2024 年 66 巻 5 号 p. 1258-1267
腹腔鏡内視鏡合同手術(Laparoscopic and endoscopic cooperative surgery:LECS)は,胃粘膜下腫瘍に対して内視鏡と腹腔鏡を用いて適切かつ最小限の切除範囲で切除を行う術式である.胃壁の過剰な切除が回避され,ダンピング症候群や早期膨満感など術後の愁訴が軽減できる.早期胃癌に対してLECSを適応するには,リンパ節転移診断の正確性と腹膜播種を防ぐ手技が必要となる.リンパ節転移診断に関しては,cT1N0の4cm以下の早期胃癌においてセンチネルリンパ節理論が成り立ち,センチネルリンパ節転移が陰性であればリンパ節郭清を省略できることが明らかになってきた.センチネルリンパ節陰性の場合,腫瘍学的に安全な縮小手術が可能になると考えられる.腹膜播種を防ぐ方法として様々なLECS関連手技が開発されている.われわれは漿膜をシリコンシートで被覆し内視鏡で全層切除を行うsealed endoscopic full-thickness resection(EFTR)を考案した.センチネルノードナビゲーション下腹腔鏡内視鏡合同手術はESD適応外早期胃癌の有用な個別化低侵襲手術の1つとして期待される.
Laparoscopic and endoscopic cooperative surgery (LECS) is a procedure that combines laparoscopic gastric resection and ESD for local resection of gastric submucosal tumors with appropriate and minimal surgical resection margins. This technique avoids excessive resection of the gastric wall and reduces postoperative complaints such as dumping syndrome or early bloating. To apply this technique to treat early gastric cancer, it is necessary to accurately diagnose lymph node metastasis and prevent peritoneal dissemination. The sentinel lymph node theory holds true for cT1N0 early gastric cancer, 4 cm or less, and that lymph node dissection can be omitted if sentinel lymph node metastasis is negative. For node-negative cases by sentinel lymph node biopsy, oncologically safe reduction surgery may be possible. To prevent peritoneal dissemination, various LECS-related procedures have been developed. We have developed a sealed endoscopic full-thickness resection (EFTR) technique in which the serosa is covered with a silicone sheet and full-thickness resection is performed endoscopically. LECS with sentinel node navigation is expected to be a useful individualized minimally invasive surgery for early gastric cancer that is not eligible for ESD.
早期胃癌のうち粘膜内癌はほとんどが内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)で根治可能となってきた一方で,粘膜下層浸潤癌(SM胃癌)などESD適応外となる早期胃癌は,リンパ節転移の可能性があるため胃癌治療ガイドライン 1)ではリンパ節郭清を伴う胃切除術が標準治療とされる.しかし,SM胃癌のリンパ節転移率は18〜20%であり 2),3),多くのSM胃癌はリンパ節転移がないにもかかわらずリンパ節郭清が行われていることになる.広範囲なリンパ節郭清は周囲の血管や神経を障害し,術後のダンピング症候群や早期膨満感など食事関連愁訴の原因となる.もし,術中に正確にリンパ節転移診断ができれば,転移陰性例ではリンパ節郭清を省略し,縮小手術が可能になると考えられる.術中リンパ節転移診断により郭清範囲を決定するセンチネルノードナビゲーション手術は,根治性を担保しながら機能温存を目指した低侵襲手術といえる.
一方,腹腔鏡内視鏡合同手術(laparoscopic and endoscopic cooperative surgery;LECS)では,内視鏡で腫瘍の位置を確認しながら最適な切除範囲で切除を行うことができるため,胃壁の過剰な切除やそれに伴う狭窄や変形が回避できる.センチネルノードナビゲーション下腹腔鏡内視鏡合同手術は,ESD適応外早期胃癌に対して,リンパ節転移の有無を正確に診断し,根治性を担保しつつ必要最小限の切除を行う,機能温存・個別化手術として期待される.
センチネルリンパ節(sentinel node;SN)は,腫瘍から直接リンパ流を受けるリンパ節を指し,リンパ節転移はSNから生じるとする考え方をSN理論と呼ぶ.この理論に基づくと,SNに転移がなければそのほかのリンパ節にも転移はないと判断できる.Sentinel Node Navigation Surgery(SNNS)研究会の多施設共同試験により,長径4cm以下のcT1N0早期胃癌においてはSN理論が成り立つことが示された 4).ただ胃癌の場合,リンパ節は小さく,脂肪組織内に埋没しており,同定が困難な場合がある.そこでSNを確実に生検するために,SNが含まれるリンパ流域(lymphatic basin)を一塊として切除し,バックテーブルでリンパ節をpick upするlymphatic basin dissection法が考案された 5),6).Lymphatic basin dissection法では,SNが含まれるリンパ流域は一塊として切除されるが,転移陰性であればリンパ流域以外の郭清は省略可能なため,胃の栄養血管の一部は温存され,縮小手術が可能である.このような機能温存縮小手術の予後については,現在進行中の先進医療B前向き試験の結果を待たなければならないが,傾向スコアマッチングを用いた多数例の比較試験では,再発および他癌死が標準治療と比べ劣ることはなかったとの成績が得られている 6).
トレーサーとしてindocyanine green(ICG)や99mTcスズコロイドが用いられる 7).トレーサーを原発巣近傍に投与し,一定時間経過後にトレーサーが集積したリンパ節をSNとする.ICGは粒子径が小さくリンパ管への取り込みが良好である一方,比較的短時間で遠位のリンパ節まで拡散してしまうことや脂肪組織内では視認が困難な場合があることが問題となるが,ICGの発する蛍光を捉える方法(蛍光法)が開発され,良好な検出感度が報告されている 8).ICGは760nmの赤外光で励起されると835nmの赤外領域に蛍光を発する性質を有し,赤外カメラを用いて増感し微量なICGでも検出可能である.また,血漿蛋白と結合し長時間リンパ系に滞留するため経時変化にも強い特徴がある.99mTcスズコロイドは粒子径が大きくSNの滞留性に優れており,色素による視認が困難な部位での検出に有用である.現時点では早期胃癌のSN同定には色素とradio isotope(RI)の併用が適していると考えられている.
胃のリンパ流は複雑であるが,腫瘍の部位からSNの分布がある程度推定できることがわかってきた 9).胃の5つの栄養血管に沿い,lymphatic basinは5つの流域に集約される.主たるbasinは左胃動脈(l-GA)流域と右胃大網動脈(r-GEA)流域,左胃大網動脈(l-GEA)流域である.Basinは複数領域に及ぶ場合がある.特に腫瘍の局在が胃大彎で左右の胃大網動脈の境界域に位置する場合,r-GA,r-GEA,l-GEAの3流域に及ぶ可能性がある.Basinが3流域に及ぶ場合は,局所切除後に血流障害をきたす恐れがあるため局所切除の適応外としている.
ESDが開発されるより以前に,リンパ節陰性の早期胃癌に対して機能温存の観点から腹腔鏡下楔状切除術 10),11)など局所切除が行われたことがあった.しかし,腹腔側から病変の位置を正確に認識することが困難なため,腫瘍径に比べ切除範囲が大きくなり機能性が損なわれる,切除範囲を小さくすると断端陽性となり再発例が見られるなどの問題点が指摘され,この術式は次第に行われなくなった 11).
比企ら 12)が考案した腹腔鏡内視鏡合同手術(LECS)は,内視鏡で病変の位置を確認しながら正確な切除を行い,腹腔鏡で安全な視野を確保しながら確実な縫合閉鎖を行うことが可能な術式で,切除範囲を必要最小限とすることが可能となる.消化管間質腫瘍(gastrointestinal tumor;GIST)など粘膜下腫瘍が適応となる.特に内腔発育型粘膜下腫瘍では胃壁の過剰な切除を防ぎ,胃の変形や狭窄を防ぐことが可能となり,広く普及した.しかし,上皮性腫瘍やdelleのあるGISTでは,腫瘍が腹腔側へ逸脱し播種の危険性が否定しきれないため適応とはならない.
上皮性腫瘍やdelleのあるGISTに対してLECSの手技を適応するには,腹膜播種を起こさないように操作すること,腫瘍の位置を正確に認識し過不足なく切除ができることが必要である.
医原性の腹膜播種を防ぐためには,腫瘍を腹腔に接触させないよう摘出する,腫瘍を把持した器具で腹膜や他の臓器に触れないようにするといった,腫瘍外科の基本操作を徹底することが肝要である.術中に腫瘍が腹腔に脱落した症例 13)や,腫瘍を把持した鉗子で腹膜に触れた症例 14)で,腹膜播種をきたしたことが報告されており,このような不適切な操作を避ける必要がある.また穿孔のため腫瘍を完全切除できず,腫瘍を残したまま手術までに数カ月を要した症例 15),16)では,穿孔部に癒着した大網を介し腹膜播種が起こったと報告されている.内視鏡的にクリップで穿孔部の閉鎖を行うと断端は外反するため,断端に残存した腫瘍が露出し,周囲臓器との接触が起きると考えられる.いずれの事例でも接触が原因と考えられ,腫瘍と周囲臓器の接触を避ける操作を行わなければならない.
Ikeharaら 17)は,内視鏡的粘膜切除術(EMR)やESD中に穿孔をきたした症例の長期予後調査を行い,90例の穿孔症例のうち腹膜播種再発をきたした症例はなく,腹腔に腫瘍が接触しないよう適切な操作を行えば腹膜播種は防ぐことができると論じている.また,Huhら 18)は,34例の穿孔症例に腹膜播種再発は認めず,非穿孔例と比較し長期予後に差はないと述べている.
一方,遊離癌細胞を含む胃内容物の流出による腹膜播種の可能性も示唆されている 19),20).Hiraoら 19)は,22例のESD穿孔症例のうち2例の腹膜播種再発を報告した.いずれの症例もU領域の早期胃癌で,穿孔部をクリップで内視鏡的に閉鎖したものの,ESD後に急性腹膜炎を併発し緊急手術を行った.CTで腹水の貯留を認め,術中の腹水細胞診は陽性であった.再穿孔から手術までに要した時間は不明であるが,遊離癌細胞の漏出による腹膜播種の可能性が疑われる.
腹腔への露出を避け,胃を開放させず腫瘍を切除する手技として,CLEAN-NET(combination of laparoscopic and endoscopic approaches to neoplasia with non-exposure technique) 21)やNEWS(non-exposed endoscopic wall-inversion surgery) 22)が考えられた.これらの手技では,まず,内視鏡で病変の位置を確認しながら漿膜にマーキングを行い,漿膜側から腹腔鏡の高周波メスで漿膜筋層の切開を行う.漿膜側から切開を行うため,切開を行う際,腫瘍の位置が確認できないデメリットがある.また,粘膜面と漿膜面がずれ,漿膜の切開が正しく行われない可能性を指摘されている 23).
病変を視認しながら切開するためには,ESDの技術を応用した内視鏡的局所全層切除術(endoscopic full-thickness resection;EFTR)が適している 24).EFTRでは,内視鏡下に病変の位置を確認しながら全層切除を行うので,過不足のない切除が可能となる.しかし,胃を切開すると胃内の空気が漏出するため胃が虚脱し,視野が不良となる欠点がある.また,胃液の流出による感染や腫瘍の逸脱による腹腔内播種を起こさないための対策が必要となる.そこでわれわれは,視野を維持するため,また胃内容物の流出を防ぐため,胃壁にシリコンシートを接着させ被覆し切開を行う被覆法(sealed EFTR)を考案した 25)~27).
EMR,ESDの適応外の早期胃癌のうち,SN理論が成り立つ4cm以下,cT1N0胃癌が対象となる.具体的には,① 潰瘍瘢痕や局所再発のためESDが困難なM癌,② Ul(+)で3cmを超える分化型M癌,③ Ul(+)もしくは2cmを超える未分化型M癌,④ 分化型SM癌が対象と考えられる.
術中にセンチネルリンパ節生検を行い,転移陰性と診断された症例が適応となる.転移陽性の場合は,定型的リンパ節郭清を追加し,定型手術を行う.
準備漿膜を被覆するために,シリコンシート,PGAシート(ネオベールⓇ,グンゼ),不織布ガーゼ,フィブリン・トロンビン液を準備する.シリコンシートは,適度な強度と胃の灣曲に沿うしなやかさが必要で,厚さ0.5mmのものを用いている.切開範囲をカバーするために病変径より数cm大きな円形にカットして使用する.ネオベールⓇはポリグルコール酸で作られた不織布で,シリコンシートより3,4cm大きくカットする.シリコンシートからはみ出す外側部分がフィブリン糊で漿膜に貼り付けるためののりしろとなる.シリコンシートを貼り付けるためのガーゼは様々な素材のものを試したが,フィブリン・トロンビン液が速やかに漿膜に浸透する薄さと目の細かさの点からネオベールⓇを選択した.シリコンシートとネオベールⓇはあらかじめ中心に糸をかけ,漿膜に結紮するためのリングを作っておくと,漿膜の被覆の際,中心を合わせ固定するのが容易になる.
手技1.センチネルリンパ節生検
センチネルリンパ節(SN)の同定にはICG蛍光法とRI法を併用している.
トレーサーは,99mTcスズコロイドにICGが50 μg/mlの濃度になるように混合し,術前日に胃内視鏡を用いて病変周囲の粘膜下層に0.5mlずつ4カ所に投与する.胃内に漏出したトレーサーは蛍光を観察する際に妨げとなるため,可能な限り洗浄吸引しておく.
赤外光観察可能な腹腔鏡システム(VISERA ELITE Ⅱ,オリンパスマーケティング)を用いて蛍光を発するリンパ節(bright node)をSNとして同定する.SNは小彎側大彎側の脂肪組織内に存在し認識が難しい場合もあり慎重に観察を行う.SNを含むlymphatic basinを郭清後,術野外でリンパ節を分離し,ガンマプローブ(Navigator GPS,タイコヘルスケア)で99mTcスズコロイドの集積を確認する.色素もしくはRIが集積したリンパ節をSNとし,術中迅速組織診に提出する.
2.粘膜・粘膜下層切開
ESDに準じて粘膜全周切開を行う(Figure 1-a,Figure 2-a).高周波メスは,当初はHookKnife(オリンパスマーケティング)を用いていた.最近はDualKnife(オリンパスマーケティング)あるいはORISE ProKnife(ボストン・サイエンティフィック)を用いている.高周波発生装置(VIO3またはVIO300D,エルベ)の設定はESDの場合と同様で,粘膜切開:EndoCut, Effect3,粘膜下層切開:preciseSECT, Effect7.5(VIO300Dの場合は,SwiftCoag, Effect4,最大50W)としている.局注液はインジゴカルミンを少量加えたボスミン加生理食塩水を用いる.局注量はESDの場合と比べ少なくてよい.ヒアルロン酸は,術後長期間にわたり停滞し,一過性狭窄の原因となると考えられ使用していない.
sealed EFTRの模式図.
a:粘膜・粘膜下層の全周切開.筋層が露出するまで深く,均等に切開を行う.
b:漿膜へのマーキング.粘膜・粘膜下層切開ライン上に高周波メスを押しあて,漿膜に4カ所マーキングを行う.
c:シリコンシートの固定.漿膜のマーキングの中心にシリコンシートの中心の結紮用リングを結紮し固定する.
d:漿膜被覆.PGAシートにフィブリン・トロンビン液を散布し,漿膜に貼り付ける.
e:漿筋層切開.漿筋層を意図的に穿孔させた後,粘膜側のマーキングを確認しながら漿筋層を切開する.
f :創閉鎖.シリコンシートとPGAシートを剝がし口から回収後,腹腔鏡下に全層縫合を行う.
sealed EFTRの実際.
a:粘膜・粘膜下層の全周切開.筋層が露出するまで深く,均等に切開を行う.
b,c:漿膜へのマーキング.粘膜・粘膜下層切開ライン上に高周波メスを押しあて,漿膜に4カ所マーキングを行う(△:漿膜側マーキング).
d:シリコンシートの固定.漿膜のマーキングの中心にシリコンシートの中心の結紮用リングを結紮し固定する(△:漿膜側マーキング).
e:漿膜被覆.PGAシートにフィブリン・トロンビン液を散布し,漿膜に貼り付ける.
f :漿膜被覆.さらに厚手の不織布ガーゼを重ね,フィブリン・トロンビン液を散布する.フィブリン糊の膜を作るイメージでガーゼ全体に均一に散布する.
g:漿筋層切開.漿筋層を意図的に穿孔させた後,高周波メスの先端をシリコンシートの上を滑らせるように進め,漿筋層を切開する.
h:全層切除後の様子.全周にわたり漿筋層を切開後,シリコンシートを固定した糸を切断した様子.
ESDの場合と比べ,粘膜下層の切開は深く,筋層が露出する程度まで切開を行うのがポイントである.筋層の若干の損傷があっても構わない.十分に深く可能な限り均等に切開を行う.
3.腹腔鏡操作による漿膜被覆
内視鏡と腹腔鏡で切開線を確認しながら漿膜側に4カ所マーキング(Figure 1-b,Figure 2-b,c)を行ったのち,マーキングを指標に,シリコンシートとネオベールⓇをおく.シリコンシートとネオベールⓇはあらかじめ中心を揃え糸で結紮し,リングを作っておく.そのリングとマーキングの中心を結紮し固定する(Figure 1-c,Figure 2-d)ことでシリコンシートを適切な位置におくことができる.ネオベールⓇ全体にフィブリン・トロンビン混合液を散布し,漿膜に接着させる(Figure 1-d,Figure 2-e).
フィブリン・トロンビン混合液は数分でゲル化し,ネオベールⓇの外側部分と漿膜が接着する.シリコンシート自体が漿膜と接着するわけではないので,空気が漏れないようにネオベールⓇ上にフィブリン糊の膜を作るイメージで,ネオベールⓇ全体に均一にフィブリン・トロンビン混合液を散布する.接着の強度を増すため不織布ガーゼをもう一枚重ね,フィブリン・トロンビン混合液を散布する(Figure 2-f).
4.内視鏡による漿筋層切開
DualKnifeで漿膜を意図的に穿孔させ,穿孔部にDualKnifeを挿入する.DualKnifeのシースが筋層の表面に接する深さで,先端をシリコンシートの上を滑らせるように進め,漿筋層を切開する(Figure 1-e,Figure 2-g,h).DualKnifeを強く押し込みすぎるとシリコンシートが歪み漿膜から剝がれる可能性があるため,先端が軽く当たる程度で動かすことがポイントである.漿筋層の切開の途中で出血が生じると視野の妨げになるだけでなく,シリコンシートの被覆が剝がれ処置が困難になる可能性があるため,出血には十分に留意する必要があり,凝固モード(VIO3の場合はpreciseSECT,Effect7.5,VIO300Dの場合はSwiftCoag, Effect4,最大50W)を用いて慎重に切開を行う.10分程度で切除可能である.粘膜下層切開の際に筋層を十分に露出させておくことが重要となる.切除の順序は,最後に重力の上方向が残るように進めるのがポイントとなる.上方向から切除を行うと,腫瘍の重みのため下方向の切開線が見えにくくなるためである.
5.切除病変の回収
シリコンシートを固定した糸をDualKnifeで切断し,切除標本を口から回収する.標本回収後,シリコンシートとネオベールⓇを漿膜から剝がし,胃の中に押し込む.このとき,腹腔鏡鉗子で胃を把持し,胃液の流出が起きないよう留意する.一時的に胃が開放されるが,すでに腫瘍は摘出されており腹腔内への脱落することはない.シリコンシートとネオベールⓇは口から回収する.
6.腹腔鏡による切開創閉鎖
切除創は腹腔鏡下で外科的に手縫い縫合にて閉鎖する.胃の変形がなるべく起きないようにデザインして縫合閉鎖する(Figure 1-f).変形が少ない場合にはLinear stapler で縫合するが,変形が予想される場合や,Linear staplerの角度が合わない場合には,手縫い縫合にて閉鎖する.手縫いは層別縫合を基本とし,V-Loc(コヴィディエン)で連続縫合する.閉鎖後,約1Lの生理食塩水で腹腔内洗浄を行い,手術を終了する.
80歳男性,体下部大彎前壁側に15mm大の0-Ⅱa+Ⅱc早期胃癌を認めた(Figure 3-a).台上挙上,深い陥凹を有し,EUSでは3層の菲薄化,不整を認め,深達度SMと診断した(Figure 3-b).術前の造影CTではリンパ節転移および遠隔転移を認めなかった.患者と家族に標準治療ではないことを理解していただいた上で,センチネルノードナビゲーション下局所全層切除術を行った.
症例.
a:術前内視鏡像.体下部大彎前壁側に,台上挙上,深い陥凹を有する15mm大の0-Ⅱa+Ⅱc早期胃癌を認める.
b:EUS像.第2層を主座とする低エコー域として描出された.第3層の菲薄化,不整を認める.
c:腹腔鏡赤外観察像.右胃大網動脈近傍に,蛍光を発するセンチネルリンパ節を認める(*:原発巣,△:センチネルリンパ節).
d,e:切除標本(d:粘膜側,e:漿膜側).必要最小限のマージンで,漿膜までほぼ同じサイズで切除されている.
f :病理組織所見.粘膜下層浸潤を認める.
ICG蛍光法とRI法を併用し,#4d(右胃大網動脈流域),#3a(左胃動脈流域)にbright nodeを確認し(Figure 3-c),リンパ流域をそれぞれ一括郭清した.術中迅速組織診断を行い,リンパ節転移が陰性であることを確認し,sealed EFTRを施行した.
切除後の標本は,粘膜面と漿膜面でずれがなく,ほぼ同じサイズで必要最小限のマージンで切除された(Figure 3-d,e).病理結果は,tub2>tub1,T1b(SM2,2,000μm),Ly1,V1,N0であった(Figure 3-f).
術後の内視鏡検査では狭窄や通過障害をきたすような変形はなく,もたれ感や早期膨満感などの食事関連愁訴は認めなかった.術後7年経過し,転移再発なく生存している.
JCASE研究会倫理委員会および当院倫理委員会における審査,承認を得たのち,臨床治験を行った.
ESDの適応外と診断された4cm以下のcT1胃癌を対象に,術中センチネルリンパ節生検を行い,転移陰性と診断された症例に対し内視鏡的全層切除術(EFTR)を施行した.転移陽性の場合はリンパ節郭清を伴う定型的な胃切除術を行った.
対象となる早期胃癌16例のうち,術前EUSで深達度SMと診断された症例は11例,深達度Mであるが強度の潰瘍瘢痕を伴いESD適応外と判断された症例は1例,20mm以上の未分化型でESD適応外の症例は4例であった(Figure 4).センチネルリンパ節転移陰性であった症例は12例(75%)であり,そのうち11例にEFTRを行った.1例はセンチネルリンパ節転移陰性であったが,リンパ流域が3領域にわたり術後の血流不全が起こる可能性があったためEFTRを断念し,腹腔鏡下幽門側胃部分切除術(LADG)を行った.センチネルリンパ節転移陽性であった4例はLADGを行った.
sealed EFTRを行った症例のまとめ.
Abbreviation:
undiff.: undifferentiated adenocarcinoma
LA-EFTR: laparoscopy assisted endoscopic full-thickness resection
LADG: laparoscopy assisted distal partial gastrectomy
他癌死した2名を除き,平均観察期間6.5年(2-11年)の経過観察中,転移,再発を認めていない.
術中迅速病理組織検査はセンチネルノードナビゲーション手術において最も重要な検査である.実際にはリンパ節を2分割し凍結標本を作成しHE染色を行い診断しているが,凍結標本を用いるため診断能が低下することや,割面に現れない微小転移が存在する可能性があり,偽陰性が生じる可能性が問題となる.より迅速かつ正確な微小転移診断を行うため,RT-PCR法やone step nucleic acid amplification(OSNA)法などの分子生物学的手法を用いた客観的な検査の有用性が報告されている 7).
漿膜の被覆にフィブリン・トロンビン液を用いているが,接着力は弱く,術中の操作で外れてしまうこともありうる.その場合,胃液の漏出による感染や腫瘍の播種の可能性が考えられるため,丁寧な操作が必要となる.より確実な被覆を行うために,磁石を用いてシリコンシートを漿膜に貼り付ける方法などを検討している.
現時点では胃壁の縫合は腹腔鏡下に行っているが,内視鏡的縫合器具として,OTSC(Ovesco Endoscopy, Germany)やsutuArt(オリンパスマーケティング),ゼオスーチャーM(ゼオンメディカル)が考案され,実用化されており,将来的には内視鏡的縫合を行うことも考えられる.
センチネルノードナビゲーション下腹腔鏡内視鏡合同手術の手技の1つとして,われわれが行っているsealed EFTRについて概説した.本法は,腹膜播種を防ぎ,かつ,腫瘍の位置を確認しながら過不足なく全層切除が可能な手技といえる.腫瘍の切除後にシートを回収する際,一時的に胃は開放されるが,すでに腫瘍は摘出されているので腹腔内に逸脱することはない.また,漿膜被覆に用いたシリコンシートは腹腔に接触しないよう胃内に押し込み口から回収しており,腫瘍外科の基本操作を守り,安全性を確保している.
早期胃癌に対してLECSを適応する条件は,(1)リンパ節転移陰性であること,(2)腫瘍が腹腔内に接触しないこと,(3)腫瘍の位置を正確に認識でき過不足なく切除ができることが挙げられる.センチネルノードナビゲーション+Sealed EFTRはこれらの条件を満たすと思われる.前述したNEWSやCLEAN-NETも,腫瘍が腹腔に逸脱しないように開発された手技であり,センチネルノードナビゲーションと組み合わせることで,ESD適応外の早期胃癌に対する治療法の1つとなりうると考えられる.
これまでに,潰瘍瘢痕や腫瘍のサイズのためESD困難な症例 23),24),28),29)や,高齢や耐術能の点から標準治療が困難な症例 30)に対しLECSを用いた局所切除が行われた報告が散見されるが,症例数も少なく,現時点では胃癌症例に対するLECSの安全性は確立されていない.しかし,センチネルリンパ節生検を行い,リンパ節郭清を省略できる症例を適切に拾い上げることにより,腫瘍学的に安全な,個別化低侵襲手術が可能になると考えられる.センチネルノードナビゲーション+LECSは,ESDと胃切除術の間を補完する早期胃癌の新たな治療法の1つとなりうる.早期胃癌に対するLECSの有用性を検証するにはさらなる症例の蓄積と観察期間を要するものと考えられ,今後の検証に期待したい.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし