する緊急事態宣言が発令され,2023年5月にようやく同ウイルスは2類から5類になった.この間に緊急を要さない内視鏡は控える対策がとられ,当院でも内視鏡件数が大きく減少した.本院と旧病院の合算件数は年々増加して2019年度には14,875件に達していたが,2020年度は12,681件に大きく減少,その後も同様の傾向が続き2022年度は12,734件であった.