日本消化器内視鏡学会雑誌
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ガイドライン
非静脈瘤性上部消化管出血における内視鏡診療ガイドライン(第2版)
藤城 光弘井口 幹崇小野 敏嗣舩坂 好平坂田 資尚三上 達也片岡 幹統島岡 俊治道田 知樹五十嵐 良典田中 信治
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2024 年 66 巻 7 号 p. 1515-1538

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要旨

日本消化器内視鏡学会は,エビデンスに基づく内視鏡診療ガイドライン作成作業の一環として,非静脈瘤性上部消化管出血における内視鏡診療ガイドラインを作成した.非静脈瘤性上部消化管出血の主因は出血性胃十二指腸(消化性)潰瘍であり,ヘリコバクター・ピロリ菌に起因するものが低下傾向にある一方で,超高齢社会の到来とともに,アスピリンなどによる薬剤に起因するものが増加している.非静脈瘤性上部消化管出血に対する止血術の第一選択は内視鏡的止血術であり,様々な方法が考案されている.内視鏡的止血術前後には,患者の重症度評価に基づいた的確な管理でバイタルサインを安定化するとともに,酸分泌抑制剤の投与を行うことが推奨されている.本ガイドラインでは,上部消化管出血の評価と初期治療,上部消化管出血を消化性潰瘍とそれ以外に大別し,それぞれについて内視鏡的止血法の選択,内視鏡的止血後の管理を記載した.文献的裏付けがあるものについてはステートメントを作成し,エビデンスレベルと推奨度を記載した.第1版発行後,新たなエビデンスの集積がみられるものの,この分野においては依然エビデンスレベルが低く,推奨度が低いものが多いのが現状である.

Ⅰ はじめに

本ガイドラインの対象者は,非静脈瘤性上部消化管出血(non-variceal upper gastrointestinal bleeding:NVUGIB)患者である.上部消化管出血(upper gastrointestinal bleeding:UGIB)の成因は,大きく,静脈瘤に起因するものとそれ以外に分類され,本ガイドラインの対象領域である後者の大半は,胃十二指腸潰瘍(消化性潰瘍)からの出血である.

消化性潰瘍の年齢調整罹患率・死亡率は洋の東西を問わず減少傾向にある.世界人口における10万人あたりの年齢調整罹患率・死亡率は1990年に143.4人・7.4人から2019年には99.4人・3.0人と,ここ30年間でそれぞれ31%・59%の減少がみられている 1.本邦の疫学データを正確に把握することはできないが,厚生労働省の患者調査による消化性潰瘍の推計患者数(調査日当日に,病院,一般診療所,歯科診療所で受療した患者の推計数)は,1996年に134,000人,2002年に85,000人,2011年に44,000人,2017年に23,700人,2020年に14,300人と減少傾向にある 2.また,本邦の人口動態統計による消化性潰瘍の年間死亡者数は1995年に4,314人,2000年に3,869人,2004年に3,409人,2012年に2,828人,2021年に2,329人と,同様に減少傾向にある 3

消化性潰瘍の成因としてヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pyloriHP)感染と低用量アスピリンを含む非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)が重要である.メタ解析によると,消化性潰瘍の罹患率はHP陰性かつNSAIDs非使用中の対照に比べ,HP感染で18.1倍,NSAIDsで19.4倍,両者で61.1倍,出血性潰瘍はHPで1.79倍,NSAIDsで4.85倍,両者で6.13倍であった 4.近年,HP陰性,NSAIDs非使用中の消化性潰瘍(特発性潰瘍)が増加傾向にあり,2012~2013年には12%でみられているという報告がある 5

出血性消化性潰瘍の罹患率・死亡率については世界的に減少傾向にあるものの,高齢者の割合が増加していることが知られている 6.高齢者の出血性潰瘍が増加している原因の1つとして低用量アスピリンなどのNSAIDsの処方が影響していると考えられる.出血性潰瘍を2002~2007年群と2008~2013年群に分けて検討した本邦における研究では,60歳以上の割合が63.9%から76.7%へ有意に増加し,HP感染率は71.6%から57.9%へ有意に低下,NSAIDsの使用は39.9%から48.6%へ有意に増加したと報告されている 7

本ガイドラインでは出血性消化性潰瘍に加え,Mallory-Weiss症候群や血管拡張症,術後吻合部出血,消化管悪性腫瘍からの出血,内視鏡処置に伴う出血を取り上げた.特に本邦においては早期消化管腫瘍に対する内視鏡治療(内視鏡的粘膜切除術(EMR)/内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD))が盛んに行われており,内視鏡治療後の人工潰瘍からの出血に遭遇する機会が増加していることから,それらの管理方法についても本ガイドラインで扱うこととした.なお,本ガイドラインの内容は,一般論として臨床現場の意思決定を支援するものであり,医療訴訟等の資料となるものではない.

Ⅱ 本ガイドラインの作成手順

「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver.3.0」 8に準拠し作成したが,ガイドラインの記載形式については第1版の総説形式を踏襲した.参考文献に関しては,2000年1月1日から2022年11月30日までに出版された臨床研究を,医中誌とPubMedで,上部消化管出血(upper gastrointestinal bleeding:UGIB)and 内視鏡(endoscopy),など,作成委員がそれぞれのクリニカルクエッションに関連するキーワードを用いて網羅的に検索した(Table 1).2000年以前の論文については,2000年以降に出版された総説(review article)の参考文献リストから重要と思われるものについては原著にあたり,本ガイドライン作成の参考文献に加えた.なお,小児を扱った論文も検索対象に含めたが,結果として,小児を対象としたエビデンスレベルの高い研究論文はみられなかった.これらの参考文献をもとに,臨床エビデンスに基づくステートメントを作成委員が作成し,評価委員により合意が得られた20のステートメントが採用された.各ステートメントには,エビデンスレベルと推奨度を記載した(Table 2).

Table 1 

非静脈瘤性上部消化管出血における内視鏡診療ガイドライン(第2版)作成委員会構成メンバー.

Table 2 

エビデンスレベルと推奨度:Mindsの推奨グレード.

Ⅲ UGIBの評価と初期治療

消化管出血を疑わせる症状として吐血,黒色便,鮮血便などが知られている 9)~13.一般的には前二者が上部消化管からの,後者が下部消化管からの出血を予想させる症状であるが,出血量が多い場合,UGIBでも鮮血便を呈することがあり,Wilcoxらの前向き観察研究によれば727例のUGIB患者のうち104例(14%)が鮮血便を呈していた 13

2012 Srygleyらによるメタアナリシスでは,吐血に加え,黒色便(下血),経鼻胃管からの血液の有無,BUN/クレアチニン比高値はUGIBの可能性が高いとされた 14

しかし,2016 RockeyらがUGIB患者に対し経鼻胃管の有効性をみた前向きRCT試験では,経鼻胃管なし群の非劣性が示された 15.European Society of Gastrointestinal Endoscopy(ESGE)ガイドライン2021では経鼻胃管吸引をスクリーニングに使用しないように強く推奨している 16.以上より,経鼻胃管挿入はUGIBを疑う患者のルーチン検査としては行わないことを弱く推奨する(evidence level C,推奨度2)

UGIBを疑う患者の内視鏡前CT検査に関しては2014 Miyaokaらの後ろ向き研究で,造影CTの出血源診断能はNVUGIB 50.2%,静脈瘤性出血96.4%であり,NVUGIBでは内視鏡で出血源を同定するまでの時間が造影CT群で有意に早かったと報告された 17.2019 Jonoらは後ろ向き研究で,CTによる出血サインはNVUGIB患者に対する内視鏡治療の必要性を臨床スコアよりも高く予測できる(オッズ比10.1)と報告した 18.一方,2022 Kimらが行ったUGIB疑い患者に対する後ろ向き研究では造影CTによる出血状態の診断能は感度29.6%,特異度94.8%であった 19.いずれも後ろ向き研究であり,対象集団によってUGIBのCT診断能が異なっている可能性がある.一方,実臨床においては内視鏡で出血源が同定できない場合には造影CTが有用な場合もある.

以上より,UGIBのスクリーニング検査として造影CTは有用な情報をもたらす可能性があるが,NVUGIBを疑う患者に対して造影CTを行うことは明確な推奨ができない(evidence level C,推奨度なし)

UGIBを疑った場合,静脈瘤性出血と非静脈瘤性出血では患者背景,内視鏡的止血の方法,予後などがそれぞれ異なるため,内視鏡検査に先立って出血の原因がいずれかであるかを予測することは重要である.UGIB患者における静脈瘤性出血と非静脈瘤性出血の予測に関する研究では,肝硬変や静脈瘤性出血の既往,アルコール多飲の既往,腹水の存在,血小板数低値,血清ビリルビン高値,PT-INR高値などの血液検査所見は静脈瘤性出血を,抗血小板剤や抗凝固剤の服薬歴は出血性潰瘍などの非静脈瘤性出血を疑わせる所見であるとされる 20)~30.この他,慢性肝臓疾患,肝硬変では脾臓径の大きい(血小板数/脾臓径比の小さい)症例では,静脈瘤性出血のリスクが高くなるといわれているので,これらも参考に両者を鑑別する 23)~29

UGIB患者のリスクを層別化するためのスコアとしてGlasgow-Blatchford score(GBS) 12とRockall score(RS) 30が知られている.前者はバイタルサインや採血データなどの臨床因子から,後者はそれに加えて内視鏡所見が加えられており,臨床データのみからなるclinical RSが用いられることもある(Table 34).Glasgow-Blatchford score,Rockall scoreにより,治療介入の要否,再出血のリスク,死亡のリスクを予測する.

Table 3 

Glasgow-Blatchford score(文献12より単位を改変して引用).

Table 4 

Rockall score(文献30より引用).

死亡の予測について,Area under Receiver Operating Characteristic(AUROC)はGBSが0.65~0.90,RSが0.64~0.85程度でほぼ対等であるとされる 10),12),31)~39.一方,輸血の要否についてのAUROCはGBS 0.81~0.94とRS 0.70~0.79に比べて良好である 35),37.内視鏡的止血の要否に関しては,AUROCはGBSが0.604~0.96でRSの0.653~0.822と対等であるとされる 10),12),31),32),34),35),37),38),40)~45.GBS,RSはいずれも低リスク症例の絞り込みに有用で,GBS 0あるいは2点,RS 2点をカットオフ値とすると,内視鏡的止血や輸血の必要性を感度95%以上で予測可能で,死亡した症例もみられず,このような症例は緊急内視鏡は行わずに外来での管理が可能である 37),41),43),45)~52.HoribeらはUGIBが疑われる患者において内視鏡処置が必要な高リスク患者を予測するスコアHoribe Gastrointestinal Bleeding Score(HARBINGER)を開発し 53,2020年に多施設前向き研究でGBSやAIMS65よりも有意に高リスク患者を予測できることを検証した 54.「診察時の前1週間にPPIを毎日服用していない(+1)」,「ショックインデックス(脈拍/収縮期血圧)≧1(+1)」,「BUN/クレアチニン≧30(+1)」の3項目を合計した簡便なスコア(0-3点)で,2点以上は入院の上,緊急内視鏡を行うことを提案している.

黒色便(下血)はUGIBを疑う症状の1つであるが,吐血と比べて内視鏡処置率が低い(黒色便32.2% vs. 吐血59.7%) 55.2022 Itoや2022 Sasakiの報告で黒色便の内視鏡処置オッズ比は吐血に対して低く,多変量解析で有意な因子とならなかった 55),56.内視鏡処置を予測するNスコア,Hirosakiスコアでも黒色便はスコアに含まれていない 57),58.黒色便に焦点をあて緊急内視鏡の必要性をスコア化しているものは2022 Itoらの報告のみであった.それによると,失神:2点,BUN/Cr>30:2点,BUN>22.4:1点,抗凝固薬内服:-1点からなるModified Nスコアは合計2以上を陽性とすると内視鏡処置予測の感度82%,特異度59%であり,1点以下では予測内視鏡処置率は9.8%まで低下すると報告した.NVUGIBに対して,日本人を対象とした各種スコアリングシステムが報告されているが,それが最適かは明確な推奨ができない(evidence level D,推奨度なし).※学術的COIにより3名が投票棄権

UGIBに対する初期治療に関しては,バイタルサインが不安定な患者を対象にした前向き比較試験がある 59.それによると,大量輸液,凝固因子の補正などの初期治療をより積極的に行った群では通常の治療を行った群に対して有意に死亡率,ICU入室期間が短縮された.American Society of Gastrointestinal Endoscopyのガイドライン(2012年版) 60,American College of Gastroenterologyのガイドライン(2010年版) 61ではいずれも症例データに基づかない専門家の意見として,UGIBに対しては,初期治療として輸液によるバイタルサインの安定化をまず行うべきであると記載されている.日本消化器内視鏡学会の消化器内視鏡ハンドブックの緊急内視鏡の項には,「動脈性出血など止血しない限りショックから離脱できないような場合は,輸血やモニタリングにより厳重な全身管理を行いながら緊急内視鏡に踏み切るとの考え方がある.このようなときには十分なインフォームド・コンセントが必要である」 62と記載されていることに留意する.

また,抗凝固薬服用者における生命を脅かす出血または止血困難な出血に対しては,4因子含有プロトロンビン複合体製剤(ビタミンK拮抗薬投与者に限る),ダビガトランに対する中和抗体であるイダルシズマブ,ヒト第Xa因子デコイ蛋白であるアンデキサネットアルファが保険承認を得ており,治療選択肢が広がっている状況にあることから,今後,消化管出血における位置づけを明らかにしていく必要がある.

UGIBの高リスク患者に対する24時間以内の内視鏡検査が死亡や手術のリスクを減らすことが以前より推奨されていた 63),64.より早い(12時間以内)内視鏡検査でも死亡率は減少しないとの報告があるものの,高リスク患者に対しては不明であった 65.2017 Laursenらは潰瘍出血患者を対象としたコホート研究で血行動態が不安定な患者では,内視鏡を6~24時間に行う方が,6時間以内,24時間以降に行うよりも死亡率が低かったと報告した 66.2020 Lauらは,ショックを伴わないUGIBを疑う高リスク患者(静脈瘤出血を含む)に対し,6時間以内もしくは6~24時間に内視鏡を行う2群に無作為割付けしたRCT試験を行った 67.止血処置率は6時間以内の内視鏡で高かったものの,30日以内の再出血率と死亡率は6時間以内と6~24時間以内で変わらなかった.これらの結果からESGEガイドライン2021ではNVUGIBに対し6時間以内,12時間以内の内視鏡は予後を改善しないため推奨しないと明記された.一方,血行動態を安定させつつ24時間以内に内視鏡を行うことが推奨された 16.ACGガイドライン2021でもNVUGIBには24時間以内の内視鏡を行うことが提案された 68.以上より,NVUGIBを疑う高リスク患者には,血行動態を安定させた上で24時間以内に上部消化管内視鏡を行うことを強く推奨する(evidence level A,推奨度1)

3つの並行群間比較試験と1つのRCTをシステマティックレビューした2017 Odutayoらの報告では,UGIB時にHb 8g/dLを目標に輸血を制限する方が,Hb 10g/dL目標に輸血するよりも全死亡のリスク[relative risk(RR):0.65,95%CI:0.44~0.97,p=0.03]および再出血のリスク(RR:0.58,95%CI:0.40~0.84,p=0.004)が低くなることが示された 69.しかし,2016にDochertyが行ったシステマティックレビューでは,心血管疾患のある患者にはHb目標が8g/dLの方がHb 10g/dLよりも急性冠症候群のリスクが上昇すると報告された(消化管出血に限定されていない) 70.以上より,心血管疾患のないUGIB患者には濃厚赤血球輸血はHb 8g/dLを目標に行い,過剰な輸血は避けることを強く推奨する(evidence level A,推奨度1)

血液凝固系に関しては,2011年に報告されたシステマティックレビューではPT-INR 1.5以上は死亡に対する独立した危険因子(オッズ比:1.96,95%CI:1.13~3.41)であった 71.2013年に報告された英国での約4,500例のNVUGIB患者を対象とした多施設前向き観察研究でも,同様にPT-INRは在院死亡に対する独立した危険因子(オッズ比:5.63,95%CI:3.09~10.27)であり 72,UGIBはPT-INR 1.5以下を目標に管理することが望ましいと考えられる.

血小板輸血の閾値については2012年にシステマティックレビューが報告されているが,過去の報告での患者背景のばらつきが大きく,メタ解析は施行できず,2006年のBritish Committee for Standards in Hematologyのガイドライン 73に基づき,5万/μL以上が推奨されると結論づけられている 74.以上から,血液凝固系,血小板数は,PT-INR 1.5以下,血小板数数5万/μL以上を目標に管理するとよい.

Ⅳ 内視鏡的止血法の種類,特徴

非静脈瘤性消化管出血に対する内視鏡的止血法は様々な方法が考案されてきた.止血機序別では,大きく局注法,機械的止血法,熱凝固法,散布法に分類される.

1.局注法

①純エタノール局注法

・浅木ら 75),76により開発された止血法で,純エタノールの強力な脱水・固定作用により出血血管を収縮させ,血管内皮細胞を傷害して血小板を粘着させることでフィブリン,血球成分が集まり血栓が形成される.

・出血血管の周囲に0.1~0.2mLずつ3~4カ所に浅く局注する.出血血管が白色ないし茶褐色に変色するのを目安に繰り返す.

・穿孔を回避するため,純エタノールの局注総量は1.5~2.0mLを超えないようにする.

②高張食塩水エピネフリン局注法(hypertonic saline epinephrine solution:HSE)

・平尾ら 77)~79により報告された止血法.

・エピネフリンの血管収縮作用と高張食塩水による物理化学的な組織の膨化,血管壁のフィブリノイド変性,血栓形成により止血する.

・HSE-A液(5%NaCl 20mL+0.1%エピネフリン1mL)とHSE-B液(10%NaCl 20ml+0.1%エピネフリン1mL)の2種類を使用.

・初期止血や出血点を同定できない場合は,HSE-A液を出血点と思われる近傍に4mLずつ4〜5カ所に局注する.出血点が同定できれば完全止血目的に出血点近傍にHSE-B液を1mLずつ4~5カ所に局注する.

・HSE単独で止血するというよりは,クリップ法や熱凝固法との組み合わせで用いる場合が多い.

2.機械的止血法

①クリップ止血法

・1975年,林ら 80によって開発され,その後,蜂巣ら 81),82により改良が加えられてきた.

・出血部位や露出血管を直接把持する機械的閉鎖法.

・局注法や熱凝固法と異なり,組織の変性がほとんどないが,クリップによる筋層の断裂や,把持したクリップによる視野の妨げに注意する必要がある.

・最近では開閉(つかみ直し)可能なクリップも市販されている.

②内視鏡的結紮法(endoscopic band ligation:EBL)

・もともと食道静脈瘤に対する治療として用いられている結紮法であるが,Dieulafoy潰瘍やMallory-Weiss症候群,胃前庭部毛細血管拡張症やびまん性胃前庭部毛細血管拡張症,消化性潰瘍,憩室出血などの非静脈瘤性出血に対する止血法としても有用であるとの報告例がある 83

③OTSC(over-the-scope-clip)法

・OTSCシステムは内視鏡による組織閉鎖を目的としてドイツのOvesco Endoscopy社で開発されたアプリケーターキャップに搭載された内視鏡クリップ 84で,消化管の穿孔,瘻孔,出血部,リークの閉鎖,あるいは組織の圧迫に用いられる.近年,穿孔や瘻孔部の閉鎖だけでなく止血目的による使用報告も増加している.

3.熱凝固法

①高周波止血鉗子

・高周波止血鉗子による接触型の熱凝固法である.

・モノポーラタイプとバイポーラタイプの2種類がある.

・把持や通電の仕方によっては深部への影響が強くなり,遅発性穿孔の危険が高くなることに注意する.

・各社からカップ形状・大きさが異なる鉗子が販売されており,血管径や周囲の粘膜の状態,潰瘍形成の有無により高周波の出力設定を含めた使い分けが可能である.

・過度の通電は遅発性穿孔リスクが高まるため,盲目的な焼灼は控え,出血点を確実に把持することが重要である.

②アルゴンプラズマ凝固法(APC)

・Grundら 85により内視鏡の分野に導入.

・イオン化されたアルゴンガス(アルゴンプラズマ)を放出するのと同時に高周波電流を放電することによりプラズマビームを発生させ止血する非接触型の熱凝固法である.

・出力の調整は可能であるが,凝固層が浅く,広範囲の焼灼に有効であり,噴出性出血よりびまん性出血に対する止血に有用.

・プローブ先端を粘膜に圧着させたまま焼灼すると粘膜下気腫が起こる場合があり注意を要する.

③ヒータープローブ法

・Protellら 86により開発された接触型熱凝固法.

・先端に発熱ダイオードを内蔵したプローブを出血部位に押し当て,圧迫しながら熱凝固させ止血する.

・1回の止血能力は強力ではなく,通電を繰り返す必要がある.

・焼灼後の凝固組織がプローブに付着し,プローブを動かす際に組織が剥離され再出血を来すことがあるので注意を要する.

4.散布法

①トロンビン・フィブリン製剤

・凝固系に関する因子の補充として出血部位に対して散布・噴霧を行う.広い粘膜面からのびまん性出血や,他の内視鏡的止血法の補助,併用療法として用いられることが多い.

②アルギン酸ナトリウム粉末

・出血面に付着し,出血部位を被覆・圧迫し,出血を抑制するとともにフィブリン形成の促進,赤血球の凝集作用,血小板機能の亢進により止血効果を表す.①と同様,広い粘膜面からのびまん性出血や,他の内視鏡的止血法の補助,併用療法として用いられることが多い.

③吸収性局所止血材

・近年,消化器内視鏡治療における漏出性出血に対して,止血鉗子による焼灼回数の低減を目的として使用するペプチド由来の吸収性局所止血材 87が本邦でも使用可能となった.

・血液等の体液との接触により,ペプチド分子がファイバー形成し,ペプチドハイドロゲルとなる.このペプチドハイドロゲルが速やかに出血点を被覆することで止血する.

④非吸収性局所止血材

・海外では上述の吸収性局所止血材以外に非吸収性局所止血材 88も使用されており,本邦でも2023年8月31日にHemospray(TC-325,Cook Medical Inc,Winston-Salem,NC,USA)が薬事承認を得ている.

・海外のガイドラインでは視野不良の大量出血や難治性出血に対するサルベージ療法,悪性腫瘍からのびまん性出血に対する治療オプションの1つに位置づけされていることから 16),89,今後本邦での症例数の蓄積により位置づけを明確にしていく必要がある.

Baracatら 90のメタアナリシスでは,局注法は単独では使用すべきではなく,クリップ止血法や熱凝固法との併用が望ましいとしている.クリップ止血法と熱凝固法との比較では,熱凝固法の中に複数種類の止血法が混ざっているため不均一性はあるものの有意な差は認めなかった.

海外のガイドラインでもNVUGIBに対する内視鏡治療に関して提言がなされており,米国消化器病学会(AGA) 89からはESD時の止血として頻用されるようになったモノポーラ止血鉗子による低電圧凝固は有効な代替手段となること,OTSCは従来の熱凝固法やクリップ止血法が不成功あるいは無効であると予測される場合に検討する,非吸収性局所止血材は非接触型内視鏡的止血術のオプションであり,従来の熱凝固法やクリップ止血を行うことができない悪性腫瘍からのびまん性出血や大量出血の場合を除いて一次止血処置として用いるのではなくレスキューとして使用すべきとされている.

欧州消化器内視鏡学会(ESGE) 16からのガイドラインでは,活動性潰瘍出血(Forrest分類Ⅰa,Ⅰb)に対してはエピネフリン局注と熱凝固法または機械的止血法の併用を強く推奨し,Forrest Ⅱaの非出血性潰瘍に対しては熱凝固法や機械的止血法または硬化剤局注の単独治療またはエピネフリン注射との併用を強く推奨している.また,標準的な方法で止血困難な症例にOTSCや非吸収性局所止血材の使用を弱く推奨している.

出血の状況は様々であり,それぞれの止血法の特徴を十分理解し,状況に応じて選択することが重要であるが,クリップ止血法または熱凝固法を第一選択とし,局注法や散布法は単独ではなくクリップ止血や熱凝固法と併用して行うことを推奨する.

Ⅴ 消化性潰瘍出血の管理

内視鏡的止血法には,純エタノール局注法や高張食塩水エピネフリン局注法,クリップ止血法,高周波止血鉗子やヒータープローブによる熱凝固法などがあり,これらを単独あるいは組み合わせた治療効果の報告がなされている.報告により差はあるものの,いずれの方法でも初回止血率は90%前後であり,再出血率はエピネフリン局注法を除いて2~10%である 16),68),91)~93.Barkunらのメタ解析では,内視鏡的止血術を行った群は薬物療法[プロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor:PPI)あるいはH2受容体拮抗薬(H2RA)静脈投与]群と比較して,再出血率(オッズ比:0.35,95%CI:0.27~0.46),手術移行率(オッズ比:0.57,95%CI:0.41~0.81)および死亡率(オッズ比:0.57,95%CI:0.37~0.89)が有意に低いことが示されている 94

内視鏡的止血術の適応

19のRCTのメタ解析では,活動性出血(Forrest Ⅰa,Ⅰb)に対する内視鏡的止血治療は薬物治療と比較して再出血率(RR:0.29,95%CI:0.20~0.43)および手術移行率(RR:0.25,95%CI:0.13~0.50)を有意に低下させている 93.また,非出血性露出血管(Forrest Ⅱa)に対する内視鏡的止血治療も薬物治療と比較して再出血率(RR:0.49,95%CI:0.40~0.59)および手術移行率(RR:0.41,95%CI:0.24~0.71)を有意に低下させている.しかし,死亡率に関してはいずれの対象でも優位性は示されていない.以上より,活動性出血(噴出性出血,湧出性出血)および非出血性露出血管を有する症例に対しては,内視鏡的止血術を行うことを強く推奨する(evidence level B,推奨度1).血餅付着例(Forrest Ⅱb)では,再出血率(RR:0.31,95%CI:0.06~1.77)や手術移行率(RR:0.47,95%CI:0.10~2.26)において内視鏡的止血術の優位性は示されていない 93.出血性消化性潰瘍においてPPI投与とプラセボを比較したRCTでも,血餅付着例はPPI投与により1例も再出血しなかったと報告されている 95.一方で,血餅付着例に対して内視鏡的止血治療と薬物治療単独とを比較した2つのRCTでは,内視鏡的止血治療により再出血率が有意に低下することが示されている 96),97.以上より,血餅付着例では再出血のリスク(高齢,入院患者,ショック,重篤な併存疾患,凝固異常)を有する症例に内視鏡的止血術を行うことを弱く推奨する(evidence level C,推奨度2).ただし,Forrest Ⅱbの評価には,可能な限り潰瘍底の血餅を除去して,露出血管の有無を確認する必要がある.

内視鏡的止血法の選択

内視鏡的止血治療には様々な方法があるが,死亡率に関して有意差がなく,エピネフリン局注法を除く各内視鏡的止血法において初回止血および再出血予防効果に明らかな差は認められない 90.止血方法の選択は,患者の状況,内視鏡施行医の技量などから総合的に判断する.

エピネフリン局注法では活動性出血の初回止血に対して効果的であるが,再出血率が12~30%との報告が多い 98)~101.エピネフリン局注にクリップや熱凝固法など他の止血法を追加すると,エピネフリン局注単独より,有意に再出血率(RR:0.34,95%CI:0.23~0.50)および手術移行率(RR:0.33,95%CI:0.17~0.66)が減少することがメタ解析により示されている 93.また,活動性出血に対するエピネフリン局注は,出血を弱めるあるいは止めることで,併用する止血法のための視野を改善する効果があり,血餅を取り除く際にエピネフリン局注を前もって行うことで出血の頻度を減少させる効果も期待される.以上より,エピネフリンを用いた薬剤局注療法単独では再出血率が高く,他の内視鏡的止血法を追加することを弱く推奨する(evidence level C,推奨度2).純エタノール局注法は,3つのRCTのメタ解析により,薬物療法単独と比較して有意に再出血率(RR:0.56,95%CI:0.38~0.83),手術移行率(RR:0.24,95%CI:0.09~0.64),死亡率(RR:0.18,95%CI:0.05~0.68)を減少させることが示されている 93.一方で,局注後の組織壊死を考慮すると使用できるエタノールの量が限られるため,エタノール局注単独では活動性出血に対して十分な効果が得られない場合もある 102),103

Laineらのメタ解析では,接触型熱凝固法のバイポーラ―高周波凝固とヒータープローブは薬物治療単独と比べ,再出血率(RR:0.44,95%CI:0.36~0.54),手術移行率(RR:0.39,95%CI:0.27~0.55)および死亡率(RR:0.58,95%CI:0.34~0.98)を有意に減少させることが示されている 93.バイポーラ―高周波凝固とヒータープローブの比較では,両者の再出血率に差は認めなかった.近年は電圧を200V以下に抑えたソフト凝固による止血が普及している.活動性出血に対してエピネフリン局注後にソフト凝固止血あるいはクリップ止血を行ったRCTでは,ソフト凝固はクリップと比較して有意に一次止血率が高く,再出血率が低く,入院期間が短いことが示されている 104.また,一次止血率,再出血率に差はないが,ソフト凝固止血は止血に要する時間が短いという報告がある 105),106.ソフト凝固止血とAPCを比較したRCTでは,再出血率,死亡率,副作用発生率いずれも両者に差は認められなかった 107.一方,ソフト凝固止血とヒータープローブを比較したRCTでは,ソフト凝固は一次止血率が高く,再出血は1例も認めなかった 108.非接触型の熱凝固法であるAPCに関しては,APCと蒸留水局注を比較したRCTにおいて有意に再出血率が低いことが示されている 109.エピネフリン局注を併用したAPCとクリップ止血を比較したRCTでは,再出血率,手術移行率および死亡率において両者に差は認めなかった 110

クリップ止血法に関して,薬物療法単独と比較したRCTはないが,蒸留水局注と比較したRCTでは,クリップ群の再出血が有意に低いことが示されている 111.エピネフリン局注とクリップを比較した2つのRCTのメタ解析では,クリップ止血は有意に再出血率(RR:0.22,95%CI:0.09~0.55)を減少させたが,死亡率(RR:1.68,95%CI:0.23~12.45)に差はなかった 112.純エタノール局注とクリップを比較したRCTでは,再出血率(RR:0.67,95%CI:0.20~2.19)に差は認めなかった 103.熱凝固法との比較ではクリップの止血効果が低いとの報告もあるが,変わらないとする報告もあり研究結果は一定しておらず,内視鏡医の技量や使用するクリップの違いが影響していると考えられる 113),114.詳細に比較した検討はないが,クリップ止血法は理論的には組織壊死がない点で,熱凝固療法や純エタノール局注法に比べて優れており,抗血栓薬を使用している患者やこれらの患者の再出血に適している可能性がある.しかし,接線方向や線維化が高度な潰瘍の止血には適さない場合があることを理解しておく必要がある.また,クリップ後に熱凝固法を追加するとクリップに電流が流れ,組織への通電性が悪くなり十分な止血効果が得られない場合がある.

軟性内視鏡用全層縫合器であるOTSCは,従来の止血用クリップに比べ,強固で持続性のある組織把持力を有している.重症の再出血を来した出血性消化性潰瘍に対する治療効果についてOTSCと通常の内視鏡的止血術(主にクリップ法)を比較したRCTでは,OTSC群5/33例,通常治療群19/33例に再出血を認め,OTSC群で有意に再出血が少ないことが示されている 115.一次治療に関しては,OTSCと通常の内視鏡的治療(クリップ・熱凝固法)を比較した小規模なRCTが行われており,30日以内の再出血はOTSC群1/23例,通常治療群7/25例であり,OTSC群で有意に再出血が少なかった.OTSC群で輸血量も有意に少なかったが,手術移行例や死亡例は両群で認めなかった 116.また,Rockall Scoreが7以上の再出血リスクが高い症例に対する治療効果についてOTSCと通常の内視鏡的止血術(主にクリップ法)を比較したRCTでは,内視鏡的止血成功率はOTSC群が91.7%,標準治療群が73.1%でありOTSC群で有意に高かった 117.OTSC群では出血の持続が1例もみられなかったが,標準治療群では6例に認められ,この6例はOTSCによる救済治療で止血された.OTSC群と標準治療群で再出血に差はみられなかった.以上より,本邦では広く普及している状況ではなく,海外のエビデンスのみではあるが,通常の内視鏡的止血術では止血が困難な症例や再出血例にはOTSCを考慮することを弱く推奨する(evidence level C,推奨度2)

米国で市販されている止血パウダーTC-325は非吸収性局所止血材であり,活動性出血部位に接触すると,粉末が水分を吸収し凝集と粘着により,出血部位に機械的なバリアを形成し止血する.TC-325と通常の内視鏡的止血治療を比較した5文献362例のメタ解析によると,両者で一次止血率(RR:1.13,95%CI:0.98~1.3)および再出血率(RR:1.13,95%CI:0.62~2.07)に差は認めなかった 118.TC-325が止血部位から剥がれ落ち,24時間以内に消化管から排除されるという性質から,最近のガイドラインでは,TC-325を一時的な止血法として使用し,その後に他の止血法を追加することが提案されている 91),92.TC-325が単剤として有効であるかはさらなる検討が必要である.

内視鏡的止血後の管理

欧米では内視鏡的止血術後,PPI強化静注療法(80mg bolus+8mg/h iv for 72h)が行われており,72時間のPPI持続静注療法が無治療やプラセボと比較し,有意に再出血率,手術率,死亡率を低下させるとの報告がある 119)~122.通常量の経口あるいは静注PPIとプラセボとの比較試験では,PPI群で有意な再出血予防効果を認めたが,手術移行率や死亡率に関しては差を認めなかった 123.内視鏡的止血術後の高用量PPIと通常量PPIの比較では,通常量でも再出血率は低く,再出血の危険が少ない病変では,通常量のPPIが推奨されている 124),125.PPIとH2RAの比較では,止血術後にパントプラゾールとラニチジンを静脈投与した比較試験やオメプラゾールとファモチジンを静脈投与した比較試験があるが,両群の再出血率に差は認めていない 126)~129.一方で,PPI投与の方がH2RAと比較し,再出血率が低く,輸血量が少なく,入院期間が短いという報告もある 130)~131.以上より,内視鏡的止血治療後にはPPI投与を行うことを強く推奨する(evidence level B,推奨度1).欧米のガイドラインでは高用量PPIを推奨しているが,本邦では保険適応外である.また,カリウム競合型アシッドブロッカー(PCAB)は従来のPPIと比べ強力な酸分泌抑制能を有しており,内視鏡的粘膜下層剥離術後潰瘍に対する効果に関してPPIと比較検討されているが,出血性消化性潰瘍に対する内視鏡的止血術後のPCABの有効性に関する報告はなかった.

セカンドルック内視鏡は通常,初回内視鏡後24~48時間以内の内視鏡検査を指す.セカンドルック内視鏡により再出血率が減少するという報告はある 132)~134.高用量PPI投与(omeprazole 80mg投与後,8mg/時間で72時間持続点滴)群と通常量PPI投与にセカンドルック内視鏡を行った群を比較したRCTでは,30日以内の再出血が高用量PPI群の6.5%,セカンドルック内視鏡群の7.9%にみられ両者に有意な差はみられなかった 135.El Oualiらの8文献938例のメタ解析では,高用量PPI投与を行わない場合,セカンドルック内視鏡により再出血率(オッズ比:0.55,95%CI:0.37~0.81),手術移行率(オッズ比:0.43,95%CI:0.19~0.96)は有意に減少することが示されており,特に循環動態が不安定な症例や活動性出血を認めた症例に有用としている 136.一方,ParkらのRCTでは,セカンドルック内視鏡により再出血率は減少せず,初回の内視鏡的止血が不十分な例やNSAIDs使用例,大量輸血例に有用としている 137.さらに2021年に報告されたKamalらの9文献1,452例のメタ解析では,セカンドルック内視鏡により再出血率(RR:0.79,95%CI:0.51~1.23),手術移行率(RR:0.58,95%CI:0.29~1.15),死亡率(RR:0.69,95%CI:0.33~1.45)は減少しなかったとされている 138.以上より,セカンドルック内視鏡は初回止血が不十分な症例および再出血の危険因子を有する症例に行うことを弱く推奨する(evidence level B,推奨度2).再出血の危険因子として,不安定な循環動態,高度貧血(Hb <8g/dL),活動性出血(Forrest class Ⅰa,Ⅰb),2cm以上の大きな潰瘍,吐血,2mm以上の露出血管が報告されている.非出血性露出血管(Forrest Ⅱa)では,白色調,突出型,潰瘍辺縁に存在するものが再出血の危険が高いとされる 139)~144

内視鏡的止血後の経口摂取開始時期を検討した報告は少ない.Forrest ⅠbとⅡaの出血性潰瘍に止血術を施行し24時間後に経口摂取した群と絶食とした群を比較した検討では,再出血率に有意な差は認めなかった 145.また,止血後の経口摂取開始時期を1日後と3日後で比較した検討でも,再出血率に差はなく1日後とした群が早期に退院が可能であった 146.止血術と止血後の薬物療法により,早期に経口摂取を開始することが可能である.ただし,再出血は内視鏡的止血後3日以内に起こることが多く,その間は透明な流動食の摂取を勧める報告もある.以上より,内視鏡的止血が得られれば,止血の24時間後以降に経口摂取を開始することを弱く推奨する(evidence level C,推奨度2)

内視鏡的止血困難例の対応

内視鏡的止血困難例の明確な定義はないが,初回止血後の再出血例において,2cm以上の大きな潰瘍であることとショック状態を呈していることは,内視鏡的再止血が得られない予測因子とされ,経カテーテル動脈塞栓術(interventional radiology:IVR)や外科手術を検討する.IVRの技術的止血率は90~100%であるが,臨床的止血率は50~83%と低く,必ずしも永久止血が得られるとは限らないことを念頭に置くべきである 147.IVR後再出血の危険因子は,凝固異常,輸血量の多さ,施行時間の長さとの報告があり,IVRを困難にする要因として,血管の走行,動脈解離,血管攣縮,複数の出血部位が考えられる 148.内視鏡的止血困難例に対するIVRと手術を比較したTarasconiらの13文献1,077名のメタ解析では,死亡率はIVR群と手術群で有意な差は認めなかった(オッズ比:0.77,95%CI:0.50~1.18) 149.再出血率はIVR群で高かった(オッズ比:2.44,95%CI:1.77~3.36)が,合併症はIVR群で少なかった(オッズ比:0.45,95%CI:0.30~0.67) 149.スウェーデンで行われた内視鏡的止血困難例を対象としたPopulation-based観察研究でも,IVR群と手術群で30日以内の死亡率に差は認めなかった(HR:0.70,95%CI:0.37~1.35) 150.再出血率はIVR群で高かった(HR:2.48,95%CI:1.33~4.62)が,IVR群で有意に入院期間が短く,合併症の危険性も低かった 150.以上より,内視鏡的止血困難例にはIVRや外科手術を行うことを強く推奨する(evidence level C,推奨度1).外科手術とIVRの死亡率に差はなく,IVRが低侵襲で合併症が少ないことから内視鏡的止血困難時の初回治療にはIVRを行うことを弱く推奨する(evidence level C,推奨度2)

Ⅵ 消化性潰瘍出血以外のNVUGIBの管理

消化性潰瘍出血以外にNVUGIBを呈する病態としては,Mallory-Weiss症候群や血管拡張症,術後吻合部出血,消化管悪性腫瘍からの出血,内視鏡処置に伴う出血が挙げられる.

a)Mallory-Weiss症候群

Mallory-Weiss症候群に伴う遷延するUGIBもしくはハイリスク症例に対しては機械的な止血を中心とした内視鏡的止血術を行うことを強く推奨する(evidence level C,推奨度1)

嘔吐などによる腹腔内圧の急激な上昇により食道胃接合部周囲に縦走する粘膜裂創が生じるMallory-Weiss症候群は,UGIBのうち3~11%程度であり,消化性潰瘍出血以外のNVUGIBとしては最多である 151),152.また,ESDなどの長時間の内視鏡治療によっても同様の病態が生じることがある 153.自然止血が得られることも多いが,抗血栓薬内服者や肝硬変などの易出血性背景疾患を有する場合には出血が遷延することもある 154.内視鏡的な止血術としてはクリップやEBLによる機械的な止血の他にHSE局注法があるが,HSEは心疾患を背景疾患として有する場合に心血管系に影響を及ぼす可能性がある 154)~158.また,責任血管が食道側にある場合には食道筋層が菲薄でありHSE局注法や凝固焼灼法では穿孔のリスクを伴うため,その場合を含め機械的な止血が優先される 159.また,稀ではあるが止血が困難な場合はIVRや手術療法が考慮される 160.OTSCについてはMallory-Weiss症候群も含めたNVUGIBに対して有効とする報告もあるが,Mallory-Weiss症候群の症例数が少ない研究がほとんどであり,有効性についてはまだ確立されているとはいえず,コントロールに難渋する症例で手術療法などの高侵襲治療の前に検討される選択肢となる 117),161),162.再出血予防は消化性潰瘍出血に準じて行われ,絶食・補液管理の上で酸分泌抑制剤や粘膜保護剤の投与を行い,臨床症状や採血データなどで判断し経口摂取を再開する.

b)血管拡張症

血管拡張症に伴うUGIBに対しては,APCを中心とした内視鏡的止血術を行うことを強く推奨する(evidence level C,推奨度1)

血管拡張症はNVUGIBの4%程度と報告されており,肝疾患や強皮症・糖尿病・甲状腺機能低下症・慢性腎不全患者などに認められるが大部分の原因は不明である 163),164.他にも,稀ではあるが悪性腫瘍に対する放射線照射によって生じる放射線性胃炎も血管拡張症に含まれる.遺伝性出血性末梢血管拡張症患者における消化管出血の頻度は33%と報告され,多発する血管拡張が,主に胃・十二指腸に認められ,続いて空腸・結腸・食道にもみられる 165),166.内視鏡的止血術としては,多発もしくは広範に及ぶ場合にはAPCが選択され,単発もしくは限局性の場合には凝固止血やクリップなどによる機械的な止血が選択され,保存的治療が無効な場合には手術療法も考慮される 167)~172.胃前庭部毛細血管拡張症に対する内視鏡治療としてはAPC,ラジオ波焼灼術(radiofrequency ablation:RFA),EBLの有効性が報告されているが,本邦で一般的に行われるAPCの有効性は40~100%,再発率は10~78.9%とされ,APCに付随したMallory-Weiss症候群発症のリスクも報告されている 169)~172.一方で,RFAおよびEBLはそれぞれ有効性が90~100%,77.8~100%,再発率が21.4~33.3%,8.3~48.1%と報告されており,APCの代替治療として期待されるがいずれも本邦での保険適応はない 173.薬物治療として,ソマトスタチン製剤やホルモン療法,サリドマイド,血管新生阻害薬のいずれも有意に出血を予防すると報告されているが,1/3程度に有害事象が生じるとも報告されており,適応は慎重に判断する必要がある 174

c)術後吻合部出血

術後吻合部出血に対しては消化性潰瘍出血に準じて内視鏡的止血術を行うことを強く推奨する(evidence level C,推奨度1)

胃術後に生じる術後吻合部出血は,胃手術例の0.3~2%とされ,急性のものは12~24時間以内の出血が多い 175)~179.術後急性期である場合には内視鏡そのものがリスクになることもあるため絶食・補液により自然止血が得られることもあるが,持続する場合やバイタル変動を来す場合には内視鏡的な止血を行う必要がある.また,術後しばらくしてから吻合部潰瘍を形成し消化管出血を来す場合もあるが,この場合は消化性潰瘍出血に準じて治療を行うこととなる.内視鏡的な止血やアプローチが困難な場合には再手術 178),179を検討する.

d)悪性腫瘍からの出血

切除不能な悪性腫瘍からの出血に対しては,薬物療法に加えて内視鏡的止血術を行うことを弱く推奨する(evidence level C,推奨度2)

進行癌を有する患者のうち6~10%は消化管出血を来す 180.悪性腫瘍からの滲出性出血は従来の内視鏡的な止血ではコントロールできないことが多く,切除可能な病変は外科的な切除が必要になるが,切除不能例においては通常の消化性潰瘍に対する薬物療法に加えて鉄剤や輸血などにより貧血進行を抑える治療に終始することとなる.その中で,悪性腫瘍からの出血に対して非吸収性局所止血材が有効であったという報告があり,97%に止血効果があり輸血量の軽減に貢献したとされている 181)~183.全身状態次第では出血源となる原発巣の手術療法も考慮されるが,全身状態や予後などを総合して判断する必要がある.

e)内視鏡処置に伴う出血

内視鏡処置に伴う出血に対しては消化性潰瘍出血に準じて,薬物療法に加えて内視鏡的止血術を行うことを強く推奨する(evidence level C,推奨度1)

内視鏡処置に伴う出血としては,組織生検に伴う出血とEMR/ESDをはじめとした病変切除に伴う出血とが含まれる.

組織生検に伴う出血の発生頻度は0.48~0.58%と報告されており,抗血栓薬の継続下でも生検直後の止血処置の頻度が増えるものの,生検後顕出血の頻度は増加しないとも報告されている 184)~186.組織生検に伴う周囲粘膜の血管破綻により生じ,生検直後から確認される場合や遅発性に出血症状が出現する場合がある.いずれの場合も通常のNVUGIBと同様に内視鏡的な止血を行うが,内視鏡的切除適応となる病変に対する組織生検後に対して広範囲に炎症を来しうる内視鏡的な止血を行うと後日の内視鏡的切除が困難になる場合があるため,クリップや凝固止血などの選択肢を考慮する必要がある.しかし,これらにより止血が得られない場合はHSE,純エタノール局注,Sengstaken-Blakemoreチューブの留置,トロンビン散布,絶食,酸分泌抑制薬投与,輸血など保存的治療による加療の報告がある.

EMR/ESDをはじめとした病変切除に伴う出血については,上部消化管においては胃からの出血が最多であり,その詳細は胃癌EMR/ESDガイドラインに記載されている 187),188.ESDにおいては切除中の出血はほぼ必発であり,安全な手技完遂のためにもその後の手技継続に影響の少ない凝固止血をその都度行うが,止血困難な場合にはクリップも考慮される.また,過度の凝固止血はその後の剥離処置を困難にする場合もあり,そのような場合には治療時の漏出性出血に対する有効性が報告されている吸収性局所止血材は選択肢になりうる 189.また,Red Dichromatic Imaging(RDI)観察により責任血管同定が効果的に行うことが可能で術者のストレスを軽減するという報告もある 190.治療後の潰瘍出血については胃において4.4%と報告されており,そのほとんどは治療後2週間以内に発症し,止血法としてはほかNVUGIBと同様に凝固止血・クリップなどが選択されるが,これらでコントロールできない場合には稀にIVRや手術が検討される 187),188.後出血予防として,切除後潰瘍に対する凝固止血やクリップによる予防処置が行われるが 191,高リスク症例においてはポリグリコール酸シートによる潰瘍被覆や創部縫縮などの選択肢が報告されている 192),193.予防的な薬物療法も重要であり,消化性潰瘍に準じてPPIが投与される 194),195.広義のPPIに含まれるPCABのうちボノプラザンに関する,胃EMR/ESD後出血予防における有用性も報告されてきている 196)~198.メタ解析における投与期間は2~8週間とされており,期間については出血予防のための適正な投与期間については統一された見解はないが,稀ではあるが2週間後以降の出血もあるため2週間以上の投与が望ましい 198

f)コントロール困難な消化性潰瘍出血以外のNVUGIB

内視鏡的止血術でコントロール困難な消化性潰瘍出血以外のNVUGIBに対しては手術療法やIVRを行うことを強く推奨する(evidence level C,推奨度1)

上述のように消化性潰瘍出血以外のNVUGIBは内視鏡的止血術が優先されるが,高リスク症例や再出血を繰り返す症例ではコントロールに難渋する場面もある.その場合にはIVRや手術療法が選択肢となる 199)~202.その場合であっても内視鏡的なクリップがIVRにおける責任血管同定の手掛かりになるため,そのことを念頭に内視鏡的止血術を試みるべきである 201.また,事前の画像診断や全身状態などにより,内視鏡的止血術が困難もしくはハイリスクと予想される場合においてはその限りではなく,内視鏡的止血を優先することなく手術療法を検討することも必要となる.しかし,悪性腫瘍に伴う場合には耐術能が十分でないこともあり,期待される予後を含めリスクベネフィットの観点からさらに慎重に検討することが求められる.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反

本ガイドライン作成に関与した各委員の利益相反に関して下記の内容で申告を求めた.

①本ガイドラインに関係し,委員個人として何らかの報酬を得た企業・団体について:役員・顧問職の有無と報酬(100万円以上),株式の保有と利益(100万円以上,または5%以上の保有),特許使用料(100万円以上),講演料等(50万円以上),原稿料(50万円以上),研究費,助成金(100万円以上),奨学(奨励)寄付など(100万円以上),企業などが提供する寄附講座(100万円以上),旅費,贈答品などの受領(5万円以上).

②申告者の配偶者,一親等内の親族,または収入・財産を共有する者が何らかの報酬を得た企業・団体について:役員・顧問職の有無と報酬額(100万円以上),株式の保有と利益(100万円以上,または5%以上の保有),特許権使用料(100万円以上).

③申告者の所属する研究機関・部門の長にかかるinstitutional COI(申告者が所属研究機関・部門の長と過去に共同研究者,分担研究者の関係にあったか,あるいは現在ある場合)について:研究費(1,000万円以上),寄附金(200万円以上),株その他.

報酬金額は年度ごとに対象とし,直近3年度についての利益相反について申告を求めた.

藤城光弘(講演料:武田薬品工業,アストラゼネカ,日本製薬,研究費・助成金:富士フイルム,オリンパス,奨学寄付:EAファーマ,アッヴィ,田辺三菱製薬),田中信治(講演料:オリンパス,EAファーマ,武田薬品工業,ミヤリサン製薬,研究費・助成金:ギリアド・サイエンシズ,オリンパス,富士フイルム,アッヴィ,EAファーマ,ブリストル マイヤーズ スクイブ,IQVIAサービシーズ ジャパン,牛島俊和班,石川秀樹班,奨学寄付:大塚製薬,武田薬品工業,田辺三菱製薬,第一三共,EAファーマ,エクシオン,ミヤリサン製薬)

なお,ステートメント決定時の投票に際しては,本ガイドラインに関連する内容で,「個人的・組織的に経済的COIが基準額を上回る場合」「経済的COI以外のCOI等(研究活動・キャリア・人間関係・利害競合等)が考えられる場合」の申告を求め,申告があったステートメントにはその旨を記載した.

:本学会COI指針第8条第7項により定められた診療ガイドライン策定参加者の議決権に関する基準額は以下のとおりである.講演料200万円,パンフレットなど執筆料200万円,受け入れ研究費2,000万円,奨学寄附金1,000万円

資金

本ガイドライン作成に関係した費用は,日本消化器内視鏡学会によるものである.

文 献
 
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