機能性ディスペプシアは疾患有病率が高く,一般的に診療を行う機会が多い疾患であるにも関わらず,多因子が複雑に絡み合うため,疾患の病態生理に未知な部分が多い.「胃もたれ」や「胃痛」などの症状を呈する事から,従来は胃粘膜や胃の機能に焦点を当てた研究が行われていたが,近年の機能性ディスペプシアの病態生理の核に迫る研究は十二指腸を中心に動いていると言っても過言ではない.機能性ディスペプシアの主要な病態として,好酸球や肥満細胞浸潤に伴う“low-grade inflammation”,つまり微小炎症が粘膜バリア機能不全を起こし,様々な異物が求心性神経や消化管ホルモンを刺激し,胃適応性弛緩不全や胃運動障害に繋がるという機序が明らかにされつつある.
胆膵疾患にサルコペニアの有病率が高い傾向にあり,サルコペニアの合併は急性膵炎・慢性膵炎・胆道癌・膵癌患者において予後不良因子であると報告されている.また,サルコペニアは悪性胆道閉塞に対する胆管ステント閉塞のリスク因子,除痛治療としてEUSガイド下腹腔神経叢ブロック後の治療効果予測因子,被包化膵壊死に対する内視鏡治療の効果予測因子として挙げられている.胆膵疾患治療・胆膵内視鏡処置前にサルコペニアの有無を評価することで,治療の効果予測や栄養療法および運動療法を積極的に介入することができ,治療効果に影響を及ぼすことが考慮される.
症例は72歳女性.乳癌術後フォローの単純CTで胃腫瘍を指摘された.造影CTで胃前庭部に門脈相から造影され後期相まで遷延する粘膜下腫瘍(submucosal tumor:SMT)を認め,胃体部に造影されない領域を有し遅延性濃染する別のSMTを認めた.EUSで前庭部SMTは第4層の境界明瞭な高エコー腫瘤,胃体部SMTは第4層の無エコーを有する不均一な低エコー腫瘤であった.超音波内視鏡下穿刺吸引生検(EUS-guided fine needle biopsy:EUS-FNB)で前庭部SMTをglomus腫瘍,胃体部SMTを消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor:GIST)と診断しglomus腫瘍に腹腔鏡内視鏡合同胃部分切除,GISTに腹腔鏡下胃部分切除を行った.胃GISTと同時に存在し画像比較が可能でEUS-FNBで術前診断し得た胃glomus腫瘍を報告する.
大動脈閉塞バルーン(Intra-Aortic Balloon Occlusion:IABO)は下行大動脈を遮断することで動脈性出血を制御し心・脳血流の維持ができる機器である.主に外傷による出血性ショックに用いられてきたが,近年産科救急への応用など用途が拡がっている.今回われわれは,重症消化管出血に対しIABO併用下で内視鏡アプローチを行った2例を経験した.IABOにより1例目(十二指腸潰瘍)は出血源が特定でき適切な術式の選択が可能に,2例目(直腸潰瘍)は内視鏡的止血術の成功に至った.いずれも内視鏡単独では得られない結果であり,IABOの併用は消化管出血の診断,治療共に有用な可能性が示唆された.
症例は51歳男性.CT colonographyで指摘された大腸ポリープの切除目的に施行された大腸内視鏡検査において,脾彎曲部に腺腫性ポリープを認め,Cold Snare Polypectomy(CSP)が施行された.治療2時間後に急激な心窩部痛が出現し,腹部造影CTでは脾彎曲部の結腸壁が腫瘤状に肥厚し,壁内の血管から造影剤の漏出ならびに腹腔内に血性腹水を認めた.CSP手技に伴う腹腔内出血と診断し,同日,横行結腸部分切除術ならびに人工肛門造設術が施行された.手術標本ではCSP施行部位の直下において,筋層内に著明な血腫を認めたが,穿孔所見はなく,CSPの偶発症としての腹腔内出血と診断した.
症例は79歳,女性.完全内臓逆位,胆石性急性膵炎の診断で緊急ERCPを施行した.左側臥位でスコープを挿入したが,乳頭到達時には術者は過度な左旋回の体勢となり,スコープのストレッチが困難であった.乳頭正面視および胆管挿管に難渋し,ステント留置のみで終了した.後日,胆管結石除去目的で再度ERCPを施行した.スコープは左側臥位で挿入し,胃内で時計回りに360°回旋させてから十二指腸方向へ進めることにより,乳頭到達時に術者は良好な体勢がとれ,スコープのストレッチ,乳頭正面視が容易となり,ESTおよび結石除去に成功した.スコープ挿入法の工夫により胆管結石除去が可能となった完全内臓逆位の1例を報告する.
経鼻内視鏡挿入に関しては,内視鏡外径の細径化,前処置の工夫,鼻腔内の挿入経路選択,患者の不安軽減,内視鏡医の教育・技術向上が重要とされてきたが,これまで内視鏡検査時の呼吸法が経鼻内視鏡挿入に影響を与えるかどうかは不明であった.われわれは,経鼻内視鏡検査時の鼻呼吸が内視鏡の挿入性および患者の認容性において口呼吸よりも優れていることを明らかにしており,今回,経鼻内視鏡検査時の呼吸法を中心に内視鏡挿入に関して解説する.
腹腔鏡内視鏡合同手術(Laparoscopic and endoscopic cooperative surgery:LECS)は,胃粘膜下腫瘍に対して内視鏡と腹腔鏡を用いて適切かつ最小限の切除範囲で切除を行う術式である.胃壁の過剰な切除が回避され,ダンピング症候群や早期膨満感など術後の愁訴が軽減できる.早期胃癌に対してLECSを適応するには,リンパ節転移診断の正確性と腹膜播種を防ぐ手技が必要となる.リンパ節転移診断に関しては,cT1N0の4cm以下の早期胃癌においてセンチネルリンパ節理論が成り立ち,センチネルリンパ節転移が陰性であればリンパ節郭清を省略できることが明らかになってきた.センチネルリンパ節陰性の場合,腫瘍学的に安全な縮小手術が可能になると考えられる.腹膜播種を防ぐ方法として様々なLECS関連手技が開発されている.われわれは漿膜をシリコンシートで被覆し内視鏡で全層切除を行うsealed endoscopic full-thickness resection(EFTR)を考案した.センチネルノードナビゲーション下腹腔鏡内視鏡合同手術はESD適応外早期胃癌の有用な個別化低侵襲手術の1つとして期待される.
日本と中国の消化器内視鏡の交流は1972年に始まった.半世紀前,日本の内視鏡技術もまだ発展途上であった.私は日中友好協会からの要請で北京協和病院に招かれ,胃,大腸,ERCPの内視鏡検査のデモンストレーションをした.その顛末を紹介する.
【背景】EsophyXによる経口非切開噴門形成術(transoral incisionless fundoplication:TIF)は,内視鏡を用いた低侵襲治療であり,Nissen法による腹腔鏡下噴門形成術と比較して,嚥下障害や鼓腸などの副作用が少ない利点がある.慢性的または難治性の非定型的GERD症状に対するTIFの有効性を評価することを目的とした.
【方法】4つの主要なデータベース(PubMed, Embase, Web of Science Core Collection, Cochrane Centeral Register of Controlled Trials)から,妥当性が確認された質問票(reflux symptom index:RSI)を用いて非定型的GERD症状を評価した研究を検索した.さらに,EsophyXの現行モデル(TIF 2.0)を用いた報告,および食道裂孔ヘルニア修復とTIF 2.0を同時に施行(cTIF)した報告に限定した.RSIスコア(TIF前とTIF後6,12カ月),技術的成功率,有害事象,PPI使用,患者満足度に関するデータを収集した.
【結果】2008〜2021年までに10試験(RCT 1,前向き試験4,後向き試験5;患者数564人)が確認された.TIF後6カ月と12カ月のRSIスコアの平均減少ポイント数は,15.72(95%CI,12.15-19.29)と14.73(95%CI,11.74-17.72)であり,技術的成功率は99.5%,有害事象は1%に認められた.重篤な有害事象9例の内訳は,食道の表層裂創3例,消化管出血2例,血腫1例,食道穿孔1例,術後発熱1例,術後縦隔膿瘍1例であった.TIF施行後12カ月では,健康状態に満足している患者の割合は11%から75%に増加し,PPI使用は100%から26%へ減少した.
【結語】EsophyXを用いたTIFは,非定型的GERD症状を軽減するための安全で有効な治療である.また,患者中心アウトカムを改善し,慢性的な薬物療法を受けている非定型的GERD患者の低侵襲な治療オプションである.