日本消化器内視鏡学会雑誌
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総説
経口胆道鏡の現況と展望
加藤 博也
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2024 年 66 巻 4 号 p. 385-394

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要旨

経口胆道鏡(peroral cholangioscopy:POCS)には,親子式経口胆道鏡と直接経口胆道鏡がある.現在は親子式経口胆道鏡が主流であり,直接経口胆道鏡は経鼻内視鏡などの細径内視鏡を用いるが,技術的な問題などから対象は限定的である.親子式経口胆道鏡の子ファイバーとして,本邦では画質に優れるCHF-B290と操作性,洗浄性能に優れるSpyGlassTMDSが汎用されている.

診断における経口胆道鏡の有用性は,胆管狭窄における良悪性の鑑別と胆管癌の進展度評価であり,治療における経口胆道鏡の有用性は,治療困難な胆管結石の採石である.しかしながら,診断・治療,いずれにおいても使用できるデバイスの性能や種類が限られており,現行のデバイスの改良や新たなデバイスの誕生,さらにはそれらを使用するスコープそのものの改良が必要である.

経口胆道鏡の新たな進歩として,画像強調内視鏡や人工知能診断が出てきており,今後さらなる発展が期待される.

Abstract

There are two types of peroral cholangioscopy (POCS); mother-baby peroral cholangioscopy (MB-POCS) and peroral direct cholangioscopy (PDCS). Although PDCS uses a thin endoscope, such as a nasal endoscope, its indication is limited due to technical problems. In Japan, the CHF-B290, with its superior image quality, and SpyGlassTMDS, with its superior maneuverability and irrigation efficacy for bile and debris, are widely used as the baby scope of MB-POCS. POCS diagnosis is useful to differentiate benign and malignant biliary strictures and evaluate superficial intraductal spread of bile duct cancer. POCS treatment is useful in removing difficult biliary stones. However, the performance and types of devices for POCS diagnosis and treatment are limited. Further improvement of current devices and creation of new devices are needed to further advance POCS scopes. New advancements in POCS, such as image-enhanced endoscopy and artificial intelligence (AI) diagnostics, are emerging, and further developments are expected eventually.

Ⅰ はじめに

胆膵内視鏡といえば,ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)という言葉が思い浮かぶ.しかしながら,ERCPはあくまで造影検査であり,胆管,あるいは膵管の中を内視鏡で観察しているわけではない.いわゆる胆膵の「内視鏡」にあたるのが,胆道鏡,膵管鏡である.経口胆道鏡・経口膵管鏡による観察は1975年竹腰らにより初めて報告された 1.以後,細径化や画質の改良など技術的な問題もあり時間を要したが,2003年にVideoscopeとしての経口胆道鏡,また,2007年には操作性に優れるディスポーザブルタイプのものが使用可能となり,性能が大きく向上した 2

現在では,良悪性困難な胆道疾患の鑑別や胆管癌の進展度評価などの診断,また,治療困難な胆管結石の治療など,経口胆道鏡の役割は大きく広がりつつある.いっぽうで,経口胆道鏡による診断学や治療ストラテジーは十分に確立されているとはいえず,機能的にも十分に満足できるスコープが存在しないのが現状である.本項では,経口胆道鏡による胆道疾患の診断・治療の現況と将来展望について概説する.

Ⅱ 経口胆道鏡の種類と特徴

経口胆道鏡(peroral cholangioscopy:POCS)は,通常の後方斜視鏡(親スコープ)の鉗子口より径3mm程度の直視鏡(子スコープ)を胆管内に挿入する親子式経口胆道鏡(mother-baby scope system peroral cholangioscopy:MB-POCS)と,径5mm程度の直視鏡を胆管内に挿入する直接経口胆道鏡(peroral direct cholangioscopy:PDCS)に分けられる.MB-POCSについては,おおむね挿入法が確立されており,胆管径が細い場合を除き挿入困難例は少ない.いっぽうPDCSについては,専用機の開発・臨床使用の報告 3)~5はあるが,いまだ市販されているものはなく,本邦では細径内視鏡(おもに経鼻内視鏡)で代用することが多い.いずれにしてもPDCSには専用機や確立された挿入法がないため,しばしば挿入困難を経験し,現状では術後再建腸管など対象は限られている.

MB-POCSについて本邦で現在おもに販売・汎用されているものは,CHF-B290(オリンパス社)(Figure 1)とSpyGlassTMDS(ボストンサイエンティフィック社)(Figure 2)である.CHF-B290は通常のスコープと同様にリユースであるが,SpyGlassTMDSはディスポーザブルとなっているためシングルユースである.CHF-B290の前身は,前述の2003年に開発されたVideoscopeのCHF-B260であり,現在のCHF-B290はその改良版である.CHF-B260はスコープの先端部が弱く,起上装置を上げて無理な力を加えると,すぐに先端部のゴムに穴が空くという欠点があったが,CHF-B290は先端部の耐久性を向上させ,かつCHF-B260の流れを引き継いだ良好な画質が得られるという特徴がある.いっぽう,SpyGlassTMDSは4方向にアングル操作が可能であること,吸引口と送水口が別々にあることが大きな特徴である.さらにSpyGlassTMDSは親スコープに子スコープを取り付けることで,1人の術者で施行する(single-operator cholangioscopy:SOC)ことも可能である 6

Figure 1 

CHF-B290(オリンパス社より提供).

アングル操作は2方向,吸引と送気・送水,さらに鉗子口は一つ穴である.全身のCHF-B260と比較し,より近接の画質を改善,耐久性も改善した.

Figure 2 

SpyGlassTMDS(ボストンサイエンティフィック社より提供).

a:二つ穴が送水口,間にある大きな一つ穴が吸引口兼鉗子口.

b:SOC(single-operator cholangioscopy).子スコープを親スコープに取り付けて,1人の術者が操作を行う.

最近では国内外を問わず各社が新規のMB-POCSに用いる子スコープの開発に力を入れている.技術革新とともに,より安価で,より画質・操作性に優れるスコープシステムが開発されつつあり,さらなる発展が期待される.

Ⅲ 診断における経口胆道鏡の有用性

POCS診断においては観察と生検両面においてその威力が発揮される.

観察における有用性として,鑑別困難な狭窄に対する補助的診断,および胆管癌の表層進展に関する補助的診断が挙げられる.

POCS観察における狭窄の悪性所見として,①口径不同に拡張・蛇行した血管,②不規則な乳頭状,顆粒状あるいは魚卵様の外観を呈する粗造粘膜,③易出血性が挙げられる(Figure 3 7.いっぽう,良性狭窄では正常に比べて拡張が目立つものの,口径不同や蛇行は軽度であること,同じ粗造粘膜でも比較的均一な乳頭状,顆粒状の所見を呈するとされる.また,潰瘍や潰瘍の瘢痕が胆管内に認められるのも良性狭窄を示唆する所見である.これらの所見は高解像度の画質が得られるCHF-B290でより捉えやすく,narrow-band imaging(NBI)を付加することでより情報が得られやすいという報告もある(Figure 4 8),9

Figure 3 

胆管癌のPOCS像.

拡張・蛇行した粗造粘膜(左図)や不規則な乳頭状隆起(右図)が特徴である.

Figure 4 

NBIによるPOCS像.

Figure 3にNBIを付加したものであり,血管影が鮮明となる.

胆管癌では水平方向の進展度診断が術式を決定するうえで重要である.胆管癌の発育形態として,乳頭型や結節膨張型などの限局型はしばしば表層進展するためPOCSによる診断が有用である 10.いっぽう,平坦型や結節浸潤型など浸潤型の発育形態をとるものは病変が胆管壁内を進展するためPOCSの有用性は限定的であり,造影CTやERCPでの進展度診断が重要である.

胆管狭窄の良悪性診断や胆管癌の進展度診断においては,可能なかぎり生検を併用するのが現状である.胆管癌において透視下の生検と比較したPOCSでの生検における有用性として,コンタミネーションの少ない狙撃生検が可能なことが挙げられる.胆管癌の水平方向の進展度診断において,透視下で狭窄部より奥の胆管を生検するには生検鉗子が狭窄部を通過する必要があり,悪性胆道狭窄であればコンタミネーションが生じて偽陽性となることがある.また,透視下の生検では,スコープから出した生検鉗子を経乳頭的に挿入し,X線透視画像を見ながら生検鉗子をコントロールして目的部位に導く.そのため,生検鉗子を到達させることのできる場所はある程度限られており,狭窄部を生検する場合でも場所を細かく変えて狙撃生検するのは困難である.いっぽう,POCSを用いると病変部に近いところまで子スコープを進め,同部より生検鉗子を出すためコンタミネーションの可能性は低い.さらに子スコープのアングル操作を用いることで場所を変えて生検することも可能である.前述したとおりSpyGlassTMDSは,4方向のアングル操作が可能であり,より正確な狙撃生検を行うことができる.

しかしながら,狭窄部の生検においてはSpyGlassTMDSといえどもスコープの自由が利かないことや,POCSで使用する生検鉗子では採取できる組織が限られるなどの理由から,良悪性の鑑別において,観察による診断を明らかに上回るほどの成績は出ていない.Oguraらは33症例に診断的POCSを施行し,観察の正診率が93%であったのに対し,生検の正診率が89% 11,Shahらは58症例に診断的POCSを行い,観察の正診率が94.4%,生検の正診率が91.8% 12,Tanisakaらは30症例に対し診断的POCSを行い,観察で90%,生検でも90%の正診率 13であり,Gergesらは32症例に対するPOCSにおいて,観察で87.1%,生検では76.7%であったと報告 14している.いずれの報告も生検については特異度が100%であるいっぽうで,感度は80-86%であり,生検で陰性である場合の取り扱いは注意が必要であるといえる.

Ⅳ 治療における経口胆道鏡の有用性

治療内視鏡においてPOCSが大きな役割を果たすのは巨大結石治療である.近年は内視鏡的ラージバルーン拡張術(endoscopic papillary large balloon dilation:EPLBD)による結石除去が普及し,20mm程度までの結石であれば砕石具を用いた,EPLBD+内視鏡的機械式破砕術(endoscopic mechanical lithotripsy:EML)で除去することも可能となった.しかし,30mmを越えるような結石は,EPLBD+EMLでの除去も難渋する.そのような結石に対しては,POCSと衝撃波を発する専用のプローブを用いた電気水圧衝撃波結石破砕術(electrohydraulic lithotripsy:EHL)が有用である 15.EHLであれば基本的には結石径の制限はなく,砕石・結石除去が可能である(Figure 5).また,胆囊管に嵌頓した結石によるMirrizi症候群など,特殊な状況下での砕石・結石除去も可能 16であり,本来は手術適応であった結石に対する治療もPOCS下で行われている.

Figure 5 

巨大胆管結石に対するMB-POCS下のEHL.

a:左肝管内に長径30mmの結石によるdefectを認める.

b:親スコープと子スコープ.

c:子スコープから出したEHLのプローベ.

d:EHL後左肝管のdefectは消失している.

e:子スコープで結石を視認.

f:EHLプローベ.

g:EHL後の結石.

h:バルーンカテーテルで採石.

EHLを行う際のPOCSに求められる性能は,洗浄・吸引の性能である.EHLでは衝撃波により結石が細かく粉砕されて胆管内を舞うため,しばしばPOCSの視界が不良となり,治療の遅延につながるが,これらを素早く洗浄・吸引を行うことができれば良好な視界をより速く得ることができ,ストレスなく確実な砕石が可能となる.そういった点において現在汎用されている子スコープとしては吸引口と送水口が別々になっているSpyGlassTMDSがEHLにはより使いやすいかもしれない.

そのほか治療内視鏡として,胆道処置のトラブルシューティングにもPOCSは有用である.迷入した胆管ステントの回収 17),18や突破困難な胆管狭窄のseeking 19などの報告が散見される.いずれにしても胆管内を直接観察しながら処置ができる点は大きなメリットである.ただし,POCSで使用できるデバイスの種類は限られているのが現状であり,治療的なPOCSがさらに発展するためには使用可能なデバイスの開発が必要であると考える.

Ⅴ PDCSによる診断・治療

前述したとおり,経乳頭的なPDCSについては,細径内視鏡を用いた報告が散見 20)~22されるものの技術的な難易度が高く,いまだ発展途上である.経鼻内視鏡などで使用される細径内視鏡をそのまま挿入した場合の成功率は低く,バルーンで補助しながら挿入する手技 23),24や,multi-bending scope 3)~5などの工夫がなされており,今後の進捗が期待される.また,膵頭十二指腸切除後など胆管空腸吻合術を行った症例に対するPDCSについてはバルーン内視鏡のオーバーチューブを併用することで吻合部への到達が可能となる.吻合部まで到達してしまえば乳頭は存在しないため胆管への挿入は容易であり,通常の細径内視鏡でのPDCSが可能である(Figure 6 25.しかしながら,こちらもChild法など口から胆管空腸吻合部までの距離が短いものに限られており,Roux-en-Y法では再建腸管が長いためスコープの長さが足りず施行できない.バルーン内視鏡を直接胆管内に挿入して処置を行う報告も散見される 26),27が,胆管が細い場合には挿入困難であり,こちらも対象が限られる.

Figure 6 

膵頭十二指腸切除後の肝内結石採石後のPDCS.

a:ダブルバルーン内視鏡下に肝内結石をバルーンカテーテルで除去.

b:オーバーチューブを残してダブルバルーン内視鏡を抜去し,オーバーチューブの口元を切り開いて経鼻内視鏡を挿入,胆管内まで内視鏡を進める.

c:胆管内に結石が残存.

d:バスケットカテーテルで結石を除去.

e:結石除去後の胆管.

PDCSではMB-POCSに比べると,経鼻内視鏡など広径のものを挿入するため,送水・洗浄がより速やかに可能であり,鉗子口径も大きく使用できるデバイスも増える.さらに,画質もよりよいものが得られるため,挿入してしまえばMB-POCSよりも有用であるといえる.経乳頭的な挿入を確実にする専用機や技術開発が今後の課題である.

Ⅵ 経口胆道鏡の将来展望

良質なPOCS観察画像という観点からは,現状SpyGlassTMDSよりもCHF-B290が優れる.POCSにおいてよりよい画像を得るためには胆汁やdebrisの洗浄除去が不可欠であるが,CHF-B290の不利な点として,送水チャンネルと吸引チャンネルが同一であることが挙げられる.このために胆管の洗浄にはおもに用手洗浄が必要となることから,胆汁・debris洗浄除去が煩雑である.これを解決しうるものとして近年開発されたのが,新しい画像強調内視鏡(image-enhanced endoscopy:IEE)技術であるオリンパス社のRDI(Red Dichromatic Imaging)である.RDIは深い部分にある血管や出血部位を同定しやすくする目的で開発されたものであるが,光の調節により白色光で黄色に見える胆汁を無色透明に変換することが可能である(Figure 7 28.これにより,CHF-B290による観察時の煩雑な洗浄作業をかなり省略することが可能である.SpyGlassTMDSではCHF-B290ほどの洗浄のための煩雑さはないが,一度に大量の送水をすれば胆管内圧が上がり,患者の苦痛や検査後の胆管炎や肝障害の原因となるため,洗浄を最小限にとどめられるRDIのメリットは大きい.NBIも含め 29,こういった新しいIEEの技術 30,さらにはより小さなカメラで上下部消化管内視鏡で得られるような高画質の画像を得られるようになることがより精度の高いPOCS診断につながると思われる.

Figure 7 

RDIによる胆管の観察.

a:通常光での観察.洗浄したのちに観察しても少し時間が経過すると,胆汁が流れてきてしばしば観察不良となる.

b:RDIに切り替えると胆汁の黄色がなくなり,洗浄した場合と同様の色調で観察可能であり,血管もより鮮明に観察することができる.

また,昨今は人工知能(artificial intelligence:AI)を利用した内視鏡診断が普及しつつあるが,AIによるPOCS診断についても報告が散見される(Table 1 31)~35.いずれの報告も非常に高い正診率であり,常にこの成績が出せれば人間の目はもちろん生検の成績にも優るとも劣らないデータである.Robles-Medrandaら 34はAIとexpert 4名,non-expert 4名との比較において,expert 1名,non-expert 2名より有意に診断能が高く,全体でもAIの正診率が80%であったのに対し,expert群が75.4%,non-expert群が67.2%とAIで優れていたと報告している.Zhangら 35も同様にAIとnovice,およびexpertとの間で診断能を比較し,正診率がそれぞれ93%,84.5%,88.6%と,AIが優れていたと報告している.IEE技術や技術革新による画像技術の向上はPOCS診断能の向上に不可欠であるが,いっぽうで観察のみによる胆管の内視鏡診断学は消化管の診断学には及ばない.また,診断的POCSを行う対象症例も消化管に比較すると少なく,実際に学ぶことのできる施設や機会は限られている.それらの不利な状況をAIは補うことが可能であり,さらなる発展が期待される.

Table 1 

AIを用いたPOCS診断の報告.

スコープの細径化について,観察のみに重点を置くという観点からは,より細いスコープでより高画質の画像が得られるのであれば,数mm程度の細い総胆管でも積極的にPOCSを行い,それが診断に寄与することになる.しかしながら,現状のスコープは診断時の生検鉗子や,結石治療の際のEHLのプローベが通るだけの鉗子口径の維持は必要であり,スコープの径は細ければ細いほどよいとはならない.現実的にはスコープの細径化と鉗子口を維持することは物理的に相反する目的であり,同時に解決するのは困難ともいえる.今後は,診断に特化したスコープ,治療に特化したスコープ,それぞれの目的に合わせたスコープの開発が進んでくる可能性が考えられる.また,現状の生検鉗子の組織採取量は常に満足できるものではなく,採石のためのバスケットも使用できるものは限られているため,POCSに特化したさまざまなデバイスの開発も合わせて必要である.

Ⅶ おわりに

経口胆道鏡は歴史こそ古いが,診断,治療,いずれにおいてもいまだ確立されていない部分が多く,今後さらなる発展が期待される内視鏡分野である.近年の機器の発達により,大きな変化の兆しが見えつつあるが,われわれも胆道内視鏡がどうあるべきかを考えながら手技の発展,機器の開発に積極的に関わってゆくことが重要である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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