日本消化器内視鏡学会雑誌
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総説
機能性ディスペプシアの十二指腸が果たす役割
森 英毅 森岡 晃平金井 隆典
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2024 年 66 巻 5 号 p. 1203-1211

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要旨

機能性ディスペプシアは疾患有病率が高く,一般的に診療を行う機会が多い疾患であるにも関わらず,多因子が複雑に絡み合うため,疾患の病態生理に未知な部分が多い.「胃もたれ」や「胃痛」などの症状を呈する事から,従来は胃粘膜や胃の機能に焦点を当てた研究が行われていたが,近年の機能性ディスペプシアの病態生理の核に迫る研究は十二指腸を中心に動いていると言っても過言ではない.機能性ディスペプシアの主要な病態として,好酸球や肥満細胞浸潤に伴う“low-grade inflammation”,つまり微小炎症が粘膜バリア機能不全を起こし,様々な異物が求心性神経や消化管ホルモンを刺激し,胃適応性弛緩不全や胃運動障害に繋がるという機序が明らかにされつつある.

Abstract

Although functional dyspepsia is highly prevalent and is often seen in outpatient clinic, the pathophysiology of the disease remains unknown due to the presence of multiple factors. Traditionally, research has focused on the gastric mucosa and gastric function because of the presence of symptoms such as “postprandial fullness” and “epigastralgia”. However, recent research into the core pathophysiology of functional dyspepsia has focused on the duodenum. The major pathophysiology observed in functional dyspepsia is that low-grade inflammation associated with eosinophil and mast cell infiltration causes mucosal barrier dysfunction, and various foreign substances stimulate the afferent nerves and gastrointestinal hormones, leading to impaired gastric adaptive relaxation and gastric motility.

Ⅰ はじめに

辛い胃もたれや胃痛を訴えているのにも関わらず,血液検査,上部消化管内視鏡検査,腹部画像検査を行っても異常を認めないという症例は消化器内科外来で頻繁に遭遇する.多くの場合は,「大きな異常がなくてよかったですね」「食べ物やストレスから来る症状ですね」などの説明と酸分泌抑制薬の処方が行われる事が多い.このような病態は以前は慢性胃炎や慢性胃腸炎と呼ばれ,現在では機能性ディスペプシアと呼ばれている.現在,世界における機能性ディスペプシア研究の中心は十二指腸にあると言っても過言ではない.本稿では機能性ディスペプシアと十二指腸に関する最新の知見を紹介したい.

Ⅱ 機能性ディスペプシアとは

機能性ディスペプシアとは「症状の原因となる器質的,全身性,代謝性疾患がないのにも関わらず,慢性的に心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患」であると日本消化器病学会の機能性ディスペプシア(機能性ディスペプシア)診療ガイドライン2021では定義されている 1.2016年に改訂された最新の世界的な機能性消化管障害のガイドラインであるRome Ⅳ基準では機能性ディスペプシアを,「症状を説明できそうな器質的,全身性,代謝性疾患がないにも関わらず,つらいと感じる食後のもたれ感,つらいと感じる早期飽満感,つらいと感じる心窩部痛,つらいと感じる心窩部灼熱感の4つの症状のうち1つ以上を有するもので,6カ月以上前にこれらの症状を経験し,しかも,少なくとも直近の3カ月間は症状が続いているもの」と定義している 2.この4つの症状のうち,前二者を有するものをPDS(postprandial distress syndrome;食後愁訴症候群),後二者を有するものをEPS(epigastric pain syndrome;心窩部痛症候群)の2つのサブグループに大別している.PDSとEPSのオーバーラップを来す症例も稀ではない.ここでの「症状の原因となる器質的,全身性,代謝性疾患がない」というのは,一般的な診察や血液検査,X線検査,腹部超音波,内視鏡検査などで明らかな異常がない事であるため,専門的な生理検査(胃排出能検査や胃適応性弛緩能検査),組織学的炎症細胞などの微小変化,細胞間液性因子透過性の上昇,消化管ホルモン値の異常などは含まれていない.つまり,実際に「異常」自体は存在しているかも知れないが日常診療レベルでの評価が困難な病態と言い換えてもいいかも知れない.

機能性ディスペプシアの原因として,胃・十二指腸の運動異常,内臓知覚過敏,心理社会的因子,胃酸分泌,遺伝的要因,生育環境,感染性胃腸炎の既往,運動・睡眠・食事内容や食習慣などのライフスタイル,消化管の微小炎症などの多因子が複合的に関与しているとされる 2.表現型である症状は食後のもたれ感,早期飽満感,心窩部痛,心窩部灼熱感と比較的少ないバリエーションである事から,症状だけの聴取から原因となる病態の類推が困難である事は明白であり,問診票や様々な機能検査や組織学的評価によって,辛うじて病態に近づく事が可能となるが,手間暇のかかる詳細な問診票の評価は一般外来で全例に行う事は難しく,専門的な機能検査や組織学的検査は保険適用となっているものがないため,それらは研究もしくは自費診療としてのみ運用されている 3

ガイドラインで推奨される機能性ディスペプシアの治療としては,生活習慣指導や食事療法,酸分泌抑制薬,消化管運動機能改善薬,漢方薬,抗うつ薬・抗不安薬による薬物療法が挙げられる 1.これらの有効性を予測するに十分な治療前評価は確立されておらず,担当外来医師に選択が委ねられているのが現状であろう.

Ⅲ 機能性ディスペプシアにおける十二指腸が果たす役割

冒頭で述べたように世界における機能性ディスペプシア研究における注目は十二指腸に集まっていると言っても過言ではない.機能性ディスペプシアと十二指腸と言うと奇異な印象を持たれる事が多々あるが,それもそのはずで,通常患者は「胃が痛い」「胃が重い」のような表現を用いて受診されるため,機能性ディスペプシアは「胃の病気」であろうという先入観が起こりやすいのは必然とも言える.実際に20年前までは,胃排出遅延,胃弛緩不全,胃粘膜過敏,ヘリコバクター・ピロリ感染などや心理社会的要因が症状の発生に関与しているとして,主に胃に焦点を当てた研究が行われてきた 4.一方で,機能性ディスペプシアにおける十二指腸の役割についての人体を対象とした臨床研究は1990年台後半より欧州を中心に行われ始めていた.ここで検討されたのは主に十二指腸の酸曝露および脂質曝露である.

① 十二指腸への胃酸曝露が与える影響

機能性ディスペプシアの治療薬で最も利用されているのはプロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor:PPI)などの酸分泌抑制薬であろう.Cochraneシステマティックレビューでは機能性ディスペプシアに対するプラセボとPPIの効果を報告しており,6,172人(18研究)を対象とした結果,有効性はPPI群で31.1%,プラセボ群で25.8%とPPIの有効性が示されている(リスク比 0.88,95% CI 0.82~0.94).利益を得るための必要治療数(number needed to treat to benefit:NNTB)は11であり,機能性ディスペプシアガイドラインで第一選択薬に支持されている割には効果が低いと言えるだろう 5.しかし,古くより胃酸と機能性ディスペプシアとの関連は注目されていた事は事実であり,十二指腸への酸曝露がディスペプシアの原因と考える科学者が様々な臨床研究を施行した(Table 1 6)~8

Table 1 

酸の十二指腸曝露に伴うディスペプシア症状の発現.

Samsomらは,十二指腸酸注入により機能性ディスペプシア患者の一部で嘔気が誘発されたが,健常対照群では嘔気が誘発されなかったと報告しており,機能性ディスペプシア患者における胃酸に対する十二指腸過敏の存在を示唆している 6.一方で,他の研究では,嘔気が健常者の十二指腸酸性化によって誘発される事が示され,その他の満腹感,腹部膨満感,心窩部灼熱感,心窩部痛などのディスペプシア症状は,健常者の十二指腸酸注入によって誘発されたため,一定の結論が得られていない 9.また,嘔気症状の強い機能性ディスペプシア患者では,十二指腸への酸注入前後,および生理食塩水注入前後で,ディスペプシア症状のスコアに有意差は認められなかった 7.機能性ディスペプシアにおける十二指腸酸過敏の存在と機能性ディスペプシアの病態生理におけるその役割に関する研究は議論の余地があるものの,健常者および機能性ディスペプシア患者に関わらず様々な症状が誘発されている事は事実である事に注目したい.

24時間十二指腸pHモニタリングにより,機能性ディスペプシア患者では自発的な十二指腸酸曝露が増加している事が示されている 7),8.また,十二指腸酸曝露が増加している機能性ディスペプシア患者では,十二指腸酸曝露が正常な機能性ディスペプシア患者よりも強いディスペプシア症状がみられる 7.機能性ディスペプシア患者の一部にみられる十二指腸酸曝露増加の基礎となるメカニズムとしては,十二指腸における胃酸の中和異常およびクリアランスの低下が考えられる.十二指腸における胃酸曝露の増加がディスペプシア症状の発生に寄与する生理学的機序は,まだ解明されていない.酸は十二指腸の求心性神経上の一過性受容体電位バニロイド1(TRPV1)などの酸センサーを刺激し,次いでカルシトニン遺伝子関連ペプチドと一酸化窒素を放出する 10.また,十二指腸における酸曝露は,肥満細胞の活性化とTRPVの過剰発現に至り,神経細胞を介したカスケードを開始する 11.したがって,酸は十二指腸からの感覚神経(求心性神経)を直接刺激する事ができる.化学的刺激は末梢または脊髄レベルで感作を誘導する事ができる事から 12,酸による十二指腸求心性神経の刺激は,脊髄感作の誘導を介して胃の機械的シグナル感受性を高める可能性がある.実際,健常人を対象とした生理食塩水または酸の十二指腸注入時のバロスタット法(胃の調節能を評価するために胃に留置する圧力検出装置)により,十二指腸酸注入が胃の機械的シグナル感受性の亢進させる事を明らかにした 13.十二指腸内への酸注入は腸-胃フィードバックを誘発し,肛門側への蠕動波を抑制し,幽門筋収縮圧を調整し,胃排出を遅延させる.一方では,十二指腸のpHは空腹時における胃幽門部から発生し,十二指腸,小腸に移動していく収縮群である移動運動複合体(migrating motor complex:MMC)の規則性に影響し,第Ⅲ相の開始にはアルカリ性のpHが必要である 14.これらの調整には,十二指腸から分泌される消化管ホルモンであるモチリンが調整に重要な役割を果たしている.十二指腸の酸性化が長く続くと,第Ⅲ相の発生が阻害される可能性がある.健康なボランティアを対象とした研究では,十二指腸酸性灌流は第Ⅲ相の発生と持続時間には影響しないが,食後の胃前庭部の運動低下を誘発する事が示された 15.これらの所見は,十二指腸酸性化が胃運動機能への影響を通じてディスペプシア症状を誘発または悪化させる事を示唆している.また,モチリンは胃運動促進作用が有するため,十二指腸の酸性化が消化管ホルモンの変動を通じて胃運動に影響を及ぼしている可能性も考慮される.このように,十二指腸が酸に長時間曝露される事は,胃の運動および感覚機能障害の誘発を通じてディスペプシア症状の発生に関与していると想定されている.

② 十二指腸への脂質曝露が与える影響

日常診療でも多く聴取される機能性ディスペプシア患者の訴えとして,脂肪分が多い食事によって,ディスペプシア症状が惹起されるというものがある 16.十二指腸内への脂質曝露に伴う機能性ディスペプシア症状の変化や胃適応性弛緩や感覚に関する報告をTable 2 17)~20に示す.実際に,健常者と機能性ディスペプシア患者を対象にそれぞれ十二指腸内に直接脂質を注入すると,健常者では症状を認めないのに対して,機能性ディスペプシア患者では胃の膨満感が惹起される 17),18.更に興味深い事に,十二指腸に注入する栄養素の化学組成の違いにより,胃の膨張に対する感覚反応が異なる事も示されている.機能性ディスペプシア患者では,十二指腸へのグルコース注入時よりも脂質注入時の方が嘔気が強く,生理食塩水注入時には嘔気は惹起されない.また,健常者では,いずれの注入時にも症状は認めなかった.これらの所見は,機能性ディスペプシア患者における脂質に対する十二指腸過敏の存在を示唆している 19.同じ脂肪分であっても組成によって,体内の反応は異なる事も示されている.長鎖脂肪酸と中鎖脂肪酸では,消化管知覚,胃の緊張,消化管ホルモン分泌に対する作用が異なる.長鎖脂肪酸の十二指腸内注入は,満腹感,嘔気を誘発し,胃の緊張を低下させ,コレシストキニン,gastric inhibitory polypetide(GIP),pancreatic polypeptide(PP)の血漿レベルを上昇させる.対照的に,中鎖脂肪酸の十二指腸内注入は胃の緊張は低下させるが,消化管知覚や血漿中消化管ホルモン濃度には影響を与えない 21.これらの結果より,長鎖脂肪酸由来の症状は,コレシストキニンを含む消化管ホルモンの変化に起因すると考えられる.実際,十二指腸内脂質注入によって誘発されるディスペプシア症状は,コレシストキニンA(CCK-A)受容体拮抗薬であるデクスロキシグルミドによって緩和されるため,コレシストキニンが十二指腸における脂質に関連した感覚を誘発する上で重要な役割を果たしている事を示唆している 20.このように,十二指腸における脂質は,胃の運動および感覚機能障害の誘発,あるいは放出されたコレシストキニンの変化を通して,機能性ディスペプシアにおける症状の発生に関与していると考えられる.

Table 2 

脂質の十二指腸曝露に伴うディスペプシア症状の発現.

③ 十二指腸における微小炎症と機能性ディスペプシアの病態

近年,最も注目を集めているのが十二指腸における微小炎症と機能性ディスペプシアの関連である(Figure 1).初めに十二指腸とディスペプシア症状の関連について報告したのは,Friesen CAらアメリカの小児病院の研究であり,20例のディスペプシア症状を有する小児の十二指腸粘膜組織を電子顕微鏡で評価を行い,ほとんどの症例で好酸球が脱顆粒している事から,好酸球が活性化している事を報告した 22.同様の結果はスウェーデンの成人を対象とした研究でも確認され,十二指腸生検における好酸球数が多い症例ほどディスペプシア症状を認める事,またディスペプシア患者では好酸球の脱顆粒を高率に認める事も示された 23.その後の検討では,機能性ディスペプシア患者では好酸球だけでなく,肥満細胞やリンパ球増多を認めるなどの臨床研究が次々と報告されるようになり,これらによる所謂“low-grade inflammation”つまり微小炎症が注目されるに至った 24)~27.実際に自験例の機能性ディスペプシア患者の内視鏡所見においても明らかな異常を認めていないが,同部位の生検組織では軽度の好酸球浸潤を認めている(Figure 2).このような炎症が生じる背景として,前述した胃酸や脂質以外にも胆汁酸組成や細菌叢の影響を検討した研究も近年,評価手法の発展に伴い報告されるようになった.この微小炎症の病的意義はベルギーのグループによって明らかにされている.健常者と機能性ディスペプシア患者から十二指腸粘膜検体採取し,Ussing chamber法を用いた短絡電流測定法で経上皮電気抵抗(Trans-Epithelial Electrical. Resistance:TEER)およびFITC-dextranの腸管粘膜透過性を測定する事で腸管粘膜のバリア機能を測定し,機能性ディスペプシア患者の腸管粘膜でバリア機能が低下している事を示しただけでなく,細胞間接着タンパク質の異常発現や肥満細胞および好酸球浸潤の増加,微小炎症がそれぞれ相関している事も示した 24.更にPPIによる治療で症状が改善する機能性ディスペプシア患者においては好酸球浸潤,微小炎症の改善,粘膜バリア機能の改善を伴っている事も近年示されている 28

Figure 1 

機能性ディスペプシアにおける十二指腸の微小炎症に関わる因子.

Figure 2 

機能性ディスペプシア患者の十二指腸内視鏡像と病理所見.

a:内視鏡所見.内視鏡所見上は明らかな異常所見を認めない.

b:病理所見.十二指腸下降脚から採取された病理所見上は軽度の好酸球浸潤を認める.

Ⅳ 機能性ディスペプシア診療における内視鏡が果たす役割とこれから

機能性ディスペプシアの診断基準にあるように,「内視鏡検査で明らかな異常がない」が要件である事から,機能性ディスペプシアの診断や評価を目的とした内視鏡に関する国際的な報告はほとんどが警告症状,つまり消化管の器質的疾患を示唆する症状・徴候の検討が主である.

京都の胃炎分類や消化管悪性腫瘍の拡大内視鏡分類に代表されるように,元来日本の内視鏡所見に対する観察眼は世界的にも際立っており,今日の早期消化管腫瘍の内視鏡診断・治療で世界のリードしている所以ではないかと筆者は考えている.実際に,英文化はされていないものの,国内誌や国内学会での発表では,機能性ディスペプシアの診断や評価における内視鏡所見の検討を行ったものが多数存在する(Table 3 29)~34.これらの研究から共通するディスペプシア症状に特徴的な内視鏡所見は明らかではないものの,竹田らによるLCI観察によって視認できる体部全周性発赤所見がディスペプシア症状との相関を認めるとした報告は今後病理的な検討がなされる事で有意な所見となりうる可能性がある 29

Table 3 

機能性ディスペプシアと関連する内視鏡所見.

共焦点レーザー内視鏡は,蛍光色素でラベルされた組織を顕微鏡レベルの解像度で観察できる内視鏡の事であるが,リアルタイムに組織構造が観察可能であり,腫瘍性疾患や炎症性腸疾患での報告が多数行われている.アメリカのグループは健常者と機能性ディスペプシアを比較し,共焦点レーザー内視鏡による観察によって機能性ディスペプシア群で上皮の細胞間隙が開大している事を示し,更に同部位を生検しUssing chamber法でTEER低下している事を確認,バリア機能の低下している事を示した.今後,この手法に胃酸や脂質,アレルギー物質などの直接的な曝露を組み合わせ,細胞間隙の動的変化を観察できる事が可能になれば,患者毎の刺激因子の特定に至る可能性があり,機能性ディスペプシアのテーラーメイド治療への道筋が開かれる可能性があるため,今後の研究報告に期待したい 35

近年,Tabataらにより,過敏性腸症候群の内視鏡所見を健常者の内視鏡所見と比較した報告が注目を集めている 36.本研究では,健常者88例と過敏性腸症候群35例の内視鏡写真総計3,883枚にも及ぶ画像をAI画像モデルを用いて診断フローを確立し,過敏性腸症候群の大腸内視鏡画像はAUC 0.95で健常者と識別できたと報告している.本研究の特筆すべき点は,医師が視認できないような差をAIが区別できるという点にあろう.これまでの早期胃癌などを対象としたAI画像診断は専門医による判断との比較が主に評価されるポイントであり,ベースラインに日本の高度な内視鏡診療によって培われた内視鏡専門医の診断力が高いという前提があった.本研究は人間の眼ではとても区別できないような差をAIが認識しているという点が特筆されるところであろう.過敏性腸症候群と機能性ディスペプシアの病態生理は類似点が多いと考えられており,組織レベルの微小炎症が及ぼす微細な粘膜浮腫や血管構造の変化をAIが認識しているのであれば,光学的な条件設定や拡大観察によって医師が十分に過敏性腸症候群や機能性ディスペプシアに特徴的な内視鏡所見を視認できる可能性はあるのではないだろうか.

Ⅴ おわりに

機能性ディスペプシアの病態における十二指腸の役割が徐々に明らかになりつつある.十二指腸は胃酸,胆汁,膵液,微生物などが複雑に存在するだけでなく,それらの曝露は食餌の組成や消化管運動による修飾を受けるため,包括的な評価は未だに難しい状況である.共焦点レーザー内視鏡やAIによる画像解析はそれらの曝露に伴う変化を動的に評価できるモダリティとして期待されるだけでなく,将来のテーラーメイド治療への可能性を内包していると言えるだろう.

※ 作図にBioRender.com(https://www.biorender.com/)を利用した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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