2024 年 66 巻 7 号 p. 1465-1471
82歳男性.32歳時に胃潰瘍に対して,幽門側胃切除術ならびにBillrothⅡ法再建が施行された.右上腹部痛を主訴に受診し,CTならびにEGDで残胃と空腸の吻合部の腫瘤と輸入脚の拡張を認め,吻合部胃癌による悪性輸入脚閉塞症と診断された.内視鏡的イレウス管挿入術で輸入脚の拡張を改善後,吻合部胃癌による狭窄部にプラスチックステントを留置した.プラスチックステントの留置から胃癌により患者が亡くなる2カ月間に,輸入脚閉塞症の再燃はなかった.吻合部胃癌による悪性輸入脚閉塞症に対して,内視鏡的プラスチックステント留置術が有効であった症例を経験したため報告する.
An 82-year-old man underwent gastrectomy and Billroth Ⅱ reconstruction for gastric ulcers at the age of 32 years. The patient was admitted to our hospital with right upper abdominal pain. Abdominal CT revealed a thickened anastomotic wall and a dilated afferent loop. The patient was diagnosed with an afferent loop obstruction and acute pancreatitis caused by gastric cancer. An endoscopic drainage tube was urgently inserted and his clinical condition improved immediately. After drainage, a plastic stent was successfully inserted into the stricture in exchange for the tube. After the procedure, the afferent loop obstruction did not relapse for two months until the patient died of gastric cancer. Endoscopic therapy using plastic stents for malignant afferent loop obstructions has rarely been reported. Here, we report a case in which endoscopic plastic stenting was effective for malignant afferent loop obstruction.
胃切除後や膵頭十二指腸切除後に,BillrothⅡ法やRoux-en-Y法で再建された盲端側の腸管を輸入脚とよぶ.その吻合部や輸入脚が,癒着や術後狭窄などの良性疾患や吻合部胃癌などの悪性疾患により閉塞することで,輸入脚が拡張し腹痛や膵炎などが生じる病態が輸入脚閉塞症とよばれる 1).輸入脚閉塞症に対する確立された治療法はないが,バイパス手術や狭窄の原因疾患の切除などの外科的治療と内視鏡的バルーン拡張術などの内視鏡治療が報告されている 2),3).内視鏡的バルーン拡張術以外の内視鏡治療として,内視鏡的ステント留置術が報告されている 4),5).その中でも,自己拡張型金属ステント(self-expandable metal stent:SEMS)の有用性の報告が多い 4),5).今回,残胃の吻合部に生じた胃癌による悪性輸入脚閉塞症に対して,内視鏡的プラスチックステント(plastic stent:PS)留置術が有効であった症例を経験したため,文献的考察をふまえて報告する.
患者:82歳 男性.
主訴:右上腹部痛.
既往歴:14歳時に気管支喘息,32歳時に胃潰瘍で幽門側胃切除術ならびにBillrothⅡ法再建,78歳時から心房細動,79歳時から脊柱管狭窄症.
生活歴:飲酒歴なし,喫煙歴20本/日,34歳から現在まで.
現病歴:2022年10月下旬の夕方から右上腹部痛を認め,疼痛がさらに増強したため当院に救急搬送された.血液検査で膵酵素の上昇と,腹部から骨盤の造影computed tomography(CT)で,残胃吻合部の壁肥厚と,輸入脚ならびに残胃の拡張を認め,胃癌による悪性輸入脚閉塞症と輸入脚の内圧上昇による急性膵炎が疑われ入院となった.
入院時現症:身長157cm,体重45.1㎏,体温36.2℃,血圧173/84mmHg,脈拍86回/分,整,意識GCSE4V5M6,腹部:平坦,軟,圧痛あり,反跳痛なし,手術瘢痕あり.
入院時検査所見(Table 1):LDH 189U/L,AST 23U/L,ALT 22U/L,ALP 83U/L,γ-GTP 22U/L,T-Bil 0.5mg/dL,BUN 16mg/dL,Cre 0.56mg/dL,CRP 0.11mg/dL,総Amy 1,042U/L,膵 Amy 1,017U/L,リパーゼ 2,135U/L,CK 101U/L,WBC 6,600/μL,RBC 401×104/μL,Hb 10.1g/dL,Plt 23.4×104/μL,静脈pH 7.39,Lac 0.7mmol/L.

入院時検査所見.
膵酵素の上昇を認めるが,白血球や炎症反応の上昇を認めなかった.
腹部骨盤造影CT:術後吻合部の胃粘膜側に壁肥厚を認め,膵体部と接していた(Figure 1-a).輸入脚と総胆管,膵管の拡張,胃周囲に多発するリンパ節腫脹を認めた(Figure 1-b).膵尾部周囲に軽度の脂肪織濃度の上昇を認めた(Figure 1-c).

a:残胃の吻合は著明な壁肥厚所見を呈しており,進行胃癌の存在が疑われた.また,膵浸潤が疑われた(矢印).
b:輸入脚(矢印白)と総胆管(矢頭白),膵管(矢頭黄色)の拡張,胃や膵臓周囲に多発リンパ節の腫脹(矢印黄色)を認めた.輸入脚腸管壁の造影効果は保たれ,腸管壁の気腫性変化もなく,血流障害を示唆する所見はなかった.
c:膵尾部に軽度の脂肪織濃度の上昇を認めた(矢印).膵実質の造影不良域は認めなかった.
入院後経過:用手的に右鼻腔から14FrSalemSumpTMチューブ(Cardinal Health,Tokyo,Japan)を挿入し,自然解放とした.胃の拡張は改善したが,輸入脚の拡張は改善されなかった.第1病日の血液検査では,AST 60U/L,ALT 74U/L,ALP 127U/L,γ-GTP 61U/L,T-Bil 0.6mg/dL,総Amy 698U/L,膵Amy 691U/L,と肝胆道系酵素の上昇も認め,輸入脚閉塞症に伴う急性膵炎,胆管炎が疑われた.輸入脚へのイレウス管挿入目的に上部消化管内視鏡検査(EGD)を施行した.
EGD(第2病日):GIF-1200N(Olympus Medical,Tokyo,Japan)を右鼻腔から挿入すると,吻合部に腫瘤性病変と粘膜肥厚を認めた.輸出脚の管腔は保たれていたが,輸入脚の管腔は腫瘍で閉塞し同定困難であった(Figure 2-a,b).しかし,腫瘍内に黄色透明の胆汁の付着を認めたため,その付着箇所周囲を詳細に観察することで,狭窄部に管腔を同定することができた.親水性ガイドワイヤーを狭窄管腔から輸入脚内に留置し,透視下にガイドワイヤーの先端が輸入脚から抜けないように注意しながら内視鏡を抜去した.ガイドワイヤー越しに18Fr親水性イレウスチューブ(CREATE MEDIC,Tokyo,Japan)を挿入し,挿入直後に輸入脚内腔を吸引した.以降は自然解放で輸入脚の減圧をはかった.

a:輸出脚開口部(矢頭白)は目視できたが輸入脚開口部(矢頭黄色)は不明瞭であった.
b:近接したところ,全周性に狭窄した輸入脚開口部を認めた(矢頭黄色).輸出脚開口部(矢頭白).
腫瘤粘膜から採取した生検組織の病理結果は充実型低分化腺癌であり,吻合部の胃癌と確定診断した.イレウス管による減圧で輸入脚の拡張と肝胆道系酵素や膵酵素の上昇が改善したが,その抜去で輸入脚閉塞症の再燃が危惧されたため,外科治療が検討された.しかし,過去の胃術後の強固な腹腔内癒着と胃癌の膵浸潤が強く疑われたため,切除のみならずバイパス術も困難と判断された.そこで,輸入脚狭窄部への内視鏡的ステント留置術の方針となった.
ステント留置術(第4病日):まず,イレウス管を挿入した状態のままでGIF-H290T(Olympus Medical,Tokyo,Japan)を経口挿入した.イレウス管の狭窄部口側から造影剤を輸入脚へ注入し,狭窄長が3cmと測定した(Figure 3).ステントの種類としてSEMSを選択した場合,輸入脚の屈曲が強いことから,axial forceにより穿孔や逸脱のリスクが高いと考えた.また,SEMSが輸出脚を圧排して閉塞させることも懸念された.そこで,穿孔リスクが低く,トラブルが生じた際にも抜去が容易であることを考慮し,PSを選択した.PSの種類は,ステント逸脱の可能性を考慮し,両側にフラップがあるPre-Loaded ST-2T annenbaum BiliaryStent(Cook Medical,Bloomington,IN,USA)の8.5Fr,9cmを選択した.PS留置の際には,イレウス管の辺縁から狭窄部にJagwire(0.035inchi,Boston Scientific,Marlborough,MA,USA)を挿入し,イレウス管を抜去後にPSを留置した(Figure 4).PS留置後,膵炎や胆管炎,輸入脚の拡張の悪化はなく,留置後7日で退院した.

造影剤を散布し狭窄長(矢印)を測定した.陰影欠損は胃と輸入脚の吻合部のみで,その他に狭窄を認めなかった.

PS留置の際に腫瘍の表面から軽度の出血を認めたが,自然に止血された.
退院後経過:腹痛や腹部膨満感などの自覚症状はなく,経口摂取も可能であった.1カ月毎の外来通院で,血液検査を行い全身状態のフォローアップをしていたが,慢性的な低アルブミン血症を認め,12月上旬から両側下腿浮腫,日常生活動作の低下をきたした.2023年1月上旬から外来通院が困難となり,在宅調整を行った.しかし,ステント挿入後約3カ月後の2023年1月下旬に,原疾患による衰弱のため永眠した.
輸入脚閉塞症は胃切除後患者の0.2から1.0%に生じる稀な疾患であり 6),輸入脚内圧の上昇に伴う乳頭浮腫をきたし,黄疸を10から20%,高アミラーゼ血症を約80%に認める 7),8).したがって,早期に輸入脚の減圧を行わなければ,輸入脚の穿孔や壊死,急性膵炎,胆管炎を発症する.悪性腫瘍や腹膜播種が原因となる悪性輸入脚閉塞症は,腫瘍浸潤で外科的切除術が困難なことが多く,内視鏡治療が優先される.本論文は,胃切除後の吻合部胃癌による輸入脚閉塞症に対して,内視鏡的PS留置術が有効であった症例の報告である.このような吻合部胃癌に対する内視鏡的ステント留置術はSEMSの報告が多い 4),5).しかし,SEMSで穿孔などのリスクがある症例や余命が短いと思われる症例では,PSも選択肢の1つになりうる.
SEMSの留置の際には,一期的にSEMSを留置する方法とイレウス管や内視鏡的経鼻胆道ドレナージ,経皮経肝胆管ドレナージで輸入脚の減圧をした後に,上記のイレウス管などのドレナージチューブをガイドにして,二期的にSEMSを狭窄部位に留置する方法がある 1),7).一期的なステント留置は,内視鏡挿入が1回でよいという利点がある.しかし,狭窄が強く,胆管炎や膵炎を合併している場合は緊急の減圧を要する.SEMSの十分な拡張までは48時間かかるとされているため,SEMSの拡張効果を得るまでに胆管炎や膵炎の増悪をきたす可能性がある.一方,二期的なステント留置は,内視鏡手技が2回必要である.しかし,イレウス管挿入で速やかな輸入脚の減圧を行うことが可能であること,減圧後に造影により狭窄長の評価ができること,輸入脚開口部がイレウス管により確認できること,の利点がある.本症例ではBilltothⅡ法再建が施行されており,吻合部まで通常の上部消化管内視鏡での到達が可能であった.
医学中央雑誌で「輸入脚閉塞症」ならびに「ステント」,PubMedで「afferent loop obstruction」ならびに「stent」をキーワードに,2000年から2022年までの本邦の症例報告を検索したところ,胃術後ならびにBillrothⅡ法再建後の吻合部の胃癌,もしくは他臓器悪性腫瘍の浸潤に伴う悪性輸入脚閉塞症に対して金属ステント留置術を施行された症例は5例であった 9)~13).5例のうち2例は 9),11),輸入脚と輸出脚の両方にステント留置術が施行されていた(Table 2).なお,胃術後の吻合部狭窄に対して,SEMS内にPSを留置した症例 14)や,一時的な減圧の目的でPSを留置した症例 13),15)は認めたが(Table 3),PS留置のみで経過観察を行った報告は海外例のみであり 16),本邦では認めなかった.その海外例は,狭窄部に7Fr径の4cm長のpigtail PSを2本留置し,4カ月後に胃癌による多臓器不全で亡くなるまでステント閉塞症状はなかった.また,本邦では,狭窄をきたした吻合部を内視鏡が通過困難である症例に対して 17)~19),超音波内視鏡下に残胃から輸入脚へのPS留置術を施行された報告がある.一方,本例は,輸入脚の屈曲が強かったために内視鏡の操作性が制限されたこと,SEMSによる穿孔や圧排リスクを危惧したことから,PSを選択した.なお,Pre-Loaded ST-2T annenbaum BiliaryStentは両側で4方向にフラップがあることで,迷入や逸脱の予防に有用と考えて選択した.ステント径に関しては,10Frでは閉塞をきたして抜去を要する際に内視鏡ごとステントを抜去する必要があり,輸入脚の開口部を見失う可能性が危惧された.本例は,内視鏡的イレウス管挿入術の際に,輸入脚の同定に難渋した経緯があり,ステントトラブルの際に既存のステントをメルクマールとした交換がのぞましいと判断し,スルーザスコープ法でステント抜去が可能な8.5FrPSを選択した.一般的なSEMSの平均開存期間が6カ月から9カ月に対して,PSの開存期間は3カ月から5カ月とされている 20).本例は待機的なSEMSへ交換も検討されていたが,胃癌の進行による衰弱や低栄養によりPS留置の約3カ月後に永眠した.その間,肝胆道系酵素や膵酵素の上昇,腹痛症状などのステント閉塞を疑う臨床症状はなかった.胃術後ならびにBillrothⅡ法再建後の吻合部の悪性輸入脚閉塞症の予後は最長で5カ月(Table 2)と報告されていることから,このような症例ではPSでも余命の生活の質を維持できる可能性がある.また,PSは穿孔や逸脱などの偶発症リスクや医療コストが低い点がメリットであると考えられた 21).

BillrothⅡ法再建後の悪性輸入脚閉塞症に対して金属ステント留置術が施行された本邦報告例.

悪性輸入脚閉塞症の狭窄部に対して一時的減圧目的にプラスチックステント留置術が施行された本邦報告例.
胃切除後ならびにBillrothⅡ法再建の吻合部胃癌による悪性輸入脚閉塞症に対して,内視鏡的PS留置術が有効であった症例を経験した.残胃吻合部の進行胃癌などの生命予後が限られる悪性輸入脚閉塞症の場合には,狭窄部へのPS留置でも開存を得られる可能性があり,選択肢の1つとなりうる.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし