日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
症例
Helicobacter pylori除菌治療無効でありESDを施行した結腸mucosa-associated lymphoid tissue(MALT)リンパ腫の1例
大谷 里奈弓削 亮 瀧川 英彦有吉 美紗清水 大輔宮本 亮門田 紘樹仙谷 和宏岡 志郎田中 信治
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2024 年 66 巻 6 号 p. 1332-1338

詳細
要旨

症例は65歳,男性.検診目的でCSを施行された.下行結腸に径15mm大の扁平な粘膜下腫瘍様病変を認めた.同部位からの生検の結果,mucosa-associated lymphoid tissue(MALT)リンパ腫と診断した.本症例はHelicobacter pylori陰性であったが,除菌療法を施行した.除菌療法4カ月後の内視鏡検査で病変形態に著変なく,局所切除目的にESDを施行した.ESD標本の病理組織学的所見では,リンパ腫は粘膜内に限局しており,術後3年2カ月再発なく経過している.

Abstract

A 65-year-old male underwent colonoscopy as part of a medical checkup, revealing a 15 mm flat submucosal tumor-like lesion in the descending colon. Biopsy of this area confirmed a diagnosis of mucosa-associated lymphoid tissue(MALT) lymphoma. PET-CT showed no substantial accumulation in the descending colon, and there were no signs of distant or lymph node metastases. Consequently, the patient has been diagnosed with colorectal MALT lymphoma Lugano International Classification Stage Ⅰ. Primary treatment involved eradication therapy for H. pylori. However, 4 months after the therapy, an endoscopic examination revealed no notable change in the lesionʼs morphology. With full informed consent, ESD was performed for local cure. Histopathologic findings of the resected specimen showed an aggregation of atypical lymphocytes within the mucosa-specific layer, with no prominent lymphoepithelial lesions. Immunostaining showed CD20 (+), CD79a (+), and bcl-2(+), confirming the diagnosis, and the margins were negative. The patient has been recurrence-free for 2 years and 3 months since the ESD has been conducted.

Ⅰ 緒  言

大腸mucosa-associated lymphoid tissue(MALT)リンパ腫は比較的稀な疾患であり,治療として除菌療法,外科的切除,化学療法,放射線療法などが考慮されるが,十分なエビデンスが乏しくコンセンサスが得られていない.今回,大腸MALTリンパ腫に対して内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)を施行した1例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

症例:65歳,男性.

主訴:自覚症状なし.

家族歴:特記事項なし.

既往歴:特記事項なし.

現病歴:2020年7月に近医にて検診目的で大腸内視鏡検査(CS)を施行したところ下行結腸に病変を指摘され,精査加療目的に当科紹介受診した.

生活歴:飲酒,ビール350mL/日.喫煙 20本/日 10年間.

来院時現症:身長168.7cm,体重64.1kg,体温35.4℃,血圧108/73mmHg,脈拍65/分・整.結膜に貧血・黄疸認めず.全身の表在リンパ節は触知せず.心音・呼吸音に異常を認めず.腹部は平坦・軟,圧痛や腫瘤は認めず,肝・脾腫なし.

検査成績:血清可溶性IL-2レセプターを含め,特記すべき異常所見を認めず.血清抗Helicobacter pylori IgG抗体は陰性であった.また,尿素呼気試験でH. pyloriは陰性であった.

大腸内視鏡検査所見:下行結腸に径15mm大の病変の立ち上がりがなだらかな粘膜下腫瘍様隆起性病変を認めた(Figure 1-a).鉗子で押すと弾性軟でクッションサイン陽性であった.インジゴカルミン散布では,腫瘍の表面に引き伸ばされたⅠ型様のpitを認めた(Figure 1-b).Narrow Band Imaging(NBI)拡大観察では不明瞭なsurface patternを背景に,走行は不規則であるがその辺縁はスムーズな口径不同のない拡張したvessel patternを認めた(Figure 1-c).12MHz超音波細径プローブを使用した超音波内視鏡検査(EUS)では,第2層を主座とする内部均一な低エコー腫瘤として描出され,粘膜下層は保たれていた(Figure 1-d).生検標本では,粘膜固有層内に核異型を伴う小型~中型のリンパ球を主体とする高度の炎症細胞浸潤がみられ,リンパ球の上皮内浸潤(lymphoepithelial lesion;LEL)が散見された.免疫染色では,CD20,CD79aが陽性,bcl-2も広範囲に陽性,CD10,cyclinD1は陰性であった(Figure 2).

Figure 1 

大腸内視鏡所見.

a:下行結腸に径15mm大の病変の立ち上がりがなだらかな粘膜下腫瘍様病変を認めた.

b:インジゴカルミン散布では腫瘍の表面に引き伸ばされたⅠ型様のpitを認めた.

c:NBI拡大観察では不明瞭なsurface patternを背景に,走行は不規則であるがその辺縁はスムーズな口径不同のない拡張したvessel patternを認めた.

d:超音波内視鏡では第2層に内部エコーが均一な低エコー腫瘤として描出された.

Figure 2 

生検標本の病理所見.

粘膜固有層内に核異型を伴う小型~中型のリンパ球を主体とする高度の炎症細胞浸潤がみられ,LELが散見された(HE染色×200).

染色体検査:FISH法にてAPI2/MALT1遺伝子は検出されなかった.

上部消化管内視鏡検査所見:胃粘膜に萎縮はなく,特記所見を認めない.

FDG-PET所見:下行結腸に有意な集積を認めず,その他明らかな遠隔転移やリンパ節転移は認めなかった.

以上の所見より粘膜固有層に限局する大腸MALTリンパ腫(Lugano国際会議分類StageⅠ)と診断した.本症例は,H. pylori未感染であったが,過去の文献でH. pylori陰性の直腸MALTリンパ腫が除菌療法で消失した症例も報告 1されており,まずは除菌療法を行う方針とし,2020年8月よりボノプラザンフマル酸塩40mg/日・アモキシシリン1,500mg/日・クラリスロマイシン400 mg/日の3剤にて7日間の除菌療法を行った.2020年11月に治療効果判定目的で行ったCSでは,病変の大きさや形態に著変を認めなかった.放射線治療については,蠕動によって安定した照射が得られない可能性がある点や,放射線性腸炎のリスクを考慮し選択しなかった.病変は内視鏡的切除が可能なサイズであり,下行結腸に限局していること,EUSで粘膜下層が保たれていることから,十分なインフォームドコンセントのもと同年11月,局所切除目的にESDを施行した.

ESD:術前に病変辺縁から5mm程度離して全周にマーキングを施行し,マーキングより外側から粘膜切開を開始し病変を一括切除した.術中に線維化は認めず,出血や穿孔などの偶発症は認めなかった.

ESD標本の病理組織学的所見:切除径30×20 mm,病変径15×10mmであった(Figure 3).粘膜固有層内に限局して異型リンパ球の集簇を認め,LELは目立たなかった(Figure 4-a,b).免疫染色では,CD20陽性(Figure 4-c),CD79a陽性,bcl-2陽性,CD10陰性,cyclinD1陰性であり,MALTリンパ腫と診断した.病変の切除断端は陰性であった.

Figure 3 

ESD切除標本.

切除径30×20mm,病変径15×10mmであった.

Figure 4 

ESD標本の病理組織所見.

a,b:粘膜固有層内に異型リンパ球の集簇を認め,LELは目立たなかった(HE染色 a.×100,b.×400).

c:免疫組織学的染色では,CD20陽性であった(CD20×100).

その後定期的な内視鏡検査及び全身検索において3年2カ月再発所見なく経過している.

Ⅲ 考  察

MALTリンパ腫は1983年にIsaacsonら 2によって提唱された疾患であり,節外性粘膜関連リンパ組織から発生する低悪性度B細胞性リンパ腫である.病理組織学的に胚中心細胞様細胞(centrocyte like cell:CCL cell)からなり,反応性のリンパ濾胞を伴い,腫瘍細胞が粘膜上皮腺管内に浸潤するLELがみられる.また腫瘍細胞の形質細胞への分化もしばしば認められ,時に反応性濾胞内に腫瘍細胞が浸潤するfollicular colonizationをみることがあるといった特徴を持っている.

大腸原発悪性腫瘍のうち,リンパ腫は0.4%と非常に稀であり 3,大腸原発悪性リンパ腫のうちMALTリンパ腫は33~42%を占める 4.好発部位としては,直腸,盲腸に多く,本症例のように下行結腸に存在することは稀である.

内視鏡像の特徴としては,堀田らの報告 5によれば隆起型を呈することがほとんどで,拡大観察により腫瘍の辺縁部ではⅠ型 pitを認め,腫瘍の頂部においてはⅠ型 pitが変形し,密度が低下,消失する場合があり,さらに病変表層に樹枝状の血管拡張像を認めることもあるとされる.また,EUSでは均一な低エコーを呈し,粘膜下層までに留まるものが多い.

MALTリンパ腫の治療については,1993年にWotherspoonらが胃MALTリンパ腫に対するH. pylori除菌療法の有効性を報告 6して以来,胃原発の場合,除菌療法が第一選択となっているが,大腸原発MALTリンパ腫の治療方針については一定の見解がないのが現状である.日本血液学会 造血器腫瘍診療ガイドライン2018年版では,胃以外のMALTリンパ腫で限局期の場合には,放射線治療,外科切除,慎重な経過観察,進行期の場合には,濾胞性リンパ腫に準じて,リツキシマブ±化学療法や慎重な経過観察が推奨されている.1997年にMatsumotoらがH. pylori陽性であった直腸MALTリンパ腫に対して除菌療法を行い病変が縮小した症例を報告 4),7しており,以降除菌療法の有用性が多数報告 8)~12されており,また,H. pylori陰性例 1でも除菌治療の有用性が報告されている.MALTリンパ腫は予後良好な indolent リンパ腫であり,侵襲の低い治療から優先して行うという意味で,除菌治療は積極的に検討すべき治療法と考える.大腸MALTリンパ腫の除菌療法の効果判定期間については一定の見解がないのが現状である.本邦で大腸MALTリンパ腫に対して除菌治療を施行した報告では,効果判定期間は10日~28カ月と様々である 13.一方,胃MALTリンパ腫については日本血液内科学会造血器腫瘍ガイドライン2018年版補訂版によると完全奏効に至るまでの時間は数カ月から1年の例もあり長期に経過観察をすることが重要であると記載されている.本症例では除菌療法後4カ月で効果判定を行ったが,内視鏡的に形態変化を認めなかったためESDを施行した.

これまで限局期の大腸MALTリンパ腫に対しては外科切除される例が多く報告されていたが,近年内視鏡切除の報告が散見される.医学中央雑誌(1983~2021年)で,「大腸」あるいは「直腸」と「MALTリンパ腫」をkeywordに検索したところ,66件(会議録は除く)の報告があり,そのうち,内視鏡切除を行い組織学的に完全一括切除された症例は10例報告されていた(Table 1 14)~22.10例の内訳は男性3例,女性7例で平均年齢は70.6歳(46~89歳)であった.病変は単発が8例,多発が2例で,盲腸の1病変以外は全例直腸病変であり,本症例のような下行結腸の病変は報告がなかった.また,病期はすべての症例でLugano国際会議分類StageⅠであった.治療は,6症例で内視鏡的粘膜切除術(EMR)が,4症例でESDが施行されていた.いずれの症例も術前に除菌治療は行われていなかった.内視鏡切除が予後に与える影響については症例を集積して検討する必要があるが,内視鏡切除を施行された症例でその後に転移や再発を来した症例は報告されていない.大腸MALTリンパ腫の治療法には多くの選択肢があり,病変の性状や臨床病期を考慮したうえで決定する必要があるが,病変が限局しており,超音波内視鏡検査で粘膜下層が保たれていることを確認できる症例であれば,十分なインフォームドコンセントのもと侵襲の低い内視鏡切除も選択肢となり得ると考えられた.今後,適応や長期予後について,症例を集積して検討する必要があり,本症例についても大腸内視鏡検査のみならずFDG-PET検査等も含めた全身検索を行いながら慎重な経過観察を今後も行っていく予定である.

Table 1 

本邦で内視鏡治療を行い組織学的に完全一括切除された大腸MALTリンパ腫の報告例.

Ⅳ 結  語

結腸MALTリンパ腫に対してESDを施行した1例を報告した.限局期大腸MALTリンパ腫に対しては内視鏡切除も治療選択肢のひとつとなり得ると考えられた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2024 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
feedback
Top