日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
膵管癒合不全を背景に発生した副膵管領域膵頭部癌の1例
藤本 剛英稲富 理竹田 善哉木村 英憲新谷 修平井上 博登松本 寛史西田 淳史馬場 重樹安藤 朗
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2024 年 66 巻 4 号 p. 422-427

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要旨

症例は66歳男性.腹部超音波検査で膵管拡張を指摘され,当院を受診し,磁気共鳴胆管膵管撮影(Magnetic Resonance cholangiopancreatography:MRCP)で主膵管拡張を認めた.ERCPで主乳頭からの腹側膵管造影では主膵管との交通はなく,副乳頭からの背側膵管造影では膵頭部の副膵管の限局的な狭窄と尾側膵管の拡張を認めた.ソナゾイド造影下EUSでは,膵頭部に長径11mmの乏血性腫瘤を認めた.膵管癒合不全を背景とした副膵管領域膵癌が疑われ,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.病理診断は副膵管領域原発膵癌であった.通常副膵管領域膵癌は主膵管拡張を呈しにくいが,本症例は膵管癒合不全により早期に尾側膵管拡張をきたし,膵癌の早期診断に至った.

Abstract

A 66-year-old man visited our hospital due to pancreatic duct dilatation. Magnetic resonance cholangiopancreatography showed dilatation of the main pancreatic duct. ERCP showed the absence of a connection with the main pancreatic duct on ventral pancreatography from the main papilla. Dorsal pancreatography from the accessory papilla showed localized stenosis of the accessory duct at the pancreatic head and main pancreatic duct dilation. Moreover, EUS showed an 11-mm hypoechoic mass in the region of the accessory pancreatic duct. The mass was hypovascular in the early phase of Sonazoid contrast. As pancreatic head cancer complicated by pancreatic divisum was suspected, subtotal stomach-preserving pancreaticoduodenectomy was performed. The pathological diagnosis was pancreatic cancer in the region of the accessory pancreatic duct. In this case, pancreatic cancer could be diagnosed at an early stage because the pancreatic duct dilatation occurred at an early stage. This was due to decreased pancreatic juice drainage from the main pancreatic duct caused by the pancreas divisum.

Ⅰ 緒  言

膵管癒合不全は胎生期の発生異常で,腹側膵管と背側膵管の走行に異常をきたす変化である 1.膵管癒合不全と発癌の関連については不明な点が多いが,副膵管領域に位置する背側膵管に発癌した症例が報告されている 2.今回,われわれは膵管癒合不全を有する症例の副膵管領域に発症した膵癌の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え,報告する.

Ⅱ 症  例

患者:66歳 男性.

主訴:なし.

既往歴:S状結腸癌術後(50歳時),2型糖尿病.

家族歴:特記事項なし.

内服薬:メトホルミン塩酸塩錠250mg,ファモチジン20mg,カナグリフロジン水和物100mg.

飲酒歴:焼酎2杯/日.

喫煙歴:15本/日 40年.

現病歴:健康診断の腹部超音波検査で膵管拡張を指摘され,精査目的に当院紹介となった.

入院時現症:身長177cm,体重56kg,体温37.1度,血圧113/69mmHg,脈拍72回/分,SpO2 98%(室内気),呼吸数16回/分,眼瞼結膜:蒼白なし,眼球結膜:黄染なし,頸部:リンパ節腫脹なし,心音:整,雑音なし,肺音:雑音なし,腹部:平坦,軟,圧痛なし.

入院時血液検査所見:WBC 5,000/μL,Hb 14.9 g/dL,HCT 42.6%,Plt 20.4×103/μL,TP 6.4g/dL,Alb 4.1g/dL,T-Bil 0.76mg/dL,AST 21U/L,ALT 18IU/L,LDH 140U/L,AMY 158U/L,BS 192mg/dL,HbA1c 6.9%,CEA 14.6ng/mL,CA19-9 28U/mL.

肝機能障害やアミラーゼ値異常は認めなかった.

磁気共鳴胆管膵管撮影(Magnetic Resonance cholangiopancreatography:MRCP)(Figure 1-a):膵頭部に主膵管と交通する18mmの囊胞性病変を認めた.主膵管は9mmに拡張し,分枝膵管も拡張していた.

Figure 1 

a:MRCP.主膵管拡張を認めた.膵頭部に膵管と交通する囊胞性病変を認めた(△).膵尾部付近の囊胞性病変は腎囊胞である(矢印).

b:造影CT(動脈相).主膵管拡張と膵実質の萎縮を認めた.

MRI検査:拡散強調画像では膵頭部に直径11 mmの拡散の低下を認めた.

腹部造影CT検査(動脈相)(Figure 1-b):膵頭部に主膵管と交通する18mmの囊胞性病変を認めた.膵実質全体に萎縮を認め,主膵管径は9mmに拡張していた.膵腫瘍の指摘はできず,膵管癒合不全は指摘困難であった.

ポジトロン断層法(PET):有意な18F-フルオロデオキシグルコースの集積所見は認めなかった.

超音波内視鏡検査(EUS)(コンベックスで十二指腸球部から観察)(Figure 2):膵頭部に18mmの囊胞性病変を認めた.囊胞性病変は膵管と交通を認めた.囊胞内には明らかな結節は認めなかった.囊胞性病変の近傍に11mmの低エコー腫瘤を認め,同部位で背側膵管の途絶を認めた.囊胞性病変と腫瘤の連続性は確認できなかった.ソナゾイド造影では腫瘍は周辺膵臓実質と比較すると血流が少なく,不均一な染影が認められ,乏血性腫瘍として描出された.腫瘤に対して22Gの穿刺針(ExpectTM,Boston Scientific Japan,Tokyo)を用いて20ccの陰圧をかけて超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診(EUS-FNA)を施行した.腫瘍が小さく,EUSによる描出が困難で,少量の検体採取にとどまった.EUS-FNAの病理所見では細胞成分が認められず,診断が困難であった.

Figure 2 

EUS(十二指腸球部走査).

a:Bモードでは背側膵管が途絶する部位に腫瘤を認めた.囊胞は腫瘍とは隣接するものの接触はしていなかった.囊胞と背側膵管との交通を確認できた.

b:ソナゾイド造影.腫瘤(△)は周辺組織と比較して血流が少なく,内部は不均一な染影を認めた.

内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(ERCP)(Figure 3):主乳頭からの腹側膵管造影では膵頭部の膵管は馬尾状に走行しており,体尾部との連続性は確認されなかった.副乳頭からの背側膵管造影では尾側膵管まで造影された.膵頭部の副膵管は限局性に狭窄し,尾側膵管は9mmに拡張していた.狭窄部位で擦過細胞診を提出し,狭窄をこえた部位で膵液を吸引し,膵液細胞診を提出した.さらに狭窄部位をこえて,内視鏡的経鼻膵管ドレナージチューブ(5Fr)を留置し,連続膵液細胞診も提出した.細胞診ではいずれの方法でも円柱上皮が認められるものの,悪性を示唆する所見は認めなかった.

Figure 3 

ERCP.

a:主乳頭造影では主膵管とは連続性がなかった.

b:副乳頭造影では限局的な膵管の狭窄(△)と尾側背側膵管の拡張を認めた.

経過:EUS,MRCP,ERCPの所見から膵管癒合不全であることと,副膵管領域に膵癌が発生し,尾側膵管拡張をきたしていたことが疑われた.また膵頭部の囊胞性病変については膵管と交通のある囊胞性病変で,膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)と診断した.

EUS-FNAおよび膵液連続細胞診でも病理学的な膵癌の診断に至らなかったものの,画像所見から副膵管領域に発症した膵頭部癌と診断し,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.

切除標本の肉眼的所見:膵頭部に周囲との境界が不明瞭な黄白色の腫瘍が確認された(Figure 4).

Figure 4 

切除標本.

a:肉眼像.切除検体は膵頭部3.8×6.5×2.4cmで,内部に14×10×15mmの腫瘍を認めた(矢印が腫瘍).

b:ルーペ像.腫瘍は異型細胞から成る小型腺管が増殖しており,腫瘍の尾側背側膵管は拡張していた.

病理組織学的所見:副膵管領域を中心に小型腺管が増殖し,一部で低分化成分を伴う中分化腺癌で,線維性間質の増生があり周囲の膵実質は萎縮していた.十二指腸や総胆管浸潤は認めなかった.副膵管領域原発の膵癌で,Ph,TS1(15mm),infiltrative type,Adenocarcinoma,moderately differentiated(mod>por),14×10×15mm,pT3,sci,INFb,ly0,v2,ne2,mpd0,pCH0,pDU0,pS0,pRP0,pPV0,pA0,pPL0,pOO0,pPCM0,pBCM0,pDPM0,pN0,CY0,R0,pStageⅡA(膵癌取扱い規約第7版)と診断した.術前に指摘された囊胞性病変はIPMNを疑っていたが,IPMNは認めなかった.膵癌による背側膵管閉塞に伴った分枝膵管の拡張であった.

Ⅲ 考  察

膵管癒合不全は比較的よく遭遇する膵臓の先天異常で,胎生期に発生した腹側および背側膵原基が癒合しない場合あるいは一部しか癒合しない場合に発生する.その頻度は欧米では5-10% 3,本邦では1%前後 4),5である.膵管癒合不全と膵癌についての一定の見解はないものの,ERCPを施行した連続症例で膵管癒合不全を認めた症例を後方視的に解析した文献では膵癌と膵管癒合不全の合併は欧米では5.1~12.2% 6)~8,本邦では9.4~10.2%程度 4),9と報告される.

膵管癒合不全は,主膵管と腹側膵管(Wirsung管)と交通がないもの(1型),腹側膵管が完全に欠如するもの(2型),主膵管と腹側膵管に交通があるが膵液は主に背側膵管から排泄されるもの(3型)に分類され,各々71%,23%,6%の頻度である 10.本症例ではERCPの腹側膵管造影では膵頭部の膵管のみ造影され,尾側膵管は造影されなかった.一方で,背側膵管造影では尾側膵管が造影されたため,1型膵管癒合不全と診断できた.この造影において,背側膵管の限局的な狭窄と尾側膵管の拡張を認め,副膵管領域に発生した膵頭部癌が疑われた.

膵管癒合不全を伴う症例では,膵液の排出は主に副乳頭から行われる.開口部である副乳頭は開口が小さいため,膵液排出能が低く,膵炎を発症することがある.この機序で背側膵に慢性炎症性変化がおこり,膵癌の発生母地となる可能性が示唆されている 4),11.実際に膵管癒合不全例では背側膵と腹側膵を比較すると背側膵に膵癌の発生が多いとされる 4),11),12.中村らは膵管癒合不全で発癌した36症例のうち,33例は背側膵に膵癌が発症したことを報告し 13,またKamisawaらは膵管癒合不全44例中4例に膵癌を発症し,いずれも背側膵に発症したことを報告している 9.本症例においても,背側膵には膵腺房細胞はほとんどみられず,わずかにランゲルハンス島のみが残存しており,萎縮と考えられる変化が確認できた.しかしながら,これが慢性炎症を背景とした発癌なのか,癌に伴う周辺の線維間質増生なのかについては断定が困難である.

本症例では小病変であったため,術前に病理学的診断には至らなかったものの,EUSが膵癌診断の一助となった.11mmの小病変で,CTやPET-CTでは病変が認識できなかったが,EUSで低エコー腫瘍として認識することができた.特にソナゾイド造影併用下EUSでは,腫瘍は周辺膵臓実質と比較すると血流が少なく,不均一な染影が認められ,膵癌に特徴的な不均質な乏血性腫瘍として描出された.ソナゾイド造影併用下EUSによる膵癌の診断能は非常に高く,感度94%,特異度89%と報告されている 14.本症例ではEUS-FNAで腫瘍の穿刺は可能であったが,病理学的診断に至ることはできなかった.しかし,膵癌に特徴的なEUS所見を根拠に手術加療に踏み切ることが可能であった.

副膵管領域に発生する膵癌は比較的稀であることに加えて,腫瘍が増大すると発生部位が同定困難となるため本邦での報告も限られている.医中誌で,「副膵管,膵癌」「副膵管領域膵癌」で検索しえた症例報告は9例であった(Table 1 15)~23.自験例も含めた10例のうち,20mm以下で発見された症例は自験例以外では1例のみであった.膵管癒合不全を合併した症例は自験例のみであった.副膵管癌44例を集計した報告でも,解剖学的に副膵管近傍の十二指腸や膵内胆管への浸潤の割合が高く,85.7%の症例では十二指腸浸潤,62.9%で胆管浸潤がみられ,生存期間中央値も1年未満と予後不良で,一般的には早期発見が困難とされている 24.副膵管領域に発症した膵癌も通常型膵癌による浸潤癌病変を形成するため,病変が進行すると発生領域の証明は困難となる場合が多いが,本症例では比較的早期に膵癌診断に至ったために,腫瘍の局在診断が可能であった.

Table 1 

副膵管領域膵癌の報告例.

通常,微小膵癌の診断は貯留囊胞の形成や微細な膵管径の変化が契機になることが多く,副膵管領域の小膵癌は正常な解剖であれば尾側の膵管に変化をきたすことは少なく,早期発見が困難である.本症例は,副膵管領域の小膵癌による膵管狭窄に癒合不全が併存するという稀な病態により,尾側膵管が早期に拡張をきたしたことが診断契機になったことに新規性がある.

既報のとおり,膵癌は予後不良な疾患で,本症例のように早期発見されても予後不良となる場合が多い.本症例も術後にアジュバンドとしてS-1を4コース施行したが,手術から1年半後に局所再発をきたした.その後,FOLFIRINOX,GEM+nab-PTXを投与したものの,手術から2年半後に永眠された.

本症例は副膵管領域の膵癌であったが,背景に膵管癒合不全があり,早期に主膵管拡張をきたし,早期発見,診断が可能であった.それに加えてCT検査などで認識できない微小膵癌であったが,診断にはソナゾイド造影下EUSが有用であった.

Ⅳ 結  語

膵管癒合不全に合併した副膵管領域膵癌の1例を経験した.通常は膵管変化をきたさない副膵管領域の小膵癌であっても,膵管癒合不全が併存することで,早期に膵管変化をきたすことがある.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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